52話 勇者について
俺たちは今、新大陸テノーに来ている。
というのも、夢豚さんが突き止めたというエンシェント・エルフ、"パースト"の隠れ先がこの大陸にあるらしいからだ。
夢豚さん曰く、俺とミルさんの調査を引きつぎ、無事に完遂させていたとのことだった。
いやぁ、流石に頼れる人だ。
テノーについて軽く説明すると、エルフが最も多く住む島だ。
パーストと同じエンシェント・エルフである"カレン"と"フーチャー"も、この大陸で暮らしている。
お姉ちゃん曰く、テノーはグランディアを構成する四大陸の中でも最大級の広さを誇っており、たった数日間で調べることは不可能。
もしも夢豚さんがいなかったのなら、パーストの所在を発見するのに、もっと時間がかかっていただろう。
彼には感謝しかない。
パーストが隠れる場所は、テノー内にある全種族が暮らすことが不可能だと言われている地域で、"枯れ地"とシンプルにそう呼ばれている。
森の恵みを大事にする彼らにとって、緑の一切ないその土地で生息することは非常に困難なのだ。
だからこそ枯れ地にまでは、捜査の手がまだ及んでいなかった。
パーストは"枯れ地の古城"と呼ばれる、古い遺跡に潜んでいるらしい。
古いのエルフ達の内何人かが住もうとするも、あまりに土地が枯れており、放置される結果となった城だ。
城を建てただけでも凄いが、徒労になってしまったらしい。
でもそんな遺跡でもWi-Fiが飛んでいるらしく、そのせいで夢豚さんに見つけられることになってしまった訳だ。
結局Wi-Fi最強なんだよな。
ただ、隠れ家が分かってもまだ不明なことが数多くある。
特に敵の規模に関しては、かなり不明瞭だそうだ。
お姉ちゃんが直接会ったカレンやフーチャー曰く、テノー中にあるエルフが形成する各国から、少なくないエルフが消えているらしい。
これが全てパーストの支配下だと考えるのは早計だが、配慮しておくに越したことはないだろう。
そこで俺たちはある程度作戦を立てた。
といっても時間がないせいで、かなり単純な作戦だけど。
お姉ちゃん有する"聖王軍"でパーストの隠れる古城を襲撃。
テノー内で軍隊を動かせるのは、お姉ちゃんくらいだそうだ。
もちろん大陸間の国家関係上の話だ。
カレンとフーチャーに交渉し、今回の了解を得た。
そしてこの作戦の裏側、そこが俺の本命だ。
もちろん最終的に聖王であるお姉ちゃんがパーストを捕縛することになる。
でも俺たちはその襲撃を陽動に、聖王軍より先に古城内に潜入する。
そこで柵魔さんを救出する予定だ。
強引に全てを成し遂げようとすれば、敵が柵魔さんを人質にする可能性がある。
残酷な話、柵魔さん単体だと人質の価値はそこまでないらしい。
というのも、グランディア規模で見れば魔人を嫌っている人は少なくない。
日本ではああして簡単に受け入れられたが、そこは仕方ないだろう。
魔人はグランディアという名の世界と戦争をしたらしいし。
でも柵魔さんは"遺産の情報"を持っている可能性があり、そこに人質の価値を見出される可能性がある。
グランディアのどこかにあるままでは危険なので、聖王として何としても遺産を確保しておきたいらしい。
特に"剣"は、かなり危険なんだそうだ。
とにかく簡単にまとめると、"突撃隊"と"潜入班"に分かれただけだ。
ちなみに俺が目を覚ましてから、まだ数時間しか経過していない。
時刻は夕方で、西日が差し始めている。
通常なら数時間で軍隊を用意するのは不可能だが、それもこれも転移門が余りに万能なのと、聖王軍の優秀さのおかげだ。
そして作戦は現在進行中。
俺たちは大陸テノーの、"枯れ地"に来ている。
「全員、止まるのです!!!」
お姉ちゃんの指示が飛び、聖王軍が停止した。
息の合ったその動きで、どれほど入念に訓練しているかわかる。
相当優秀な軍隊だ。
それにしてもお姉ちゃんの声は透き通っていて、良く通るな。
停止した箇所から、すでに"枯れ地の古城"が確認できる。
そこから見える景色は、想像を超えていた。
聖王軍の数は全部で五千だ。
それと同規模の軍隊が、古城前に控えている。
これって、それなりの戦争なんじゃないか?
「凄い数の敵だね。僕も戦争の経験はないよ。」
「そんなこと言ったら、俺も。」
「吾輩もですぞ。」
「わ、私もだよ。」
爽さんが敵軍の方を見て、ぼんやりと感想を漏らした。
初めてという割には、かなり落ち着いている。
こと戦闘においては、そうとう頼りになる人だ。
潜入班の人数は全部で四人。
俺、爽さん、描絵手、夢豚さんだ。
俺はなんとなく気合が入るから、夢霧無の恰好で来た。
ふざけている訳ではなく、この格好だとなんでもできる気がする。
コミュニケーションを円滑に図るため、変声機は外しているけど。
ちなみに夢豚さんは、もちろん遠隔外装に入っている。
この作戦の要は、おそらく夢豚さんだ。
敵が現代設備を防御面として兼ね備えていた場合、それらを突破するために、彼の力必要になる。
例えばレーザーセンサーだとか、ないとも言い切れない。
敵の最初の作戦が、ITテロだったからな。
もちろんミルさんに頼る手もあった。
確かにミルさんはちゃんと目を覚ましたけど、休んでもらっている。
これ以上彼女に負担を駆けたくない。
俺たちが無言で敵軍の方を見つめていると、五千の軍を割りながらこちらにお姉ちゃんが歩いてきた。
「ふむ、ご苦労様なのです。」
「ありがとうございます。聖王様。」
(流石に"聖王軍"のいる真面目な局面だし、聖王と呼んだ方がいいはずだ。)
「聖王…様?」
お姉ちゃんの目から、かなりの圧力が放たれている。
俺はこの澄んだ目による圧力にすこぶる弱い。
「お姉ちゃん…。」
「ふむ、契躱君。作戦は説明した通りなのです。我々の突撃次第、古城内への潜入をよろしくお願いします。」
「わ、わかりました。」
どうも敬語は許されるらしい。
それ以前に、周囲の聖王軍がざわついている。
"聖王様に弟なんていたか?"なんて話題だ。
当然しばらくは変な噂になるだろう。
だから気を使ったのに…まぁ俺が気にすることじゃないか。
お姉ちゃんはまた所定の位置に戻っていった。
普通軍隊を指揮する場合、将軍は後方にいるはずだ。
しかしお姉ちゃんは先頭にいる。
かなり不自然だ。
何より不自然なのは、聖王軍全体が鎧を着てかなり重装備なのにも関わらず、お姉ちゃんだけは鎧を着ていないことだ。
お姉ちゃんは真っ白なドレスを着て、戦場で騎乗している。
俺はその疑問の答えが欲しくて、爽さんの方を見た。
でも爽さんは、首を疑問気に傾けるだけだった。
そしてそれを見た夢豚さんが、すぐに口を開いた。
「今代の聖王は、歴代最強の聖王ラペックス・セル・レアリゼの生まれ変わりだと言われているほど強いらしいですぞ。」
「そ、それって凄いんですか?」
残念ながら俺は、そもそもラペックスさんを知らん。
この中でうんうん頷いているのは、爽さんだけだ。
描絵手もよくわかっていない様子だ。
「聖王ラペックス様の武勇伝で一番有名なのは、邪竜の討伐ですぞ。魔王軍幹部が生み出した最恐の龍と呼ばれていたその邪龍は、街や村々を襲撃し続け、人間が数多く住む大陸アルーの人口約一割を減らしたのですぞ。」
「じ、人口の約一割って…もはや災害ですね。」
「その言葉をそのまま借りると、ラペックス様は災害を倒した男なのですぞ。」
「なんとなく凄さが分かった気がします。」
「あと有名なのは…"堕ちた勇者"の討伐…でしたかな。」
「堕ちた勇者…?」
「要は、元勇者を倒したとでも思ってくれていればいいですぞ。」
「勇者より強い聖王…か。凄いな。いや、それと同等と呼ばれるお姉ちゃんも、かなり凄いってことか。」
「それが伝われば、何よりですぞ。」
それにしても元勇者か…。
グランディアには勇者の伝説がいくつかある。
流石の俺でも、勇者についてはいくつか知っているつもりだ。
まず勇者は召喚者から選ばれる。
勇者と"トライアルスキル"は密接に結ばれているらしく、勇者に選ばれる第一条件はそのトライアルスキルなんだそうだ。
これはトライアルスキルを手に入れてから自分で調べたことだけど。
地球人は"試練"を受けやすい性質があるらしい。
その理由はどこの文献にも乗っていない。
でも偶然にも俺には知り合いの神様がいる。
今も家でゲームをしていると思うが。
そして俺はトットに、その疑問について聞いたことがある。
以前トットが言っていた世界同士の関係性が、その要因になっているらしい。
なんでも多次元構造の元、隔離された世界同士が、惑星のように神界の周りをまわっているそうなんだが、その神界に一番近い世界が、地球のある世界なんだそうだ。
地球人がトライアルスキルを受けとりやすい理由は、神界のご近所だから、たったそれだけの理由らしい。
ようは神様の力を受け取りやすくするアンテナ見たいのがあって、それがより強力なのが地球人らしい。
神様規模の価値観は流石に理解できないので、俺に理解できたのはそこまでの話だった。
で、そんな勇者の中でも一番有名なのが、"和田 風塵"さんだ。
残念ながら彼とは、生涯他人だ。
その理由は、彼が故人だからだ。
なんでも歴代で初めて、トライアルスキルを二つ所持した勇者らしい。
でも彼は魔王討伐を成し遂げられなかった。
魔王討伐半ば、病に倒れたと記録されている。
もちろん真実は定かじゃないけど。
そんな余計なことを考えていると、早速お姉ちゃんが手を挙げた。
その右手には、大きな白い旗を持っている。
そこには真っ赤な聖印が描かれており、非常に良く目立っていた。
「全軍突撃ーーーぃぃぃ!!!!」
彼女がそう宣言すると、全軍が一斉に前進した。
そしてそれは、敵も同じだった。




