24話 収益化
―暗殺者襲来・数日前―
「久しぶりに休みがあると、ついついゲームやり過ぎちゃうな。」
例のライブ配信から丁度一週間が経過した。
俺は大事を取って学校を休んでいる。
もっとも、明日からは普通に学校に通うつもりだけど。
休みの間にある変化があった。
それは夢霧無についてだ。
俺は一度コントローラーを置いて何度も見た"うぉちゃん"のアカウント管理画面を見る。
画面には
夢霧無 登録者数53万人
と表記されている。
描絵手の一件から動画は、残っていたストックを一本だけ投稿しただけなのに、登録者は右肩上がりで増えていった。
嬉しい反面、かなり動揺している。
まだ描絵手を救えたということにホッとしている段階だったのに、意外にも俺の人生は定期的にイベントを与えてくれるらしい。
いいことであることは間違いない。
しかし俺はあることについて思案していた。
それは夢霧無の投稿頻度に関してだ。
現状夢霧無は収益化していないので、趣味の範疇でやっているつもりだ。
もちろんミルさんの会社の件もあって真面目にはやっているけど。
自由にやるのは大事なことだけど、そろそろ投稿頻度を上げてみてもいいのかもしれない。
今のところ週3投稿だけど、この勢いを失いたくはない。
むしろ今こそ勢いに乗るべきだと思う。
毎日投稿、そんな四文字が俺の頭に浮かんだ。
俺も馬鹿じゃない。
学業と両立するには毎日投稿はかなりしんどい。
少なくとも俺は学業をおろそかにする気はなかった。
そこでいくつか方法を考え、現在それを実行に移そうと思っている。
ガチャリ、バタン。
扉が開く音がした。
時計を見れば事前に入った連絡通りの時間だった。
こうして急に呼び戻すのは、なんとなく申し訳ない気もした。
でももう隠しておくのも嫌だった。
俺はすぐに玄関に向かい、二人を迎えに行った。
「ただいま、契躱。久しぶりだね。」
「お帰りなさい。」
そう、俺は両親に話したいことがあるからと、帰って来てもらった。
俺が新大陸に行く手もあったけど、久しぶりに家で会いたかった。
この家に家族が揃うのはかなり久しぶりだ。
最後に一緒に食事をしたのは、もう随分と前の話だ。
久しぶりにみんなでリビングのソファに座った。
ソファは向かい合わせに二人用のものが二つ。
三人家族だから普通だろう。
もっとも、ほとんど一人で暮らしている俺には余計だけど。
「父さん、母さん。元気にしていたみたいだね。」
「あぁ、研究もはかどっているよ。それも契躱が家でいい子にしていてくれているおかげさ。…いい両親ではないかもしれないけど、感謝しているよ。」
「でも私達も親として、あなたのことを思い出さない日はないわ。」
父さんの名前は"一色 啓人"。
身長180センチで眼鏡をかけていて、黒髪黒目の日本人顔。
研究に明け暮れる日々の中、母と出会ったらしい。
普段から優しい人で、少しだけ垂れ目だ。
そして母さんの名前は"一色 亜輝菜"。
身長160センチで、黒髪黒目のハーフ顔。
でも純日本人で、秋田の生まれらしい。
とてもまじめな人で、俺のことを叱るのはいつも母さんの役目だ。
もちろんどちらも俺の人生において欠かせない存在だ。
代わりなんていない。
俺だって二人のことを思い出さない日はない。
もしも彼らが元々ただの地球だった島のどこかで研究をしていたのなら、俺はアメリカでも、コスタリカでも付いて行っただろう。
でも"異界学"という特殊な分野かつ、新大陸という特殊な場所で研究をしている以上、俺は付いて行くことができなかった。
流石に言語の壁が分厚く、むこうとこっちでは教育も違う。
俺は一人でいることを選択したわけではなく、最初から選択肢はなかった。
でも彼らの研究がこの融合世界に必要なのは明らかで、俺は賢い子供を気取って両親と一緒にいたいという思いを殺している。
本当は玄関に現れた二人を抱きしめたかったけど、それはやめた。
二人は夕方には向こうに戻らないといけない。
温もりが冷めるのが早いから、愛情を感じとるような行為はしない。
俺の為に時間を取ってくれただけでも嬉しかった。
「俺も二人を思い出さない日はないよ。今日は急だったのに帰って来てくれてありがとう。二人に話しておきたいことがあって。」
「…どうかしたのか?」
父さんが心配そうにこちらを見た。
当然だけど、これからはもっと心配をかけることになるだろう。
「実は俺、今動画の配信者として活動しているんだ。」
俺がそう告白すると、父さんは静かに頷いた。
それは母さんも同じだった。
「知っているよ。"夢霧無"…だろ?」
「知って…たんだね。驚いたよ。もしかして…あのライブ配信で?」
「あぁ。あのライブ配信はこっちでも話題になっていたよ。確かに上手く変装していたけど、契躱だとすぐに気付いたさ。」
「そう…なんだ。」
両親が俺の方を見る目は想像以上に厳しそうだ。
でもあの配信を見ていながらこの一週間、彼らは家に来なかった。
もしかすると家族の愛は俺の一歩通行なのかもしれない。
そんな余計なことを考えていると、母さんが静かに立ち上がった。
昔と同じように、俺は叱られるんだと思った。
でも母さんは俺の側まで来ると、ただ俺を抱きしめた。
俺はどうして今抱きしめられているのか分からなかった。
ただ体は勝手に動き、母さんを抱きしめ返した。
愛情に飢えていないわけがない。
本当はすぐにでもこうしたかった。
「心配したのよ、…本当に。あなたに何かあったら、私達…。」
母さんは俺を抱きしめながら涙を流した。
俺はこの瞬間、初めてあることに思い当たった。
確かに俺は描絵手を助けることで手いっぱいだった。
でも同時に、俺を心配する人もいたんだと。
もしもあの時俺が無茶をして、そのまま死んでいたとすれば、二人はどれくらい悲しんだのだろうか。
描絵手のことだけを考えていたけど、俺は一人じゃない。
それに俺はもしかすると、もう二度と二人に会えていなかった可能性すらあったんだと、ようやく気付くことができた。
俺は母さんを抱きしめ返す力を無意識に強めた。
そしてそれと同時に、頬に涙が津たる感覚があった。
本当にただ水が流れるように、泣き叫ぶようなことなどなく、静かに涙が頬を津たって母さんの肩を濡らした。
不意に父さんと目が合った。
「母さんはすぐに家に戻りたがったけど、それは僕が止めたんだ。契躱ならきっと、こうして僕らを呼んでくれると思っていたよ。ライブ配信自体に気付くことはできなかったんだ。でも後日動画で見て、その後に一つだけ動画を投稿していただろ?だから契躱が無事なのを知ることができたんだ。」
「そう…なんだ。心配かけて、本当に…ごめん。」
「いいんだ。僕たち三人は家族なんだから、これからはもっと頼ってくれていい。今日だけじゃなくて、呼んでくれればすぐに戻ってくるよ。」
「ありがとう。」
暫く抱きしめ合うと、母さんは離れてしまった。
でも問題ない。
温もり以上の何かが、俺の胸にはまだ残っているから。
それから俺は暫くライブ配信についての説明をした。
意外にも二人は俺がやったことについて、受け入れてくれた。
想像していた反応とは真逆で、少しだけ驚いた。
「話をまとめると、取りあえずもう契躱に危険はないんだな。」
「うん、元々正体を隠していたから。」
「それよりも…今後も描絵手さんを守りたいの?」
母さんは言いずらそうにしていた。
向こう側にいたからこそ、描絵手について気にしているのだろう。
本当であればもう関わって欲しくないはずだ。
でもこうして言いずらそうにしていたのは、俺の答えをもう想像できているからなんだろう。
「うん。これからも彼女を守るよ。それだけは変わらない。」
「…そう。…ところで契躱。あなた描絵手さんと交際しているのかしら?」
「エッ!?し、してないよ。ボクタチ…トモダチ。」
「あら、そうなの?でも心配だわ。契躱はいい友達止まりタイプだから。」
「エッ!?ドドドドドドドドドウイウ…コト…デスカ?」
「凄まじく心辺りがありそうな反応ね。でもそのまんまの意味よ。だから彼女のことを少しでも好きなら、早めに告白したほうがいいわ。」
「ハハハ…母さん…そんな冗談やめてよ…マジ?」
「マジよ。」
「…オッホン。母さん、契躱をからかうのもそれくらいにしてやってくれ。」
父さんは母さんが俺に止めを刺す前に、話を止めてくれた。
ありがたい反面、先が気になる話でもあった。
「それで契躱、確か"相談"したいことがあるんだろう?夢霧無としての活動はどちらかというと"告白"に近いし。他にも話があるんじゃ?」
「うん、実は夢霧無を収益化したいんだ。」
「収益化…って、契躱15歳でお金を稼ぐつもりなの?ちゃんと言ってくれれば、私達にだってお金はあるのよ?」
「うん、ありがとう。でもこの活動だけは、自分で考えてやりたいんだ。だから二人の力はなるべく借りたくない。」
「でも契躱…。」
「亜輝菜。僕ら男には、自分で決めたことを貫きたい瞬間があるんだよ。それに夢霧無をここまで大きくしたのは契躱だし、このまま任せよう。」
「そう…よね。わかったわ。」
「契躱。お金を稼ぐことにも、その使い道にも口を出す気はない。でも生活費は僕らが出すからね。それだけは親として譲れない。」
「ありがとう。収益は全部、夢霧無の活動費にするよ。」
「わかった。」
それから数時間、俺たち家族は離れ離れの間に何があったのか、お互いに色んな話をした。
特に"異界学"の話に関しては面白いことをいくつも聞けた。
今後何かにいかせるかもしれない。
それに久しぶりに二人と話したこの時間は、何よりも温かった。
楽しい時間というのは相変わらずあっという間で、すぐに夕方になった。
俺は転移門まで二人を送った。
「それじゃ契躱、今後はもっと頻繁に帰ってくるから。」
「説明した通り、研究もかなり進んでいるし、後進もちゃんと育てているから、次はもっと長期間こっちにいれるようにするよ。」
「ありがとう、二人とも。」
最後には三人で抱きしめ合った。
寂しくないわけがないけど、仕方がないこともある。
それに今後は収益が入るし、俺から二人に会いに行くこともできる。
サプライズ的に、ぶらり旅的に、いつでも会いに行けるはずだ。
今回の別れは普段よりもずっと寂しくなくて、二人をもっと身近に感じる別れだった。
きっと胸に残るこの暖かさが、俺にそう感じさせてくれたんだと思う。
祝累計5000PV突破。
呼んでいただいた皆さん、ありがとうございます。
上下の激しい小説ですが、皆さんよろしくお願いいたします。




