39話 呪術Ⅲ
そうか、今の所遠隔外装のマップシステムには大きな欠点がある。
あまりのオーバーテクノロジーに、基本的なことを見逃していた。
衛星写真は結局上からの画像でしかない。
屋根などといった遮蔽物があったら、その下にいる魔物まではマッピングできないんだ。
ちょっと考えれば気付くことを、しっかりと見逃していた。
マップの赤点か…。
事前に目を通した魔物リストでは、俺が今まで狩ってきた魔物たちはどれも黄点くらいの強さだった。
つまり俺が今まで倒した全ての魔物よりも、こいつは強い。
『ドラグ・デュラハン LV1196
PA:201(物攻)
PD:301(物防)
MA:150(魔攻)
MD:210(魔防)
AG:112(敏捷)
IN:222(知性)
SK:物理耐性Ⅳ、魔法耐性Ⅲ、毒無効、呪術Ⅲ』
よくあるゲーム通りに、顔のない動く鎧だ。
全長は3メートルくらいだろうか。
顔以外は頑丈そうな中世ヨーロッパの鎧みたいのを全身に着ている。
右手には大剣、左手には半身を隠すほどの大きな盾。
ちなみにトゥーハンドソードは、身の丈ほどの細身の大剣だ。
大剣も大盾もそのどちらもが墨汁をこぼしたみたいに黒い。
さらに盾と剣のどちらにも、竜の装飾が描かれている。
剣には竜が天へと昇る装飾が。
盾には竜が正面へと大口を開ける装飾がされている。
詳しくはないが、名前の"ドラグ"という箇所に関連してそうだが…。
というか問題は外観じゃない。
あいつの強さだ。
あぁ…なるほどなるほど…うん、まずいな。
ゲームとかでそんな強い思い出はなかったけど、実際はこんなもんか。
何とか…なるんだろうか。
でもなんとかしなくちゃまずい。
仮に遠隔外装が壊されても何とかなる。
私夢叶の本体は無傷なわけだし。
でも俺の体は最初から本体だし、残念ながら何とかならない。
ここで殺されれば、それでゲームオーバーだ。
俺に明日はない。
というかステータス欄にナチュラルにスペシャルスキルが書いてある。
生まれつき毒効かないんだ…凄い。
ってそんなことを考えている場合じゃない。
現状を打破するために頭を働かせろ。
でも流石に呪術は怖い…怖すぎる。
呪いって何よ、呪いって…まずすぎる。
絶対に食らいたくない。
…あっ?
俺はそれに気づいた瞬間、踏み出していた。
遠隔外装である私夢叶の元へと、デュラハンが一気に踏み出していた。
その踏み込みの速さは、数値通りダイヤウルフの比ではない。
鎧に包まれたその体の、どこを見て実力を推測したんだか。
でも実力は存外正確に測定されていて、俺は本能的に踏み出していた。
冷静であれば、私夢叶の本体には何の影響もないのだから、おとりにして逃げてしまう作戦もあったのかも。
いや、殺された経験なんて味わうべきじゃない。
俺だって死にかけた瞬間の記憶くらいはある。
織田さんにめちゃくちゃボコられて、怖くて、痛くて、辛かった。
そこからの記憶は残念ながらないけど。
でもだから分かる。
仮に疑似体験でも、私夢叶に経験させるべきじゃない。
俺は気付けば私夢叶へと突進していた。
機械の割に、想像よりは軽かった。
ただ非常に硬かったので、俺の体は痛い。
それでも何とか彼女を倒すことに成功した。
俺たちの頭上を真っ黒な大剣が通り過ぎる。
というかそもそも大剣を片手で簡単に振り回すなよ。
俺はすぐに背中に隠していた夢霧無を抜刀した。
武器はやっぱり愛用のものを持ってくるに限る。
こういう緊急事態にも、かなり心強い。
立ち上がった俺に、即座に追撃が来た。
大剣ともいえるそれを、デュラハンは一閃。
ヒュッ!!!
謎の音を鳴らしながら、俺の眉間へと斬撃が走った。
立ち上がりモーションの最中に、なんてことするんだ。
…俺じゃなかったら死んでたぞ?
俺は冷静にフレーム回避を発動、大剣は俺のこめかみを通り過ぎていった。
あまりの切れ味に、なんの抵抗もなく俺を切裂いた訳じゃない。
一撃で殺せるつもりだったのか、デュラハンの攻撃は全て大振りだ。
今の一撃でかなり大きな隙が出来ていた。
強引に夢霧無を振りぬいてみたが、盾にいとも簡単にはじかれた。
相性最悪だろこれ。
せめて俺に優秀な攻撃魔法があれば…。
なんてことを考えていた瞬間、盾に描かれた竜の口が光るのが見えた。
まずい、なんかしているけど避けられない。
俺の背後には私夢叶がいる。
だめだ、奥の手を解放するしかない。
最大出力で、"リモコン・バックスタブ"だ。
俺は最初から目を付けたいたデュラハンの背後に転がる石に、リモコンをかけて動かした。
大きさは大体ニ十センチくらい、良いサイズだ。
それはまるで弾丸のように素早く、デュラハンの背中に直撃した。
流石に想定外の威力だったのか、デュラハンは俺の真横をぶっ飛びながら通り過ぎていった。
飛行機の突進、確か新木さんはそんな表現をしていた。
そんな大事故にあったなら、あれが一般的な反応だろう。
しかし吹き飛んだ先で、デュラハンがゆっくりと起き上がろうとしている。
なるほど、流石の防御力だわな。
「モンレーブさん、先に自宅へ。」
《え?でも、このままじゃあなたが!?》
「遠隔外装を守るのが僕の使命である以上、今はそれが邪魔です。かなりの強敵みたいなんで、なるべく背中は軽くしておきたい。」
《か、勝てるんですな?》
「勝てる…と思います。多分。きっと。」
《…分かりましたぞ、私に考えがあるのです。》
「あぁ、遠隔外装をおとりにして逃げる手は無しで。」
《違うのですぞ、最強の助っ人を要請するのですぞ。》
「最強の…助っ人?」
俺がそう聞き返すも、突然遠隔外装は動かなくなった。
何が起きたかはすぐに理解できた。
テスト中は離席するなと言ったのに…。
はぁ…まぁいいか。
そんなやり取りのさなか、デュラハンが体勢を立て直した。
俺は面倒でしかない目前の鎧に辟易としている。
ただあの鎧は手加減してくれなさそうだ。
本当に…なんだか、取りあえず逃げ出してもいいだろうか。
いや、ダメだ。
遠隔外装は夢豚さんの夢…だったな。
本当にダメだな、ここ最近勝手に誰かを背負っている気がする。
でもまぁ、それも悪くないか。
一瞬だけ油断していた。
普通に考えごとにふけって、隙まみれだった。
いつの間にか俺の目前までドラゴ・デュラハンが迫っている。
再度凄まじい勢いで大剣が振られた。
俺はこれを屈んでよけ、デュラハンに突進。
大盾が目前に現れるも、フレーム回避でそれを通り抜ける。
リーチも長く、機動力もある。
ただここまで密着してしまえば、体の小さな俺が有利だ。
デュラハンへと一撃を見舞う。
ギャィンッ!!!
という音が鳴るだけで、いくら夢霧無を振っても傷がつかない。
デュラハンが抱きしめるような動きをしたので、俺は突進した。
今度もまたフレーム回避でデュラハンの体をすり抜けた。
そのままさらに奥まで走り抜け、デュラハンから距離を取った。
足りない…攻撃力が圧倒的に足りない。
このままではずっと平行線だ。
いや、むしろ体力を消耗しきるのは俺の方が早いだろう。
時間が経てば経つほど、俺の勝機は無くなる。
リモコン・バックスタブで動かなくなるまで…いや、違うな。
鎧をへこませるくらいで、あれじゃ有効打じゃなさそうだ。
どうすればいい、どうすれば俺の刀はあいつにダメージを与えられる。
思い出せ、手立てはあるはずだ。
何か…思い出せ。
…そうか。
そういえば以前校長先生がアルミの箱をチョークで貫ていたな。
無属性魔法は応用力で全てを解決する。
発想を変えてみろ、確かそんなことを言われた。
あの時先生は…確かチョークを硬くしていたんだ。
防御力強化の魔法は練習した。
問題なく使えるはずだ。そしてそれを夢霧無に。
俺は夢霧無の柄だけではなく、もう片方の手で先端を持った。
そして目線の高さになるように持ち上げた。
これでイメージしやすい…気がする。
「行くぞ、"防御強化"。」
夢霧無がうっすらと光り始めた。
どうやら魔法は成功したようだ。
リモコンで何度か物に魔法をかけていたが、その経験が活かせた。
なんで今までやらなかったのか。
後は試し切りだな。
俺は全力ダッシュで突っ込みながら、夢霧無を振るった。
すると想定通り、デュラハンはその一撃を大盾で受けた。
どうも攻撃は必ず盾で受けるという、パターンがあるらしい。
もっとも、その盾で受けきった瞬間に剣を振るってくるが。
盾で受けて、剣で斬る。
単純だが、ある意味最適解だ。
油断するのは良くないが、どうやらデュラハンが守りに回った時の行動パターンはそこまで多くはなさそうだ。
盾で受けて剣で斬る、その繰り返しでしかない。
そして俺は、今の一撃でデュラハンの盾に傷がついたのを確認した。
つまり、俺の武器は通用するようになった。
なら後は単純な貫通力を高めるために、バックスタブを狙えばいい。
そこまで難しいことじゃない。
デュラハンの攻略難易度は、俺の手の届く範囲だ。
もう全てのパターンは読み切った。
俺は夢霧無を真上に投げた。
あれに目があるかどうかは知らないが、少なくとも動きは止まった。
どうも何らかの手段で、こちらの動きを知覚しているみたいだ。
今度ミルさんにでも聞いてみよう。興味がある。
注意を上に引き付けている間に、俺はデュラハンの方へと突っ込んだ。
デュラハンは咄嗟に大盾を前に出すも、それが俺の狙いだ。
フレーム回避を発動しながらデュラハンを駆け抜けた。
この能力ほど真後ろに回るのに適したものはない。
それにこのデュラハン、防御力にかまけて油断している。
俺はそのまま後ろから回転蹴りを放った。
もちろん狙いはデュラハンの背中だ。
回転蹴りは見事に直撃し、再度デュラハンを吹っ飛ばした。
そのまま真正面へと高速で吹き飛び、空中ですさまじい音が
ズガンッ!!!
と鳴った。
なんてことはない、さっき投げた夢霧無だ。
夢霧無をリモコンで、デュラハンが丁度吹き飛んで行くであろう位置に固定しておいた。
飛行機くらいの推進力がその身体にかかり、そのまま硬い刀に突進した。
いくら頑丈な鎧でも、簡単に貫通することができた。
デュラハンは鎧に小さな穴を開けつつ、そのまま真っ直ぐに飛んで行った。
俺は再びリモコンで夢霧無を操作し、手の中に戻した。
余裕…といえば嘘になるが、まぁ何とかなったな。
しかしその時、なぜか右手に違和感を感じた。
右手には先ほどデュラハンを貫いた夢霧無が握られている。
なぜか若干黒い霧のようなもが出ていた。
なるほど、呪術ってそういうことかよ。
死んだ後の話ね。
俺は右手から一気に黒い痣が肩まで進行してくるのと共に、失神した。
ガッツリ呪われたみたいだ。
●
「…?ここは…どこだ?そういえば…俺はッ!!!???」
俺は目を覚ました。
後頭部がやけに柔らかい。
それに、どことなくいい香りもする。
もう少しこのままでいたい気持ちにさせられる。
ただそんな状況が普通ではないことにすぐに気付き、俺は目の前を見た。
最後の記憶が正しければ、俺はデュラハンに呪われてしまったはず。
右手を前に出すと、黒い痣が消えている。
「大丈夫?」
「あぁ…え?」
真上を見ると、そこにあったのは描絵手の顔だった。
すぐに起き上がるべきかとも思えたが、俺は描絵手の表情のある一点が気になってしまい、直ぐに立ち上がることはできなかった。
彼女の頬には、涙が流れた後があった。
俺を心配してくれたのかとも思ったが、何かが違う気がする。
俺の感覚的な違和感でしかないが、この数か月描絵手とは濃密な時間を過ごしてきたつもりだ。
彼女の表情の機微も、ある程度は分かる。
「何が…あったんだ?」
「うん…あのね…文歌が…。」
描絵手はまた泣き出してしまった。
俺は周囲をもう一度、今度は丁寧に見まわした。
一緒にテストをしていた、私夢叶にピースさん。
アメリカンゲームショウに行っていた夢豚さん、水無瀬さん。
そして今俺を膝枕している描絵手。
しかしいくら探そうとも、
柵魔さんの姿だけがなかった。
誤字報告してくれた方、ありがとうございます。
初めての操作でした。
興味深かったです。
本当にありがとうございました。




