40話 たった一日、されど一日
●時は遡り、アメリカン・ゲームショウにて
「こちらβ、応答せよ。どうぞ。」
『こちらアルファ、どうぞ。』
「Δはγの姉である模様。どうぞ。」
『あ、姉ッ!!!???………了解。テスト続行は可能か?どうぞ。』
(馬馬馬馬馬馬馬馬鹿な!!!???あああ姉…ということはつまり。でも仕方ない。やり切るしかないですぞ。)
「おそらくは可能であります。どうぞ。」
『了解。多少の問題は目をつぶる、計画を続行してくれ。どうぞ。』
「了解。…どうぞ。」
あれ?
夢豚さん、壁際で話してる。
もしかして、契躱君と話してるのかな。
だとすれば緊急事態なのかも。
あ、丁度会話を終えてこっちに戻ってきた。
「あの、夢豚さん。何かあったんですか?」
「うむ、少々予定外のことがあったのですぞ。」
夢豚さんの額を見れば、汗を大量にかいているみたい。
彼はいつも脂汗をかいているけど、それとはまったく別。
たぶん冷や汗だと、私は思った。
小さなことじゃなくて、大きな何かが起きているのかも。
すぐに文歌に視線を合わせると、彼女はゆっくりと頷いた。
そして水無瀬さんに話しかけてくれた。
今回のテストの件は水無瀬さんには内密に進めている。
夢豚さんと会話するには、水無瀬さんの注意を逸らさなくちゃいけない。
「何があったんですか?」
「それが、目標γの親類が同時に我が家に訪問したらしく。」
(彼らはこの作戦中、自分達のことを記号で呼び合っている。そんなところがちょっと男の子っぽくて、普段の大人っぽい契躱から比べるとかなり可愛く思えたりして、なんとなく得した気分。)
「…それだけですか?」
(なんだ、それくらいなら別に警戒することはないよね。)
「いや、それだけ…とはいいがたいかもしれませんぞ。」
「どういうことですか?」
「そういえば描絵手氏は、確か地球育ちの魔人ですな?」
(な、なんかどこかの漫画と既視感のある言葉だな。)
「その通りですけど。」
「グランディアには、ある程度詳しいのですかな?」
「いいえ、その…あんまり。」
「そうなのですな。でも今回来た、γの姉はそんな描絵手氏でも知っているほどの超絶重要人物なのですぞ。」
「え?」
夢豚さんは笑顔を見せ、もったいぶっている。
人差し指を立てる素振りなんかも、様になっていた。
問題があるとすれば、彼の手がクリームパンみたいなことと、指がとても短いことくらいだろう。
でもこれが、ゲームをする時に凄まじい効果を及ぼすんだから凄い。
確か指が短いおかげで、普通の人よりも制御がしやすいんだそうだ。
だから彼は、コントローラーでやってもFPSが抜群に上手い。
もちろん、手が小さい人用のコントローラーを使う必要があるらしいけど。
いわゆる"箱コン"は、最初から小さくて彼の手でも扱えるそうだ。
「"聖王"、この名に聞き覚えは?」
「あり…ます。う、嘘、そんなまさか?」
「そのまさか…ですぞ。一応世間には隠しているけれど、吾輩の下調べによるとほぼ間違いなくこれは事実ですぞ。」
「でも…どうしてそんな人を姉に持つ私夢叶さんを選んだんですか?」
「まず第一に、テスターはグランディア人の方が都合がよかったのですぞ。それは地球側の企業との密な繋がりが、ほとんどないからですぞ。吾輩の技術が漏洩する可能性が少しでも減るはずですな。」
「そ、それは理解できますけど。でもそれだけじゃ、なぜ彼女を選んだのか。」
「まぁまぁ、最後まで聞いて欲しいですぞ。第二に、彼女はグランディア人唯一のプロゲーマーで、ゲームに対する造形が非常に深い。それにスポンサー企業はいくつかあるけれど、どれも密な繋がりってほどじゃないですぞ。」
「な、なるほど。それも理解できる気がします。」
「そして第三…いや、最後の理由は彼女の姉が聖王だから…ですぞ。」
「え?それって逆にデバフになるんじゃ?」
「ワォ、ナチュラルにゲーマー用語。美少女ゲーマー萌えですぞ。」
「ゆ、夢豚さん…。」
「失礼、脱線しましたな。つまり何が言いたいかというと、姉が聖王のゲーマーって、属性過多の萌え萌えだから…ですぞ。例えば吾輩の目の前にいる、魔王の娘でゲーマー…みたいな。」
私は握りしめた拳を制御するので手いっぱいだった。
一瞬だけ夢豚さんが、ただの豚に見えたほどだ。
属性過多って…。
でも前半の理由はしっかりしていたと思う。
もしも前半が無ければ、拳を突き出していたかもしれない。
まぁでも、"魔王の娘"だって理由で嫌われるよりも遥かにましだけど。
それから少し経って、また夢豚さんは通話していた。
たぶんそれが最後の通話だったと思う。
契躱君が心配で、私は夢豚さんばかり注視していた。
あんまりアメリカンゲームショウを楽しめてない。
そんな中、私はどうしても気になるゲームを見つけた。
それは"闇魂"のⅣだ。
契躱君と私が会話するきっかけになったゲーム。
どうもお試しプレイが出来るらしい。
私はコントローラーに手を伸ばした。
このゲームのお試しプレイをやっておけば、契躱君に感想を伝えられる。
自慢みたいになるかもしれないけど、契躱君はそんな人じゃないはず。
きっと感想を真剣に聞いてくれる。
私は会話の機会も増えてウキウキ、本当にウィンウィンだと思う。
私が操作しようとした瞬間、なぜか画面がフリーズした。
「えー?開発段階だし、なにかのバグを踏んじゃったのかな…。」
係員の人を呼ぼうと周りを見た時、フリーズしたのがゲームだけではないことを私は知った。
フリーズしていたのは世界の方だった。
係員の人がピクリとも動かず、こちらを見ている。
他の人々もそれは同じで、まるで世界中の時が止まったかのようだ。
夢豚さんも、文歌も動きが止まっている。
私が呆然と立ち尽くす中、私の肩を誰かが触った。
私は驚いて、直ぐに振り返った。
そこに立っていたのは、水無瀬さんだった。
彼女は額に汗をかいている。
「見ての通り、緊急事態発生です。恐らくこの会場全体に、限定的な時間停止魔法が発動されているはずです。」
「そんな…もしかして私狙いですか?」
「その可能性が高いです。それにしても…どうして朝比奈さんは無事なんですかね?」
「た、確かにそうですね。でも私にも理由は…。」
「そうですか、私は何とか抵抗できただけですが。とりあえず今はそのことは置いておきましょう。敵が攻めてくる前に戦力を増やしたいです、柵魔さんは強いんですか?」
「はい。私の警護も兼ねていますから。」
すると水無瀬さんはすぐに文歌の肩に触れた。
文歌はまるで突然水中から這い出したように、息を荒げながら復活した。
水無瀬さんは文歌の肩を何度かさする。
「すでに魔法に抵抗していたようですね。おかげでこちらの負担も小さくて済みましたが。強引に復活させたので、体に余分な負荷がかかったんでしょう。大丈夫でしたか?」
「ハァッ…ハァッ…なんとか。助かりました。」
文歌を助けた後、水無瀬さんは心配そうに夢豚さんの方を見た。
彼も魔法にかかっており、動きが止まっている。
「…夢豚氏はあのままの方がいいでしょう。下手に解放すれば、彼まで敵に襲われる可能性があります。」
「わ、分かりました。」
「敵の数が不明ですから、撤退最優先で行きましょう。」
「ならとりあえず会場を出なくてはなりませんね。」
文歌と水無瀬さんが作戦会議を進める。
水無瀬さんの普段は、少しだけ残念な感じだ。
美人なだけに、ギャップがもの凄い。
でもこうした緊急事態の時に見せる表情は、まさしくプロのそれだ。
もの凄く頼りになる。
私たちはすぐに行動開始した。
ここに長居すれば、会場の人たちを巻き込むことになる。
私たちは移動しながらも、作戦会議を続けた。
「会場の出口は全部で三つ、おそらくどのゲートにも敵が待機してます。」
「でも中で攻め込まれるのを待てば、数で詰まされますね。」
「その通りです。ですからゲートを一つ選んで、そこを強行突破します。」
「それが最善そうですね。」
文歌はそういうと、"ランチパック"から曲刀を取り出した。
それをこすり合わせると、ジャィンッ、という音が鳴る。
「私がそのまま突っ込みます。水無瀬さんは魔法使いでしたね、後方からサポートをお願いします。」
「分かりました。柵魔さんが踏み込むのと同時に、大魔法を叩き込みます。」
水無瀬さんは走りながらも詠唱を始めた。
しっかりと詠唱すると、魔法の威力は増すらしい。
水無瀬さんは闇属性適正だから、相当な威力が出るはず。
私たちはすぐに会場を脱出した。
私達が出たゲートに待機していたのは一人だけだ。
敵の規模がわからないけれど、多分当たりを引いたんだと思う。
これなら余裕で突破できるはず。
背の高い男の人で、真っ黒なロングコートを着ている。
腰くらいまで長い黒髪を伸ばしており、全身は細身だ。
自分の身の丈ほどの柄の長さがある、大きな鎌を持っている。
まるで死神のそれだ。
刀身は紫色で、柄は真っ黒。
薄い黒色の靄が鎌から出ている。
水無瀬さんはそんな敵に対して容赦なく魔法を放った。
「"深淵波動"。」
「おっと…私のゲートが当たりか。我ながら今日もついている。」
水無瀬さんから闇の濁流が放たれた。
それは凄まじい勢いで敵の方へと進んでいく。
雪崩と表現しても適切に思えるほどの規模だった。
しかし彼はまるで微動だにせず、ようやく目前に大本流が迫ってから動いた。
ブンッ!!!!
という音を立てながら、大本流に向かって鎌を薙いだ。
「"吸収"」
一筋の黒い傷が空間に残り、闇の本流を全て飲み込んでしまった。
水無瀬さんが目を見開く。
そんな中、消えた大本流の後ろからすでに文歌が突進していた。
回転しながら、敵に一気に突っ込む。
大本流と合わせ、疾風怒濤の大連撃になるはずだった。
「闇属性魔法か…素晴らしい。"放出"」
ブンッ!!!
男は文歌が接近してくる中、また鎌を振った。
空中に再び黒い傷が残り、そこから先ほどの魔法がそのまま出てきた。
文歌はそれに直撃する前に、咄嗟に曲刀を捨て能力を発動。
"ランチパック"を巨大化してその大本流を吸収してしまった。
しかし魔法を防ぐも、両手に持っていた曲刀を失ってしまった。
「ふむ、つまり君がターゲットということか。」
そのタイミングに正確に合わせ、男が文歌の方へと踏み込んだ。
彼の速度は私の視力で終えるようなものではなく、次に私が彼を視界に収めた時には、文歌の首を右手で絞めていた。
「逃げてッ!!!!!!」
文歌が首を絞められながらも、そう叫んだ。
その叫びを聞いた瞬間、水無瀬さんがこちらに飛び込んできた。
私は男から目を逸らすことができない。
水無瀬さんは私を倒れ込みながら抱きしめると、胸にかけていたネックレスの美しい石を、強く握りしめた。
私はそれが魔法石だと理解できた。
魔法石は魔石とは違い、使用上限一回であらゆる魔法を込められる石。
非常に高価で市場にはほぼ出回らない。
おそらく込められている魔法は"転移"。
一瞬だけ私達の体が光ると、次の瞬間には先ほどまでと見える景色が違った。
私は文歌を置いて逃げてしまったのだと理解した。
私は溢れ出す涙を、制御できなかった。
ブックマークありがとうございます。
いくら自己満足で描いているとは言っても、こうして誰かに見てもらえる実感があると嬉しいです。
今回のパワーフレーズ。
「いわゆる"箱コン"は、最初から小さくて彼の手でも扱えるそうだ。」
これ、私の実体験です。
箱コン、最近は聞かないワードですが、皆さんは知っていますか?
みんな大好きXboxのコントローラーのことです。
PS4や、switchなんかと比べると、かなり小さいです。
PCゲームをコントローラーでやっている人は良く知っているかもしれませんね。
特にXbox oneのコントローラーは神がかっていて、一番使いやすいです。
スティックの硬さなんかが最初から丁度良くて、PCFPSにコントローラーは使いませんけどね。
友達が持っていたら一度握ってみるといいです。
それだけで素晴らしさが伝わると思います(手が小さい人向けです)。




