00話 こんなにも広いアメリカに危険な人がいるのはある意味当然で必然
―アメリカ・ボストン郊外―
ワロタ。
俺の心境を一言で表すとこれに尽きる。
まさかわざわざアメリカまで来てこんなことになるとは。
現在俺の目前には三人の変質者が立っている。
彼らは皆おそろいの黒いローブを着ている。
顔にはマスク…というよりは黒い布を顔の下半分を隠すように、鼻を含めて被せていて、正体を隠している。
「け、契躱君。私がおとりになろうか?」
「いや、取りあえず問題ないと思う。」
俺の背後には描絵手がいる。
とある諸事情によって俺たち二人は現在アメリカに来ていた。
ボストンの郊外というのは転々と建物が並んでいるだけで、見渡す限り何もないようなところだ。
失礼な話、大都会ニューヨークとは天と地ほどの差がある。
それと目前の三人はもちろん赤の他人だ。
三人のうち一人は片手直剣、一人は大剣、一人は両刃の手斧を持っている。
素人だからよくわからないけれど、それぞれの武器が少しだけヌメッとしているのは毒物が塗ってあるからなんだろう。
おそらく"暗殺者"的な何かなのだと、俺は考えていた。
というかそれ以外あるのだろうか。
アメリカという特殊な土地で撮影するために、偶然にも武器を持ってきていてよかったと心から思う。
(ふぅ…大丈夫だ、俺。落ち着こう。なんとなくだけど、彼らからは織田さんや新木さん、それにガスコイン神父ほどの脅威を感じない。何とかなる。)
三人はトライアングルを描くように立っている。
先頭に片手直剣、俺から見て右に大剣、左に手斧だ。
先頭に立つ片手直剣を持つ男が、早速こちらにゆっくりと近付いてくる。
まるで周囲の呼吸が聞こえるかのように、先頭の男がこちらににじり寄ってきているのが理解できた。
シェル達との一件を越え、行動の初動を読むのがかなり上手くなった。
これも新木さんや織田さんのおかげだろう。
死地に赴いた時の学習能力が大幅に上がるのが、人間のいいところだ。
もしかするとそれは俺だけかもしれないけど。
いつも通り余計なことを考えていると、片手直剣が一気に距離を詰めてきた。
そしてそれと同時に、背後にいる手斧がこちらにナイフを投げてきた。
飛び道具を想定していなかったが、俺はそれを刀の"夢霧無"ではじいた。
俺が投げナイフをはじいたタイミングに合わせ、片手直剣が一気に距離を詰めてきた。
多対一の戦闘経験はなく、素直に連携に関心してしまった。
しかし、俺も成長している。
はじいて足元に落下したナイフを"リモコン"で操り、接近してきた片手直剣の脹脛に飛ばした。
ブズッ。
片手直剣は俺の方を警戒していたので、足元のナイフに対する警戒はおろそかになっていたようだ。
「…ッ!!!???」
ナイフには毒が塗ってあったのか、片手直剣は焦った様子で脹脛に刺さったナイフを引き抜く、その様子を仲間も目で追っていた。
俺は"筋力強化"を発動し、片手直剣の顎を夢霧無の峰でかちあげた。
脳震盪に陥った片手直剣は、その場で空を見上げながら崩れ落ちる。
俺はさらに踏み込んで、片手直剣の後頭部を普通に裏拳した。
絶妙な調節の"バックスタブ"だったと思う。
片手直剣は動かなくなった。
後は頸椎が負傷していないことを祈るだけだ。
俺はすぐに投げナイフを持っているであろう手斧に接近。
集団戦では遠距離攻撃手段を持っている奴を優先的に狙う。
ゲームでよくあるセオリーだ。
手斧は焦った様子で後ろに数歩下がろうとする。
そして体勢を制御しきれず、手斧は物の見事にバランスを崩した。
追撃をかけようとするも、それを防ごうとする俺の真横に立つ大剣が、剣を大振りに薙いだ。
事前にそれを察知していた俺は、踏み込みを絶妙に調節している。
あくまでも手斧に集中していると見せかけ、ブラフを張っていた。
大胆に横なぎに振るった大剣が、そのまま俺の体を通り過ぎた。
手斧は俺を通り過ぎて目前に迫る大剣を見て目を見開く。
それでもギリギリで反応し、手斧はなんとか自分の武器で大剣を防いだ。
しかし、片手武器の手斧かつバランスを崩したその状態では斬撃を完全に受け止めることは不可能であり、手斧はそのまま転倒した。
背後からという位置関係を利用する為、必殺の一撃並みに大振りだった大剣が体勢を立て直す前に、俺は大剣の方に向き直った。
そのまま顎目がけて横なぎに夢霧無を振るう。
だが以外にも、大剣は身をかがめてその一撃を躱した。
大きな武器を持っているのは、動体視力に自信があるからなのだろう。
「クソッ!?」
数的有利を失った大剣はそのまま身をひるがえす。
撤退を選択するタイミングとしては無難だと思う。
俺はすぐさま失神している片手直剣の足元に落ちているナイフに再び"リモコン"をかけた。
そしてそれを背を向けている大剣へと放った。
しかし瞬間、それは起こった。
大剣が駆け抜けていく方向の空間が突然歪み、まるで布をはがすようにもう一人、暗殺者が現れた。
彼は先端に美しい石が付いた杖を持っていた。
おそらく"魔石"だ。
グランディア産乾電池とでもいえば分かりやすいのかもしれない。
「"土壁"」
土の壁が地面から盛り上がり、毒ナイフをはじいた。
「"地震"」
そして次の瞬間俺の足元が揺れた。
敵はそのまま撤退を選択するかと思いきや、戦闘継続を選択したらしい。
このまま距離を取られては俺の方が不利だ。
おそらく使用した"筋力強化"で俺が無属性適正だと見破られたんだろう。
遠距離攻撃手段がほぼ無いため、魔法という勝機を見出されてしまった。
ぶっちゃけ的確な判断すぎる。
「"土球散弾"」
土壁から一斉に土の球が散弾上に放たれた。
だがそれと同時に地面の揺れが収まった。
魔法の授業で強化魔法以外は、平行使用するのが困難だと習った。
おそらく目前の魔法使いも例外ではないんだろう。
揺れが収まったその瞬間、俺は踏み出した。
それと彼らにとっての最大の誤算は、俺の"フレーム回避"だろう。
敵の魔法は新木さんの縮地よりも遅い。
問題なく俺の認識範囲だ。
俺はそのまま散弾の中を走り抜けた。
土壁を散弾に変え使い果たした敵が驚くのが見える。
その隙を逃さないように、俺は一気に敵との距離を駆け抜けた。
魔法使いが再び距離を取るために、大剣が前に躍り出てきた。
「残念ながら狙い通りなんだな、これが。」
俺の体をすり抜け、先ほど落下した毒ナイフが飛んで行った。
それは正確に大剣の腿へと深く刺さった。
激痛から一瞬だけ大剣の動きが止まる。
俺はそのまま大剣の体を走り抜けた。
フレーム回避に回り道は必要ない。
最短距離で魔法使いの元へと到着。
咄嗟に魔法使いが魔法を使おうとするも、ガン無視で真正面からぶん殴った。
いくら子供の力でも、"筋力強化"があれば侮れないだろう。
魔法使いはそのまま後方へと吹っ飛んだ。
そして動かなくなったことを確認した後、大剣の方へと向き直る。
大剣はその表情を歪めながら、俺の方を見ていた。
「クソガァァァ!!!!」
マスクの上からでも大剣が決死の覚悟であることが分かる。
彼はそのまま俺へと全力疾走してきた。
そう、ももにナイフを刺したままで。
俺は"リモコン"で腿に刺さったナイフを少しだけ回転させた。
「グァッ!!!???」
大剣は激痛でその場に転倒した。
俺は倒れている魔法使いからベルトを奪い、それを大剣の方へと投げた。
もちろん"リモコン"操作されているため、ベルトは大剣の両腕を拘束した。
さらに毒が回ってきたのか、大剣は倒れて悶えている。
俺はすぐに描絵手へと視線を向けた。
すると丁度片手直剣の解毒を終えた描絵手が、こちらに走ってきていた。
「流石に人は殺したくない。」
俺は一応大剣の後頭部に夢霧無を振るって意識を奪った。
これで解毒されても、しばらく目を覚まさないだろう。
こちらまで近づいてきた描絵手が治癒魔法を行使する。
数分ほどで治療を終えると、描絵手は不安そうにこちらを見てきた。
「やっぱり…私が狙われているのかな。」
「…さぁとりあえず分からない。」
俺は近くに倒れている大剣のローブとマスクを剥いだ。
すると男の耳は長く、エルフだということが分かった。
「あのライブ放送で牽制できたのは地球側の人間だけだった…ってことかも。」
「つまり、グランディアのどこかの勢力が私を?」
「おそらく。」
「はぁ、前途多難だな。私の人生。」
「大丈夫、俺も付き合うよ。」
「エッ???そ、それってどういう…?」
「え?いや普通に描絵手のことは守るっていう意味だけど。」
「…そう、そうだよね。」
描絵手の顔色の変化はいつも通り激しい。
もしかすると何か事情があるのかもしれないが、俺の思考回路は現在この謎のローブ達にすべて割り振られている。
なかなかどうして、上手く行かないものだ。




