37話 モデル体型
「す、凄いですね。地下にこんな施設を造るなんて。グランディアでもあまり見かけませんよ。」
「へぇ、知りませんでした。何分グランディアには余り詳しくなくて、グランディア史を少しだけ知っている程度です。」
「あぁ…でも確かにこんな施設があったら、研究で手いっぱいですよね。」
「ハハハ…そ、そうなんですよ。」
「妹は知らないだけで、グランディアにもこうした地下施設は結構あるのです。例えば地下大聖堂とか、秘密結社の本部とか、そういうのは大体土に埋まっているか、ダンジョンを兼ねているのです。」
「…ち、地下も多種多様なんですね。一度は行ってみたいですね。」
「今度案内しますよ。その時は夢豚さんもご一緒に。」
「あ、ありがとうございます。」
姉妹は研究施設を見て驚いている。
俺も最初は驚いていたので、人のことを言える立場ではない。
俺の中で天才=地下に施設、という謎の方程式が完成しつつある。
例えばミルさんや、ここの持ち主夢豚さんだとか。
二人が施設を観察している間に、俺はパソコンを操作した。
もちろん事前にゲストアカウントを貰っている。
最初に"遠隔外装"を見た時と同じように、地下からそれは出てきた。
二人は床から出てきたガラスケースを興味深そうに見つめている。
今回は操作テストを行うので、もう一つやることがある。
さらに操作を続行すると、"遠隔外装"真横の床から椅子が出てきた。
背もたれの頭部を乗せる箇所にヘルムが乗っている。
フルフェイスで、バイカーが付けているものに似ていた。
あれがいわゆるVRゴーグルの役割を果たすんだろう。
もはやゴーグルではないけど。
ただし配色は相変わらず紫と緑だ。
初号機といったらこの色…か。
夢豚さんのポリシーを感じる。
「それでは説明を始めたいと思います。まずはこちらをご覧ください。」
天井からモニターが降りてきた。
そこには事前に用意されたプレゼンの資料が表示されている。
五分程かけて説明した。
内容はそこまで難しいものではない。
「つまり、今日はこれを使って実際に魔物を狩りに行くと。」
「その通りです。周辺警備の為、僕も付いて行きます。」
「このVRゴーグルを装着している間、私は意識を失うんですね。」
「えぇ、ですが意識を失うというのは適切ではないですね。実際には意識をこちらの"遠隔外装"に移すことになるだけです。」
「なるほど…不思議ですね。」
「それとテスト中は離席できません。ただ一時間程度なので、ご安心ください。こればかりは情報漏洩を防ぐ為ですので、順守して頂きます。」
「分かりました。」
「あなたの体は私が見ているのです。安心してください。」
「ありがとう、お姉ちゃん。」
私夢叶は早速席について、装置を頭に装着した。
側頭部に付いているボタンを押すと、装置が起動した。
遠隔外装をかこっていたガラスケースが、床の中へと戻っていく。
さらに椅子から音声が流れ始めた。
『"遠隔外装"起動シーケンス開始。操縦者の身体データを取得中…取得完了、オペレーション:メタモルフォーゼ起動。』
一応事前に話は聞いていたが、百聞は一見に如かずとはこのことだった。
遠隔外装が私夢叶の身体データを元に、体形を変形させていく。
およそ一分ほどで、関節や腹部に当たる箇所が、彼女の体と同サイズになるように延長された。
遠隔外装全体の長さが私夢叶の体と同じになった。
これらの変形は後からパーツが足されるものではなく、全て自己完結だ。
関節の継ぎ目や腹部に当たる箇所が蛇腹状に延長された。
凸凹という訳ではなく、階段のような感じだ。
正直めちゃくちゃかっこよかった。
こうしたギミックを見せられては、ワクワクが止まらなくなる。
『メタモルフォーゼ完了。
対象身体データ
T:171(身長)
B:91 (胸囲)
W:54 (腹囲)
H:84 (尻囲)
A:71 (腕)
L:86 (脚) 』
スタイル良すぎないか?
俺がそんな余計なことを考えていると、姉のピースさんが睨むようにこちらを見てきた。
おそらく彼女の身体データが事細かに発表されたからだろう。
まずい、最近こんなことばかりだ。
描絵手を守る柵魔さんしかり、ピースさんしかり。
また警戒されてしまった。
俺は何事もなかったことを装るために、無言を貫く。
ここで何かを言えば、墓穴を掘るだけだ。
ちなみに遠隔外装は、今の身体データと完全に同じ感じになっている。
全てはリアリティの為なんだろう。
でもバストまで同じにしなくても…あれじゃ邪魔そうだ。
それにあんまりリアルなせいで、ピースさんの怒りを増長している。
機械で興奮できる人間はいないだろうが、横に私夢叶の本体があるため少しだけ事情が違う。
彼女が脱げば、こんな感じなんだと一瞬だけ俺も考えてしまう。
男のサガなのかもしれない。
『オペレーション:シンクロ、起動します。意識結合開始…完了しました。全シーケンス完了。遠隔外装…起動。』
少しだけうつむいていた遠隔外装が、顔を上げた。
そして瞼部分が開き、中の眼球部分が光った。
聞いていた通りの初動、起動成功だ。
《と、隣で私が…寝てる。》
遠隔外装もとい私夢叶は、隣を見た。
声は遠隔外装から出ているが、先ほどまでの彼女の声そのものだ。
寝ている自分を見る気分は分からないが、さぞ不思議だろう。
幽体離脱に近い現象が、彼女に起きているはずだ。
遠隔外装の素振りは先ほどまでの私夢叶と全く同じに思える。
それこそ彼女と長いこと一緒にいるであろうピースさんも、驚愕中だ。
私夢叶はゆっくりと手を上げ、それを顔の前で器用に動かし始めた。
指が一本一本美しく動いている。
まるで風になびくススキのようだ。
「これが変装用の服になるので、着てください。テスト中の情報漏洩を防ぐために、人間であると偽装するためです。」
《わかりました。》
何が凄まじいかといえば、体形が正確に人間を模写しているところだろう。
私夢叶は普段と変わらないように動き、服を着ている。
服さえ着てしまえば、もはや人間にしか見えない。
頭部だって大きすぎず小さすぎず、丁度人間らしい大きさだ。
帽子を深くかぶり、マスクとサングラスに手袋。
服は軍事仕様の深緑のロングコートに、同じ仕様の黒いズボン。
確実に不審者だが、仕方がない。
俺の活動初期を思い出す。
「さ、準備が出来ましたね。それではテストを開始しましょうか。」
「はい。」
「それとピースさん、申し訳ないですがあなたもテスト中にこの部屋からは出ないようにしてください。これも…。」
「秘密保護の為…なのですね?」
「その通りです。それではモンレーブさん、付いてきてください。」
●
俺たちはピースさんと、私夢叶の体を残して夢豚宅を出た。
今はまだ家の前だが、隣には遠隔外装に入った私夢叶が立っている。
「それでは、早速お願いします。」
《分かりました。"オートマタ・オン・アース"起動!》
『プログラム実行…ゲーム起動シーケンス開始。現在地を取得中…取得完了。マップ作製中…作成完了。全てのシーケンスが完了しました。ゲームを開始します。それではよい旅路を。』
今頃私夢叶の視点では、ゲームの起動画面が見えているはずだ。
いわゆるオープニングという言い方をしてもいいだろう。
手筈的には、魔物を狩ることになっている。
もちろんすでにシェリーで魔物に目を付けてある。
流石に俺の撮影みたいに行きあたりばったりはダメだろう。
しかしシェリーと類似するシステムが遠隔外装には搭載されている。
しかもシェリーよりむちゃくちゃだ。
衛星写真から半径10キロ圏内の魔物を索敵。
それを元にマップが作成され、近辺の魔物の分布が分かる。
ちなみにマップ上では色のついた点でしかなく、実際にその場所まで行って目撃するまで魔物の正体は分からない。
これはゲーム性を保持するためだ。
弱い魔物が緑点、やや強い魔物が黄点、強い魔物が赤点になっている。
ちなみに規格外の魔物は黒点だ。
今回俺たちが選ぶべき標的はなるべく弱い魔物。
余談だが、夢豚さんの話では、アメリカでは弱い魔物は長時間放置される傾向があるらしい。
アメリカにもシェルたちはいるが、大雑把なんだそうだ。
ただ放置されるのは、銃をぶっ放せば簡単に駆除できるような魔物だけで、流石に銃が通じないような魔物が出れば、直ぐに出動するらしい。
話を本題に戻すと、今回の狙いは銃を使えば倒せる程度の魔物だ。
実施テストを兼ねた動作テストなので、危険な行動はなるべく避ける。
なにも性能の限界を確認するようなものではない。
まずはマップ機能のテストを兼ねつつ、シェリーで魔物の元に行く。
私夢叶にはマップ上の緑点に近づいていく様子が見えているはずだ。
しかしそれは、俺が目を付けておいた、すでに正体のわかっている魔物だ。
特に何事もなく、座標の地点にたどりつくことができた。
ここまでの道のりに人はいなかった。
そして魔物のいるこの場所にも人はいない。
住宅地から少しだけ離れた、森の側の広場。
調べておいた通り、この場所なら丁度いいだろう。
今回の標的は俺も狩ったことのあるゴブリンだ。
知能は高いが、決して強いわけではない。
合計3匹、数もそこそこだ。
彼らは俺が狩った時と同じように、焚火をしていた。
兎的なものを焼いているのが見える。
「標的はあれです。」
《ゴブリンですな。生身の私でも余裕なのですぞ。》
姉の元を離れ、残念口調が戻っている。
普通に日本語がしゃべれるのにもったいないと、なぜか少しだけ思う。
夢豚さんに関しては特に何も思わないのに、これが見た目の差か。
ビバ、顔面格差社会。
「それでは手順通りにお願いします。」
《了解なのですぞ。えっと、確か…ステータス起動!うわ!?凄い。》
俺も持ってきたタブレットを起動し、彼女と視界を共有する。
彼女の正面には現在半透明のディスプレイが表示されている。
現実には何もなく、遠隔外装の視界内だけの変化だ。
だからこそタブレットで視界を共有する必要があった。
半透明のディスプレイには
『ゴブリン LV:24(総合点)
PA:3 (物攻)
PD:3 (物防)
MA:0 (魔攻)
MD:1 (魔防)
AG:3 (敏捷)
IN:10(知性)』
と書かれている。
なんでも遠隔外装に搭載されたCPUが、実際に視線を向けている魔物の危険度を数値化してくれるらしい。
筋量などの身体データを基に、予測される運動規模を…うんぬんかんぬん。
そんな感じの説明をされたが、俺はあんまり理解できなかった。
簡単に言えば、目測で敵の強さを予測しているらしい。
ただしまだ正確性には欠けるらしく、数多くのデータが必要なんだそうだ。
もちろんプレイヤー規模が増えれば正確性を上げることが出来る。
でも夢豚さんはこの遠隔外装を流通させる気はない。
そのため今は参考程度にしかならないと言われた。
今後の展望を聞くと、この"ステータス"技術だけを流通させ、データ規模を拡大していきたいらしい。
確かにそれならすぐにデータが集まるだろう。
それに敵の強さが分かれば、シェル達の仕事も安全性があがる。
いいこと尽くしだ。
「ありがとうございます。それでは戦闘を開始して下さい。」
ちなみに私夢叶が希望した武器は棘付きメリケンサックだ…。
というのも彼女が肉弾戦を希望したためだ。
流石格ゲーマーというべきなのだろうか。
当初は剣を持つ予定だったが、彼女に断れてしまった。
もちろん事前に夢豚さんの許可も得ている。
なんでも、「ハンドパーツの耐久テストにもなる、どうぞ。」だそうだ。
でもあくまで俺の役割は遠隔外装を守ることだ。
そんな俺からすれば、肉弾戦はかなり心配する。
俺が不安げに見つめる中、彼女は唐突に落ちている石を拾った。
この話は少しだけ雑な気がします。
時間がないときは、文量を落とすべきなのかもしれません。
匙加減って難しいですね。




