30話 ユーガッタメール
全裸の新木さんは一度放置し、俺はトットへと視線を戻した。
ライブ配信後の神々の介入に関して、質問する必要がある。
「トット、ちょっと真剣な話がしたい。」
「うん?」
「まずは現状を説明する。」
俺は五分程時間をかけて、描絵手に関する記憶改竄の件について、出来るだけ細かくトットに説明した。
仮に神々の介入でなくとも、トットなら何か知恵を貸してくれる可能性がある。
意外にもトットはゲームの手を止め、話を真剣に聞いてくれた。
前から描絵手関連の話はやけに真剣に聞いてくれる時がある。
俺が説明するのを、新木さんも疑問気な表情で聞いていた。
今の彼は全裸だし、冷静でないだろうから頼りにはならなそうだが。
「つまり最終的に俺が何を聞きたいかって言うと、先日俺が行ったライブ配信の後、神々がこの世界に何かしたか?」
「…ん?いや、僕はまったく知らないよ。」
「トット以外の神々が何かした可能性はないのか?」
「さぁ、残念ながら断言はできない。でもないと思うよ。僕ら神々は皆真面目だから、しっかりとルールは守る。」
「つまり、下界に直接介入するようなことはない…と?」
「その通りだね。」
「でも待てよ…例えばトライアルスキルを与える…とかは?」
「う~ん、それもちょっと考えづらいね。トライアルスキルは世界が崩壊の危機に直面した時、特効薬として用いられる側面がある。僕みたいに一人の少女を救うために力を与えることは極稀だよ。」
「でもたった一人の少女を救おうとする奴がいるなら、殺そうとする神もいておかしくないんじゃ?」
「確かにそう言われると、全否定はできそうもない。でもさっき言った通り、描絵手ちゃんの生存が世界を確実に崩壊させるなんて未来予知は天界でも聞いたことがないよ。描絵手ちゃんはあくまでも未来的な危険でしかなくて、世界を崩壊へと導く明確な証拠はないんだ。だから不用意に力を与える神がいるとは思えない。」
「ふ~ん、そうか。可能性は限りなく低いけど、0ではない。そんな感じか。」
「そうなるね。ただ君が行ったあのライブ配信以来、世界の目がだいぶ彼女へと傾いた。今は記憶改竄されているかもしれないけど、未来はかなり安定しつつあるんだ。それらの影響は天界でも同じで、彼女に対する考え方はかなり改善されたよ。」
「それは助かるな。でもそれは最初から描絵手の危険性が低かったことに、冷静になった神々が気付いただけだと思うけどな。」
「君はいつも謙虚だね。神々の考え方を変えたというのに。」
「トット以外の神様たちを見たこともないし、なんかパッとしないからな。」
俺はソファに座りながら天井を仰いだ。
少しのひらめきはあれど、なんとなくどれも違う気がする。
そもそも今回の一件は本当に敵の仕業なのだろうか。
もしも敵なら、"遺産"が誰かを大衆に隠しつつ、暗殺するために記憶を改竄したのだろうか。
だがやはり"敵"という考え方が間違っている気がする。
俺の個人的な憶測でしかないが、これに関しては味方の仕業に思える。
なんの確証もないが、とにかくそんな気がした。
俺が考え事にふけっていると、不意にスマホの通知音が鳴った。
ブー、ブー。
特に何か予定があるわけでもないので、俺はすぐに確認した。
通知の正体はメールではなく、ベシャッターのものだった。
どうもベシャッター内に直接メッセージが届いたらしい。
いわゆるダイレクトメールで、非公開的に特定のアカウントに対してメッセージを送る機能がある。
夢霧無のアカウントにダイレクトメールが届くことは珍しくはない。
返信するかはさておき、一応いつも目を通していた。
内容は匿名の励ましであることがほとんどだ。
それらは俺の活動の燃料になったりもする。
もちろん中には冷たい言葉もある。
そうした言葉はシャットアウトするしかない。
(…ん?なんだこの宛先………幻覚なのか?)
俺の視線は何度も天井と画面を行き来した。
ただ何度確認を繰り返そうとも、宛先の文字は変わらない。
俺は茫然としながら宛先に書いていてある
"夢豚"
の文字を眺めた。
正直憧れているし、尊敬しているし、敬愛している。
例えば子供にとっての仮面ライダーのように、例えば子供にとっての戦隊ヒーローのように、俺は彼のファンだった。
もちろんこれが偽アカウントである可能性もある。
ただ正体を確認する以前に、ダイレクトメールの内容が刺激的だった。
『以前のライブ配信、とても面白かったですぞ!(^^)!
あのライブ配信の後、世間に違和感があったので色々調べましたぞ。
するとあることが分かったので、是非一度会わぬか('ω')ノ
もちろん"遺産"についての情報ですぞ。』
俺は文面を何度も見直した。
"遺産"というのはシェルター内で使われている隠語のはずだったが、彼も平然と使用している。
このワードが出た時点で、彼が何かを知っている可能性は高い。
アカウントを確認しても、やはり本物の夢豚さんだった。
ただ記憶改竄は全ての人々に対して平等に行われているはず。
彼がアメリカ在住だということはもちろん知っているが、アメリカだけ対象外だったとは、もちろん考えにくい。
夢豚さんは何らかの方法で記憶改竄を免れているようだ。
俺は何と返信するか迷いに迷っていた。
「ん?どうかいしたのかい?契躱。」
爽さんが心配するようにこちらを見ていた。
彼は人の表情を読み取るのが本当に上手い。
これも剣術を極めたその先にある技術なのだろうか。
「いや、こういうダイレクトメールが来て。」
爽さんに画面を見せると、トットも近づいてきて画面を見た。
二人は暫く画面を見ると、ゆっくりと頷いた。
爽さんは真剣な表情で、トットは歓喜に満ち溢れた表情で。
「行こう!夢豚氏とは僕も会ってみたかったんだ。だから会いに行くべきだと思うんだよね。」
トットは期待に満ち溢れた表情でそういった。
ただなんとなくトットを外出させるべきではない気がする。
神様を気軽に外出させるのは、流石に何か違う気がする。
そもそも向こうで何かあった時、トットを守れるとは限らない。
するとそんな俺の考えを察したのか、爽さんが困り顔で口を開いた。
「僕も行くことには賛成だけど、トット様を連れていくのには反対だね。流石に神様だから、早々外出はさせないほうがいいと思う。僕がトット様の面倒を見ておくから、契躱は行ってきなよ。」
「…ほ、本当にいいの?」
「いや、ちょっと待ってよ。僕も夢豚さんには会いたいよ。普通に連れて行って欲しいんだけど?」
「流石に連れていけないよ。トットはこの家にいてくれ。もしも仲良くなれたら、そのうち夢豚さんを家に招待するから。」
「え~…待てよ、それなら勝負しない?もしも僕が勝てば、一緒に連れて行って欲しい。」
「なるほど…確かにこっちの意見だけを押し付けるのは平等じゃないな。わかった、勝負して決めよう。」
「流石契躱だね。ノリと勢いがどっかの剣士とは違う。」
「爽さんのことをあんまり目の敵にするなよトット?本当に困った時に一番頼りになるのは爽さんなんだから。」
「別に目の敵にはしてないよ。ただちょっとおちょくりやすいだけで。でも全裸にしたのは悪かったよ、いたずら心だったんだ。もう十分に笑ったから、爽君も服を着てもいいよ。」
爽さんはホクホクとした表情で、再び衣服に袖を通した。
何よりも暖かそうにしている。
そんな爽さんをさておき、俺はトットに声をかけた。
「それで?ルールは?」
「いつも通り脱衣ルールで行こうじゃないか。今度こそ僕が勝つよ。」
「"スラシス"でいいか?」
「もちろんさ。」
トットはコントローラーを持つ前に、Tシャツ以外の服を着た。
といってもパンツとズボンだけだけど。
この前は布一枚、今回は服三枚という形になった。
どうも俺相手にはハンデをくれないらしい。
もっとも、必要もないが。
「さて、準備はOKだ。手加減無しで行こう。」
「そういえばアレなんだっけ?契躱の迷言。」
「神様だろうが何様だろうが、全ての人々はゲームの元に平等だ。」
「ハハハ、それ最近意味が分かってきたよ。いい言葉だ。」
トットと俺は暫くゲームに熱中した。
一週間という休みの時間が、俺に"スラシス"の勘を取り戻させたことだけは確かだ。
トットとやったあの時はブームが過ぎて少し経ってからだった為、当然俺の腕も劣化していた。
あの時の俺と今の俺では、地力が異なる。
もちろん勝敗は言うまでもない。
●
翌朝、俺は学校に向かった。
いつも通り授業を受け、昼休みになった。
俺はとあることを相談したくて、織田先生と描絵手とで保健室に集合した。
とあること、というのはもちろん夢豚さんの件だ。
といっても俺の結論はすでに決まっているが。
「ということで、俺はアメリカに発ちます。」
「なるほど、昨日そんなことが。」
「それで…アメリカに行っちゃうんだ。」
保健室に少しだけ静かな時間が流れる。
そんな静寂を遮ったのは、織田先生だった。
「わかった、必要経費だろう。学校には俺が上手く伝えておこう。お前の学力を確認したが特に問題はないだろうし、成績には影響が出ないようにしてやる。」
「本当ですか?それは助かります。やっぱり両親に心配をかけたくないので。」
「ふん、今回は利害が一致しただけだ。そう何度もあると思うなよ。」
「ありがとうございます。ありがたく力をお借りします。」
そんな会話をしていると、描絵手が突然立ち上がった。
「私も行くから!」
「あぁ~、今は何が起こるか分からないから、日本にいて欲しいかも。」
「私も行くから!」
「いや、だから織田先生とかに守ってもらった方が…。」
「絶対に!!!!行きますから!!!!」
描絵手は俺の方を睨みつけるように見て、そう宣言した。
もはや俺の意見など聞いていないと言いたいのだろう。
ただ俺も引き下がるわけにはいかない。
彼女の命がかかっている。
「描絵手、悪いが…。」
「連れて行ってやれ。自分のことなんだ、気になるのもわかる。それに水無瀬も付けてやるから、安全性は高い。」
「あぁ…織田先生、どういう気の回し方ですか?」
「朝比奈には恩がある。お前に"重傷"を負わされた時に治療してもらったからな。」
織田先生は"重症"の部分を存分に強調し、宣言した。
どっちもどっちだろうとツッコミたいところだが、織田先生の目はやけに真剣だった。
どうも描絵手に恩を感じているのは本当のことなのかもしれない。
「はぁ、わかった。一緒に行こうか。」
「うん!その言葉を待ってた!」
描絵手は満面の笑みで笑った。
女子と旅行か…、俺も随分とリア充に近づいたもんだ。
なんて関係のないことを考え、俺は一抹の不安を誤魔化した。
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