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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
ロブドの戦い

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第48話 戦いの転換

 俺はジェイドからの指令に従い、反乱軍の中でも腕の立つ奴を集めて、少数精鋭部隊を作った。

 

 ――そして

 森の茂みの中に、潜んでいる。


 もう日は落ちて、辺りは真っ暗だ。

 しかし、俺たちは明かりをつけるわけにはいかない。




 こうして真っ暗な森の中に潜んでいるのは、心細くて仕方がない。

 しかし、これから襲う予定の相手に、こちらの存在を気付かれないようにしなければいけない。



「なあ、ロブド……本当に、来るのか?」


「ああ、俺の掴んだ情報ではな。――まず、間違いない」



 そう、これまでも――

 ジェイドから得た情報には、間違いは無かった。


 だから、やってくるのだろう。

 この山道を、少数の供だけで――


 ゾポンドート領の領主。

 パーシュア・ゾポンドートが――







 パーシュアには、年若い少年を愛でる性癖がある。

 自分好みの美少年が領内で発見されれば、そこにこっそり赴くそうだ。


 大領主なのだから、自分の城に呼びつければ良さそうなものだが、奥方様がそれは絶対に許さないらしい。


 妾を囲うのは、身分の高い者の義務のようなもので、反対は出来ないし跡継ぎを残すためには仕方がない、と許容もできる。


 それにパーシュアの場合、政略結婚で娶った妾のことは、あまり可愛がらない。

 家同士の繋がりを強固にするという、政治的な義務で相手はするが、それ以上にはならない。


 平民からも、妾を集めているが――

 そちらは、一度も使わずにすぐに売り払うそうだ。


 パーシュアは売って金にする目的で、平民から妾を集めている。


 それなら、嫉妬心も育たない。


 


 しかし、相手が男となると――

 『貴族の義務』と自分を慰めることは出来ないし、『男に負けた』という事実と屈辱が重くのしかかる。


 夫人はヒステリックになると、手が付けられなくなるそうだ。 


 パーシュアは夫婦仲を良好に保つために、少年との逢瀬は口の堅い少数の部下と共に行う。夫人に怪しまれることなく、外出できる機会は限られている。


 あの男は、このチャンスを逃さないだろう。

 ――と、ジェイドが言っていた。







 ジェイドの上司の悪辣眼鏡は、バーナルド・ゾポンドートの息子だ。

 この領地のトップシークレットも、入手可能な立場にある。


 情報収集能力が高く――

 入手した情報を、ここぞという場面で最大限利用する。


 それが、今だ。

 敵軍の最高司令官の暗殺――

 これ以上ないほどの、有効活用だろう。



 ティリアお嬢様が『頼りになる』と言っていたが、その通りだと思う。

 性格は悪いが――







 小一時間ほど、茂みに潜んでいただろうか――

 山道から、灯りが見えた。


 少数の護衛に守られた馬車が、こちらへとやって来る。


 あれが本当に、パーシュアの馬車かは判らない。

 確かめる術はない。


 俺はジェイドからの情報を信じて、攻撃の合図を出した。


 俺たちは馬車を襲撃した。

 乗っていたやつは、俺がこの手で殺した。








 トップが戦死したゾポンドート軍は、あっけなく瓦解し――

 反乱軍は、イーレス城を占拠した。


 その後に起きたことは、あまり語りたくはない。

 この領地を少しでも良くしようと、理想を語り合った仲間たちが、金品を略奪するところや、無抵抗の逃げ遅れた使用人を、虐殺する姿を見たくは無かった。



 パーシュア・ゾポンドート戦死の報が、領内を駆け回り――

 反乱軍は野望に目覚める。


 自分たちが、この地の支配者になれると勘違いをした。

 


 イーレス城を占拠した反乱軍は、烏合の衆だ。


 寄せ集めの集団らしく――

 複数勢力に分かれて、殺し合いを始めた。


 彼らは、その殺し合いに勝てば、領主の地位にありつけると思っている。


 殺し合いもするだろう。






 反乱軍と言っても、やってることは貴族と変わらない――


 いや――

 見た目を飾り立てない分、より醜い……


 欲望を剥き出しにした、権力闘争だ。

 


 

 仲間同士の殺し合いに勝ち残ったのは、『独立派』と『穏健派』。


 このまま領主になって独立しようという奴がトップの『独立派』と、国王と交渉して、事態を収め農民に戻ろうという奴がトップの『穏健派』の二つの勢力だ。



 俺はどちらとも、距離を置いている。


 そのため、俺を取り込もうと――

 両方から、自分たちの意見を支持しろとせっつかれている。



 俺が入った方の派閥が、反乱軍全体の主導権を握れる。


 俺は反乱初期から活動している最古参だし、パーシュア・ゾポンドートを討ち取ったという実績を持つ『反乱軍の英雄』だからだ。



 俺はどっちに付くことも出来ずに、身動きが取れなくなっていた。

 どちらかに付けば、反対派閥は俺を殺すだろう。


 だから、どちらにも付けずに、返事を先延ばしにしている。

 だが、それも限界だ。


 もう先延ばしは出来ない。

 どちらに付くか、早く決めなければ……


 答えのない問いに、俺が悩んでいると、


 ――あの男が、俺を訪ねてきた。






「ジェイド……」


「よう、辛気臭い顔して、――うんうん唸って、便秘か?」


 奴は下品なジョークで、俺をからかうが――

 とても、笑える気がしない。



「そう睨むなよ。困ってるお前に、いい話を持ってきてやったんだ」


「指令か――?」



 そうだな――

 どうせ、ろくでもない内容だろうが――


 これからどうすれば良いのか、自分では何も思いつかないんだ。

 人に決めて貰うのも良いか……。

 


「ああ、これからお前が――『反乱軍』がどう動けばいいのか、それを伝えに来た」


 そういってジェイドは、俺にこれからの『反乱軍』の方針を語った。



 そうか――

 どうやら『悪辣メガネ』は……。

 『反乱軍の英雄』の死を持って、この混乱を収める気でいるようだ。

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