第57話 悪魔へと至る道程 1
私は『DV男』こと、シュドナイに連れられて――
ピレンゾルの王都に辿り着いた。
そして今は、場末の安宿に滞在している。
聖女である私を、こんなところに泊めるなんて――
『甲斐性の無い男』だとは思うが、口には出さない。
――殴られるからだ。
このシュドナイという男は、神に選ばれし神聖な聖女の私に対して、有ろう事か殴るけるの暴行を加えて虐げたのだ。
本来なら、すぐにでも極刑に処すべきである。
だが、今の私は聖女の力を失い、頼る者もいない。
悔しいけれど、我慢するしか――
耐え忍ぶしかなかった。
最初の頃はそう思っていた。
しかし――
私はこの状況を、すでに打破している。
私は心の底からこの愚かな男を、罵倒して罵ってやりたい。
しかしそれでは駄目なのだ。
私はシュドナイを罵る代わりに、徹底的に下手に出て、これでもかというくらい煽ててやっている。
足元に跪き、ベットの中で寄り添い――
『お慕いしています』と、態度と言葉で表明する。
「シュドナイ様~~~」
私は顔を上気させ、偽りの尊敬の眼差しを、このクズに向ける。
そうすれば――
この傍若無人なDV男を、嘘のように手玉に取ることが出来だ。
私はそのやり方を、コイツと二人きりの一か月の間で、完全に把握した。
――そう、あの恐ろしい死神との死闘から、一か月が経過している。
失われてしまった聖女の力は、いまだに取り戻せていない。
……早く。
一刻も早くピレールに、会わなければ――
私がDV男の暴力に屈服し、支配下に置かれて迎えた初めての夜。
この浅ましい男は、泊まった宿屋で――
早速、私の身体を求めてきた。
こんな奴に抱かれるなど、嫌で仕方が無かったが――
私に拒否権は無い。
嫌々ながら、コイツに蹂躙されるしかなかった。
翌朝――
私は暗い気持ちで、目を覚ます。
一体いつまで、この男の暴力に怯えなければいけないのだろう。
憂鬱だ。
だが、その日の朝から、このDV男に少し変化が見られた。
私への態度が、少し柔らかいものになっていた。
…………。
どうやら、この男は――
一度肌を合わせた私に、情が湧いたらしい。
…………。
チョロ!!
なーんだ。
男って、こんなにチョロいんだ。
偉そうなことを言っていても、一度抱いただけで女が自分の物になったと勘違いするなんて……。
――ププッ!
そうと解れば――
私はこの男のことを、逆に支配してやることにした。
この私の美貌をもってすれば、容易なことだわ。
最初は抵抗があったが――
私は『男に屈服して、従順に従う健気な女』を演じた。
男が良い気分になるような――
男が言われて、嬉しがる言葉を並べ立てる。
とにかく褒めまくって、『あなたのことを尊敬してます』アピールをする。
すると、あら不思議!!
あの偉そうなDV男が、私のことを気遣うようになるなんて――
簡単に手のひらの上で、転がせちゃうわ。
それが実感できるようになると、屈服する演技の抵抗感もなくなり、それどころか、楽しく感じるようになった。
身体を合わせてから一か月で、シュドナイは私に夢中になっている。
シュドナイは篭絡済みだ。
適当に言いくるめて王宮へと帰還しようとしたのだが、この安宿に宿泊して身を潜めざるを得なくなった。
ピレンゾルで、軍事クーデターが発生していたからだ。
犯行グループは、前王妃の派閥の貴族。
若手の青年将校たちだった。
ピレンゾルの領土は北東に細長く突き出ていて、その先に、阿呆王子の国のダルフォルネ領がある。
北西は『西の大国』と呼ばれるチャルズコートに面していて、西に三つ、引っ付くように小国がある。
それ以外は、魔物が支配する地域で、人は住んでいない。
私が聖女十字軍を率いて、死神討伐に向かっている間に、ピレンゾルの西の三国が同盟を組み、ピレンゾルに戦争を仕掛けて、領土をかすめ取っていた。
ピレンゾルは、戦争に負けた――
そして停戦交渉で、多額の和解金を三国に支給することで、合意したそうだ。
ピレンゾル国民は怒り狂った。
その国民の怒りを代表するように、青年将校が軍事クーデターを引き起こす。
クーデターは失敗に終わり首謀者は全員捕まったが、情勢が安定するまでは、私達も下手に動けない。
政治情勢を見ながら、身を潜めている最中だ。
私の安全が第一だが、いつまでも潜んではいられない。
早く、ピレールに会いたい――
そうしなければ、私の聖女の力は回復しない。
『聖(笑)』で力を使い果たした、聖女ローゼリアは――
ピレールの真実の愛で、力を取り戻す。
私もピレールの愛で、力の回復が望めるはずだ。
私の虜になったシュドナイには――
すでに聖女の力が失われたことを、打ち明けてある。
そして、ピレールの愛によって、再び力を取り戻せるという事も――
だから時期を見計らって、王宮へと帰る手筈を整えているところだ。
「――ローゼリア、来い」
「はい! シュドナイ様」
私はシュドナイの呼びつけに応じて、すぐに足元に跪き上目使いで見上げる。
目をウルウルさせ、『シュドナイ様に、ご奉仕できて幸せですっ!!』と心にもないことを言う。
DV男は、満更でもなさそうに、顔をにやけさせる。
ププっ!
チョロイったらないわ――
シュドナイは、下半身に何も着けていない。
私は命じられるままに、シュドナイにご奉仕する。
「ローゼリア、手筈が整った。明日王城へ入る」
私は奉仕を続ける。
「知り合いに連絡が取れたので、何とか王まで話を通して貰えた。お前に奉仕をさせてやるのも、暫くは控えねばならん。その分、今日は存分に可愛がってやる」
「ありがとうございますッ。シュドナイ様~~」
私はお尻を振り振りさせて、喜びを表現する。
まったく、シュドナイったら――
当分の間、私を味わえなくなるから名残惜しいのね。
がっつきすぎなのよ、お猿さん。
すっかり、私に夢中なんだから。
男って、こんなにチョロかったのね。
――もっと早く、この手を使っていればよかったわ。
私はシュドナイとの、激しく情熱的な夜を楽しんだ。




