6-4
「お疲れ様です」
宇佐美さんが降りてきたエイレにタオルを渡す。
それを素直に受け取り、短く礼を言うとその場に座り込んでしまった。
どうやらエイレも痩せ我慢して動いていた様子。
何処と無く顔色が悪い。
「何か欲しいものある?」
そんな満身創痍に近いエイレに、ミーシャが駆け寄り、心配そうに訊ねる。
対しエイレは、短く「血」とだけ答えた。
「血ですか。ならこれはどうです?」
そう言って近くから何か引っ張り出して来た。
その何かは、なんと気絶したシーメルだった。
「ちょ──」
俺は何とか制止させようとするが、距離が離れていた故に間に合うわけもなく。
思いっきり腕にかぶりつき、血をこれまた思いっきり吸い始めた。
「痛いーっ!?」
流石にシーメルは痛みで飛び起き、思いっきり腕を払う。
その腕が奇しくもミーシャの眉間にヒット。
彼女は目を回しながら、その場に倒れてしまった。
なおエイレだが、払う瞬間に口を離したようで無事であった。
逆に少し血を得たからか、今ではピンピンしている。
そんな元気なエイレさん、背伸びを一回すると、頭を抱えて座っているシーメルの方を向いた。
「悪いわね、少々血を頂いたわ。後でお詫びするわね」
「なら別に良いわよ。だけど相応の詫びにしなさいよね」
シーメルはむくりと起き上がりながら、エイレの謝罪らしきものに対応した。
うん、これなら状況平和的に解決できそうだ。
密かに胸を撫で下ろし、俺は次なる戦いに備えての準備を始めることにした。
といっても定規だけなのだが。
どうせ石投げの技あるし、強力な武器と技もある。
デースさんレベルなら太刀打ちはできるはずだ。
それに気分もマックス。
防御面が不安だが、負ける気はしない。
「よし!」
準備をすべて終え、大きな声を出し意気込む。
そしてさぁ舞台に上がろう、と振り向いた瞬間だった。
俺の時間は止まった。
「それにしても先程の六道輪廻でしたっけ?随分と凄い技ですよね!ちょっとビックリしました!!」
「え、そんな凄いの使ったの?ちょっと気になるわ」
「録画したので後で見ましょう、シーメルさん!ところでですがエイレさん、あれは私にもできますか?」
「……習得してしまったら機関と戦うことになるわよ?お勧めしないわね」
「いったいどんな技なのよ……」
──本来なら勇気を振り絞ってツッコミしたり、上がって戦いを待つべきだろう。
だが俺は動けない。
コミュ障スキル発動、勝たないといけない重圧感、大舞台という緊張感。
どれもが違う。
では何か、答えは相手に関する。
『おーい、エターナルフォースアルカディアの人早くしてくれー!ちゃっちゃっと終わらせようぜ!!相手も待っているぞー!』
「はぁ、まだかしら。テンション上がらないからとっとと帰りたいのに」
そう言って立っている人、それは白と青の脇見せタイプの巫女服を着、結晶からできている綺麗な青い杖を持っていた。
また髪は長めで、後ろを青リボンで止めている。
そんな特徴的な彼女だが、俺には見覚えがあった。
それは前作北方のこと。
最強と称された“北方五英神”の一人、“八卦のイーレ”。
龍晶器クロムヘレーナという神話級武器を操り、三魔に匹敵する魔術を扱う。
その魔術は八卦結界術と呼ばれ、名の通り八卦をモチーフとしている。
なお八卦というのは、簡単に言えば八つのある要素が自然と人生を支配するものだという考えだ。
その八つは天、沢、火、雷、風、水、山、地。
つまりは八種類の異なる属性を魔術にしてるわけだ。
故に八卦のイーレという通り名が付いている。
また近接戦闘も攻守ともにそつがなく出来、欠点がない魔術キャラというチートっぽく仕上がっていた。
そんな彼女だ。
この短期間でキャラを仕上げ、装備も引き継いできている筈。
うん、勝てるわけない。
吸血鬼ならいざ知らず、今は最弱な吸糖鬼さんだ。
もう一度言うが、勝てるわけ無い。
「さあ勝ってきなさい!」
エイレが強い力で俺の背中を叩いた。
その力で俺は壇上に上がってしまったが、正直言って戻りたい。
だって絶対勝てないもの。
瞬殺されるに決まっている。
──だがやめると言えないこの状況。
「……ショウ、逝きまーす」
震える手で定規を握りしめ、ステージ中央へと向かう。
歓声が俺に更なる追い討ちをかける中、審判が『始め!』と宣言した。
「さて、面倒だしさっさと倒そうかしら。火炎結界!」
敵は宣言と共に、先制攻撃をしてきた。
名の通り、結界のように炎が俺を囲もうと動く。
俺は囲まれる前に、隙間から何とか逃げて避ける。
だが予測していたと言わんばかりに、避けた先には敵が待っていた。
「風剣!」
今度は杖に風を纏わせ、剣のように変化させてからの連続斬撃攻撃。
これはどう頑張っても避けれそうにない。
定規を前に構え、後退しながらも何とかすべて受け流し止めた。
「へぇ、なかなかやるじゃない。弱いと思ったのに」
予想にしてない強さだったからか、笑みを浮かべる敵。
戦いが楽しみで仕方ない、戦闘狂な笑みを。
一方の俺は結構消耗していた。
簡単に言えば、超ヤバイ。
もうヘトヘトでこれ以上は耐えられそうにない。
「そろそろ本気を出しなさいよ、ショウ」
そんな状態なのに、敵を煽り始めるエイレ。
勿論相手はプッツンキレた。
「なら私も本気出すわ。八卦封陣!!」
相手の目の前に大きな八卦の紋章が表れると、そこから八つの魔術が俺目掛けて襲いかかってきた。
光の剣が、沢の濁流が、火の柱が、雷の一閃が、風の塊が、水の槍が、山の雪崩が、地の咆哮が。
俺を潰そうと襲いかかる。
「くそったれ、光牙滅斬!」
俺は魔術が襲いかかる瞬間、今のところ出来る強力な技を放つ。
その一撃は全ての魔術を飲み込み、相手目掛けて突き進んでいく。
もしこれで決めれなかったらもう負け確定だろう。
「いけーッ!」
「──!!」
光の一閃は相手めがけて行く。
相手は守ろうとするが間に合わず、そのまま飲み込まれた。
「って、あれ?」
何故だろうか、手応えや実感を感じない。
敵を倒したという感じが。
何故か悩む内、俺は重大な事を思い出した。
そして直ぐ様距離をなるべくとった。
「あら、私の“コレ”が解るのね」
爆煙の中から聞こえる声。
俺はそれに軽くだが戦慄した。
──忘れるべきではなかった。
イーレを最強と称させるきっかけを作ったあの技を。
北方史上、たった一人しか破ってない究極の技を!
「風雷帝!」
煙が晴れた先にいたのは無傷のイーレ。
だが彼女の周りには風と雷がまとわりついていた。
──そう、これこそが風雷帝の能力。
自身に風雷を流すことにより、全ての攻撃を回避し、神速の一撃を叩き込むことができる。
誰もダメージを与えられない、一撃で敵を粉砕する力、故に最強。
吸糖鬼の俺にはそれを崩す手だてはほぼ無い。
もう諦めるしかないだろう。
うん、進出は確定しているし、俺が負けたって──
「ショウー、勝たないと六道輪廻をぶちこむわよー」
いいわけないよな、うん。
畜生、どの道助からないんだったら意地でもやってやるぞ!
「わぁぁぁぁぁ!」
俺は本気になって後方へ逃げる。
「呆れたわ」
だが雷と同じ早さで動ける敵。
瞬時に俺の目の前に現れた。
俺はビックリして尻餅をつき、恐怖からそこら辺の石を両手の手で投げつけた。
「く、来るなぁー!」
「…………」
無言で俺を見る敵。
その目線はまるで虫を見るかのようだ。
だがそれでもやめはしない。
「アンタいい加減にしなさいよ」
そうしている内に相手は激昂し、俺を消そうと言わんばかりに、杖に極大の魔力を溜め始める。
その中、俺はひたすら石を投げる。
「消し飛べ……!」
魔力を溜め終え、いざ撃ち放とうとしていた時だった。
当たらない筈の石が、敵の足にポコンと当たったのだ。
理由は左手の能力。
当たる能力が来るまで時間かかったぜ、全く。
「──え」
当たらない筈なのに、石に当たる。
そのあり得ない状況に思わず硬直する敵。
この待ちわびた一瞬を逃す訳にはいかない。
俺は左手の能力で偶然出来た、ゲルスライムというモンスターを手に掴み敵へ向かう。
このスライムは“全ての特技をキャンセルする”能力をもっている。
つまり絶対回避の技があろうが、これを使って相手を殴ることができるのだ。
「俺の勝ちだッ!!」
俺は片手に持ち変えてから飛び上がり
「名付けて、スライムダァァァァァンク!!」
敵の頭にスライムを強烈に叩きつけた。
それによりスライムが顔に張り付いてしまい、敵は数分経たずに窒息死となった。
『逆転勝利ー!情けなくなんとも地味ですが勝ちましたー!!』
司会者黙ってください。
種族差の中戦ったんだ、誉めて欲しいもんだ。
──ってあれ?
何んだか体の調子がいいんだが、もしかして……
そう思ったとき、ナビ子さんが駆けつけ
【ショウ、念願のレベルアップ!】
と言った。
よし、ついにレベルが上がる!!
能力の上がり幅はどうなるんだ!?
ショウLv.1→2
HP 5→5
MP 1→3
攻撃 1→1
防御 1→1
素早 2→3
魔力 1→1
魔防 1→1
命中 1→1
賢さ 3→4
幸運 5→5
……わーい、成績少し上がったー




