表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/104

8-6

ふと、目を覚ました。


頭部に鈍痛を感じながら起き上がり、近くにあった時計を確認する。


時刻は午後8時20分あたり。


エイレに枕で頭部強打、そしてその後かかと落とし食らい、その場で気を失ってから僅か約10分後のようだ。


うーん、何故俺だけ最後かかと落としされたのだろうか。


いや、他の人にはかかと落としなんて事出来ないだろうけどさ。


人気芸能人と、公務員と、王族だし。


でも理不尽を感じます。


「ってあれ、他の面々がいないな」


そんなことを考えつつ、頭をさすりながら他に変化がないか見てみたのだが、周りに誰もいない。


散らばってる枕と布団のみ。


人がいる雰囲気もないような気がする。


「どこに行ったんだろう?」


何かないものかと探してみるが、特に見つからない。


テーブルにも散乱された枕があるだけだ。


……しょうがない、一旦手洗いにでも行くかな。


俺は大部屋から出て、玄関のところにあるトイレへと向かった。


すると、だ。


「あ、ここにあったのか」


靴箱の上に小さなメモ用紙があった。


おそらく書き置きだろうな、と思い確認。


『一人へばっていたから置いて、みんなでお風呂に行ってるわ。あ、そうそう。屋上に特別な温泉があるからそこにいってみたら?貸切だし、一人で(くつろ)げると思うの』


そんな言葉が可愛らしい丸文字で書かれており、最後に「byエイレ」とあった。


文字はこの際感想放棄するとして、貸切の温泉かぁー。


確かに一人で温泉入れるなら願ってもないことだ。


でもエイレが書いたとなると、ちょっと裏的なのがありそうで怪しいんだよね。


マニとエイレは信用するな、これがこれまでの関わりで出した、俺の中での結論だし。


けど……


「まぁ、でもたまには素直になってみるかな」


枕投げで汗だくだし、何よりちょっと特別だというところが気になる。


俺は自分のタオルセットを持って、その温泉の場所とやらに向かった。











皆様、ご機嫌麗しゅう。


突然ではございますが、狂言回しはこの私、エイレルベール・フォン・ルディア・オータク二世が務めるわ。


え、何故急に変わるのか、ですって?


それは今、ショウとマニにちょっとしたサプライズを用意していたからなのよ。


なんだか焦れったいから、私達で背中を押してしまおうと。


お節介だろうけどそんなサプライズを考え中なの。


だからそのサプライズが成功するまではお付き合いをお願いするわ。


『エイレ様、ショウ様が出ました』


さて、今部屋から少し離れたところで見張っていたマモリから、このような連絡が来たわ。


ようやく動いてくれたのね、待ちすぎて足が枝になるところだった。


「了解、今後は念の為コードネームで呼びあうように。OK?」


『ガード3了解』


『えっと、アイドル2了解です!』


さーて、プリンセス1はターゲットを尾行しようかしら。


バレずにこっそりと行くとしましょう。











部屋から移動を始めておおよそ5分、ショウは“特別な温泉”だと言う場所に辿り着いた。


屋上とあったが外になってるわけでもなく、入り口も特段特記する事がないくらい普通の木製扉だった。


もし1つ言うのであれば、扉の横に“貸切用”という立て札がある事くらいだろう。


本当に変わった温泉なのだろうか、そう疑問に思いながらもショウは中へと入った。


室内もこれまた平凡な脱衣所で、衣服を入れるロッカー、ドライヤーが備え付けられている洗面台、体重計と、最低限の物が置かれていた。


「よし、着替えるか……」


ショウは故障中と貼られてあるロッカーの隣に、着ていた浴衣を脱ぎ入れる。


そして何時もの癖でフェイスタオルで前を隠しつつ、温泉への扉を開いた。


「おおぅ!?」


ーーその先は絶景だった。


行燈(あんどん)が点々と置いてあり、中の灯が揺らめき水面を照らす。


湯気が辺りを包み、霧のように薄く覆っている。


そして真ん丸と大きく綺麗な月と星空。


ショウは一瞬、天国にいるのではないかという感覚に陥った。


それほど美しく幻想的であったのだ。


完全に魅了された彼は、暫く動く事ができなかった。


「……これは確かに特別かもなぁ」


その言葉とともにショウはようやく足を動かす。


備え付けのシャワーで汚れを落とし、早速温泉に足を入れる。


透き通った水は少し揺れながら、ショウを包み込む様に迎えてくれる。


深いため息を吐きながら、彼は身体を湯に沈めた。


「あー……極楽極楽」


フェイスタオルを頭に乗せつつ、ぼんやり眺めながら呟く。


日頃の疲れが全て溶け出して。


思わず微睡む中、ショウの意識はとある出来事で一瞬に覚醒する。


「お疲れの様だね、ショウ」


その出来事とは、第三者の声。


貸切というのに声がするのも可笑しい話であるが、その事よりもよく聴いている声だったという事実が驚きを隠せなかった。


「そっち振り向いて大丈夫?」


ショウは声の主に確認を取る。


短い間の後、「大丈夫だよ」と返答をした。


その答えを何度も噛み砕き、意気込んでから“彼女”の方を向いた。


そこにいた彼女は、短い黒髪に華奢気味な体つき。


タオルを巻いてショウを見下す様に立っていたーーマニの姿だった。


「これってどういう状況だろうね」


マニが若干怒りを入れた声色でショウに尋ねる。


ショウはすっかり元の顔に戻り、嫌気な雰囲気で答えた。


「それは俺も聞きたい。エイレの書き置きにあったから入っただけであって。使用中なんて看板やロッカーも無かったからな」


「私、服をちゃんとしまったわよ?鍵をかけて」


そう言ってマニは右手首に着けてある鍵付きリストバンドをショウに見せる。


暫く彼は考えた後、1つの結論に至り、また深いため息を吐くのであった。


「……これ、エイレらに嵌められたかもな。鍵ついてなかったの故障中のロッカーだけだったもん。マニん時故障中あった?」


「無いわね。……成る程、変な勘違いをした人たちが良かれと思ってやったって事か。だいたい理解できた」


マニもまた深いため息を吐き、ショウの隣に腰を下ろして湯に浸かった。


それから二人は話す事なく、しばらくの間静寂に包まれた。


だが「恥ずかしくて話せない」と言うよりは「面倒臭く、かつストレスが溜まっているから」という様子であった。


実際に彼らは温泉の暖かさで頰が赤くなっているが、表情は氷の様に冷え切っている。


また1つ、また1つとため息だけが積み重なっていく。


こんな状況の中、言葉を口にしたのは意外にもショウからだった。


「なんていうか……こういうのも久しぶりだね」


「……確かにそうかもねー。あの事件以来になるから2、3年振り?成長したもんだわ、私たち」


マニは空に輝く月を見ながら言う。


それにつられてか、ショウも同様に月を見る。


ーーやはりとても大きく綺麗な月だ。


「ここで『月が綺麗ですね』なんて言ったら勘違いされそうだなー」


「それはないでしょうー?私たちは親友であり、悪友であり、幼馴染であるけれど。どんな事があろうとそうにはーーならない。それらしい行為はしても、こんな状況になったとしても」


「だよな、第1それが俺らの約束だったし。……寄りかかってもいい?」


「良いわよ。最近それなりに頑張ってるし、たまには甘えたいでしょう?」


「ありがとう、マニ」


「どういたしまして、ショウ」


月明かりの中、彼らは寄り添った。


一見恋人のようで、愛を語り合ってる様にも感じるが。


彼は彼女の肩で、只々泣いていた。


「ある意味いい機会になったわね、ショウ。無理に付き合わすけど頑張りなさいね」


「……うん」


そう言ってにこり笑うマニの姿は美しく、母性をも感じる姿であり。


うっすら頬に涙を垂らすショウは、儚くも絵画の様に美しい笑みを浮かべるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ