10-5 [右側防衛戦]
『ショウ、またすまないわ!』
宇佐美様の魔法を見届け、残っていた敵を一掃する手伝いが終わった時。
またシーメルから脳内に直接電波が来た。
確か一方通行だった筈だから黙って聞いているとしよう。
『今度はこっちでちょっと問題が起きたわ。申し訳ないけど来て頂戴!』
「了解っと」
俺はすぐシーメルがいる右側の方へと向かう。
にしても右側で問題か。
前衛が少ないとはいえ、実力があるメンバーが揃っていた筈なんだが。
本当に予想外の出来事が起きたのかもしれないな。
これは急がないと、と移動を早めるがすぐ足が止まった。
理由は簡単、その理由が分かってしまったからだ。
「うが……ぁ……」
半壊しかけの採掘機械。
夥しい数の敵の死体。
ボロボロになり、膝をついている3名。
そして。
今唸り声を上げた、狐耳と狐の尻尾を生やし、暴走状態になっているーー
ミーコさんの姿であった。
「これはどう言うーー」
周囲に確認を取ろうとした時、ミーコさんがこちらに向かって飛んできた。
まるで弾丸のように、尋常じゃないスピードで。
「くっ、これは無理だ!」
俺は自動防御を使って、何とかその攻撃を防御する。
が、ミーコさんは着地したと思うと、生き物にはあり得ない挙動で切り返し、こちらに爪で切りかかってきた。
今度は何とか定規で受け止める。
だが予想よりも攻撃が重い!
武器が壊れる前に何とか受け流し、ミーコさんを字面に叩きつける。
ーー叩きつけられたのだが、そのちょっとの反動で浮いたのを使い、回転。
また、こちらに襲いかかってきた。
「何だこれぇ!?」
思わず叫んでしまった俺。
だって防御が程いっぱいで何もすることができないのだ。
攻撃も回避も、会話も起死回生の一手も。
「助かったわ……!」
そんな時、人影が俺の目に映る。
それは武器を構えたシーメルであった。
「風狼の牙!」
武器から放たれた風はミーコさんを包み込み、遠くにある壁まで突き飛ばした。
だが今回はそれで技が止まることはなく、ミーコさんを押しつぶすように風の狼は攻撃している。
「簡単に説明するわ。大型エネミーを倒したら、効果なのかその敵がミーコさんに憑依してしまったの。そしたらこうなちゃって、私たちはやられかけてたワケ」
「作戦はあるのか!?」
シーメルの事だ、おそらく元に戻す方法があるから俺に加勢したのだろう。
そうじゃなければ俺を囮にしている筈だし。
「ええ、そのご期待通り、策はうってる!けどまた耐久戦よ。辛いなら離脱して頂戴!」
「まさか、ここまま戦うさ」
「頼もしい事だ、わッ!!」
シーメルは使っていなかったもう片方の武器から風狼の牙を放つ。
その攻撃はミーコさんのところに行き、2匹の狼は合体、巨大な暴風の大狼となった。
「名前をつけるなら『風大狼の双牙』ってとこかしら」
そんな新技はミーコさんをさらに強い力で押し潰していく。
だが、しかしである。
段々と風大狼の双牙の威力が弱まっていく。
単純明快、ミーコさんが技を打ち破ろうとしていたからだ。
「ショウ!」
シーメルは俺の名を叫ぶ。
「さっき間を作ってくれたお陰で全員回復できたんだけど、惰之がそろそろ完全回復、復帰すると思うわ」
つまりは無理やり持たせるから、その後何とか二人で耐えなさいって事か。
そう思うと、「そのとーり」とシーメルは言った。
「分かった、とでもいうと思うか?俺も援護するぞ!」
俺は定規を構え直す。
本当ならサポート系の技や、風系の技で威力上げに貢献したかったが、生憎その様な技は無い。
できるのは単純、脳筋が如く高火力で敵を倒すだけだ。
「アンタ、何する気!?」
なーに、まだ考えていただけで未使用の技を試すだけさ。
俺はいつもの様に武器を天高く掲げる。
武器が光に包まれるが、いつもの様に剣の形ではなく巨大な戦斧の形をしていた。
いつでも攻撃できるのだが、出来るだけ溜めておく。
放つタイミングはシーメルの技が消えてしまった時だ。
「……今か!」
シーメルの技、風大狼の双牙がミーコさんの攻撃によって消えてしまう。
そのタイミングで間髪入れず攻撃を仕掛けた。
「光、断、全、転!」
光の戦斧をミーコさん目掛けて投げる。
高速で回転するそれはミーコさんに当たるも、受け止められている。
だがその回転のおかげで停止までには至らず、必死に止めようとしている様子がここからでも見てとれた。
「これなら時間稼げるだろう?」
「アンタねぇ、武器無くすような攻撃してどうすんのよ!?」
珍しくシーメルが声を荒げて怒る。
よほどシーメル的には予想外な行動だったんだろう。
まぁ分からなくも無いが、ちゃんとした理由があってこの技を選んだことは付け加えておこう。
「……どういう意味よ」
「それは今から分かるさ」
そう言って俺はミーコさんの方を向く。
丁度その時、攻撃を両手で受け止めきり、地面に強く叩きつけようとした。
が、戦斧はまた回転力を取り戻し、ミーコさんの方へ向かっていく。
「!?」
またも受け止めるが、やはり回転はすぐ止められない。
「この技、何回か止める行動しないと完全に止まらないんだ。この様子的に倒すことはできないだろうけど、時間は稼ぐことはできるだろう?」
「いや、甘いかもよ。その考え」
バキン!
「えっ?」
俺は突然聞こえた音の方を向く。
そこにいたのはミーコさんで、何回も俺の攻撃を止めては壊し続ける姿だった。
まさか力ずくで俺の攻撃を防ぐつもりなのか?
そんな馬鹿な、と思っていた刹那、俺の攻撃は見事撃ち落とされた。
狂った獣の眼で睨むミーコさん。
俺は背筋に悪寒を感じてしまう。
ーーこれはヤバイ、このままだとやられる!
確信した瞬間、ミーコさんはまた弾丸の様にこちらへ飛んできた。
「俺をシカトするナってナ!!」
目前まで迫り、やられるのを覚悟し目を瞑ってしまった時。
不意にその声が聞こえた。
全く感じない痛みに、疑問感から目を開けてみると、そこには惰之が立っていた。
正確には、飛んできたミーコさんを拳一つで打ち落とした惰之が。
「惰之!」
「おかげで全回復したヨ!……さっきは不意打ちでやられたカラ、今からは一方的にやっていくネ!!」
そう言って構え直す惰之。
すぐ様起き上がるミーコさんだったが、それよりも早く惰之は擦り寄り、腹部にかかと落としを一発入れる。
衝撃で少し浮いた体を手の先ですくい上げ、そのまま掌底打ち。
ミーコさんの体は吹き飛ばされた。
「まだ行くネ!」
惰之は吹き飛ばしたミーコさんに“追いつき”、肘打ちをまた腹部に当てる。
地面に強打するミーコさん。
だがまだすぐ切り返し、今までの仕返しと言わんばかりに襲いかかる。
「遅イ」
素早い切り裂きの一撃だったが、惰之はこれをカウンター。
相手の顎部分を的確に打ち抜いた。
脳が揺れたのか、ようやくふらつくミーコさん。
「お待たせ、準備できたわ」
そんな状況下、背後からイーレがゆっくりと現れた。
「さて、封印してくわよ」
両手に持った二枚の札を、ミーコさんに向かって投げる。
その札は足とお腹に貼りつくと、包帯の様に伸び、体を束縛した。
更にもう一枚、今度は頭目掛けて投げると、おデコにピタリ貼りついた。
「封魔封陣!!」
ミーコさんの体が淡く紫色に光ると、徐々にその体はいつもの姿に戻っていった。
「お疲れ様、終わったわ」
それを聞いて一気に倒れこんだ俺、シーメル、惰之。
ああ、思った以上に疲れた……。
「こっちはミーコの暴走もあって大体倒してるからね。少しエイレや左側の手伝いに行こうかしら?」
シーメルは周りを見ながら呟いた。
確かに周りに敵はいない。
だったら他のところに援護行った方がいいだろう。
俺は立ち上がり、未だ応援に行っていないエイレの方へ行こうとした。
だが、無理だった。




