第43話 戦いの理由
俺の父親は、去年死んだ。
そして、今年――
母親も死んだ。
二人とも、死因は餓死だ。
俺の家族だけじゃない。
この村の住人は、食料不足で皆苦しんでいる。
ここはリーズラグド王国、ゾポンドート領の田舎にある――
何の変哲もない、辺鄙な村だ。
この国を護ってくれていた聖女の加護が、徐々に薄れて消えていった。
この国の第一王子のアレスとかいう阿呆が、本物の聖女様を偽物だと勘違いして、婚約破棄をした挙句に、国外追放しやがったからだ。
そのせいで、魔物は出現するようになり、作物は碌に育たなくなった。
この村を管轄している貴族は、魔物が出現しても兵を出してくれない。
自分たちで、倒さなければならない。
すっかり、生活に余裕がなくなってしまった。
それだけなら、まだいい。
何とか、生きていけただろう。
だが――
この村は、今代のゾポンドート領領主、パーシュア・ゾポンドートによって、『見せしめの村』に指定された。
今の領主様に代わってから、税率はどんどん上がっていった。
リーズラグド王国の中でも、この辺りは一番税がきついらしい。
民衆は当然、不満を募らせる。
引っ越せれば、良いんだけどな。
そんな自由は、領民には与えられていない。
移動の自由が認められているのは、通行証を持った商人くらいだ。
――俺は商人が、羨ましい。
時々村を訪れる行商人にそう言うと、『こっちはこっちで大変なんだ』と逆に愚痴を聞かされた。
どうやらこの領地では、商人も大変らしい。
表立っては言えないが、みんな陰で領主のことを『増税糞野郎』と言っている。
そんな民衆の不満に対処する為に、『見せしめの村』が作られるようになった。
何から落ち度のあった村の税率は、九十パーセントまで引き上げられる。
そういった、自分達よりも厳しい条件の地域があれば――
あそこよりは、マシだ。
ああは、なりたくない。
ああならない為にも、問題を起こすなよ。
こういう心理が、生まれる。
そんな訳で、この村の住人は――
昔起こした、ささいな問題を理由にして。
空腹に耐える日々を、過ごす羽目になった。
ある日、俺たちの村に、の辺りを統治する、地方貴族が視察に訪れた。
視察団一行は村人を見て回り、レイミーに目を留める。
レイミーは、俺の幼馴染だ。
小さいころ、村のガキ大将に虐められていた俺を、庇って助けてくれていた。
成長して美人になったが――
小さい頃は、男勝りな女の子だった。
視察団の中の一番偉い奴が、レイミーを領主の妾として差し出せば、この村の税率を少しだけ戻してやると言い出した。
村人たちは、この話をぜひ受けろとレイミーに迫った。
大貴族のパーシュア・ゾポンドートの妾になれるのだから、お城で贅沢な暮らしが出来るようになるだろう。
これは幸運なことだと言って――
レイミーもその話を、受けることに合意した。
彼女の家族も、もう死んでいる。
――反対する者は、誰もいない。
この村は、限界だった。
視察団のお偉方は『領主様の妾になる前に、身綺麗にして栄養を付けておけ』と言い、レイミーに金を渡して帰っていった。
その日の夜だった――
レイミーが、俺の家を訪ねてきた。
領主の妾になる前に、想いを遂げたいと言って、俺の胸に飛び込んできた。
俺は、彼女の想いに応えた。
俺たちは、結ばれ――
同じベットに横たわっている。
こうなって、初めて気づいた。
俺も彼女のことが、好きだったのだ。
そして――
俺は彼女のことを、手放したくないと強く思った。
……。
時間は明け方。
もうすぐ、朝日が昇る。
数日すれば、領主の使いがやってきて――
俺の元から、レイミーを連れ去っていくだろう。
……、
…………。
「一緒に、逃げよう。――レイミー」
「……うん」
俺とレイミーは、急いで身支度を整えて村から逃げた。
俺たちが逃げれば、この村がどんな目に遭うか解らない。
――いや、確実に酷い目に遭うだろう。
それを解っていながら、俺たちは逃げた。
あいつらだって、レイミーを生贄に差し出そうとしたじゃないかと――
そんな、言い訳をしながら……。
俺は、弱い――
物語に出てくる勇者のような、主人公じゃない。
だから、守りたいもの全部は守れない。
守れるものに、限りがあるのなら――
決めなければいけない。
自分が、何を守るのかを――
俺はレイミーと手を繋いで、生まれ育った村から逃げ出した。




