36話 私夢叶
「"私夢叶さん"が来るのは理解できます。でもそれなら俺は何を?」
「そうですな、夢霧無氏の役割を説明しますぞ。今回の操作テスト内容は、実際に外で魔物を倒すことですぞ。なので実際に戦闘が出来る夢霧無氏に、遠隔外装にもしものことがないように守ってもらいたいのですぞ。」
「なるほど、それなら問題なさそうです。」
「お?頼もしいですな。ですが条件がもう一つありますぞ。」
「条件って?」
「水無瀬氏には隠すこと…ですぞ。彼女は私服だったが、シェルですな?」
「す、凄い。どうしてわかったんですか?」
「あのライブ配信の時に少しだけシェルターのデータベースを覗いたのですぞ。」
「わぉ、めちゃくちゃ際どいことしますね。」
「というかアウトゾーンだと思うけど。」
「失礼、ですが一応ことの全容が気になり、その結果吾輩が今回の描絵手氏の一件を調べることになったのですぞ。」
「それは実際助かりますけど。」
「吾輩のこの技術が流出すれば軍隊とシェルターは真っ先に食いつくはず。そのためなるべく隠したいところですぞ。」
「確かにこの技術を隠すためには、仕方がなさそうですね。」
近代兵器のどれよりも優れているであろう遠隔外装は、おそらく軍事利用されれば信じられないくらいの人間を殺すだろう。
それこそテロリストに渡れば…そんな最悪の場合もある。
実際隠すのには賛成だけど、かなり不安だ。
幸いにもボストンは余り人が多いわけでない。
もちろん最新の注意が必要になるだろうけど。
まぁ全ては俺次第ってことだろう。
「でも俺たちには水無瀬さんをどうすることもできません。今のところ彼女は自分の自由意志に沿って行動しているみたいです。今も外出中ですし。」
「水無瀬氏が今いないのは、事前にアメリカのショップ情報を彼女の好み通りに吾輩が送っておいたからですぞ。すでに作戦は始まっているのですぞ。」
「す、凄すぎますね。」
「真剣ですからな。明日は吾輩が朝早くから彼女を連れ出しますぞ。」
「なるほどその隙に…ってことですね。でもどうやって連れ出すんですか?」
「明日はアメリカンゲームショウがあるのですぞ。そこに朝比奈氏を含めて水無瀬氏を招待すれば、上手く誘導できるはずですぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!!!それ…俺も行きたいです。」
「…吾輩の夢の為に、今回はあきらめて欲しいですぞ。もちろん来期に招待することも約束するのですぞ。」
「…分かりました。でも普通にゲーム好きの俺が行かなかったら、流石の自由人水無瀬さんでも怪しみませんか?」
「それに関しては夢霧無氏に特別な言い訳をしてほしいですぞ。それともう一つ、特別観覧チケットは4枚しか手に入らなかった。これでどうですかな?人間は皆すべからず"特別"に弱い。特にそれが自分の興味があるコンテンツであれば、そこに行かないという選択しはないはずですぞ。」
「な、なんて恐ろしい人なんだ。これは…確実に成功する。」
そう言った俺と、完全に同じ考えの描絵手を柵魔さんが見ている。
凄まじく呆れた表情で。
彼女に理解するのは難しいのかもしれない。
この作戦の要は水無瀬さんがゲーマーであること。
全てがそれを前提に進んでいる。
「流石夢霧無氏、理解してくれたようですな。それと吾輩は当日誘導のため、実際に現場にいることは出来ませんぞ。そこで夢霧無氏にいくつかの操作を教えていくので、当日はよろしくお願いしますぞ。」
「あの…今思ったらそもそも夢豚さんが行く必要って…。」
「シャラァッッッップ!!!そもそも吾輩は特別ゲストとしても招待されているので、欠席はできませんぞ。」
「さ…流石は夢豚さんだ。」
ま、仕方ないか。
描絵手の為でもあるなら、俺は我慢しようかな。
そんなことを考えながら描絵手の方を見た。
すると描絵手も丁度俺を見ていた。
彼女は顔の前で小さく手を合わせ、笑顔で頭を下げていた。
守りたい、その笑顔を。
エーシー。
●
「それにしても、本当に一色君は大丈夫なんですか?」
水無瀬さんが心配そうにそう聞いてきた。
俺は玄関まで四人を見送りに来ている。
俺が家にいる理由は、というか言い訳は簡単だ。
「いやぁ、昨夜からお腹の調子が悪くて、肛門付近でテロリストが暴れまわっているんですよ。」
「そ、そうですか。それじゃぁ…行ってきますね。」
水無瀬さんは俺の方を同情するような視線ではなく、ゴミムシを見るような目で見た後、振り返った。
女性に汚い話はNG、ここまでは作戦通りだ。
もっとも、まさか昨日一緒に作戦会議した柵魔さんにまで同様の視線を向けられるとは思わなかったが。
描絵手と夢豚さんがこちらを向き、さりげなくグッドラックをしてくれた。
理解者がいなければ、しばらく夢豚さん宅で泣いていただろう。
俺は四人を見送り、静かに家の中に戻った。
地下の網膜認証にアクセスする。
俺をゲストアカウントとして登録してくれたらしい。
どうしてここまで信用されているかは謎だ。
でもまぁ尊敬している人から信頼されるのは素直に嬉しい。
俺はラボで夢豚さんから使用を許可されている一つ目のツールを手に取った。
なんの変哲もない少しだけ大きな丸眼鏡。
一応無線とカメラになっていて、こちらの様子を夢豚さんに伝えることができるようになっている。
そして次に二つ目のツール。
いかにも研究員っぽい白衣。
これは特に何の機能もなく、本当にただの変装だ。
さらに最後に、白衣の真横に置かれていた付け髭を付ければ完成だ。
鏡を見て位置を確認…大丈夫かこれ?
まぁいいだろう、何とかなる。
ちなみに四人が家を出たのは午前7時。
そして午前8時丁度
ピーン、ポーン。
インターホンが鳴った。
俺はすぐに玄関へと向かった。
当然扉を開ければそこには想定通りの人物が立っていた。
「初めまして、夢豚さんの…助手です?」
「あぁ…そんな感じです。さ、中へどうぞ。」
「ありがとうなのですぞ。」
俺は"私夢叶"を夢豚さん宅に招いた。
というか夢豚さんにそっくりな口調だ。
もしかすると夢豚さんの動画から日本語を勉強したのか?
だとしたら少しだけ間違った方向に進んでいる気がする。
すぐにリビングに招待し、事前に教わった通りにお茶を出す。
「夢豚さんから話は聞いてます。今日は本人ご不在なんですよね?」
「その通りです。今日は助手の僕が担当します。」
「分かりました。」
私夢叶は黄緑色の珍しい髪色をしている。
根元から一切変化がないので、彼女の地毛なのは間違いない。
確か同様の特徴がグランディアの重要人物にあった気がする。
だめだ、全く思い出せない。
だがもしもそんな重要人物の親類なら、もっと警護が付くだろう。
彼女は背も高く、170センチは越えている。
上は真っ白なパーカー、下は黒いショートパンツだ。
肌は驚くほどの純白で、真珠みたいな輝きと透明感がある。
ハリウッド女優も裸足で逃げ出すような美人だ。
グランディア人が現れて以来、美人の概念も変わりつつある。
そんな中でも彼女は全種族共通で断トツ美人だと断言できる。
俺は事前に夢豚さんに教わった通り、茶菓子として饅頭を出した。
彼女はそれを見ると、笑顔になった。
「じぇじぇじぇ?ありがとうですぞ。知ってくれているのですな。」
「はい、お好みは調べさせてもらいました。」
私夢叶は茶菓子と饅頭をつまみ、満足そうにしている。
彼女のご機嫌もうまく取れたところで、俺は早速一通の書類を彼女の目前に差し出した。
しかし、その瞬間
ピーン、ポーン。
なぜか予定にないもう一人の来客が来た。
俺は疑問気に首を傾げながら、室内モニターを覗く。
そこに立っていたのは見覚えのない背の高い女性だった。
私夢叶と同じ髪色をした、彼女よりも少しだけ背の高い女性。
今日予定のない来客を招くのは、かなりまずいはずだ。
俺は追い返すために室内モニターで応答した。
『はい。』
「あの~私はモンレーヴ・セル・レアリゼの保護者なのです。」
『はい?』
「今日ここに彼女が来ているはずなのです。」
『…少しだけ、待ってください。』
俺は私夢叶に近づき、彼女に小声で質問した。
「あの…保護者と名乗る方が来ているんですが。」
「保護者…?…まさか!?」
私夢叶はソファから立ち上がり、直ぐに室内モニターを見た。
すると彼女はなぜか頭を抱えた。
そして困り顔で俺の方を見た。
「一応…保護者なのは間違いないのですぞ。」
「な、なるほど。」
「ちょっと玄関で話を付けてきますぞ。」
「そうですね、お願いします。」
私夢叶が玄関に向かってすぐに、俺は無線を起動した。
一時間もあれば現地に着くといっていたので、通話可能なはずだ。
夢豚さんはすぐに出た。
『こちらα、どうぞ。』
「こちらβ、緊急事態発生。対象γの保護者が来訪しました。どうぞ。」
『了解、追い返すことは?どうぞ。』
「現在γが直接交渉中であります。どうぞ。」
『了解、以後保護者をΔと呼称する。何かあり次第連絡を。どうぞ。』
「了解。…どうぞ。」
無線が切れた。
報連相はこうした場合において重要事項の一つだ。
それにしても予想外の事態になってしまった。
保護者を名乗る彼女は一体何者なんだ?
いや、待てよ。
ただの保護者ならそこまで警戒する必要はないのでは。
今回は作戦という大それた形は取っていても、そもそもいわゆるβテストでしかない。
彼女に危険がないのは明らかだし、説得は可能だろう。
よし、ポジティブシンキングでいこう。
大丈夫、まだなんとかなるはずだ。
「あの…すみません。」
いつの間にか背後に私夢叶が立っていた。
考え事に気を取られすぎていたみたいだ。
俺はすぐに振り返り、冷静に対処しようとした。
しかし、嫌な予感というものえてしてその方向に転がるものだ。
彼女の背後にもう一人女性が立っていた。
俺は一瞬動揺したが、極めて冷静を取り繕った。
「初めましてなのです。私はピース・セル・レアリゼと申します。」
(…ん?どこかで聞いたことがあるような…ダメだ、思い出せない。)
「…初めまして、助手の一色契躱です。」
「そうですか、この度は妹がお世話になるみたいなので、何分地球側にこうして一人で来させるのは不安だったのです。」
「お姉さん、だったんですね。」
「はい。今日は私も同行しますが、よろしいですね?」
「あぁ…その、ちょっと待ってもらっても?」
「はい?分かりました。」
俺は一度姉妹を放置して、取りあえず無線を繋いだ。
もちろん描絵手の件もある。
でもこれは夢豚さんの夢なんだ。
この機会を逃すつもりはない。
ただ報告は義務だ。
夢豚さんも納得してくれるはず。
「こちらβ、応答せよ。どうぞ。」
『こちらアルファ、どうぞ。』
「Δはγの姉である模様。どうぞ。」
『あ、姉ッ!!!???………了解。テスト続行は可能か?どうぞ。』
(な、なんだ?かなり過敏に反応するな…。ま、姉萌えとかそんなんだろう。)
「おそらくは可能であります。どうぞ。」
『了解。多少の問題は目をつぶる、計画を続行してくれ。どうぞ。』
「了解。…どうぞ。」
無線が切れた。
夢豚さんの考えも、俺と一緒だ。
ここは姉同伴だろうが、なんとかやり切る方向で舵を切る。
遠隔外装はほぼ完成しているんだ。
後は二回目のテストをするだけ。
大丈夫、何も悪いことはしてない。
ただ機密情報である為、この書類にサインをもらう必要はある。
俺は二人にソファに座ってもらい、先ほどのお茶を用意した。
そして二人が安心したところで、再び例の書類を差し出す。
もちろん二枚分に増やして。
「今回のテストは極秘である為…他言無用。聞いていた通りですね。」
「なんですかそれ…怪しいのです。」
どうも姉の前では私夢叶の残念な口調が強制されるらしい。
よく理解できる、誰だって家族には弱い。
ただ妹が納得しても、ピースさんには警戒されてしまった。
確かに俺でも普通に警戒するので、ここは丁寧に説明する。
「研究段階の技術を流出されれば、当方の利益を損なう可能性があります。当然のことですが、これは将来商品化される可能性がありますから、情報そのものにも価値があると考えて下さい。ですからこの書類にサインして頂きたいのです。」
「お姉ちゃん、これは流石に仕方ないことでしょ。」
「それなら納得できるのです。」
二人は書類にすらすらとサインした。
そして最後に指印を押してもらい、契約完了だ。
まず第一関門突破。
俺は次に、第二関門である地下に二人を案内した。
ブックマークして頂いた方、ありがとうございます。
大変励みになっております。
※重要報告
休んでいた土曜日に物語について考えていたのですが、結局全てを混ぜることにしました。
せっかく物語の道筋を参加性にしたのに、申し訳ありません。
ただ大まかな道筋は変わらず、このままゲーマーズメインで進行します。
これは持論ですが、世界は"萌え"で回っています。
だから"萌え"を増やすこの行為を、お許しください。
今回のパワーフレーズ
「シャラァッッッップ!!!」
ソーリー、アイムジャパニーズピーポーホワイ。
愛丼と酢ピーク、淫具裏ッ手°。




