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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
リーズラグドの叡智

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第67話 悪役令嬢とお目付けメイド 4

 ソフィ様と正妻の座をかけた決闘を行うために、スザンヌにお茶会の準備を命じてから数日が経過しました。


 仕事の速いスザンヌですが、まだ準備が整っていません。



 ――珍しいですわね?


 私が訝しんで、探りを入れると――

 なんとお父様と、ソフィ様の会談が先行して行われていました。

 

 それで、私の方が後回しになっていたのですか、まあ、それでは仕方がありませんわね。楽しみは後に取っておくと致しましょう。


 ――ただ、お父様がソフィ様と何をお話になったのか、気になりますわ。


 お父様は野心に満ちた、危険なお方です。

 どのような思惑があるか、分かったものではありません。


 


 ――嫌な予感がします。

 私はスザンヌに、会談の内容を確認いたしました。


 すると――

 私の悪い予感は、的中してしまいました。


 なんとお父様は、我がルーズベリル領にソフィ様をお招きして、防衛戦争を戦った兵士たちを慰問して欲しいと、そう要請したというではないですか!!



 なんということでしょう――

 お父様は、ソフィ様を殺害なさるおつもりですわ!!





*************************





「ソフィ様……。わたくしのお父様は、ソフィ様を我が領地に誘い込んで、事故を装い、殺害するつもりなのですわ!!」


「なっ、ななっ……なんですって!!」





 ソフィ様をお招きしてのお茶会。

 リィクララ様が突然、可笑しなことを言い立てて――

 

 ソフィ様のお付きのメイドが、慌てふためいています。

 ノリのいい方ですね。

 

 ――いえ、そんな呑気なことを、考えている場合ではありません。



 私の認識が、甘かったようです。

 リィクララ様は悪役令嬢ごっこを、まだ続ける気です。


 娘を溺愛しているだけの公爵様を悪者に仕立てて、事実無根の『悪の陰謀』をでっち上げてしまいました。

 




 これは……。

 どういたしましょう?


 ここで私が慌てて、リィクララ様の戯言を否定してしまえば、本当に暗殺計画があるような印象を、相手方に与えてしまいます。

 

 ――かといって何も言わずにいると、公爵様の冤罪が確定してしまいます。




 まさか――

 このような事態を引き起こすとは、おのれ悪役令嬢!!

 


 私がもっときつく、尻を叩いてお諫めしていれば――

 悔やまれてなりませんが、今は反省よりも誤解を解く方が先です。






 しかし、私が姫様をお諫めする前に――


「――えっと、先日会談したルーズベルリ公爵様からは、微塵も悪意を感じませんでした。そのような計画をお持ちだとは、到底思えません。――リィクララ様の勘違いなのではないでしょうか?」


 ソフィ様がリィクララ様に、疑問を呈します。

 流石はソフィ様。

 

 彼女は、『リーズラグドの叡智』ローレイン様に匹敵する、頭脳の持ち主です。

 うちの姫様の戯言には、耳を貸しませんでした。




「勘違いなどではありませんわ!! お父様は狡猾なお人なのです。野心と野望を心の内に隠すことなど造作もありません。――お人よしのソフィ様が見抜けなかっただけですわ!!」


 戯言を相手にされなかったリィクララ様が、しつこく食い下がります。


 早くこの馬鹿を止めたいのですが、無理に止めると逆に怪しい状況です。

 ――私も暫く静観するしかないでしょう。




 それに、ソフィ様は聡明なお方――。


 このような証拠もない子供の戯言を、相手になどなさらないでしょう。



 そもそも公爵様は、リィクララ様をアレス様の側室に送り込む以上のことを、望んでなどいません。


 今回ソフィ様を領地にお招きしたのも、純粋に王家との関係強化の為です。




 

 次期王妃になられるソフィ様が慰問に来るとなれば、兵士たちも光栄に思うでしょうし、領民も喜びます。


 ソフィ様も公務を行うことで、次期王妃としての実績を積むことが出来ます。

 これはアレス様にとっても、プラスになる話です。



 さらに――

 ソフィ様に公務をして頂いて王家に借りを作り、そのお礼をすればアレス様も悪い気はしないでしょう。


 敢えて借りを作ることで、相手の懐に入りやすくなるわけです。

 


 貸しではなく借りを作り、関係を構築する。


 そんな政治手法を好む公爵様が――

 暗殺などという、博打に手を出すはずがありません。


 

 ――しかも、自分の領内で暗殺ですか?

 すぐに犯人と疑われるような手を打つなど、ありえないでしょう。





「あの、――リィクララ様。何故そのことを、私に教えて下さるのですか? リィクララ様のお父様の計画通りに、私が殺害されたほうが――リィクララ様にとっても都合が良いのでしょう――?」


 ソフィ様はどうやら、リィクララ様の戯言のお相手をして下さるご様子。


 下手に相手の主張を否定するよりも、乗っかって適当にあしらうおつもりのようです。確かに打たれてみると、それしかないという一手、流石です! ソフィ様。


 ソフィ様は、聡明なお方です。

 リィクララ様の妄想など、まともに取り合っていません。



 ――それが分かると、安心して見物できます。



「見損なわないで下さいませ!! 私は確かにソフィ様から正妻の座を奪う気でいます。――ですがそれは、正々堂々とした愛の勝負で勝ち取るものですわ! お父様の卑劣な計略で、恋敵を亡き者にして奪おうなどとは思いませんわ!!」


 

 ――いや、悪役令嬢なんだから、殺して奪えよ。


 心の中でリィクララ様の『悪役令嬢』に、ツッコミを入れる余裕も出てきました。






「リィクララ様……」


 ソフィ様はリィクララ様のセリフに、何やら感動しているようです。

 お芝居が、お好きなのかもしれません。



 芝居はまだ続きます。


「――ですから、この度のルーズベリル領への訪問、私も同行いたしますわ!! そして、ソフィ様のお側にずっといます。そうすればお父様は暗殺計画も実行できません。――私まで死んでしまえば、本末転倒なのですから!!」


 おーほほほっ!!

 リィクララ様は、してやったりといったドヤ顔で高笑いです。

 

 それは、ようございましたね。




「リィクララ様。私達、お友達になれませんか? たとえ恋敵だとしても、友情をはぐくむことは出来ます。現に私とこのメイドのリリムはお友達なのです!」


 ソフィ様も、結構ノリノリで楽しそうにしています。


 こんな子供だましのお芝居に、付き合ってくださるなんて――

 聡明なだけではなくて、子供好きな方なのですね。




 この場はソフィ様に、お任せしておけば大丈夫でしょう。


 しかし、リクララ様のお世話は気苦労が絶えません。

 何か特別ボーナスでも貰わなければ、割に合いませんね。




 ボーナス、そうですね……。


 リィクララ様がこの先――

 アレス様と閨を共にするときは、私がサポートに入る予定です。


 アレス様は好色なお人。

 必ず私にも、手を出されるでしょう。


 王子様との子供を産む――

 お目付けメイドから、お手付きメイドにジョブチェンジ。


 特別報酬としては、悪くはありません。

 




 他に誰かいい男がいれば、そちらでも良いのですが、あいにくと姫様のお世話で手一杯で出会いが無いのです。


 やはりここは――

 アレス様にご褒美を頂くしかないでしょう。



 私が安心して目を離し、よからぬ妄想に励んでいた間に――

 ソフィ様とリィクララ様とメイドの少女が、三人で手を取り合って『女の友情』とか言って盛り上がっていました。



 ……あれ?

 おかしいですね。


 いやな予感がしました。

 馬鹿が三人に増えてしまったような――



 いえ、きっと気のせいです。


 少なくともソフィ様は――

 リーズラグドの叡智に匹敵する、頭脳の持ち主なのですから……。

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