45話 天才なる者、夢豚2
横浜駅周辺にあるミルさんのラボへと行くのにそこまで時間はいらない。
俺自身横間浜に住んでいるし、転移門は偉大だ。
昨夜、俺の目の前から突然消えたピースさんのことを思い出す。
転移魔法を普通に使う人を初めて見た。
魔法を極めると便利なんだな、と素直な感想を一つ。
といっても俺の適正は無属性だから、そこまで凄いことはできなそうだ。
横浜駅から少し歩き、ミルさんのラボがある建物についた。
階段を下りた先の地下にラボがあるところは、夢豚さんと同じだ。
俺が階段を降り始めると、夢豚さんも後ろから付いて来る。
当然のことだが、恰好が格好だから少しだけ怖い。
とりあえず階段を下りて、ラボのカードロックを外した。
カードキーは、エージェント契約の際に受け取った。
使ったのは今日が初めてだけど、ラボにはいつでも行ける。
「ミルさん、お邪魔します。」
「いらっしゃ…どなたですか?その圧倒的不審者は?」
「あぁ…こちらは夢豚さんです。友人です。」
「なる…ほど?不審者の友達を一人、増やしたんですね。」
「ち、違います。そもそも爽さんは不審者じゃ!」
「私、名前は出してませんよ?」
「うぐッ!?は、話を変えましょう。夢豚さん、ミルさんになら正体を明かしても問題ないはずです。」
「分かりましたぞ。」
夢豚さんがレインコートとお面を外した。
するとミルさんが一瞬にして目を輝かせた。
その様子はまるで、クリスマスプレゼントを朝に見た子供のようだった。
もちろん容姿的な影響も少なからずあるけど。
レインコートを脱ぐときの素振りが、露出狂のそれだったのは秘密だ。
「す、凄い…これは?」
「遠隔外装、吾輩が開発した意識を機械に移す技術ですな。」
「あ、あまりにも素晴らしすぎます。不審者だと思ってすみませんでした。」
「気にしないでほしいですぞ。夢霧無氏からミル氏が、名刀:夢霧無を仕上げた名工だと聞いてますぞ。お互い技術交流出来たら嬉しいですぞ。」
「それは素晴らしいですね。」
「それと、ミルさんには今回頼みたいことがありますぞ。」
「電話で話は聞いてますよ。」
「夢豚さん、ここからは俺が話しますよ。ミルさん、実は電話で話したこと以外にもう一つありまして。」
俺が電話でミルさんに話したのは、この後向かうシェルターの件だ。
サーバールームでログを辿ってもらうことになる。
しかし今回、色々なところに頼みごとをしていく中で、もう一つミルさんにお願いすべきことが増えてしまっていた。
「人使いの荒い人ですね。」
「ま、まぁそう言わずに。実は夢豚さんと、とあるアプリを共同開発して欲しいんですよ。」
「…アプリ?」
「ミルさんが"shelly"を作ったんですよね?」
「その通りです。」
「そのノウハウを、夢豚さんに貸してあげて欲しいんです。」
「…内容による、というのが現状できる返答の最大限ですね。こう見えて私は大人ですから、状況は吟味しますよ。」
「以前見せてもらった"すて~たす"がありますよね。あれの魔物版を作って欲しいんです。」
「"すて~たす"の…魔物版。…現状の技術では困難だと、そう言わざるおえませんね。恐らく考えている形は、魔物を画像撮影して、そこから強さを数値的に導き出す方法でしょうが…筋量などの運動データを元に、生み出される…。」
「ちょっと待ってください!基礎はもう完成しているんです。というか、夢豚さんが基盤は完成させました。それを、誰もが使えるアプリという形に落としこんで欲しい、というのが今回のお願いです。」
「…完成している?にわかには信じられませんね。」
「これ、アメリカで撮影してきた遠隔外装の操作テスト映像です。ここに細かく情報が出ているので、これを見てください。」
それから一時間ほど無言で、ミルさんは映像を見た。
手にボールペンを持ち、何度かそれを顎で出したりしまったりしている。
部屋中に"カチッ、カチッ"という音がしばらく鳴り響いていた。
やがて映像が終わると、ミルさんは夢豚さんの元へと歩いて向かった。
そして遠隔外装の手を、力強く握りしめる。
「あなたは間違いなく、これまで地球で見てきた全ての人類の中で、もっともすぐれた頭脳を持っています。今後も仕事面でいくつか提携していきたいことがあるので、後程連絡先を交換しましょう。私とあなたなら、世界征服すらできる自信があります。」
「ミル氏、吾輩世界征服には興味がありませんぞ。」
「吾輩なんて口調の人間が世界征服に興味がないわけないです。」
「ほ、本当にないですぞ。」
「そうですか、それは残念です。では業務上の提携…というところで。」
「そ、それなら構わないですぞ。」
どちらとも友人である俺は、夢豚さんを守ってあげることはできなかった。
明らかにミルさんの高い交渉術に、巻き取られてしまっている。
最初はありえない条件を突き付けて、その後ぐっと条件を下げる。
これにより人は油断して、イエスと言いやすくなるんだ。
流石社会人のミルさんだ。
将来有望な若者に唾を付けるのを忘れない。
でもミルさんの技術が発展するのは、俺にも嬉しい影響がある。
すまない夢豚さん、ここはありがたくミルさんに協力してくれ。
「アプリの開発は任せてください。今後の為にも、メリットしかないです。」
「あ、ありがとうございます。」
「それで、まずはシェルターに向かうんですか?」
話が終わっても一向に動き出さない俺に、ミルさんは違和感を覚えてる。
俺としてもすぐに向かいたいところだが、今しか時間を取れそうもない。
つまり…
「今からなんです。その…アプリ開発は。」
「は?」
「夢豚さんが基盤は完成しているから、ノウハウさせ学べれば数時間で開発させると言っているので。それにこのアプリはシェルターがしてくれる情報提供との交換条件でもあるので…。」
「わ、私も即日発送は好きですが…これはそんなレベルじゃ…。」
「吾輩に不可能はないですぞ。早速始めましょうぞ。」
夢豚さんはミルさんの机へ近づき、彼女のパソコンの前に座った。
彼女は暫く呆れた表情をしていたが、次第に表情に真剣さが宿る。
やがて二人とも最低限の会話になっていき、二人の会話の音よりも、タイピングの音の方が遥かに多くなっていく。
あまりに真剣な二人の様子に、俺も思わず無言で見ていた。
ミルさんがいつも用意してくれる苺ミルクを勝手に冷蔵庫から取り出そうと近づいた瞬間、ミルさんが口を開いた。
「苺ミルクですか?私もお願いします。」
「わ、分かりました。」
それから俺は、ミルさんに頼まれたいくつかの雑用をこなした。
例えば荷物を送ったりとか、そういう仕事面の雑用だ。
最後に頼まれた下着の洗濯だけはよくわからなかったが、偉そうに断れる立場ではないので、素直に洗濯しておいた。
黒いレースのついた下着は刺激的過ぎたが、何とか俺はやり遂げた。
それにしても彼女のあの幼い体にあんな下着が似合うのだろうか。
そんなやり取りを続けながらも、数時間後、ミルさんが口を開いた。
「す、凄い。まさか本当にすぐにここまでできるだなんて。」
「吾輩、こう見えて優秀ですぞ。」
「いえ、遠隔外装で日本にいる時点で優秀なのは分かります。」
「ま、まさか…もう?」
「いいえ、まだもう少し時間が必要です。でももうほぼ完成したといっても過言ではないでしょう。」
「さ、流石です。」
俺とミルさんが驚いていると、夢豚さんがこちらを見た。
遠隔外装には表情が無くて、何を考えているかは分からない。
「あとは一人で出来ますぞ。柵魔氏の件もあるので、早速シェルターへと向かって大丈夫ですぞ。」
「ゆ、夢豚さん…あなたって人は。」
「出会ってからまだ少ししか経っておりませんが、吾輩の夢を全力で応援してくれる夢霧無氏は、親友ですぞ。」
「俺も…親友だと思っています。」
「ふむ、では行ってまいれ。柵魔姫を悪しき軍団から救いだすのですぞ!」
「わ、分かりました!」
夢豚さんの厚意をありがたく受け取り、早速シェルターへ向かおう。
少しでも早く動かないと、いつまで柵魔さんが無事かもわからない。
そうだ…その前に今思ったことを一応夢豚さんに共有しておこう。
「夢豚さん。遠隔外装に表情があったら面白いと思いませんか?もしも表情さえあれば、遠隔外装でのコミュニケーションをさらに豊かにできます。」
「…そのアイデア採用ですぞ。ミル氏、いくつか機材をお借りしても?」
「は、はぁ…出来るならどうぞ。」
ミルさんはこの場で改造出来るとは思っていないみたいだ。
でも夢豚さんの才能はすさまじい。
俺でも何が可能で、何が不可能なのか未だに分からない。
ミルさんが組めば世界征服と言っていたが、あながち間違いではないのかも。
本当にそう思えるほどに、彼は優れている。
「さぁミルさん、早速行きましょう。」
「分かりました。…デートですね。」
「で、デート!?ち、違いますよ!?」
「そうですか?なら私が何をしても、かまいませんね。」
「は、はい!?」
そういうとミルさんは、適当に着替えてから俺の手を握った。
彼女の背は低いので、子供と手を繋いでるように他人からは見えるだろう。
ただ彼女いない歴=年齢の俺からすれば、これはとんでもない事態だった。
手を握りしめられた瞬間、思考の何割かが落ちる。
まずい…浮かれている場合じゃないのに…決して悪い気分じゃない。
ミルさん…一体どいうつもりなんだ!!??
「早速シェルターに向かいましょうか。契躱君は子供ですから、ホテルはダメですよ?」
「いいいいいい行きませんよミルさん!?」
俺が激しく動揺すると、彼女がまた舌を少し出した。
もう何度も見たいたずらの時の彼女の表情だ。
正直精神的には追い詰められるけど、なんだかんだ好ましくも思える。
こういう会話で、きっと焦る俺を落ち着かせてくれているのだろう。
本当に俺は…いろんな人に支えられて生きているんだな。
「ミルさん、ありがとうございます。たぶん俺、もうミルさん無しじゃ生きていけませんよ。」
「な、ななななな、な、なにを言っているんですか突然!?と、当然です。わ、私に感謝するといいです。ほら、は、早く向かいますよ!」
そういうとミルさんは俺の手を少し強めに握り、先に歩き出してしまった。
引っ張られるように、俺も前に進んだ。
年上の女性は、やっぱり頼りになるなと、俺はそんなことを考えていた。
●一人しかいなくなったミルのラボ。
「あ、…あんなに堂々と、鈍感主人公を地で行く人間は初めて見ましたぞ。」
夢豚はそういうと、パソコンのある机の引き出しに入っていたポテチの袋を勝手に開けてしまった。
そしてそれを口元に持っていく。
カツン。
そんな小さな音が鳴ると、夢豚は小さくため息をついた。
「はぁ、遠隔外装に一番必要なのは、食事機能ですぞ。」
そんな小さな呟きが、ラボに響いた。
ブックマークありがとうございます。
良ければ是非評価もお願いします。
ところでこの小説、ようやく1万PV突破したみたいです。
皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。




