表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/104

8-4

えーこいつぁ困った事になりましたな。


(よこしま)な想像をするなと言われて直ぐに、温泉に入るという話が出るとは。


これで混浴なんて話になったらヤヴァいが、館内案内を見たところそれではないようだ。


うーん、残念なような、助かったような。


ともかくだ、何とか冷静を装わないと、マニに紐なしバンジーをやらされてしまう。


頑張れ、俺!


出来るぞ、俺ッ!!


「……あのさ、私が読心出来るの忘れてない?」


「忘れてるっていうかその余裕が無かった感じだな。マニ、一応ごめんって言っとく」


「まぁこればかりはしょうがない、って事にしてあげる。んでアンタも行くんでしょ?」


とりあえず行くかな、と返事をすると、マニは備え付けられていたお風呂セットと、浴衣を俺に投げてきた。


サイズは俺ぴったし、風呂セットはバスタオルとフェイスタオルがしっかりと入っていた。


準備はバッチリ、後は向かうだけだな。


……そう言えば、先程から宇佐美様の姿が見えないのだけれど、どうしたのだろうか。


もしかして先に行ってるとか?


なーんて思っていたら、マニは呆れた表情で頷いた、まじか。


「ちょっと散歩するから温泉の場所で合流しません?だってさ。あの人、私たちより子どもっぽいよね」


「それには同感かもしれない。まぁファン的に言わせて貰えば意外な一面の萌えポイントだけど」


「あっそ。アンタも十分キモいわねぇ」


違うわ!そう言いながら俺たちは自室から出たのであった。











温泉のある階に降りてきた俺とマニだったが、入り口でなんとも言えない状況に遭遇していた。


胡散臭いキツネ目のカタコト長身男が、宇佐美様にナンパしておりました。


だけど天然KY気味の宇佐美様、なんという事でしょう、ナンパを華麗にスルーでございます。


というかスルーってレベルじゃない。


「キミ、可愛いネ。この後バーで一杯ドウ?」


「お酒は美味しいですよね!私はギムレットとか好きなんですよー」


「お、おう、そうなのカ。俺は黄酒(ホアンチュウ)とかは飲むゾ。なら今度いいお酒飲めるばーー」


「そういえばここにバーがありますもんね。後で行ってみようかな」


という噛み合ってるんだか噛み合ってないんだかの会話を繰り広げられていた。


これを狙ってしてるんなら凄いけど、天然でなら余計に怖いかもしれない。


前者だとしても相当怖いけどね。


彼もちょっと可哀想に思えるし、宇佐美様の為にもサクッと合流しよう。


「宇佐美さん、おまたせ」


マニが触りあたりなく宇佐美様に声をかけた。


「ア、もしかしてお友達カナ?どう、オシャレなバーでお話でもしないカイ?」


すると返事をしたのは宇佐美様ではなくてナンパ男だった。


どうやら話の通じない宇佐美様からマニにターゲットを変更したようだ。


物凄いグイグイ来ているが、そこは流石のマニ。


完全スルーしつつ宇佐美様をエスコートし、女性の脱衣所へと向かって行った。


入りきる前に、ナンパ男はマニの肩を掴んだが


「その手を避けろクソ野郎が」


というマニ渾身のドス声で完全にビビって手を離しました。


俺も何か話かけられそうだったから素早く脱衣所に向かい、急いで脱衣所のトイレにこもった。


1分、2分、3分、と特に変わった様子はなく。


5分経っても大丈夫そうだったので、トイレから出てみる。


幸いに待ち伏せとかも無かったので、一安心しつつ服を脱いでから浴槽の方へと向かった。


「おおー立派だー」


扉を開けた先にあったのは、とても大きな浴槽だった。


温泉の効能とか種類は詳しくないが、無色透明でとても澄んでいるお湯だった。


これは入るの楽しみだなー


俺は早速洗い場に向かい、身体と頭を丁寧に洗う。


途中ナンパ男を警戒したけれど、嬉しい事に周りに誰もいない素敵な状況だった。


お陰でゆっくりと洗うことができた。


「よし、じゃあ温泉入るか」


俺は早くもタオルを頭に乗せ浴槽へ向かう。


流石に温泉には数名入っていたが、それほど気になるほどではない。


それにイベント関係者って感じの風貌だったから、完全に見知らないってわけでも無かったし。


まぁそれでも出来るだけ離れたところに入りますけどね。


「ふぅー」


というわけで入りました。


体の奥底からじんわり温まってくる感じがする。


あぁー気持ちいい。


特に寝不足だっただけに、このポカポカは最高に気持ちよすぎる。


これは寝落ちしてしまいそう……


「温泉で寝るのはやめた方がいいゾ」


と、ウトウトしていたらナンパ男さんに声かけられました。


勿論、びっくりして「ひゃう!」なんて言う変な声が出てしまった。


そして震えつつも、直ぐ臨戦態勢をとる。


「何もしてないのにそう驚かれたら傷つくのダガ。大丈夫ダ、彼女らの事は聞かないシ、とって食いはシナイ」


「ほ、本当ですか?」


「モチロン。俺は男とかキョーミナイ。興味あるのは人間の女の子だけネ」


その発言はどうかと思うのだけれど、とりあえずは信用しておこう。


俺は一回浴槽の縁に腰掛け湯冷ましをする。


その間にナンパ男さんが風呂の中に入ってきた。


「ふぅー良いお湯ネ。あ、そうそう少年、俺の名前は長惰之(ちょうだっし)と言うネ。これも何かの縁、ヨロシクナ!」


「こ、古見遊ショウです。よろしく……」


ここで握手を求められたので、恐る恐る手を出した。


その手にガシッという感じで握手をした、ナンパ男さん改め惰之さん。


正直色々と苦手ではあるが、信頼は出来ると感じさせる握手だった。


理由は何となくという不確かなものだけれど。


でも、そんな気している。


「うん、ヨロシク。さて、入ったばかりだけど俺は露天風呂に行ってくるヨ。ショウも来るカ?」


この人は信用してみようかと思っていた時、惰之さんからお誘いがあった。


正直な話、コミュ障克服にもなるし、単純な興味もあってついて行きたいところではある。


「も、もう少しゆっくり入りたいので、後で行きます」


けれどまだ、身体が温まってる訳じゃあない。


もう少し温めてから外にいきたいこともあり、やんわりとお断りをした。


惰之さんは「ソウカー」と軽い句調で言うと、その場に立ち上がって浴槽から出る。


「じゃあ、外にいるから後で話そうゼ」


そしてそのように言ってから、外風呂の方へと向かっていった。


「……何だか不思議というか、変な人だなぁ」


思わず口に出した俺。


最初はナンパ男ただそれだけだったけれど、少し話してみて違う印象を感じた。


さっきも言ったけど、信頼を持てるような感じの人。


誠実、そんな最初と真逆のイメージを抱いた。


たかが握手しただけなんだけどなぁ、と色々思考に(ふけ)っていると気付けば20分以上経過。


思わずちょっと長く半身浴してしまった。


そろそろ外風呂に行ってみよう。


俺は一度肩まで浸かってから浴槽を出、外風呂の方へと向かった。


「ほーこれはいいーーはぁ!?」


扉を開けて目の前の光景、木々と岩風呂のコントラストに見とれて。


「わぁ風情あるなー」なんて言おうとしたのに。


なぜ男ども全員が、女風呂と隔ててる木の壁のところ付近でスクラムを組んでいるのでしょう。


思わぬ光景に叫んでしまったじゃあーりませんか。


俺の感動を返せ……


「あっショウ、いいところに来たナ!一緒に女風呂覗こうゼ!」


唖然としてると、スクラムのてっぺんにいる惰之が声をかけてきた。


頂上にいるって事は、主犯は惰之っぽいな。


やっぱりコイツはストーカー変態男だったか。


俺の純粋な気持ち返して欲しいです、はい。


「おーいショウ、覗かないのカ?」


俺の汚物を見るような目に気付かない惰之が更に声をかけてきた。


……正直興味ないというのは嘘になるけれど、あちらにはマニがいる。


もし見てしまった暁にはすぐにバレ、死よりも恐ろしい目にあうに違いない。


「え、遠慮しておきます」


「えー、枯れてんナー」


そう言われても私は命が惜しいので。


俺は「すみません」と言いつつ、そのまま回れ右をして内風呂に戻ろうとした。


が、ここで気づいてしまう。


「このままコイツらを見過ごしてたら、マニが後で何故止めなかったと言いそう」と。


そして覗いてしまった時と同じ目に合いそうな気がひしひしすると。


それは避けなければならない。


だが、かといってコミュ障の俺が、彼らを説得して止めさせるというのは難しい事だろう。


ならばする事はただ1つ、教えてやるという事。


俺は惰之から見えない位置の壁際に移動、軽くコンコンコンと叩く。


それを何回か繰り返して反応があるのを待ってみた。


すると僅か1分足らずでコ、コンという叩く音の返事が聞こえた。


マニが気付いてくれたようだ。


俺はマニとのサインを思い出しながら、リズミカルに壁を叩いていく。


最後に強めでコン、コンと叩くと、あちらが理解したようで、えらい強くゴン!と叩いた。


……よし、これで俺の身の安全は保障されただろう。


俺は一安心しながら内風呂に戻った。


なお余談。


風呂から上がる時、なんとも言えない絹を裂くような叫び声を聞いたのだが。


一体何があったんだろうなー(棒)


ぼくには ぜんぜん わからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ