33話 柵魔文歌
敵の収納も終わったところで、俺はスマホを手に取った。
単純に時間を確認するために。
「まだ時間はあるな。どうせなら撮影はしていこうか。」
「え?でも危なくないの?」
「場所を変えれば問題ないと思うけど…そういえば敵はどうやって俺たちの居場所を特定したんだ?」
「ずっと付けていた…とか?」
「確かに…その可能性が一番高そうだ。」
ミルさんと同じ手で俺たちの居場所が特定されているのなら、相当厄介だ。
でもミルさん曰くそれはありえないだろう。
今描絵手が予想した通りだと俺も思う。
「撮影…ですか。面白いですね、"夢霧無"の話は描絵手様から聞いています。あなたのしょうもない実力を見るいい機会です。」
「そうですね、是非見て欲しい所です。変なわだかまりは早いうちに解消しておくに限ります。」
俺は再びシェリーを開いた。
その画面を柵魔さんが覗くと、にんまりと笑った。
「いいことを思いつきました。」
「…?」
「シェリーで魔物を探しているのなら、私が指定した魔物を狩ることももちろんできるはずです。」
「なる…ほど。」
「では失礼して。」
柵魔さんがスマホを取り出した。
おそらくシェリーを開いているんだと思う。
彼女は一瞬だけシェリーを見た後、また笑った。
「決まりました。アメリカについては余り良く知りませんが、優秀ですね。」
柵魔さんが歩き始めたので、俺たちもそれに付いて行く。
ボストン郊外はやはり建物が点々としているので、自然がちゃんとある。
もしかすると危険な魔物もそこそこいるのかもしれない。
だからこそ"車"の人気が出てきたのかも。
考えれば考えるほど、俺はどんな魔物を要求されるか不安になった。
そして思わず描絵手に聞いてしまう。
「あぁ…柵魔さんって、"ドS"だったりするのかな?」
「少なくとも私といるときはそんなことはないけど。でも私以外の人と文歌が話すところってあんまり見たことなくて。」
「そうなんだ。」
「文歌も私と同じでなるべく魔人ってことは隠して生きているから、外出とかを自由にしてきたわけではないの。買い物とかもなるべく配達で済ませるようにしているんだ。」
「そっか。それは…大変そうだね。」
地雷を踏み抜いてしまったみたいだ。
踏み抜いた地雷の大きさは後からしか分からない。
今後はもう少し配慮するべきだろう。
それからもしばらく歩き、ようやく柵魔さんは立ち止まった。
周囲には人影や建物もなく、だだっ広い空間というだけだ。
なんというか原っぱ、みたいな場所に着いた。
「あぁ…柵魔さん?」
「さ、始めましょうか。」
彼女はそういうと再び"ランチパック"を出現させた。
そしてそこに手を突っ込む。
数秒後彼女がそこから取り出したのは武器だった。
いわゆる"曲刀"でシミターとか言えばゲームでも馴染深いはずだ。
かなり剣身が太く、それなりに重量がありそうだ。
それでも柵魔さんは簡単そうに両手にシミターを持った。
重量がありそうな剣で、まさかの二刀流らしい。
一振りおよそ1.5メートルくらいある。
ここまでくれば彼女の考えていることは分かる。
つまりは彼女は俺と戦おうとしている。
「あぁ…柵魔さん?冷静になって欲しいんですけど。」
「たまには人と戦っている映像でも投稿してみたらどうですか?」
なるべくなら戦いたくない。
でも彼女の提案を冷静に思案すると、そこまで悪くない気がした。
今の所対人戦は動画として残っていない。
純粋に面白さを求めるなら、かなりいいコンテンツになる。
俺の思考回路はやや夢霧無寄りになっていた。
「…それは有かもしれませんね。でも何か変装道具はあるんですか?」
俺がそう聞くと、彼女は言われるまでもないと言わんばかりに、マスクとサングラスを無言で着用した。
準備万端ということだろう。
俺は最後に描絵手の方を見て確認した。
すると彼女はゆっくりと縦に首を振った。
どうも避けられない戦いみたいだ。
まるで少年漫画みたいな展開だが、避けられないなら仕方ない。
もちろん動画のネタになるのは歓迎だが。
友達の友達と戦おうという気分にはなかなかなり辛い。
それでも俺は描絵手にカメラを頼み、パーカーに魔力を込めた。
後は丸眼鏡をかけるだけで準備完了だ。
《本気で行った方がいいですよね?》
「少なくとも私はそのつもりです。殺しはしないので、安心して下さい。」
ギャインッ、ギャインッ。
柵魔さんは曲刀を豪快にすり合わせた。
金属がすり合わさる音が、独特な嫌な感じを演出した。
俺がそんな音にひるんでいると、彼女が一気に踏み出した。
およそ10メートルくらいの距離が、一秒弱で無くなった。
ただ新木さんや織田先生ほどではない。
柵魔さんは曲刀を豪快に振り回してきた。
大振りなその一撃を、俺は冷静に夢霧無で受けた。
曲刀が俺の夢霧無に衝突した瞬間、俺は震撼した。
もはや軽自動車との交通事故のようなものだった。
俺の夢霧無はいとも簡単にはじかれ、体が右側に流れた。
つまるところ彼女の力が強すぎて、俺は体勢を制御できなかった。
隙まみれのその状態に、もう片方の曲刀で柵魔さんが追撃を仕掛けてきた。
どうあがいても姿勢を戻せる気がしなかった。
そのため俺はフレーム回避でその攻撃を凌いだ。
俺はそのまま体を通り過ぎる曲刀を見送りながら、地面へと倒れた。
柵魔さんはそんな俺を容赦なく踏みつけようとした。
地面を転がりながらそれを躱し、距離を取りつつ立ち上がった。
「なるほど、今のが動画にあった"フレーム回避"というやつですか。実際に体験すると、かなり不愉快ですね。」
「そんなこと言われたのは初めてです。」
今度は俺から踏み込んだ。
柵魔さんに先手を取らせると、剛力で振り回されてしまう。
そのためこの戦いでは積極的に先手を取る必要があると思った。
俺は右から薙ぐように刀を振るった。
柵魔さんはそれを受けようと曲刀を立てた。
しかし俺の夢霧無は柵魔さんの曲刀を通り過ぎていった。
フレーム回避の応用編だ。
柵魔さんは、自身の曲刀を通り過ぎる俺の夢霧無を見て驚愕する。
彼女は何とかバックステップしてやり過ごした。
あの状況から躱されるとは思っていなかったので、流石だと思う。
瞬発力が人間とは違う。
一般人はあの状況から動き出すことはできない。
柵魔さんは下がりながらも曲刀を振るってきた。
俺はそれをフレーム回避でやり過ごしてさらに踏み込む。
彼女は先ほど振るった強大な曲刀の遠心力でそのまま回転した。
そしてもう片方の曲刀が俺の顎目がけて振るわれる。
さらに前に踏み込むためにこれを屈んで対処。
彼女の表情に少しだけ焦りが現れ始めた。
おそらく彼女の想像以上に俺が攻めているからだろう。
姿勢の低くなった俺に対して彼女は膝蹴りを試みる。
俺はそれを左手でそらした。
何とか反応しきれている。
これも新木さんと織田先生のおかげだ。
俺は夢霧無を振るおうと低くなった姿勢を元に戻した。
そのタイミングに合わせ、柵魔さんは抱きしめるように曲刀を振るった。
俺はそのままフレーム回避を発動しながら真上に飛び上がった。
すると柵魔さんが振るった曲刀が丁度重なった箇所に着地。
俺と彼女の視線が重なった。
「えっと…力持ちですね。」
「女性の扱い方から教える必要がありそうですね。力持ちは禁句です。」
「体重以外の禁忌は確かに知りませんね。」
俺は柵魔さんの曲刀を足場に上へ飛び、彼女の後方に回った。
彼女はすぐに反転して俺の方を向こうとする。
そんな彼女へとフレーム回避を発動しながら突進。
俺はさらに背後から背後へと移動した。
柵魔さんは周囲を移動し続ける俺が煙たくなったのか、再び回転した。
俺はすぐに姿勢を低くして、彼女の足元へと回転蹴りを放った。
回転する時は独楽と同じ原理で回っているので、両足の距離が近い。
だからこそ足元のバランスが崩しやすいのではないかと考えていた。
もちろん彼女の周囲を動き回ったのも、回転斬りを誘発するためだ。
結果は予想通り、彼女はいとも簡単にバランスを崩して倒れた。
俺は倒れた柵魔さんに容赦なく夢霧無を振り下ろした。
もちろん峰打ちだけど。
柵魔さんは夢霧無が直撃する前に口を大きく開いた。
何事かと思ったが、その答えはすぐにわかった。
彼女の口内から火炎が沸き上がってくるのを見た。
俺はフレーム回避を発動しながらバックステップを選択。
すると
「"火炎息吹"」
が彼女の口から火炎が放たれた。
火炎はまるで噴水のように空へと向かっていく。
まさか容赦なく魔法を使用してくるとは思わなかった。
一応は模擬戦、怪我させるような攻撃は避けると思っていた。
どうも"命は取らない"だけらしい。
俺もすぐに選択肢に魔法を追加した。
ただ描絵手の友人でもあり親でもあるこの人を傷つけたくない。
少し離れて警戒心を高めた俺が見守るなか、柵魔さんは立ち上がった。
そしてしばらく俺の方を見つめると、次にため息をついた。
「はぁ、ここまでにしておきましょう。」
「…それは助かります。流石に魔法まで出されると模擬戦は辛いです。」
「それにしても…近接戦闘では私をやや上回っていますね…。」
負けず嫌いな性格だと思っていたが、素直に称賛してくれた。
本当に俺のことを分析していたのだろう。
「…どれくらい戦闘の経験があるんですか?」
「えっと、二ヵ月強くらいですかね。」
「…は?嘘はやめてください。」
「いや、嘘ではないです。でも一か月くらい精神と時を司っていそうな空間で修行していたので、かなり濃密だとは思います。」
俺がそう説明するも、彼女は腑に落ちなそうに描絵手の方を見た。
今の説明では信用を勝ち取れなかったみたいだ。
描絵手とは色んな話をしている為、俺の発言に嘘がないことを保証してくれた。
といっても頷いただけだが。
そんな描絵手の反応を見た柵魔さんは俺へと視線を戻した。
彼女はなんとなく気に食わない、そんな顔をしている。
さて、辛気臭い雰囲気を振り払うために話題を変えよう。
正直このままだとまた戦いを挑まれそうな気がした。
「そろそろ夢豚さんの家に戻りましょうか。」
俺が二人にそう提案すると、二人は空を見上げた。
日は徐々に沈み始めていて、今はもう夕方だ。
丁度夢豚さんも学業を終え、帰って来てくれる頃だろう。
俺たち三人は無事に夢豚さん宅に戻った。
もう少し戦闘描写が長くてもよかったな、と我ながら思います。
そのうち加筆修正すると思います。
申し訳ないです。




