第61話 悪魔へと至る道程 4
「お、お前は一体、何者なの? べ、ベルゼ様、ベルゼ様はどこッ!?」
私は大声で叫ぶように、隣に寝ていた化け物を問いただす。
その声を聞いたシュドナイが、慌てて部屋の中に入ってきた。
「ロ、ローゼリア、一体どうし……な、なんだその、化け物はッ!!?」
シュドナイが、ハエ頭の化け物を見て、絶句して固まる。
シュドナイ……。
一晩、寝ないでいたのかしら?
目の下に、すごいクマが出来ている。
きっと、聞き耳を立てていたのね。
――いや、今はそれどころではないわ。
シュドナイなんか、どうでもいいのよ!
「んー、なんや? 朝から騒がしいなぁ、ん? ワイが何者かって? ワイや、ワイ。ワイがベルゼブブや、ローゼリアはん。――なんや、昨日はあないに愛しおうて、一緒に盛り上がったちゅうのに、もー忘れてしもたんか? ワイ、悲しいわぁ」
私のベットに入り込んでいたハエ頭の化け物は、胡散臭いエセ関西弁で、おかしなことを言いだした。
――は?
愛し合った――?
私が、この化け物と?
そんな訳ないでしょ。
昨日私は、超絶美青年のベルゼ様と――
ベルゼ様は、どこ?
……あれ?
悪魔ベルゼブブは、ハエの悪魔――
ということは、この化け物が……。
……嘘でしょ?
「嘘やないよ。ワイがベルゼブブや! 昨日のワイのあの姿はな、まあ、なんや、『初回限定サービス』とでも言えばええんかな? ほら! 聖女はんの前世の世界の『ホスト』も、こんな感じやん。最初だけ三千円で、後はめっちゃ高いヤツ!! 売掛金、高額請求~~、借金地獄!! それみたいなもんや」
なっ、こいつ、私が転生者だと知っているのか。
それに、心を読んで――?
いや、それよりも――
「あんた今、私のことを『聖女』と言ったわね。やはり私はまだ聖女で、力を取り戻す方法はあるのね?」
「おっと、ワイとしたことが、思わず口を滑らせてしもうたな。――まあ、なんや、その辺は好きに解釈すればええよ。聖女に異常に拘ってる、あんさんに対する『ただの愛称のつもりで言っただけ』かもしれんし――」
ハエ男は、『しまった』とでも言いたげに、慌てて言い繕う。
ふん、今更遅いのよ。
それに、こいつが魔導書から出てきたのは、私の『再び聖女になりたい』という願いを叶えるため――
叶えられる願いでなければ、悪魔は召喚されないはず。
せいぜい、利用させて貰うわ。
聖女の力さえ、取り戻せれば……。
――その後で、コイツを消し去ればいい。
「聖女はん……あんた、えげつないこと考えますな~。悪魔のワイもドン引きやで!」
――しまった。
コイツは心を読めるんだったわ。
「――けどまあ、それでもええよ。ワイはもう、あんさんと契約済みやさかい、あんさんがどないな思惑を持ってはろうと、力を貸さなあかんねん」
ほっ……。
――なんだ、それなら問題ないわね。
「じゃあ、早速だけど、あんた最初の姿に戻りなさいよ。なんで頭だけハエなのよ。気持ち悪い――」
「そないな酷い事、よく本人を前に言えますな。流石は聖女はん。けどな、残念ながらそれは無理やねん。あの姿はメッチャ気合い入れな保つことが出来んのや。実はもう、力をほとんど使い切ってもうて、ヘトヘトやねん」
――ん?
力を使い果たした?
はぁ??
じゃあ、聖女の力を取り戻す手伝いは――?
どうやって、やるつもりなのよ。
「ああ、それなら心配いりまへん、そのために、聖女はんの隠し扉をこじ開けて、ヒィヒィ言わせたったんやさかいな」
「……くッ――昨日のことは、言うんじゃないわよ!」
「……ローゼリア、君は――」
シュドナイがドン引きしている。
だが、少し顔が赤い。
想像するんじゃないわよ。
この、ムッツリ野郎ッ!!
思い出したくもない。
けどあれが、力を与えるって――
――どういう?
「ワイの卵を、聖女はんに植え付けといたんや。あと十日もすれば、ぎょうさん子供が生まれて来るんやわ。それが戦力になる」
「ロ、ローゼリア、この化け物と、子供を……」
シュドナイが信じられないという顔で、私を見ている。
――私だって、信じたくないわよ。
今すぐにでも、腹の中のモノを残らず排出してやりたい。
けれど――
これが、戦力になる……。
私が聖女の力を、取り戻すための――
私と婚約破棄して、追放した奴らに……
復讐する為の力になる。
だったら――
私はこの化け物との、子供を産むことに決めた。
「待っていなさい。阿呆王子にピレール。必ずお前たちを――破滅させてやる。必ず不幸に、必ずよ……。ふっ、フフッ――ふはっ、フハッはははッ。はーはっはっ!」
奴らを不幸にする為だったら、私は何でもやってやる!!
安宿の、その部屋の中で――
私だけが、笑い続けていた。
三か月後――
私と悪魔ベルゼブブ、ついでにシュドナイの一行は、西の大国チャルズコートに滞在している。
今はチャルズコートの大神殿の最高司祭と接触し、協議を行っている最中だ。
この国に来たのは、私が聖女に返り咲くためだ。
悪魔ベルゼブブの知識と助言に従い、ここまで来た。
チャルズコートには聖女がいる。
聖なる結界で護られた国だ。
本来なら悪魔は入り込めないが、ベルゼブブは別だ。
聖女の結界は、壁のように隙間の無いものでは無く――
ゴールネットのように、網目状に張り巡らされている。
大型の魔物は通さないが――
自身の身体を無数のハエに変化させることの出来るベルゼブブは、聖女の結界を潜り抜けることが可能なのだ。
私の産み出した小さな子供たちは、同様にすり抜けられる。
この国に来る前に、ピレンゾルの北西の町に、置き土産を置いてきた。
私とベルゼブブの子供たちを、千匹ほど放ってきた。
貴重な戦力だが、私の留飲を少しでも下げるためだ。
悪魔ベルゼブブの能力の一つ。
――疫病の発生。
一匹一匹は強くはないし、もう全部死に絶えているだろうが、その死骸が何をもたらすのかを考えると、笑いが込み上げてくる。
でも、まだこれからよ。
これから、じっくりと――
不幸にしてあげますからね。
ピレール。
ウフフフ……
――絶対に、あなたを許さない。




