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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
ロブドの戦い

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43/85

第43話 戦いの理由

 俺の父親は、去年死んだ。


 そして、今年――

 母親も死んだ。


 二人とも、死因は餓死だ。


 俺の家族だけじゃない。

 この村の住人は、食料不足で皆苦しんでいる。



 ここはリーズラグド王国、ゾポンドート領の田舎にある――

 何の変哲もない、辺鄙な村だ。






 この国を護ってくれていた聖女の加護が、徐々に薄れて消えていった。


 この国の第一王子のアレスとかいう阿呆が、本物の聖女様を偽物だと勘違いして、婚約破棄をした挙句に、国外追放しやがったからだ。

 そのせいで、魔物は出現するようになり、作物は碌に育たなくなった。


 この村を管轄している貴族は、魔物が出現しても兵を出してくれない。

 自分たちで、倒さなければならない。


 すっかり、生活に余裕がなくなってしまった。

 


 それだけなら、まだいい。

 何とか、生きていけただろう。


 だが――

 この村は、今代のゾポンドート領領主、パーシュア・ゾポンドートによって、『見せしめの村』に指定された。







 今の領主様に代わってから、税率はどんどん上がっていった。


 リーズラグド王国の中でも、この辺りは一番税がきついらしい。


 民衆は当然、不満を募らせる。



 引っ越せれば、良いんだけどな。


 そんな自由は、領民には与えられていない。

 移動の自由が認められているのは、通行証を持った商人くらいだ。



 ――俺は商人が、羨ましい。


 時々村を訪れる行商人にそう言うと、『こっちはこっちで大変なんだ』と逆に愚痴を聞かされた。


 どうやらこの領地では、商人も大変らしい。




 表立っては言えないが、みんな陰で領主のことを『増税糞野郎』と言っている。



 そんな民衆の不満に対処する為に、『見せしめの村』が作られるようになった。


 何から落ち度のあった村の税率は、九十パーセントまで引き上げられる。

 そういった、自分達よりも厳しい条件の地域があれば――



 あそこよりは、マシだ。

 ああは、なりたくない。

 ああならない為にも、問題を起こすなよ。



 こういう心理が、生まれる。



 そんな訳で、この村の住人は――


 昔起こした、ささいな問題を理由にして。

 空腹に耐える日々を、過ごす羽目になった。





 ある日、俺たちの村に、の辺りを統治する、地方貴族が視察に訪れた。


 視察団一行は村人を見て回り、レイミーに目を留める。


 レイミーは、俺の幼馴染だ。

 小さいころ、村のガキ大将に虐められていた俺を、庇って助けてくれていた。


 成長して美人になったが――

 小さい頃は、男勝りな女の子だった。 




 視察団の中の一番偉い奴が、レイミーを領主の妾として差し出せば、この村の税率を少しだけ戻してやると言い出した。

 

 村人たちは、この話をぜひ受けろとレイミーに迫った。

 大貴族のパーシュア・ゾポンドートの妾になれるのだから、お城で贅沢な暮らしが出来るようになるだろう。


 これは幸運なことだと言って――



 

 レイミーもその話を、受けることに合意した。

 彼女の家族も、もう死んでいる。

 ――反対する者は、誰もいない。



 この村は、限界だった。


 視察団のお偉方は『領主様の妾になる前に、身綺麗にして栄養を付けておけ』と言い、レイミーに金を渡して帰っていった。





 その日の夜だった――


 レイミーが、俺の家を訪ねてきた。

 領主の妾になる前に、想いを遂げたいと言って、俺の胸に飛び込んできた。


 俺は、彼女の想いに応えた。





 俺たちは、結ばれ――

 同じベットに横たわっている。

 

 こうなって、初めて気づいた。

 俺も彼女のことが、好きだったのだ。




 そして――

 俺は彼女のことを、手放したくないと強く思った。




 ……。

 時間は明け方。 

 もうすぐ、朝日が昇る。

 

 数日すれば、領主の使いがやってきて――

 俺の元から、レイミーを連れ去っていくだろう。



 ……、

 …………。

 

「一緒に、逃げよう。――レイミー」

「……うん」



 俺とレイミーは、急いで身支度を整えて村から逃げた。


 俺たちが逃げれば、この村がどんな目に遭うか解らない。


 ――いや、確実に酷い目に遭うだろう。


 

 それを解っていながら、俺たちは逃げた。

 あいつらだって、レイミーを生贄に差し出そうとしたじゃないかと――


 そんな、言い訳をしながら……。


 



 俺は、弱い――

 物語に出てくる勇者のような、主人公じゃない。

 

 だから、守りたいもの全部は守れない。


 守れるものに、限りがあるのなら――

 決めなければいけない。


 自分が、何を守るのかを――





 俺はレイミーと手を繋いで、生まれ育った村から逃げ出した。

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