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──さて、あれから少し経ち、現在は何をしているかというと
「私はグラウス=ミーシャ。職業はハンターです」
「私はヴァイオレント=シーメルネレット。気軽にシーメルって呼んで。種族は人、職業は商人よ」
新規メンバーの自己紹介をおこなっていました。
地下にある、人気の無い倉庫のような場所で。
何故そんな所にいるのかは、運営から必死に逃げている為。
あの直後、応援がわんさか現れて太刀打ちできず、皆で逃げ出した。
それで紆余曲折あって今いるところにたどり着き、なにもすることがないから取り合えず名前を聞いていたわけだ。
「それでどうするんです?」
キノコの人改め、ミーシャがキノコを食べながら言った。
それを聞いて皆が唸る中、シーメル一人だけは余裕の表情だ。
まるでいとも容易く、この状況を打破できるかのように。
エイレが嫌味を込めつつ、呆れた表情で訊ねた。
「そんなに余裕ぶって、この絶体絶命の状態でなんとかできるの?」
それに対しシーメルは人指し指を左右に振り、「ちっちっち」と、舌を鳴らした後答える。
「甘いわね」と。
「絶体絶命は“確実に命を絶つ”という意味よ?これくらいのハプニング、王手どころでもないわ。些細な問題よ」
「運営に追われてるのに?」
「勿論よ」
宇佐美の問いも軽く流したシーメル。
それほどまでの自信、いったいどんな案なのだろう。
期待をしていると、シーメルは大きい鞄を何処からか取り出し、中を探り始めた。
満杯なのか四苦八苦するなか、3分後にようやく見つけ出し、俺らにそのものを見せてくれた。
「……懐中時計?」
それは銀色に輝く懐中時計のようだった。
これがいったい何の役に立つのだろうか、誰もがそう思う中シーメルは解説を始めた。
「これは逆行の時計と呼ばれる激レアアイテムよ。使用すれば指定した時間まで巻き戻るという仕組みなの」
「はぁ!?」
エイレは思わず大きな声を出した。
それもそうだ、現実では逆行──所謂タイムトラベルが出来ないというのに、ゲームでは出来るというのだ。
しかも只のゲームではなく、何億人がプレイするオンラインでだ。
これは俺も信じることが出来ない。
出来るのは阿呆か気狂いのみじゃないだろうか。
そう思っていると、ミーシャがやはりキノコを食べながらシーメルに訊ねた。
「どうやって時間を巻き戻すんです?小説や漫画では無いんですから、ちゃんとした原理がありますよね?」
「……実を言えばハッキングと集団催眠をして、時間が戻ったと錯覚させるのよ」
「具体的には?」
「まずゲームのメインコンピューターにアクセスをしてゲーム内の時間変更とログの消去をするわ。同時に運営に対してあまり害の無いウイルスプログラムを複数送り込み、発見を遅くさせるの。その間に全ユーザー・運営・NPCを催眠させる特殊電波をとばして記憶を消し、逆行を成功させるわけ」
「成る程。しかもれっきとしたアイテムだから、これを使ったのがバレても処罰を受けない、都合悪いことは消せる超便利アイテムってわけね。ありがと、理解できたわ」
納得した笑みを向けながら言ったミーシャ。
俺はミーシャの会話が予想していた以上にまともで驚いていた。
だってミーシャ、キノコしか考えないキノコ馬鹿だと思っていたもの。
それがあんなに聞き出すことが出来るとは、認識を変えないとなぁ。
俺脳内仲間ランキングを変動させている中、シーメルは皆の手を右手で掴み、左手で懐中時計を開いた。
「原理も分かったところで、早速やるとするわよ。目を覚ましたら時間は勿論のこと、場所なんかも戻っているわ。早急に受付前で合流しましょう。良いわね?」
俺以外の全員が首をたてに振り、出遅れた俺が返答しようとしたとき、目の前が青色に染まっていった。
意識が薄れ青色が強まってくる中、ふと気がつけば目の前は真っ暗になっていた。
当たっている感触を察するに地面だろうか。
顔に小砂利が当たって痛い。
「君、起きてー」
上の方からシーメルの声がした。
俺はその声を頼りに起き上がり目を開くと、瞬時に目をつぶってしゃがみこんだ。
何故なら最初にいた大通りにいたから。
人がいっぱいで動悸も上がる。
俺はシーメルに聞こえるくらいの声で言った。
「ねぇシーメルさん、これは僕に対するイジメですか」
「結果的にそうなっただけで、イジメじゃないわ。ちょっと戻しすぎたの。ごめんなさいね」
ワザとではないのか。
そのことにちょっぴり安心しながら、周りを極力見ずに起き上がる。
無事に起き上がった俺を見たシーメルは、何故か拍手をしながら「成長したわねー」と、言った。
会ったばかりで何を言ってるんだか。
「さて茶番はこれくらいにして、早く会場に向かいましょう。早くしないと二の舞になりそうだし」
「同感だ。急ごう!」
俺らは極力急いで会場に向かう。
もちろん人がいっぱいな為、思うように進まなかったが、先ほどよりは早く会場につけた。
そのまま会場に入り、動悸レベルマックスな中人波をかき分け、無理やり受付のところまで潜り込んだ。
だが何か様子が変だ。
何というかエイレらの声はなく、男性の声しか聞こえない。
しかも一方的な暴言っぽいものが。
「ねーねーお客さんよー、人数足りないからとっとと失せてくれない?まじありえないんですけど。てか人数知らないで遠いところまで来て参加できないって超ウケるーなんですけど!!」
これがシーメルが言っていた暴言というもののようだ。
うん、確かにウザいわこれ。
エイレに同情をせざるを得ない。
「受付さん、私たちもこの人たちの仲間なんだけれども」
暴言が続く中、シーメルが間に入って言った。
だが受付は止まらない。
「だから何?まだ一人たんないんだけど。この人たちの仲間なんだけれども、ってカッコつけて無意味って超ダセーしウケるわ」
うん、こいつ殺るか。
俺でさえ怒りを感じるウザさだ。
我慢できず定規を抜こうとした時、ミーシャがやって来て俺らと合流した。
……ふう、危うく同じ間違いをするところだった。
兎に角これで5人が揃った。
さあ受付、どうでるんだ。
「………………登録致しました」
受付は明らさまに嫌そうな顔をしながらそう言った。
その態度に完全に堪忍袋の緒が切れた俺たちだったが、倒してはいけないので大会終わってからぶちのめそうと皆で誓ったのであった。




