58話 暗闇の中で
春樹の立ち回りにはほとんど隙が無い。
近距離・遠距離共にうまくスキルでカバーされている。
そんな中で、どちらが先に被弾するかの戦いになる。
余談だが、俺のゲーム遍歴を簡単に述べると、アクションゲームがほとんどを占めるだろう。
格闘ゲームやFPSといった対戦が本筋であるゲームより、一人でどれだけやり込むかが試されるような、そんなゲームをやり込んできた。
俺がゲーマーになった頃にはすでに流行りが過ぎていたが、"東方project"もやり込んだ思い出がある。
つまり何が言いたいかというと、俺は弾幕ゲームが好きだ。
動画投稿について興味を示したのも、最初は饅頭からだった。
東方キャラクターが可愛いイラストでしゃべるあの感じが、今でも好きだ。
俺が使用している"おっとりボイス"は、人を選ぶらしい。
でもそんなことは一切関係なくて、結局好きなんだ。
今でも根強い人気があることこそ、俺以外にもそんな人たちがいる証拠だろう。
重要なのは"誰かが"ではなく、"俺が"でありたい。
彼女たちのキャラクター性が、今でも俺の人生観に影響していることは言うまでもない。
まぁ何が言いたいかというと、長期戦は不利だがやるしかない。
俺は春樹の元へと再度踏み出した。
遠近両方から攻める。
リモコンで木の葉を操り、周囲に漂わせておく。
現状操れる合計枚数は、五枚ってところか。
これ以上は脳みそと魔力が追い付かない。
でもこれがある限り、春樹も多少は木の葉に警戒を裂くはず。
手数を少しでも増やしてプレイヤーを被弾にいざなう。
これが弾幕の王道だ。
春樹はチラリと木の葉の方を見ながらも、接近してくる俺に対応する。
間近まで迫る俺に対して、大鎌を回転させるように振るった。
この攻撃の事前行動として行われる回転、これが案外厄介だ。
攻撃の出所を隠している。
大鎌特有の大きい動作による先読みのしやすさを上手くカバーしている。
戦いにくそうなこの武器を、春樹がしっかりと使いこなしている証拠だ。
回転から急に斬り上げへと転じた斬撃を、横に動いて躱した。
すると今度は俺の頭上にゲートが開かれ、そこから大鎌の先端が落ちてくる。
それ何とか横に回転しながら回避し、その回転の勢いを利用しながら回転斬りを放った。
春樹は大鎌を体に近づけ、俺の攻撃を防いだ。
先ほどよりも、確実に反応できている。
春樹のこの戦術に慣れてきた証拠だ。
"闇魂"で強い敵と、死にながらも連戦したのを思い出す。
隙一つ見つけるのにも、結構苦労した。
死にゲーなんて呼ばれるジャンルだから仕方ないけど、あの仕様が数多くのプレイヤーの心を折ってきたはずだ。
俺はそんな仕様も、楽しめるタイプだったけど。
春樹に次の選択肢を与える前に、俺はさらに木葉で追撃を放った。
彼は大鎌ではなく、体を回転させながらそれを躱した。
おそらく木の葉が小さすぎて、大鎌では防ぎ辛いのだろう。
吸収もできず、木の葉と剣による連撃で隙も少ない。
この状況を続ければ、いつか春樹に隙が出来るはずだ。
春樹は回転しながら傷跡を宙に作るとその中へ消えていった。
次に出てくるのはどこだ…?
後ろか、前か…いや、上か?
俺が見上げれば、丁度頭上に傷跡が開くところだった。
勘でしかないが、当たったみたいだ。
俺は木の葉を数枚宙に設置し、そこを飛びながら空中の傷跡に接近した。
丁度春樹が傷跡から出てくる。
接近してくる俺に対して、明らかに驚いていた。
今更"リモコン"の応用編が、次々に想像できる。
沙良校長が創意工夫の重要性を教えてくれたおかげだ。
そんな接近してくる俺に対応しようと、春樹は再び大鎌を振るった。
しかしそれは俺に対してではなく、宙に対してだった。
そのまま傷跡から傷跡へ、彼は消えた。
すると今度は下に傷跡が出来上がり、そこから出てくる。
「お前のスキルは地面とリンクしていたと思うが?」
「発想を変えた。もうどこにでも足場を作れる。」
配置した木の葉の上に立ち、あえて春樹を見下ろした。
二枚を上手く使えば、こんなこともできる。
流石に人間一人を乗せ続けると、魔力消費が多いが。
俺はすぐに回転しながら飛び降りた。
地面へと降り立つ前に、木の葉を足場にして移動。
春樹の元へと接近した。
飛びながら戦おうとすると、流石に腹が痛い。
…限界が近いのか、眩暈もある。
でもまだ…やれるはずだ。
春樹の元へと急接近し、彼の顎目がけて夢霧無を振るった。
「この期に及んでまだ峰打ちか…。舐められたものだな。」
春樹はいとも簡単にその夢霧無を大鎌で受けた。
するとすぐに向こうからこちらへと接近してきた。
突然新しいパターンを増やして欲しくない。
脳が爆発する。
春樹が放ったのは蹴りだった。
フレーム回避を発動しながら、よこに逸れつつ何とか躱した。
春樹はそのまま蹴り足の勢いを利用して、大鎌を振るった。
俺は大鎌を迎えに行くように動き、フレーム回避を発動した。
春樹の大鎌が俺の体を通りすぎるのと同時に前進。
俺が最も有利な位置関係を作った。
大鎌の武器部分はあくまで鎌であり、柄には何の脅威もない。
強いて言うのなら、不気味なだけだ。
俺は大鎌の柄を強引に握りしめた。
大鎌が振るわれるのを阻害すれば、傷跡が作れなくなる可能性もある。
動きを封じるのに最も端的なのは、肉体行使だろう。
春樹は一瞬だけ驚いた顔をするも、少しだけ口角を持ち上げた。
「なるほど、そう来たか。」
「…何がおかしい?」
「いや、ここまでの苦労が報われただけだ。」
俺は春樹の大鎌を強く握りしめつつ、そのまま膝蹴りを放った。
狙うは春樹の腹、多少は効くだろう。
見事に膝蹴りが当たるも、彼の表情は全く変わらない。
一応魔法で強化しているはずだが、それでも効いていない。
どんな鍛え方したらこんなことになるんだよ。
それでも大鎌を放さないようにしていると、春樹の方へと強引に引き寄せられていく感覚がある。
魔法で強化してなお、若干力負けしているみたいだ。
先ほどまでの攻撃に対して、全て回避を選択したのは正しかったらしい。
これ以上踏ん張るのは、腹的にもキツイ。
大鎌から手を放した瞬間、その瞬間が重要だ。
完全に全てのタイミングを合わせてみせる。
俺は大鎌から手を放し、即座に夢霧無を振るった。
春樹は大鎌を器用に動かして、その一撃を受けようとした。
フレーム回避を発動して、大鎌を夢霧無が通過する。
春樹はその瞬間上半身をのけぞるようにして、その一撃を避けた。
状態を逸らした彼に対して、空から二枚の木の葉が追尾する。
先ほど宙に俺が立つのに使った木の葉を、あえて残しておいた。
身をよじってその木の葉を躱そうとするも、腹部の側面を二か所、木の葉が切り裂いた。
春樹の表情が一瞬だけ歪む。
俺は夢霧無の峰で、のけぞる春樹の足を払った。
彼の姿勢が更に崩れていく。
今度は"リモコン"を落ちている小石にかけ、一気に上昇させた。
春樹の背中に、3個の小石が直撃した。
「ガハッ!!!???」
計画通り、"リモコン・バックスタブ"を直撃させた。
だがここで油断すれば、ここまでの苦労が無駄になる。
直撃した小石の威力で、春樹の上体が再び起きた。
この隙を逃さず、丁寧に顎を狙って夢霧無を薙いだ。
結果、春樹の顎が軽く回転し、ようやく彼の膝が揺れた。
さらに俺はフレーム回避で彼の背後へと回り、後頭部へと夢霧無を薙いだ。
バックスタブに次ぐバックスタブ、流石に耐えられないだろう。
そしてこの追撃で、俺は油断してしまった。
春樹は正面へとのけぞりながら、俺の足を掴んだ。
流石にあの連撃に耐えることはできないと思ってしまった、俺が愚かだった。
そのまま足を強引に引っ張られ、地面へと投げ飛ばされた。
捕まれた場所こそ違えど、それはまるで柔道の背負い投げだった。
地面へと背中から叩きつけられ、衝撃で肺からすべての空気が抜けた。
腹部の傷にもそれは響き、尋常ではない痛みが走る。
そこから春樹は大鎌を振るい、なぜか俺の真横に傷跡を作った。
そして俺は、その傷跡へ吸い込まれてしまった。
先ほどまでは俺を吸収することはできなかったはず。
…そうか、大鎌への接触。
それが人間を傷跡内に通すための条件だったのか。
傷跡内は、闇に包まれていた。
あたりの景色を見通すことは、一切できない。
唯一幸なのが、この空間に床があることだ。
地面すらなかったら、流石に俺は死んでいただろう。
「この空間では、俺だけが全てを見通せる。この空間に入った時点で、お前の負けだ。」
「…確かに不利だけど、流石にさっきのはあんたにも効いただろ?そこまで余裕はないはずだぞ?」
「ふん…小賢しい。本当にお前は、あの男に似ている。常に全てを見通しているかのような…あのラペックスに。」
「ラペックス?確か歴代最高の聖王だったな。そして…あんたを倒した男だ。」
「遺憾だが、その通りだ。あの男を倒せていれば…おそらく俺の大鎌は今頃、勇者の血を吸っていただろう。」
「だがあんたは負けた。…なぜ聖王に負けてなお、復讐を続けるんだ?」
「憎しみが消えないからだ…それ以外に理由が必要か?」
「やり直せたはずだ、全てを。あんたほどの実力があれば、勇者の座に返り咲くことすら不可能じゃなかった。」
「お前は全てを失ったことがないから、そんなことを言えるのだ。ただその感情を理解する機会すら、お前にはもうない。ここで私が、お前を殺す。」
「いや、ここで俺があんたを倒して、全部救うさ。それが…夢霧無だ。」
「夢霧無…か。秋葉が…よくお前の動画を見ていた。お前と同じように、秋葉もゲームが好きで……いや、これ以上は語るまい。」
春樹の声が聞こえなくなった。
小さな呼気すら、この空間では聞こえない。
もはや目を開けていても意味をなさないので、俺は目をそっと閉じた。
気配を感じて戦うだなんて、そんな恰好付けたことも俺にはできない。
爽さんや織田さんなら、この状況もなんとかするんだろうな。
どちらにせよ、次の一手で決める。
俺ももう…動けそうもない。
イメージするんだ。
この瞼の内側に広がる闇に、架空の春樹を描け。
さっきまで戦っていた…春樹ならどうするか。
もう何手もあいつの行動パターンを見てきた。
想像を推測へ、推測を現実にする。
それが俺の、唯一の勝ち筋だ。
俺の中の春樹が、暗闇から俺へと大鎌を振るった。
俺が静かにその場でか屈むと、頭上で
ブンッ!!!
という音が鳴った。
わかる…完全に俺の想像と現実が…重なり合っている。
こういうのは前にもあった…ゲームをしている時に…何度か。
俺が思ったタイミングで、思った通りの攻撃を敵がしてくる。
集中力がまるでアイスピックの先端のように尖り、一切の歪みもなく真っ直ぐに伸びていく感じだ。
…ここだ。
俺は振り返りながら、静かに夢霧無を振るった。
たった一筋、見えない闇に向かって。
瞼の内側に移る、想像へ。
この小説が終わるまで、後ほんの少しです。
この戦闘長引いて、本当に申し訳ないです。
本当はやりたかったことがありましたが、これが最終章なのでシナリオを少し変えました。
一応本来の流れを説明すると、柵魔さんのランチパックに入った"剣"が契躱のものになるはずでした。
でもそうなると、話が長くなってしまいますので大幅カットしました。
それと東方のみ実名なのは、なんとなくです。
でもそういうフィーリングって、重要ですよね。




