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「2.5次元世界」にて、スキル「フレーム回避」を手に入れたゲーマー俺氏、無双開始秒読みな件について  作者: 木兎太郎
第二部 第四章 これで

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55話 吐血


「"筋力強化"、"防御強化"。」


 俺はお決まりのテンプレをその身に宿した。

 そしてあえて深く考えることなく、秋葉の方へと踏み出した。

 待っていても状況が悪化するだけという、最初から不利な状況だからだ。

 爽さんじゃないけど、なんとなく秋葉から"強い"という印象は受けない。

 足さばきとか難しいことは分からないけど、そんな気がする。

 これも今までの俺の経験のおかげかな。


 俺はすぐに秋葉を間合いに収めた。

 しかしそれでもなお、秋葉が動き出すことはない。

 俺は秋葉の顎目がけて、峰打ちを狙った。


 ガスッ!!!


 そして最後まで秋葉は動くことなく、俺の峰打ちがクリーンヒットした。

 顎の角度が少しだけ変わる。

 俺は余りに不気味で、直ぐに距離を取った。

 そんな俺を放って、秋葉は自分の顎を数度なでている。

 特に痛がる様子も、ましては脳震盪すら起こしていない。


「さて、僕は人からスキルを奪うことができる。今僕が所持しているスキルは、何個かな?僕のスキルの制限は?規模は?」

「知らんッ!」


 俺は秋葉との問答に付き合わず、直ぐに再接近した。

 秋葉が言いたいことは理解できる。

 おそらく秋葉は、さっきの俺の攻撃をスキルで無効化したんだ。

 それこそ俺のフレーム回避みたいに。

 人のスキルを奪うって、どんなチート?

 普通にトライアルスキルよりも強力じゃないか。

 いや…待てよ。

 トライアルスキルほど強力じゃないっていう通説があるなら…、秋葉のスペシャルスキルも完璧ではないはず。

 どこかに穴があるんだ。


 俺が一直線に秋葉へと接近すると、今度は秋葉がそっと手を前に出した。

 武器すら持たないその手が何を成すか分からない。

 ただ俺にはフレーム回避がある。

 走りながらそのまま突っ込めば、何も問題はない。


「"火球連弾ファイア・バレット"」


 秋葉の手から火の玉が連続で発射される。

 秋葉の魔法適正は火属性…か。

 羨ましいことだな。

 俺は目前に迫る全ての火球をフレーム回避しながら強引に接近した。

 流石の秋葉もこれには目を見開いている。

 俺はさらにそのままフレーム回避で秋葉を通り過ぎた。

 そして背後から一気に夢霧無を振りぬく。


 ズガンッ!!!


 また秋葉の後頭部に綺麗に直撃する。

 バックスタブだ。

 やり過ぎたか?

 威力は調節したつもりだが…。

 今度は秋葉は衝撃に逆らわず、そのまま前方方向に倒れていく。

 反応できない攻撃は効くのか?

 いや、待てよ。

 後頭部をバックスタブで殴られてこの反応はしょぼすぎる。

 ブラフか!?

 秋葉はそのまま前に倒れつつ、倒れる前に地面に手をついた。


「"闇沼ダーク・スワンプ"」


 秋葉の右手からまるで水のように闇があふれた。

 俺の足元を侵食し、それは周囲に広がっていく。

 魔法の勉強が足りない俺は、これが何を成す魔法なのか分からない。

 というか闇属性も使えるのか…!?

 いや、待てよ。

 奪えるのはスペシャルスキルだけじゃないのか。

 魔法適正もスキルの一部…奪ったのか!?


「魔法にはあまり敏くなさそうだね。一応教えておいてあげると、これは速度減衰魔法だよ。君に分かりやすく言えば…デバフだね。」


 クソ、無属性唯一のイニシアチブを消す気か?

 多彩なバフが無属性の長所なのに…。

 それにしても手持ちに闇属性魔法があるなんて…油断したな。

 新しく覚えた魔法を一応使っておくとするか。


「"魔防強化マジック・プロテクション"」


 魔法に対する耐性が上がる魔法だ。

 とりあえずデバフ対策に付けておく。

 そしてしてもこいつ…もしかして全属性魔法が使えるのか?

 ただ今の所、上級魔法を使っている感じはしない。

 もしかすると、それが秋葉のスキル"徴収"の限界なのか…。

 スペシャルスキルは奪えても、各スキルの最大レベルは奪えない…。

 だめだ、…結論が出せない。

 こんな時こそ冷静にって言っても、時間がない。

 このままじゃ柵魔さんが死ぬ…。

 もう少し分析したいところだが、攻めながら考えるしかない。

 クソッ、こうして思考を巡らしている時には、秋葉はあえて攻撃してこない。

 薄ら笑いを浮かべてこちらを見るだけだ。

 あえて俺に情報を与えているのかも知れないな。

 俺に考える時間を作らせるために。

 もしかして…時間を稼いでいるだけなのか?

 だがあいつらも俺たちを殺す必要があるはず…。

 どうしてあんなに余裕でいるんだ?


「ムカつくな…あんた。」

「誉め言葉として、受け取っておくよ。」


 俺はまた秋葉の方へと踏み出した。

 クソ確実に移動速度が落ちている。

 これじゃフレーム回避の旨味を生かすこともできない。

 それに秋葉への攻撃が通用しないのは、一体なぜなんだ。

 どうすれば…!?


「夢霧無氏!!!おそらく秋葉氏が使っているのは空気ですぞ!!!気流の動きが彼の周りだけおかしいですぞ!!!おそらく夢霧無氏の攻撃が当たる寸前、空気を圧縮した層を作って防いでいるはずですぞ!!!」


 ゆ、夢豚さん!?

 流石すぎます。

 本当に何個センサーついているんですか…その遠隔外装。

 まぁでも今はありがたい。

 それにしても空気を操れるって…どんなチートだよ。

 だがそんな強力なスキルを持っていて、どうして俺から酸素を奪わない?

 舐められているのか…?

 いや、効果範囲か。

 スキルが影響できる範囲は、秋葉のすぐ側だけなんだ。

 だから俺には影響がない。

 それにあいつ、さっきからあの場所から動いていない。

 "闇沼"も俺に距離を取らせるための、自分が動かない為の戦略か。

 存外、理詰めな戦い方をするじゃないか。

 何が条件か分からないが、おそらくあそこから動かせば俺の勝ちだ。

 確実に仕留める。


「あのしゃべり方…もしかして彼が夢豚さんかい?」

「…そうだ。」

「ネットで見たことがある体形と、随分違うけど?」

「お前が知る必要はない。」

「もしかしてこの施設へのハッキングも彼が?」

「…。」

「ハハハ。彼には色々、まんまとしてやられているな。」

「計画的なお前でも、夢豚さんだけは誤算だったみたいだな。」

「そうかもね…。…戦いが終わったら、彼からサインを貰おうかな。」

(サイン…?そういえば夢豚さん呼びだし、素性を知っているのか?)

「戦いが終われば、お前は刑務所だ。」

「いや…それはない。それだけは…もうないんだ。」


 秋葉はなぜか、一瞬だけ寂しそうな顔をしていた。

 後悔しているような、非常に不可思議な表情だった。

 先ほどまで自分の悪行を自慢していた奴の表情だとは思えない。

 もしかするとすでに、彼の心は壊れているのかもしれないな。


 俺は会話を早々に切り上げ、秋葉の方へと再び踏み込んだ。

 移動速度が遅い、だが十分だ。

 今俺の足元に広がる魔法がある限り、他の魔法は使えないはず。

 スキルを奪っているだけなら、魔法の上級技術である平行行使はできないはずだ。

 背後を取る必要はない。

 正面から切り伏せる。

 俺は秋葉へと夢霧無を振り下ろした。


 ガスッ!!!


 彼はそのまま夢霧無を肩で受け止めた。

 しかし表情に変化はない。

 そして即座に肩で止まっている夢霧無を、秋葉は握りしめた。

 すぐに夢霧無を引き戻そうとしても、動かない。

 俺はさらにもう一度踏み込み、フレーム回避を発動させた。

 夢霧無は秋葉の体を通り抜ける。

 そして俺は、あえてその状態のまま、秋葉の腹部で夢霧無を止めた。 

 爽さんとの修行で発見した"フレーム回避"の性質。

 透過状態で何かと重なり合っていると、効果時間が切れたタイミングでお互いに反発する。

 一秒が経過すると、俺と秋葉は同時に吹き飛んだ。

 そのおかげで俺は闇沼からも脱出、それは秋葉も同じだった。

 すぐに地面に広がっていた魔法が消えた。

 まだ秋葉はフレーム回避の衝撃に面食らっている。

 次の魔法が行使される前に、急接近する必要がある。


 さて、ここで少しだけ陸上競技のお勉強だ。

 今回はその中でもスターティング・ブロックに焦点を当てる。

 最初の一歩を踏み出す際、その時の足の角度が地面と垂直であればあるほど、踏み出す力は前方への推進力に変わりやすい。

 いわゆる"スターティング・ブロック"は、それを如実に表している。

 あれは最初の一歩の為に、より足を地面と垂直に近づけるための装置だ。

 つまるところ、初速を極限まで強化するための装置というわけだ。

 だから俺も、それを作り出してやればいい。

 "リモコン"を使い、落ちている木の葉を操った。

 それを足元に設置、足場の確保完了。


 よーい・ドンッ!!!


 木の葉を足場にしたからか、パシュンッ、という小さな音が鳴った。

 俺は一秒未満で秋葉の元へと到達した。

 ある意味初速を極限まで速くする、"縮地"を再現できたのかもしれない。

 だが今はそんなことはどうでもいい。

 最優先は柵魔さんの命だ。

 俺は一瞬で秋葉の目前に迫る。

 何かをしようとして、秋葉は俺へと手を伸ばした。

 でも関係ない。

 一撃で仕留める必要がある。

 俺はそのまま秋葉をフレーム回避ですり抜けた。

 秋葉がゆっくりとこちらへ、再度体を向けようと回転するなか、さらに秋葉の体をもう一度通り抜けた。

 前だと思えば後ろ、後ろかと思えば前。

 これだけかき回せば、対応できないだろう。

 俺は秋葉へと容赦なく夢霧無を振りぬいた。


 スカッ。


 は?

 数センチ、たった数センチ、秋葉は地面へと沈みこんだ。

 それだけで俺の夢霧無は空を斬った。

 秋葉が腰を低くしたわけでも、ましては姿勢を変えたわけでもない。

 地面へと沈みこんだのだ。

 完全に空ぶった俺の夢霧無が、秋葉の真上を通り過ぎていった。

 秋葉の真下の地面を見れば、柔らかい砂だった。

 それだけの話だ。

 スキルを使った訳でも、なんでもない。

 強いて言うのなら、人間が初めから持っているもの。

 ただの幸運だろう。


「僕の方が少しだけ、運が良かったみたいだ。」


 俺が呆けているうちに、秋葉の手が俺の腹部へと触れていた。

 最初に俺の方へと伸ばしていた手だ。

 どうもそのままだったらしい。

 そこに足踏みする隙などなく、確実にフレーム回避は間に合わない。


「3秒経った。それが僕が僕の周囲10センチの空気を味方にするまでにかかる時間だよ。それとこれ、射程10センチのプレゼントだ。君に触れるまで、随分時間がかかったよ。」


 ポスンッ。


 しょうもない音が、俺の腹部で鳴った。

 起きた現象とは、あまりに対照的な音だった。

 別に後方へ吹っ飛んだり、そんなリアクションがあった訳じゃない。

 衝撃だけが、俺の腹部を貫いていった。


「"空気砲エア・ガン"」

「ゴフッ…!?」


 俺は吐血した。

 まるでコップから水が零れたかのような、そんな量が一気に口から出た。

 その光景が、やけにゆっくりに見える。

 地面へと落ちていく俺の血が、地面に打ち付けられ、俺の方へと帰ってくる。

 俺の体が徐々にくの字に曲がっていくせいで、それが頬にかかった。

 水滴は俺の頬から跳ね返り、さらに地面へと帰っていく。

 それが繰り返される目前の光景は、かくも不思議だった。


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Twitterアカウント:@SKluMYkhIpMoZ2I◆Twitter始めたので、良ければフォローお願いします。といっても、今の所フォロワーZEROですけど。
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