10-5 [左側防衛戦]
「大丈夫ですか!?」
ものの数秒で左側についた俺。
しかし思っていた以上に戦況は悪いようだ。
中型の獣系エネミー大勢、大型も同様の獣系。
先程のウェアウルフのように指示を出し、連携をとって行動しているようだ。
一方のこちら陣営。
5人とも疲弊しているようで、倒れてはいないものの残り体力がわずかそうだった。
「ショウさん!」
唯一今手が空いていて、かつ比較的軽傷だった宇佐美様が近寄ってきた。
「何かできることはある!?」
「できれば時間を稼いで欲しいです。術を準備する時間が……」
「分かった!」
それだけ聴くと、俺は敵の群れに突っ込んでいく。
おそらく宇佐美様がしようとしているのは間違いなく呪文だろう。
永久に亘る罪の物語。
前作最高の魔術群「三魔」のうちの一つ。
俺が覚えている中で2回ほど使っているはずだが、それらはまだ序章に過ぎない。
この永久に亘る罪の物語は合体呪文として撃つ事もできるのだ。
威力はイーレの術を軽く超えるものもある。
それが決まったら何とか持ち直せるだろう。
だったら頑張らないとな!
「とりゃあッ!!」
手近なエネミーに斬りつける。
胴体を目掛けて斬ったのだが、単純に硬いのか傷が浅い。
こりゃあ、反撃きそうだな。
俺はそう予測して、着地後すぐバク転をする。
すると丁度そのタイミングで攻撃が飛んできた。
「あっぶね!」
2回ほど回転したのち、その回転力を生かして敵の一体に斬りつける。
今度は回転と着地の力もあって、結構深めに斬ることができた。
だが逆にすぐ抜けないくらい奥まで入ってしまったようだ。
これが勝機と言わんばかりに、周りと剣が刺さった敵が俺を襲おうとする。
「ちぃっ!」
俺は剣を思い切り地面に向かって押し込み固定、敵を一体倒す。
残りの敵が飛びかかってきたタイミングで、剣を軸に回転蹴りを放つ。
敵を撃ち落とした事を確認するとすぐに着地、地面から剣を引き抜いて倒せる範囲で急所を刺し倒す。
丁度2体目を倒したところで周りが復帰、再び襲いかかってくる。
「きりない、なッ!!」
相変わらず飛びかかりをするエネミー。
ダッキングやウィービングような動きを取り入れながら左右に避けつつ、倒せそうなエネミーを攻撃する。
だがやっぱりキリがない、まるで雪崩のように押し寄せてくる。
「ショウさん、援護ッス!」
そんな時、後方からブンコさんの声がした。
俺はその声を頼りに、ちょっとした敵の隙をついて飛び上がる。
すると銃弾の雨が敵を葬っていった。
【無事です!?】
敵がいなくなったところに着地すると、ブンコさんとリティルが近づいてきてくれた。
二人を見るに結構ボロボロだ。
特にブンコさんがひどい。
「気休めだけど、これ使うね」
俺は全体回復剤を使う。
リティルとブンコさんの傷はみるみるうちに治っていった。
「すまないッス。攻撃挑発使ってヘイト稼ぎしていたからヘロヘロだったッス」
【私も助かりました。ありがとうございます】
「大丈夫!さあ次行かないと!!」
俺が一人焦っていると、ブンコさんは手を出し俺の動きを止める。
そして一言。
「それこそ大丈夫ッスよ」と。
「サンダークラウド!!」
詠唱の声が聞こえ、俺はその方を向く。
するとそこには雷系の魔法を撃とうとするラギリさんの姿があった。
「行ってください!」
ラギリさんの魔法は雷系でも高威力の魔法。
暗雲が立ち込めたかと思うと、青い雷が敵達に落ちていった。
「これで時間を稼いで、宇佐美さんの魔法に繋げるッス」
「成る程、これは助かるな。……そういえばミーシャさんは?」
【彼女は大型敵のヘイトを担当しています。前衛職だからと請け負ってくれたのです】
という事は宇佐美様の魔法まで一人で耐えるつもりなのか。
流石にそれはさせられない。
「二人とも、俺はミーシャさんの援護に行ってくる」
「じ、自分たちも行くッス!」
ブンコさんとリティルはついて行こうとする。
だがいくら回復したとはいえ結構ダメージを負っている身だ。
「いや、今しかないから休んでてくれ。俺はまだ問題ないからな」
一方俺はまだダメージも受けてないし、スタミナも十分ある。
俺は納得してくれるよう頷くと、二人はその場に座ってくれた。
【分かりました。後、呪文発動まで3分くらいかと思います。申し訳ないですがその間お願いします】
「了解、任せとけって」
◇
俺は大型敵の近くに降り立つ。
ミーシャさんは……足元で立ち回っている。
こちらも結構ダメージを受けている様子。
「さて、いくか」
定規を握り直し、敵へと駆けていく。
丁度タイミングよくサンダークラウドが大型エネミーに当たっていた為、こちらには気付いてないようだ。
好機、好機!
俺は敵の懐に潜り込み、左側後ろ足のところに立つ。
深呼吸をした後、めいいっぱい力を込めて斬り抜いた。
「ギャアォ!?」
腱辺りを狙った事もあり、敵はこちらへと崩れ倒れる。
その隙にミーシャさんと合流をした。
「大丈夫ですか?」
「うーん、なんとか。ありがとうね」
回復剤を使いながらミーシャさんは答えた。
こちらとしてもアイテムを使ってあげたいが、もう無くなってしまった後。
こういう時に支援できないのは歯痒いな。
「ふぅ、一休みできたからお姉さん助かったわ。さて、続き行こうかしら」
そのセリフを聞いて敵の方をむこうとしたら、それより先に咆哮が聞こえる。
大型のエネミーが立っていた。
腱を斬ったのに、なんで立っていられるんだ?
俺の意外そうな顔を見て、ミーシャさんが説明をしてくれた。
「この大型エネミー、自動回復ついているらしくてさ。HPは回復しないけど、状態異常や行動不可になる外傷なんかすぐ治っちゃうみたいなのよね」
……なんて面倒臭い敵なんだ。
HPが回復しないのが唯一の救いだな、ほんと。
「さ、そろそろ動きそうね。ショウ君、背中は任せたわよ」
「了解です!」
俺とミーシャさんは一気に駆け出す。
「ヘイトガード!」
ミーシャさんは初手に自身にヘイトを集めるヘイトガードを使う。
成功したようで、敵はミーシャさんに向かって攻撃を始める。
俺はというと、また腱や爪の間など動けなくなりそうなところを狙いつけていた。
「ここかな!」
俺は敵がミーシャさんに攻撃したタイミングを見計らい、着地したばかりの右奥足に攻撃を仕掛ける。
が、浅い。
表面を傷つける程度にとどまってしまった。
「グルルル……」
攻撃した事で、ヘイトが俺の方に向いてしまったようだ。
俺の方を睨み、前足を振り上げ襲いかかってきた。
「避けれるといいなッ!」
俺は横に思い切り飛ぶ。
直後その場所に振り下ろされ、小規模なクレーターができていた。
うん、これは食らったら即死だわ。
いくら強化してるとはいえ、この威力なら恐らく駄目だろう。
「ショウ君!」
ミーシャさんが俺を呼ぶ。
……成る程な、了解した!
俺はミーシャさんの方へ思い切り走る。
敵は俺を攻撃しようと追いかけてきた。
だが幸い攻撃する範囲外のようで襲っては来ない。
無事ミーシャさんと合流できた。
「さぁ、罠に引っかかって貰いましょう!」
襲いかかるエネミー。
しかし俺らの目の前に来た時、急に地面の中に潜ってしまった。
いや沈んでしまった、というべきだろう。
「これはどうやって?」
「熱で機械床を溶かし、地面の奥深くを液体化させる事で即席落とし穴作ったの」
成る程、そういう使い方も中々面白い。
これは勉強になったなー。
「ってやってるうちに……頃合いだな」
俺はもがき苦しむ敵ではなく、宇佐美様がいるだろう方向を向いた。
そこには床に大量の魔方陣を展開させ、詠唱を始めようとする姿があった。
持ち堪え完了、後は敵さんにはたらふく魔法を食らってもらうとしよう。
「ーー私は紡ぎます。悲しき少女達の唄を」
そう宇佐美様が言うと、魔法陣はそれぞれ光出していく。
「嫉妬に狂う妖艶な大罪人は自ら炎を纏い」
一つ目の赤い魔法陣から炎が敵に向かって飛び出す。
まるで恋人を求める執念深い恋人の如く。
敵に当たっては絡みつき、敵に当たっては絡みつき。
「別れた双子は一人は苦しみの内に風へと至り、一人は救いを求めて大地へと戻る」
二つの魔法陣、緑とオレンジ色の魔法陣から風が舞起こり、土を巻き上げていく。
それはまるで氷の嵐のように、敵を少しずつ傷つけていった。
「悲しみの乙女はその雫を川となるまで流し続け、栄光ある女王は失意の内にその輝きを地に落とした」
今度は青と黄色の魔法陣から水と光が溢れ出す。
それは敵を包み、もがき苦しんでも全く離れる気配はなかった。
「彼女らに永遠の安らぎを、彼女らに恒久な平和を。楽園に至れるように、永遠に続くように。私の力でその扉を開けましょう……」
その内に5つの魔法陣は空中に浮かび、重なり合う。
それは扉の形に変化した。
「天国へ至る祝福の門」
ガチャリと大きな音が鳴ると、空から白い門が現れた。
今まで魔法陣から出てきたモノ達が、敵をも巻き込みながら門の中へと入っていく。
門が閉じる瞬間、楽しそうな少女達の笑い声が聞こえた気がした。




