第59話 悪魔へと至る道程 2
おのれ、あの糞餓鬼が――
恩を仇で返しやがってッ!!
私はピレールから婚約破棄を言い渡されて、牢屋に入れられた。
それから、もう二か月が経過している。
だが――
いまだに怒りが収まらずに、心の中で悪態をつく。
コツン、コツン!
見回りの兵士の足音が、牢屋に響く。
いつもなら通り過ぎる足音が、私の牢の前でピタリと止まる。
ギィイィィ!!
兵士によって、扉が開かれた。
「出ろっ、囚人番号36番!!」
――私のことか?
聖女である、この私に向かってっ!!
だが、ここでこいつと言い争うことは、無益でしかない。
私は顔を上げ兵士を見て、出ていいか確認する。
兵士は黙って頷く。
私はピレンゾルの牢屋から、ようやく外に出された。
国外追放処分を受けた私は、拘束されたまま移送用の馬車に乗せられる。
追放先は、ピレンゾルの西の、三つの隣国の一つ。
『ピリーゾル』という小国に、引き渡されるらしい。
ピリーゾルというのは、ピレンゾルの衛星国家だ。
国の規模は、大雑把に言えば――
ピレンゾルが中くらいだとすると、西の三つは小国。
そんな感じだ。
ピリーゾルに引き渡された私は、王族の暮らす王宮へと招待された。
彼らが王宮と言い張っている建物は、大国のリーズラグドや、中国のピレンゾルと比べるとショボい印象を受ける。
だが、まあ――
国外追放された先で、どうやって生活していけばいいのか、全く当ての無かった私にとって、王宮に招待されるというのは、悪くない展開だった。
私はその王宮で、ピリーゾル第一王子の婚約者だと言われて――
その日から、王子と夜を共にすることになった。
シュドナイとの一か月で、そっち方面の経験はそれなりに積んでいる。
初心な第一王子をリードし、手玉に取って弄んでやった。
ピリーゾルの王子は、行為の後で悔しそうにしていた。
――お可愛いこと。
ピリーゾル側が、私を求めてきたのだ。
シュドナイの時のように、ご機嫌取りをする必要はないだろう。
――翌日。
「さあ、君を愛したぞ。ローゼリア! 聖女の力をこの国にもたらすのだ!!」
第一王子は私に、聖女の加護を要求してきた。
……どうやらピレンゾルから、私に関する情報が提供されているらしい。
それで……
追放された私が、王宮に招待されたわけか――
コイツは聖女の力目当てで、私と……
正直気分は良くないが、これからの暮らしを考えると、贅沢は言っていられない。
私は『聖女の加護』を使うことにした。
――しかし、発動しない。
どうやら、昨日の第一王子との夜の営みでは――
聖女の力は、回復しなかった様だ。
――王子が下手糞だったからかしら?
小国とはいえ、コイツも一応王子だ。
この男の愛でも、多少は力が戻るかもしれない。
聖女の力を回復する為に、私はピリーゾルの王子に愛を要求した。
――それから一週間。
色々試したが、聖女の力は復活しなかった。
「偽聖女ローゼリアよ! お前との婚約を破棄する。そして貴様を国外追放処分とする!! お前にもう用はない。――どこへなりとも行くがよい」
私はピリーゾルの第一王子から、婚約破棄と国外追放を言い渡された。
今度の追放では、牢屋に拘束されることはなかった。
勝手に自分で歩いて、王宮を出ていいらしい。
だが、この場合――
食料と移動手段は、自分で確保しなければいけない。
私は歩いて、国外を目指す。
旅の途中で出会った身なりのいい男を誘惑して、金を稼いでからは馬車を使った。
男が油断していたので、持ち金全部を頂いてきた。
――迂闊な男だ。
私は馬車を乗り継ぎ、ピレンゾルとの国境まで来た。
ピレンゾルからも国外追放されているが、見つからなければ平気だろう。
街道と関所さえ通らなければ、許可なく国を跨ぐことは可能だ。
国境の見張りのいないエリアを探そうとする私のところに、馬に乗った一人の男がまっすぐに近づいてくる。
「探したぞ。ローゼリア! 追放されたと聞いてな。入れ違いにならなずに会えてよかった」
シュドナイだった。
シュドナイは馬から降りると、私を強く抱きしめる。
感動の再会だ。
――このDV男は、私と会うために、仕事と家を捨ててここまで来たらしい。
馬鹿なのかしら。
コイツ……。
三か月前は『わからせてやる』なんて言って威張っていたくせに、すっかり私に夢中じゃない。
なにが『わからせ』よ。
骨抜きにされたのは、あんたの方じゃない。
ぷ~~、クスクス。
チョロイにもほどがあるわ。
でも、私はそんな内心を、おくびにも出さない。
「シュドナイ様! 私の為に、こんなところにまで! ……ローゼリア、嬉しい!」
――と、言ってから……。
ぶちゅ~~!!
私はシュドナイに、キスをしてやった。
ちゃんと芸の出来た犬には、ご褒美をあげなくちゃね。
「ふっ、お前は俺のモノだからな。もう勝手にいなくなるなよ」
そう言って、シュドナイはもう一度、私を強く抱きしめた。
「はい、シュドナイ様。お慕いしていますわ……」
私も適当に合わせておいてやる。
内心では――
いや、国外追放喰らったのは、全部あんたのせいじゃない!
なに私が勝手にいなくなったみたいに言ってんのよ!!
アホなの?
それにしてもあんた、私の為に仕事と家を捨ててくるって、どんだけ私に夢中なのよ。どうせ、この身体が目当てなんでしょ?
性欲最優先で生きてるのかしら?
それで後先考えずに、こんなところまで来るって、どうなのよ、それ。
ほんっとに、馬鹿なお猿さんね。
心の底から軽蔑するわ。
早く死んだほうが、良くってよ。
今すぐここで、死んでくださらない――?
そうすれば、手を合わせるくらいはしてあげるわ。
その後で、爆笑しますけど――
と思っていたが、それは言わない。
――面従腹背という奴だ。
この男にはまだ、利用価値がある。
殺すのは、用済みになった後だ。




