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「2.5次元世界」にて、スキル「フレーム回避」を手に入れたゲーマー俺氏、無双開始秒読みな件について  作者: 木兎太郎
第二部 第一章 違和感

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29話 繰り返される過ちと因縁


「ただいま~。」

「お帰り~。」


 帰宅してただいまを言うのは何日ぶりだろう。

 もっとも、相手は両親でも恋人でもない。

 俺がリビングに向かうと、テレビにかじりつく彼の姿があった。


「いやぁ~、下界に降りてきて早数日経ったけど、やっぱりこっちの遊びの発展速度は異常だね。どんなゲームをやっても最高の体験ができるよ。」


 俺の方へは一切視線を向けず、コントローラーを操作しながら、ひたすらゲームをやっている後ろ姿が見える。

 小学生でしかないルックスで緑という特殊な髪色。

 この家に暮らすことになったトットだ。

 両親に言えば間違いなく今世紀最大の発見にされるので、二人には隠していた。

 異界の神が自宅に暮らしていると知れば、それこそ発狂ものだろう。

 とある国民的アニメのロボットよろしく押し入れに暮らしていることも含め、俺は黙秘を選択した。

 余談だが、この世界に暮らすうえで流石に布一枚は辞めてもらった。

 彼には俺が幼少期の頃に着ていた服を着せている。

 言ってしまえば彼は現在、"携帯怪物"の短パン小僧みたいな恰好をしている。

 

「今日も一日ゲーム漬けか?」

「その通り、地球最高だね。こんなに娯楽が発展している世界は、多次元を含めてもほとんどないよ。」

「…は?今なんか凄い重要なことを言わなかったか?」

「異なる世界同士の関係は惑星関係に似ているよ。とある世界を中心にその周囲をいろんな世界が回っているんだ。多次元構造に関してはバームクーヘンみたいな感じをイメージすればいい。」

「あぁ…待ってほしいんだけど、急に世界の真実を明かさなかったか今?」

「どうだろう。神界しんかいでは当たり前だから、そんな大それた情報じゃないと思うよ。ちなみにバームクーヘンの真ん中が神界で、全世界の神々が住んでいるんだけど、彼らみんな真面目だからこんなに娯楽は発展していないよ。」

「待ってくれ、これ以上その話は聞きたくない。今は世界の真実よりも考えなくちゃいけないことがあるんだ。」

「へぇ、何かあったの?」

「そうなんだ、実はトットにも確認したいことが…。」


 ピーン・ポーン。


 会話の途中で唐突にインターホンが鳴った。

 言うまでもないが、俺は何も注文していない。

 つまりは来客である可能性が高い。

 それかミルさんが何か送ってくれたか。

 俺はすぐに室内モニターを確認した。

 そこには見知った顔が大きなカバンを背負って映っている。

 なんとなく嫌な予感がしたが、俺は仕方なく玄関へと向かった。

 扉を開ければそこには満面の笑みの彼が立っている。

 彼はキャンパーたちに見られればボコボコにされかねないほどの量の荷物が詰め込まれたリュックを背負っており、その上には紐で布団が結び付けられている。


「…爽さん?…まさか?」

「いやぁ、君ってそういえば一人暮らしだよね。最初は給料あんまりでないみたいだから、一緒に暮らさない?」


 誰かと一緒に暮らすなら漫画やアニメみたいに美少女がいい。

 そんなよこしまな想いは誰にでもあると思う。

 だが現実はいつだって非情で残酷だ。

 筋肉質な美男子という非常に特殊な存在が、俺と暮らそうと言ってくる。

 これが夢であってほしいと思うが、現実はそうはいかないみたいだ。

 爽さんは無言の俺をチラチラ見ると、ソワソワしだした。

 素振りだけでも美少女を演出しようとしているのだろうか。


「ごめん、取りあえずトイレ貸して!」


 俺の横を強引に通り抜けると、爽さんはトイレに走っていった。

 不法侵入で通報するにはあまりにも恩義がある。

 彼がリビングに放っていったリュックのサイズが、俺に全てが現実であることを容赦なく伝える。

 俺はとりあえず「NO」という答えを求めてスマホを手に取った。

 もちろん電話かける相手は父さんだ。

 確かに俺はほぼ一人暮らしだが、ここは家族の家だ。


 プルルル、プルルル。


『もしもし、どうかしたのかい?』


 忙しいはずの父さんは意外にもすぐに電話に出た。

 これで「電話がつながらないからとりあえず今日は帰ってくれ」という俺の淡い願望の内一つが消えた。

 残った願望は単純に「NO」という答えだけだ。

 恩義がある以上、流石に俺から断ることはできない。

 それに爽さんのことは別に嫌いではない。

 ただ男二人…いや、三人で暮らすむさい感じだけは嫌だった。

 シェアハウスのドキュメント番組では絶対に扱わない題材だろう。


「父さん、この家で一緒に暮らしたいって人が来たんだけど。」

『え?普通はダメだけど…契躱との関係性は?』

「この前話したと思うけど、その…例のライブ配信で手伝ってくれた人。」

『なるほど。なら全然いいよ。契躱を助けてくれた人だし、やっぱり子供の一人暮らしは心配だから、大人がいてくれた方が安心だよ。』

「そ、そう。わかった。」

『今度挨拶に行くから、その人にも声かけておいてね。また時間が出来たら母さんと一緒に戻るから。』

「わかった。ありがとう。」

『それじゃ、今はちょっと手が離せないから、また後日。』

「了解、仕事頑張ってね。」

『OK、またね。』

「うん、またね。」


 プツン。


 なるほど、確かに当然の考え方だ。

 子供の一人暮らしは心配だし、命の恩人がいてくれるなら安心。

 …盲点だった。

 確かに爽さんは見ようによっては、俺の命の恩人だった。

 あの出来事の爽さんは俺の中では"変態紳士"でしかなかったせいで、思わぬ盲点を生み出していたみたいだ。

 でもまぁよしとしよう。

 偶然にも爽さんのおかげで両親が帰って来てくれるらしいし。

 最悪な事ばかりじゃなさそうだ。


 ジャー。


 トイレが流れる音が聞こえた。

 するとすぐに爽さんがトイレから出てきてリビングに入ってきた。


「いやぁ、ごめんごめん。どうしても我慢できなくてさ。おかげで何とか危機を脱することができたよ。」

「お、久しぶりだね。契躱の電話から察するに、君もこの家で暮らすのかい?」

「えぇ、そのつもりです。編集とか分からないこともこの家なら簡単に教えてもらえるし、効率も良くなり…えッ!?」


 爽さんはトットの方を見て目を見開いたまま停止した。

 これが日常に溶け込む神様を見た時の正しい反応なのかもしれない。

 俺自身トットに話を持ち掛けられた時は二つ返事でOKしてしまったからよくわからない。

 余談だけど、トットと爽さんの差は当然ルックスだ。

 "なんか子供っぽいし良いかな"と思えるようなルックスと、つくべきところに筋肉のついた美男子とでは当然扱いが異なる。

 俺の中のその差を分かりやすく表現すれば、爆弾とお花くらいの差がある。


「あぁ…契躱。トット様と同居しているのかい?」

「まぁ、成り行きで。」

「美人女優と結婚したすかしたスポーツ選手みたいなこと言うなよ…。これ、ただ事じゃないぜ?」

「普段と口調が変わるくらい動揺しているのは分かるけど、トットはこの世界にいる限り人間の子供と大差ないらしいんだ。」

「そうだよ、爽君。僕はこの世界にいるかぎり子供らしく振舞うし、当然君らに不用意に力を与えたりはしない。ただの人間として扱ってほしいな。」


 子供のような愛くるしい表情を振りかざし、トットが爽さんにお願いする。

 しかし爽さんの表情はそれによって動くこともなく、即答した。


「それは無理ですけど。」

「…はぁ、仕方ないな。じゃぁこうしよう、これから僕とこのゲームで対戦しようじゃないか。」


 トットが指さしたのは、またもや"スラシス"だった。

 彼は俺に負けて以来、恐らく復讐を考えていて、ずっとあのゲームの練習を続けている。

 あの時でさえ相当な腕前だったというのに、俺としても背筋が凍る思いだ。


「…またそんな子供だましな。僕はそんな勝負絶対にやりませんよ。誤魔化さないで下さい。神様がこの世界にいるのは絶対に良くないことです。」

「はぁ…また言い訳か。これだから剣だけしか能がない雑魚の相手をするのは疲れるんだよな…。多分脳みそまで筋肉でできてるよね。」

「…はい?いや、脳みそは脳みそですよ。成分を教えてあげましょうか?」

「出たマジレス。この人学級委員属性まで持っていまーす。こわーい、ビビりで真面目って一番怖ーい。」


 トットは天井を見上げながら、大きく口を開きつつ体を左右に揺らしている。

 子供でしかないルックスで大人を煽り散らすその様子は、まるで気が触れているかのようにも見える。

 トットから全身全霊で煽られている最中の爽さんは、体をプルプルと震わせながらトットの方を笑顔で見ていた。

 一番ひどいタイプの顔真っ赤状態だ。

 特に出血する寸前ほどの力で握りしめられた拳が、爽さんの現状の痛々しさを過剰に演出している。


「分かりました。やってあげますよ。神様だろうが何様だろうが、ここまで言われて黙っていられるほど大人じゃないですから。」


 爽さんは重い腰を下ろすようにトットの隣に座った。

 その瞬間、トットが普段よりも一段階口角を持ち上げたのを俺は見逃さなかった。

 今の俺に出来るのは爽さんを憐れむことだけだ。


「ルールはこの前と同じでいいよね?」

「脱衣ルールですか?」

「その通り。先に全裸になったほうが負けだから。」


 そういうとトットは手慣れた手つきでTシャツ一枚になった。

 おそらくハンデを付けるための行動だということは理解できる。

 しかしどう考えてもなるならパンイチだという気がするが、Tシャツのサイズが大きめなので急所は問題なく隠れている。

 神様と人間の価値観の差なのかもしれない。

 たぶん彼らにとっては上半身がアウターヘブンなんだろう。


「ハンデはこれくらいで充分かな?」

「ハンデ?自分が負けた時の言い訳にするつもりではないんですか?」

「ハハハ、面白いね。ま、後は結果で全部決めようよ。もしも僕が勝ったら、今後僕がこの家で暮らしていることに関しては口出しなしだ。」

「分かりました。もしも僕が勝てば、トライアルスキルへの挑戦権を要求しますからね。」

「いいよ。それじゃ、勝負開始といこうか。」


 …あれ?要求するのは天界への帰還じゃないのか?

 どうも爽さんは、トライアルスキルを諦めていなかったようだ。

 でも爽さんが挑戦してもずっと最高難易度だと思うが。

 仮に挑戦権を得ることができても、完遂するのはほぼ無理な気がする。

 トットが容赦なくスタートボタンを押し、勝負が始まった。

 俺は止めることすらできず、爽さんを憐れむことしかできない。

 同居するのはよしとしても、爽さんとトットって水と油なのでは。

 俺はそんなことを考えながら、爽さんが一枚一枚服を脱ぐのを見守った。


 戦闘開始後数十分。

 爽さんが全裸になるまではさほど時間がかからなかった。

 彼はまた爽やかな顔で我が家の冷蔵庫を開け、牛乳を飲みだす。

 この瞬間の彼の様子をもう一度見ることになるとは。

 本当にいたたまれない。

 せめてもの朗報を伝えようと思い、俺は口を開いた。


「爽さん、両親に許可が取れたんだ。この家に住んでもいいって。」

「本当かい、それはよかった。」

 

 爽さんは満面の笑みでこちらを見た。

 彼が全裸であることを覗けば、俺も素直に受け入れられそうだ。

 ここまで憐れな大人を俺は見たことがない。

 最初よりもずっと爽さんのことを受け入れられる気がする。

 抱きしめて一緒に泣いてあげたいくらいだ。


ブックマークありがとうございます。

大変励みになっております。


今回のパワーフレーズ

「誰かと一緒に暮らすなら漫画やアニメみたいに美少女がいい。」

模範解答:愛する人と一緒に暮せることが幸せ。

私の場合:「な なんだァ!!?ふ 風呂がバクハツしーーた?」

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Twitterアカウント:@SKluMYkhIpMoZ2I◆Twitter始めたので、良ければフォローお願いします。といっても、今の所フォロワーZEROですけど。
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