54話 真実の終点
「一体…どいうことなんだ?本物のパーストは?」
「パーストさんは、良い人だったよ。」
「…だった?」
秋葉はまた淡々と話し始めた。
自分の白い髪をクリクリとひねりながら。
「彼はスペシャルスキル、"過去可視(ピ―プ)"というスキルを持っていたんだ。内容を簡単に説明すると、自分の記憶をまるで映像のように見ることができるという能力でね。そしてそれを、他人の記憶でも実行できる。」
「…?」
「そのスペシャルスキルも、今は僕のものだけどね。」
「何が…言いたいんだ?」
「君らが追い求めていたパーストが、すでに死んでいることを伝えたたかったんだよ。」
「ッ!?」
俺たち全員が唖然としながら秋葉の方を見た。
パーストが…死んでいる?
まずは話を冷静に整理しよう。
パーストが有用なスキルを持っていたから、それを秋葉が奪った。
スキルを奪うと…相手が死ぬ。
そして現在…それを実行されているのは…柵魔さんってことなのか!?
「パーストさんと侍女さんの扱いで意見が割れてね。彼は地球人を恐れてはいたけど、魔人を怨んでいる訳ではなかった。でも兄さんは魔人を怨んでいたから、彼女にあえて拷問した。パーストさんがスキルを使えば、彼女の過去はいくらでも見ることが出来るのにね。必要のない拷問はするなと、パーストさんが警告してきた。」
秋葉はまるでブロードウェイを歩くような素振りで、周囲をてくてくと歩き始めてしまった。
どこかネジが飛んでイカレている…俺はそう思った。
「もともとパーストさんとは目指す地点が違っていたんだ。僕ら兄弟の狙いは、魔王の"剣"だとか、そんな矮小なものじゃない。」
「…魔王の剣が…目的じゃない…だと?」
「その通りさ。僕らの目的は、最初から侍女さんだった。」
どういうことだ…?
柵魔さんが目的…?
いや、秋葉は先ほどまでの会話でスキルを自由に奪えることを露呈している。
つまり目的は…柵魔さんのスキル…なのか?
でも…柵魔さんのスキルはランチパック…確かに便利だが…。
「侍女さんのスキル…便利だよね?ランチパック…っていうんだよね。実は魔人の生き残りは探せばまだ少しだけいて、その人たちから聞くことができたんだよ。彼女の存在をね。あぁ…もちろん僕らが質問した魔人は全員殺してしまったから、残存する魔人は今度こそ侍女ちゃんだけかも。そこの朝比奈さんは純粋な魔人ではないから、数には入れないよ。」
秋葉は描絵手の方を指さした。
確かに描絵手は純粋な魔人ではないらしい。
そこらへんの素性を、俺はまだ聞くことができていない。
なんとなく土足で踏み入るには、深すぎる場所だと思っているからだ。
「侍女さんのスキルがどんなものか、ちゃんと知っているかい?」
「自分だけが収納スペースとして使える、別空間を所持している…くらいの認識だ。」
「大まかにはそれで合っているよ。問題はその所持容量と、その空間の性質と、その空間の入り口だよ。所持容量は大体この古城一個分。空間内に入れた物は入れた時の状態で固定される。そして入り口の最大拡張範囲は20メートル程度さ。ここまで詳しく知ることができたのは、彼女の記憶を見たからだけどね。」
いや、待てよ。
なんとなく見えてきたぞ。
当然用途は柵魔さんが普段使っている内容と同じはず。
だとすれば…何かを運ぶため…か。
でも何を運ぶつもりなんだ?
俺はなんとなく事態を察しているであろう夢豚さんの方を見た。
この中なら真っ先に結論にたどり着くのは、彼だと思ったからだ。
すると予想通り、遠隔外装の表情を器用に変え、夢豚さんは深刻な表情をしていた。
「侍女さんのスキルは、僕らが運ぼうとしているものに対して、あまりに充分すぎるサイズだけどね。物差しよりも、もう少し大きいくらいだから。」
「何を…運ぼうとしているんだ?」
「核弾頭だよ。それをグランディアの大陸:アルーの"聖都"で起爆する。」
「ッ!!!???」
グランディア内で人類がもっとも多く住む大陸、それがアルーだ。
そして"聖都"と今呼ばれた場所が、グランディアという世界の中心だと考えられている。
例えばアメリカが世界経済の中枢を担っているように、グランディアにも世界の中心だと考えられている国がある。
非常に単純な名前で、"聖王国"と呼ばれる国だ。
聖王の暮らす国、だから世界の中心。
単純にその首都が"聖都"という訳だ。
そしてそこで核弾頭を爆発させることが何を意味するのか。
それが分からないほど俺も愚かじゃない。
世界大戦…いや、世界間大戦がはじまる。
グランディアと地球の。
「ま、ほとんどの確率で地球が大敗を喫するだろうね。でも問題はそこじゃない。地球との戦争をどう収めるかは知らないけど、聖王は必ず疲弊するはず。聖王が疲弊した時、僕らが彼女を討つ。そうすれば実質的に、世界を滅ぼしたことになるとは思わないかい?」
ありえない規模の人間が死ぬ。
それだけは確実だ。
そしてこの二人は、確実にイカレている。
「破綻していますぞ。君たちの計画は、少なくとも極秘で行うべきだった。でも吾輩たちにばれた以上、聖王が計画を知るはずですぞ。」
「いいや、聖王が計画を知ることはないよ。ありがちな展開だけど、君らにはここで死んでもらうからね。それにパーストの死体は取ってある。志半ばで彼が死んで、無事聖王はエンシェント・エルフの乱を止めた。それが今回のシナリオ…いや、陽動になるんだ。本当の目的が侍女さんのスキルだということを、隠すためのね。いやぁ、本当に困ったよ。どっかの誰かさんが朝比奈さんの素性を公開してしまったから、彼女に害を与えればそれを世界が知る仕組みが出来上がってしまった。なら当然、彼女の侍女に害を与えてもそれは同じだった。でも彼女の存在を隠し直すには、彼女の存在は余りに多くに人々に知られてしまった。記憶を後から全員分改竄することも難しいし…本当に最悪だった。だから僕らの計画には、隠れ蓑が必要だった。」
…パーストの計画がそもそも本来の目的の隠蔽工作…だったのか。
いや、待てよ。
それならどうしてこの兄弟は俺たちの前に姿を現したんだ?
玉座にパーストの死体を座らせて、俺たちにそれを発見させる。
それで十分だったはずだ。
でも奴らはこうして俺たちの前に今立っている。
そういうことか…見えたぞ、勝機が。
「それ、後どれくらいかかるんだ?」
俺は柵魔さんの方を指さした。
すると秋葉はゆっくりと笑いながら、彼女の方を見た。
「君、案外敏いんだね。」
「だからこうして長々と会話していたのか…もっと早く気付くべきだった。」
「君の想像通り、僕のスペシャルスキル:"徴収"にはかなりの時間を必要とするんだ。条件に基づいて人からスキルを奪うスキルでね。今回僕が条件にしたのは時間だった。そうだな…あと大体10分、ないくらいかな。」
「つまりお前は、柵魔さんからスキルを奪うための時間を、こうして俺たちと会話して稼いでいたわけか。」
「その通り。」
「ならこうして長々と会話していることがそもそも、悪手だった訳か。」
俺は静かに夢霧無を抜刀した。
そして隣に立つ爽さんも、紫雲木を抜刀した。
流石爽さんだ。
肝心な時はちゃんと足並みを合わせてくれる。
「どっちがお好み?」
「う~ん、迷うな。どっちも面白そうだ。そうだな…でも立ち振舞い的には…、よし決めたよ。僕が兄の方だ。足さばきに目を見張るものがある。兄の方が強いと見たよ。」
「爽さんらしい観点だね。なら兄の方は頼んだよ。ただ一つだけ事前情報を。兄の方は柵魔さんと水無瀬さんを同時に一蹴した実績がある。」
「なるほど、素晴らしい。楽しみが増えた。」
「…相変わらず戦闘馬鹿だな。」
でもそんな爽さんが隣にいると、かなり安心する。
頼れる兄貴って感じがして、心強いことこの上ないな。
残り時間10分、最速で勝利を収めなければ。
今回の真相回です。
この兄弟が歩んできた人生は、この章のプロローグの通りです。
私は悪役にもそれなりの事情をどうしても付けてしまいがちです。
アベンジャーズが好きなので、エンドゲームに影響されているのかもしれません。
楽しんでくれたら幸いです。




