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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
リーズラグドの叡智

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第66話 悪役令嬢とお目付けメイド 3

 大神殿で白昼堂々と行われた、暗殺未遂――。


 辺りはまだ、騒然としています。

 ソフィ様の命を狙った暗殺者三名が、返り討ちに遭ってお亡くなりになりました。


 私は大貴族ルーズベリル家の姫君リィクララ様の付き人として、式典に参加して、そこでこの惨事を目の当たりにしています。




 自分で投げつけた暗器がそのまま跳ね返り、暗殺者の身体に刺さっています。


 ――これが、ソフィ様の加護の力ですか。





 ソフィ様は聖女ではありませんが、何らかの神様の加護が与えられている。

 そのような情報が、貴族社会に流れていました。


 そういった話が出回っているにもかかわらず――

 加護を与えている神様の名前は、ようとして知れません。



 そのような形で、話が出回る可能性として――


 1、――

 アレス様がソフィ様を娶る為に、偽りの情報を意図的に流している。

 神の加護はフェイクなので、神様の名前を明かせない。


 2、――

 本当にソフィ様は神の加護を与えられているが、口にすることが憚られる神様から力を得ている。



 ――ルーズベリル家としては、どちらの場合であったとしても、事を荒立てずに話を合わせて、王家の意向に沿う方針です。


 ソフィ様が暗殺者を苦も無く返り討ちにしたことから、神の加護をお持ちなのは確定でしょう。――だとすると、問題は何もありません。


 



 

 暗殺騒ぎのあった神殿では、大司教が『――聖女ではありません』と宣言したソフィ様を糾弾しようとしましたが、逆に警備の不備を糾弾されています。


 ――さらに、神様の加護を与えられたソフィ様を認めないのは、神に対する冒涜だとも非難されていました。




 大司教を攻撃しているのは、北の大貴族ケンドリッジ家の姫君、ローレイン様の派閥に属するご令嬢の方々です。


 ローレイン様は『リーズラグドの叡智』と称され、中央政界を取り仕切っているとまで言われている才女です。


 アレス様の側室で、政治分野の右腕と目されている人物――。




 その彼女の派閥のご令嬢方が、一斉にソフィ様擁護の姿勢を見せたことで、それ以外の貴族も大司教の非難を始めました。


 皆、長いものには巻かれたいのです。



 ローレイン様の恐ろしさは、ここにいるほとんどの人間が良く理解しています。



 彼女を敵に回してしまった以上――

 アレス様のことを快く思っていない大司教の勢力は、閑職へと追いやられることでしょう。



 ローレイン様は北国特有の黒髪に白い肌の、儚げな美人です。


 一見か弱く、今にも消えてしまいそうな雰囲気の方ですが――

 その見た目に反して、とても恐ろしいお方です。



 うちの考え無しのバカ姫が、間違っても敵対したり、挑発したりせぬように監督するのも、私の重要な任務です。


 怒らせてしまうと、お家の破滅に繋がると囁かれている方ですから――




 ただ、今回の暗殺騒ぎの発端となり――

 一番存在感を発揮していらっしゃるのは、間違いなくソフィ様です。


 あからさまに罠と判るこの場に臆せずに現れて、たった一言『聖女ではありません』というだけで、この結果を引き出しました。


 

 この国に入り込んでいる暗殺者を自身に引き付けて撃退し、アレス様を快く思っていない大司教派を攻撃する材料を手に入れると同時に、強力な神の加護を与えられていることを、上級貴族の集まるこの場で、効果的に示しました。


 ――これにより、聖女では無かったとしても、強力な神の加護の保有者として、特権を享受できます。

 

 アレス様の正室として、文句を言う者もいなくなるでしょう。



 この結果を見れば、ソフィ様は――


 自分の命を狙う暗殺者さえも、最大限に利用して利益を享受する。そんな知略の持ち主であると解ります。


 ――恐ろしい。



 ソフィ様はひょっとすると、ローレイン様に匹敵する……

 いえ――

 それ以上の、叡智の持ち主なのかもしれません。



 くれぐれも、うちの姫様が問題を起こさない様に、注意して見ておかなければいけません。


 ――下手をすると、ルーズベリル家が取り潰される。

 そんな憂き目にあうことも、あり得るのですから……。




 この暗殺騒ぎのあった数日後、ルーズベリル家とソフィ様の会談が行われました。

 私の雇い主の公爵様が、ソフィ様を領地にご招待していました。

 

 ルーズベリル領はここ数年、領土を接する他国と紛争状態にありましたが、二か月ほど前に停戦が締結されました。

 


 大規模な内乱の起こったリーズラグドを、侵略しようと――

 ルーズベリル領の西の小国が連合して、攻め寄せていたのです。


 敵軍はあまり大規模なものでは無く、国境の要塞で跳ね返していたのですが、急遽相手方から停戦と和睦の使者が送られてきて、和解に至りました。



 公爵様が『これまで従軍し防衛戦を戦っていた兵士たちを労う為に、領地にお越し頂けませんか?』と要請し、ソフィ様も快く承諾して下さいました。



 会談はつつがなく終わり、ソフィ様をルーズベリル領にお迎えすることが決まりました。――数日後には、ソフィ様は数名の供と共に、公爵様の手勢に護衛されて、我らの領地へと赴きます。



 その話を聞き及んだリィクララ様が慌てて、ソフィ様とのお茶会は何時なのか、早くお会いしたいと言ってきました。


 ――そういえば、前々からお茶会をしたいと仰っていましたね。



 ここのところ忙しくて、後回しにしていましたが――

 お茶会ですか……。



 まあ、問題ないでしょう。


 悪役令嬢ごっこはもう止めるように可愛いお尻に教え込みましたし、ソフィ様の領地訪問も決定事項です。



 これ以上リィクララ様が、何かを引っ掻き回す余地は無いでしょう。

 



 ――そう、思っていたのですが、私の考えが甘かったようです。

 

 ソフィ様と仲良くなれたと無邪気に喜ぶ姫様を見ていた為、むち打ちに手心を加えてしまっていました。


 私が甘やかしてしまったせいで、こんなことになるとは――

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