第44話 戦いの理由 2
俺とレイミーは、森の中を逃げていた。
――追われているからだ。
俺たちは生まれ育った村から、二人で逃げ出した。
逃避行、三日目。
早くも、追いかけ回されているが――
追ってくるのは、村人ではない。
俺達を追いかけているのは、中型の熊の魔物。
グリーズリ―。
村から逃亡した俺たちは、ゾポンドート領を出て、王都に行くことにした。
王都なら人も多いし、きっと仕事にもありつける。
何とか二人で、生きていけるだろうと考えた。
身支度を整えるようにと、渡された金は持ち逃げしている。
この金を逃亡資金にして、なんとか王都まで――
だが、いきなり……
魔物に出くわすことになるなんて――
俺たち二人は、領主の要請に背き――
許可を得ずに、勝手に村を出てきた犯罪者だ。
このゾポンドート領を出るまでは、目立たない様に移動しなければならない。
街道を歩いている途中で、商人の馬車が見えた。
――目撃者を増やしたくはない。
俺達は森の中に隠れて、馬車をやり過ごしていたのだが、それがマズかった。
森のこんな浅いところで、モンスターと出くわすことなど滅多にない。
しかも、こんなデカい奴と遭遇するなんて――
小型のモンスターだったら、俺でもまだ対抗できる。
けど――
コイツは、無理だ。
この日は、運が悪かった。
必死に逃げている途中で、崖に気付かずに落ちてしまう。
高さはそれほどではなかったので、大きな怪我はない。
しかし、レイミーが足を挫いて動けなくなった。
クマの魔物は、崖を迂回してこちらに迫てくる。
――もう、駄目だ。
殺される。
そう思った。
観念し、レイミーと抱き合って目を瞑る。
しかし、俺とレイミーが、ここで死ぬことは無かった。
「放て!!」
号令と共に、森の奥から矢が降り注ぐ。
矢は、グリーズリーに突き刺り――
奴の意識が、俺達から森の奥へと移る。
そこには、女戦士が複数と――
立派な鎧を着こんだ、一人の女騎士がいた。
女性で構成された戦士団に、グリーズリーが襲い掛かる。
戦士団は魔物に向かって矢を射続けるが、グリーズリーの突進は止まらない。
迫りくる巨体を恐れずに、戦士団の槍を構えた部隊が、グリーズリーを迎え撃つ。
いくつもの槍が、魔物の身体に突き刺さる。
両者が衝突した際の衝撃で、吹き飛ばされる戦士もいた。
しかし、魔物の突進もそこで止まる。
あれほどの大きさの魔物を、受け止めるとは――
流石は戦士団だ。
魔物が動きを止めたところで、満を持して前へと進み出た女騎士が、その体には不釣り合いなロングソードを一閃させ――
グリーズリーの頭部を、その身体から切断した。
素人の俺から見ても、見事な剣技だった。
「お前たち……ここで何をしていた?」
魔物は戦士団に、退治された。
けれど、俺とレイミーはまだ助かったわけではない。
村を勝手に出てきたことが彼女たちにバレれば、極刑になるだろう。
どうする――?
俺がこの場をどう切り抜けようかと、頭を回転させていると――
「大方、見せしめに指定されている村から、逃げ出してきたのだろう」
女騎士がこともなげに、正解を口にした。
――ああ、もう駄目だ。
俺とレイミーは、死を覚悟した。
しかし、――
「我が家で保護してやる。連いてこい――」
「お嬢様、また勝手な――」
取り巻きの女戦士から、お嬢様と呼ばれた騎士。
その彼女が、保護してやると言っている。
助かった。
――と考えていいのだろうか?
だが、どの道――
俺達に、選択肢はない。
俺とレイミーは促されるまま、戦士団に付いて行くしかなかった。
道中に色々話をして、情報収集することが出来た。
彼女たちはこの領地の領主、パーシュア・ゾポンドートの弟の、バーナルド・ゾポンドートの家の戦士団だそうで、ロングソードでグリーズリーを仕留めた女騎士は、その家の一人娘、ティリア・ゾポンドートだそうだ。
とんでもない大物に、助けられてしまった。
彼女たちは、魔物を退治する為に森の中を巡回していた。
真の聖女様が追放されてから、二年半が経過して――
魔物の出現は、増加の一途をたどっている。
増え続ける魔物を退治する為に、ティリアは戦士団を自ら作ったそうだ。
なんでも、彼女は吟遊詩人に謳われるような、勇者になりたいらしい。
そのため――
助けた俺達は、生かして貰えるそうだ。
自分の武勇伝を語る、生き証人として――
正直に言うと――
なんだそりゃと、怒りたくなる理由だった。
金持ちの、道楽かよ……。
しかし……。
俺たちはその道楽で、命を拾うことが出来た。
だったら――
せいぜい感謝して、立派な騎士様だったと、言いふらしてあげよう。
俺たちが生き残ることが、出来ればだが……。
戦士団の詰所へ、向かう道中で――
俺たちは村から勝手に出て、逃げている途中だと事情を話した。
どうやら、すぐに殺されることは無さそうだ。
だったら正直に、身の上を話した方が良いだろうと考えた。
――今後の身の振りの、融通をしてくれるかもしれない。
ティリアお嬢様の人柄は――
『結婚するなら、自分より強い男でないと嫌だ』と言って、周囲を困らせているお転婆らしいが、根はいい人そうだし、権力者の娘だ。
頼りになるだろう。
俺達を今後、どうするつもりなのか――
お伺いを立ててみる。
「心配いらない。兄様に頼んで、何とかして貰おう。兄様は『悪辣眼鏡』と皆から陰口を言われるくらい、悪知恵の働く男だ。陰湿だが頭は良くて、頼りになる」
任せておけと、ティリアは胸を張ったが――
正直、任せたくはない。
不安しかなかった。




