第67話 悪役令嬢とお目付けメイド 4
ソフィ様と正妻の座をかけた決闘を行うために、スザンヌにお茶会の準備を命じてから数日が経過しました。
仕事の速いスザンヌですが、まだ準備が整っていません。
――珍しいですわね?
私が訝しんで、探りを入れると――
なんとお父様と、ソフィ様の会談が先行して行われていました。
それで、私の方が後回しになっていたのですか、まあ、それでは仕方がありませんわね。楽しみは後に取っておくと致しましょう。
――ただ、お父様がソフィ様と何をお話になったのか、気になりますわ。
お父様は野心に満ちた、危険なお方です。
どのような思惑があるか、分かったものではありません。
――嫌な予感がします。
私はスザンヌに、会談の内容を確認いたしました。
すると――
私の悪い予感は、的中してしまいました。
なんとお父様は、我がルーズベリル領にソフィ様をお招きして、防衛戦争を戦った兵士たちを慰問して欲しいと、そう要請したというではないですか!!
なんということでしょう――
お父様は、ソフィ様を殺害なさるおつもりですわ!!
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「ソフィ様……。わたくしのお父様は、ソフィ様を我が領地に誘い込んで、事故を装い、殺害するつもりなのですわ!!」
「なっ、ななっ……なんですって!!」
ソフィ様をお招きしてのお茶会。
リィクララ様が突然、可笑しなことを言い立てて――
ソフィ様のお付きのメイドが、慌てふためいています。
ノリのいい方ですね。
――いえ、そんな呑気なことを、考えている場合ではありません。
私の認識が、甘かったようです。
リィクララ様は悪役令嬢ごっこを、まだ続ける気です。
娘を溺愛しているだけの公爵様を悪者に仕立てて、事実無根の『悪の陰謀』をでっち上げてしまいました。
これは……。
どういたしましょう?
ここで私が慌てて、リィクララ様の戯言を否定してしまえば、本当に暗殺計画があるような印象を、相手方に与えてしまいます。
――かといって何も言わずにいると、公爵様の冤罪が確定してしまいます。
まさか――
このような事態を引き起こすとは、おのれ悪役令嬢!!
私がもっときつく、尻を叩いてお諫めしていれば――
悔やまれてなりませんが、今は反省よりも誤解を解く方が先です。
しかし、私が姫様をお諫めする前に――
「――えっと、先日会談したルーズベルリ公爵様からは、微塵も悪意を感じませんでした。そのような計画をお持ちだとは、到底思えません。――リィクララ様の勘違いなのではないでしょうか?」
ソフィ様がリィクララ様に、疑問を呈します。
流石はソフィ様。
彼女は、『リーズラグドの叡智』ローレイン様に匹敵する、頭脳の持ち主です。
うちの姫様の戯言には、耳を貸しませんでした。
「勘違いなどではありませんわ!! お父様は狡猾なお人なのです。野心と野望を心の内に隠すことなど造作もありません。――お人よしのソフィ様が見抜けなかっただけですわ!!」
戯言を相手にされなかったリィクララ様が、しつこく食い下がります。
早くこの馬鹿を止めたいのですが、無理に止めると逆に怪しい状況です。
――私も暫く静観するしかないでしょう。
それに、ソフィ様は聡明なお方――。
このような証拠もない子供の戯言を、相手になどなさらないでしょう。
そもそも公爵様は、リィクララ様をアレス様の側室に送り込む以上のことを、望んでなどいません。
今回ソフィ様を領地にお招きしたのも、純粋に王家との関係強化の為です。
次期王妃になられるソフィ様が慰問に来るとなれば、兵士たちも光栄に思うでしょうし、領民も喜びます。
ソフィ様も公務を行うことで、次期王妃としての実績を積むことが出来ます。
これはアレス様にとっても、プラスになる話です。
さらに――
ソフィ様に公務をして頂いて王家に借りを作り、そのお礼をすればアレス様も悪い気はしないでしょう。
敢えて借りを作ることで、相手の懐に入りやすくなるわけです。
貸しではなく借りを作り、関係を構築する。
そんな政治手法を好む公爵様が――
暗殺などという、博打に手を出すはずがありません。
――しかも、自分の領内で暗殺ですか?
すぐに犯人と疑われるような手を打つなど、ありえないでしょう。
「あの、――リィクララ様。何故そのことを、私に教えて下さるのですか? リィクララ様のお父様の計画通りに、私が殺害されたほうが――リィクララ様にとっても都合が良いのでしょう――?」
ソフィ様はどうやら、リィクララ様の戯言のお相手をして下さるご様子。
下手に相手の主張を否定するよりも、乗っかって適当にあしらうおつもりのようです。確かに打たれてみると、それしかないという一手、流石です! ソフィ様。
ソフィ様は、聡明なお方です。
リィクララ様の妄想など、まともに取り合っていません。
――それが分かると、安心して見物できます。
「見損なわないで下さいませ!! 私は確かにソフィ様から正妻の座を奪う気でいます。――ですがそれは、正々堂々とした愛の勝負で勝ち取るものですわ! お父様の卑劣な計略で、恋敵を亡き者にして奪おうなどとは思いませんわ!!」
――いや、悪役令嬢なんだから、殺して奪えよ。
心の中でリィクララ様の『悪役令嬢』に、ツッコミを入れる余裕も出てきました。
「リィクララ様……」
ソフィ様はリィクララ様のセリフに、何やら感動しているようです。
お芝居が、お好きなのかもしれません。
芝居はまだ続きます。
「――ですから、この度のルーズベリル領への訪問、私も同行いたしますわ!! そして、ソフィ様のお側にずっといます。そうすればお父様は暗殺計画も実行できません。――私まで死んでしまえば、本末転倒なのですから!!」
おーほほほっ!!
リィクララ様は、してやったりといったドヤ顔で高笑いです。
それは、ようございましたね。
「リィクララ様。私達、お友達になれませんか? たとえ恋敵だとしても、友情をはぐくむことは出来ます。現に私とこのメイドのリリムはお友達なのです!」
ソフィ様も、結構ノリノリで楽しそうにしています。
こんな子供だましのお芝居に、付き合ってくださるなんて――
聡明なだけではなくて、子供好きな方なのですね。
この場はソフィ様に、お任せしておけば大丈夫でしょう。
しかし、リクララ様のお世話は気苦労が絶えません。
何か特別ボーナスでも貰わなければ、割に合いませんね。
ボーナス、そうですね……。
リィクララ様がこの先――
アレス様と閨を共にするときは、私がサポートに入る予定です。
アレス様は好色なお人。
必ず私にも、手を出されるでしょう。
王子様との子供を産む――
お目付けメイドから、お手付きメイドにジョブチェンジ。
特別報酬としては、悪くはありません。
他に誰かいい男がいれば、そちらでも良いのですが、あいにくと姫様のお世話で手一杯で出会いが無いのです。
やはりここは――
アレス様にご褒美を頂くしかないでしょう。
私が安心して目を離し、よからぬ妄想に励んでいた間に――
ソフィ様とリィクララ様とメイドの少女が、三人で手を取り合って『女の友情』とか言って盛り上がっていました。
……あれ?
おかしいですね。
いやな予感がしました。
馬鹿が三人に増えてしまったような――
いえ、きっと気のせいです。
少なくともソフィ様は――
リーズラグドの叡智に匹敵する、頭脳の持ち主なのですから……。




