11-7
駆け出す大剣の男。
それに対しミーシャはその場に立つのみ。
構えもせず、それどころか特に何もせず。
ただただ、立ち尽くしている。
「余裕の表れってか!?」
大剣の男は、走る勢いを活かしつつ、ミーシャの頭に大剣を振り下ろした。
本来なら鉄、それ以上の硬さのものも分断できる威力だろう。
だがその動きはミーシャの前で止まる。
いや、正確には“止められた”
男の攻撃もとい武器の刀身は、厚い氷の壁によって阻まれかつ氷漬けとされ、一寸も動けなくされていた。
「これはいいゼェ!!」
男は不敵な笑みを浮かべながら、剣に力をさらに込める。
力ずくで氷を壊し、そのまま攻撃をする為なのだろう。
次第に「ピキッ……ピキッ……」という氷の割れる音が聞こえてきた。
氷の壁が割れそうだとわかるや否や、男は力を更に込めて振り下ろそうとする。
ーーだが、男の考えは甘過ぎるものだった。
剣に纏わりついていた氷は、次第に上へ上へと上がってきていた。
刀身から鍔、鍔から柄。
そして柄から自身の手へと。
氷が迫ってきていた。
「チッ!」
男は舌打ちをしつつ、武器を固く握りしめた。
彼がするのは下手な回避ではない。
恐らく氷を避けようと振り上げてしまったら、ミーシャから攻撃が来る。
しかしそのまま敵を攻撃しようとしたら氷が身体まで上がり、最悪自身が凍ってしまうことになる。
ならば取るべき行動はこれしかないだろう。
そう思っているのか男は力一杯込めたまま、剣をミーシャから逸らし地面へと叩きつける。
そしてそのままの勢いで剣を軸にし、ミーシャに向けて回し蹴りを放つ。
振り下ろした勢い、剣という支え、意外性の一撃。
全ての条件が相まって、難なく遠くまで蹴り飛ばしていた。
「あっぶねぇな!」
男は体勢を立て直し、武器を構え直す。
見るに武器には氷が付着しているが、凍りついている訳ではない様子。
少し安堵しつつも、男はミーシャが起き上がるのを待った。
蹴り飛ばした先までまともに見ることはできなかった男。
おそらく方向や音的に、近くの壁に叩きつけられている筈なのだが中々現れない。
もう倒したのだろうか。
頭の中にその言葉が思い浮かぶが、すぐに否定をする。
理由は単純明快、男の背後をとってミーシャが攻撃をしたからだ。
男はなんとか剣で首筋にきた攻撃を防ぐも、またもや氷が襲いかかる。
今度は極寒の冷気付き。
一瞬意識が飛んでしまうが、持てる力を振り絞り敵を押し退ける。
しかし今度は先程までの威力はなく、少し後退させる程度にとどまった。
されどその後退が膠着を生み出す。
互いに武器を構え、互いに睨み合う。
辺りは緊迫した空気に包まれた。
「へへっ!」
男は思わず笑みを溢す。
思いもしない最強の武器との戦い。
装備者も筋は悪くないときた。
戦いが好きな男にとって、今の状況は正に至福と言えた。
どうやって敵の氷を掻い潜るか。
敵の速さにどう食らいついていくか。
考えるだけでも男は興奮し、喜びに満ち溢れた。
「さーて、改めてどうすっかな」
男の得意な戦法は、小細工なしの一方的な力による制圧。
しかしながら、ただあのまま攻撃しては剣が凍りつき、下手をすれば自身が氷の彫刻と化してしまう。
それでなくても氷のせいで武器が使えなくなるのが問題。
他の攻撃方法や魔法等があればいいのだが、生憎男は剣しかできなかった。
多少格闘技はできるがあくまで緊急時、主力になるほどの威力や練度は無い。
先程は不意打ちという事もあり攻撃が通ったが、平常時だと大半敵の武器によって防がれるだろう。
……ならば武器を破壊されず、自身を凍らされないように戦わなければならない。
予想していた以上に敵が強いと理解した時、思わず男は口角を上げた。
「いいじゃんか、いいじゃねーか、こういう強敵!これこそワクワクするゼ!!」
男は武器を引きずりながら、またミーシャに駆け出す。
しかしただ近付く訳ではなかった。
炎。
敵の吸糖鬼を焼き倒した炎、地面にあった残り火。
それを自身の剣に纏わせてから剣を振り上げた。
「氷ごと燃え尽きちまいなァ!!」
力を込めた男の攻撃。
だが惜しくも受け止められ、敵の頬を軽く掠めるだけで終わってしまった。
しかし男は不敵な笑みを浮かべる。
男が予想した通り、ミーシャを覆う冷気が弱くなり、氷自体の威力も明らかに落ちているように感じられたからだ。
ーー勝機は今。
そう全身で感じ取った男は、力ずくで敵のガードを崩すと、その勢いのまま全身全霊で武器を振り下ろした。
今度は地面ではなく、しっかりとミーシャに向けて。
「どりゃあぁ!!」
彼女の頭を捉え、振り下ろした剣。
だが咄嗟に防がれ、切断する事はできなかった。
しかしとて全力を込めた正に「渾身の一撃」。
ミーシャはその威力に吹き飛び、またもや壁へと強烈に叩きつけられてしまう。
「いくら能力が強かろうが、脅威であろうが!全て力で叩き伏せ、勝てばいいだぜェ!!」
まるで狂戦士のように狂った笑いをして喜ぶ男。
勝ちを確証したからなのか、戦いを楽しんでいるからなのか。
とにかく男は嬉々としていた。
優越に、歓喜に、勝利に。
ーーしかし私という存在によって、それは全て終わりを告げた。
「なっ……!?」
ザシュッという腹を貫く音。
男が何が起きたのか実感する前に、私は男の影から姿を現し、すぐ腹から武器を抜いた。
私の正式武器である鎌を、ね。
……あら、大切な武器に血がついてしまっているわ。
汚らわしいけれども、喉も渇いている事だし、味見でもしてみようかしら。
私は武器に滴る血を口元に持っていき、その血を丁度一口分飲む。
「あら、意外にも糖党だったのね。血が甘過ぎよ」
「て、テメェは王女か……!?」
「ご名答、褒美よ」
私は武器の腹部分を使って、先程飛ばされたミーシャと反対側の方向へなぎ飛ばす。
そしてそのまま壁に寄りかかり、座って項垂れているミーシャの元へと歩いて向かった。
「我が従僕、起きているかしら?」
私は声をかけるが、聞こえてないのか。
流石にカチンときた私は、頭をアイアンクローで掴み上げ、こちらに無理やり顔を向けさせた。
「いっ、痛いですよ、我主!!」
あら、やっぱり気付いているじゃない。
全く、いつもだったら即刑ものだけど、今回はまず良く反省させないとね。
「あんた、いい加減周りが見えなくなったり、極端な考えになるのをやめなさいよ」
「えっ?」
「私捉えられて、自分と敵に憤慨したんでしょう?そうでもなきゃ自滅技なんか使わないわ。キノコのことと言い、好きなものに何かあると周りが見えなくなるんだから、全く!」
そう言って私はアイアンクローを外して立たせると、少し強めにおデコを小突いた。
マモリは「いたっ!」と短く悲鳴を上げると、うーうー唸りながらおデコと掴まれていた部分をさすり始めた。
でもやっぱり自分が悪いのだと理解しているようで、特に何か言うことはしない様子。
ちゃんと反省しているなら、今はそのくらいのお仕置きにしておいておきましょう。
「ーーそれよりも今はコイツらだし、ね」
私は改めて正面を見る。
腹部をおさえている大剣男、“磔にされて身動きが取れない”フード男。
あっという間にこっちが優勢、形勢逆転ってところかしら。
「な、何故貴方がここにいるんです!?」
フード男が声を荒げて叫ぶ。
それに対し私は思わず笑ってしまった。
何故笑うのか、何て言われる前に私は明らかなる殺意を込めながら言った。
「あんたら、私を舐めすぎじゃない?『常闇の王』『生と死を越えた者』『怪物の中の怪物』ーーなんて呼ばれるのが吸血鬼なのよ。あんなセキュリティ、怪力が有れば、影に潜めれば、眷属を使えば。ただの紙切れと同等だわ」
「…………」
フード男は悔しさからか、はたまた私に圧倒されてか一言も話さない。
別な理由があるかもしれないけれど、この際気にしないことにするわ。
だって全てが無意味だもの。
逆転の策があろうが、強き味方の増援があろうが、並外れた幸運が訪れようが。
本気となった、確実に倒すと誓った私には誰にも勝てない。
策を、強敵を、幸運を、その他総べてを。
完全に一切の妥協も油断もなく、ねじ伏せる。
ただその結末だけしか確実に訪れない。
この武器をとったからにはね。
「さぁて、残虐ショーを始めましょう?どんな策でも技でも力でも魔法でも、なんでも受け止めてあげるわ。そして全て無に還してあげる」
自分を辱めたこと、仲間を傷つけたこと、部下を追い込ませたこと。
「それで全部チャラにしてあげるわね」
償わせるのには死亡ですら生温いわ。




