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エピローグ 花守のヴァンパイア




 目も眩むような光にニクスと枢機卿が両手で顔を覆う。

そのまま数秒経って顔を上げた二人が見たのは、銀色の長い髪と白いドレスを揺らめかせ、瞳に黄金の光を宿したディアナの姿だった。


「枢機卿、汝をその職務より追放します」


 口を開けば、人が変わったかのような声が朗々と辺り一体に響き渡る。

頭の中に、直接語りかけてくるような声だった。

それを聞いた枢機卿はサッと青褪める。


「まさか……」

「神の名に於いて宣言します。今日この場を以て、教会を解散します。……ウェリデ司祭」

「はい」

「貴方は今日この場で起こった出来事を人々に正しく伝え、そして突然の教会の解散に戸惑う民の支えとなりなさい。それが貴方の犯した過ちに対する償い、そしてこの身体の持ち主・巫女の願いです」

「その御言葉、確かに賜りました」


 突如降臨した女神による、解散宣言。

枢機卿は蒼白を通り越して土気色の顔で、紙細工のようにヘナヘナとその場に崩れ落ちた。

対するニクスは、どこか憑き物の落ちたような表情をしている。



「……そして、ルカ・フロース」


  ディアナに宿った女神は、最後にルカに語りかけた。

ルカにはもはや言葉を発する力は無く、浅い息を繰り返しているのみだった。

その様子に女神は哀しげな顔をする。


「私が間違っておりました。この娘の言う通り、巫女の考えの通り、罪とは生きて償うべきものです。一時の憎しみに駆られ、多くの者たちから償いの機会を奪ってしまいました。そんな私もまた、貴方と貴方の同胞たち、それから巫女に償うべきですね」


 そう言い残し、ルカの上で手を翳して某かの言葉を唱えた後に女神は去っていった。



「――ねえ、ルカ? ……ルカは幸せだった?」


 女神から身体を返されたディアナは、床の上にぺたりと座り込み、膝の上にルカの金色の頭を抱き締める。

その息遣いから、ディアナはルカの返事を読み取る。


「ルカ、私もね、ルカが居てくれて幸せだったよ。本当に幸せだった。ありがとう……」


 ディアナは絹糸のような髪を垂らし、ルカの唇に口付ける。


「どうかお導き下さい。滅亡から、新たな命を。絶望から希望を。憎しみから、慈しみと愛を。争いの無い、平和な世界を――」


 ルカの最期は、安らかに眠るようだった。

そうして息を引き取ったルカは灰や塵ではなく、その名前の通り、散りゆく花のような淡い光となって消えていった。





*****



 ――春。


「――ねえ、ルカ? あの日の事を覚えている?」


 教会本部・大聖堂の跡地へ訪れたディアナは、見上げる程大きな木を前にして、そう語りかけていた。


 その日の出来事は悲劇、そして神の奇跡として人々の間に浸透していた。

一年以上経った今、漸く人々の混乱は鎮まり、落ち着きを取り戻しつつある。


 枢機卿は汚職が明るみに出て、聖都を追われた。

ニクスは、償いの為の旅に出た。

女神の言葉通り、地方を訪れては人々の支えとなっているらしい。


 そして、ディアナは以前と同じように花売り稼業を続けて、変わらない生活をしていた。

ルカが霊峰から持ち帰ってくれたレンテン・ローズの花は、真冬の間の寂しいディアナの部屋を彩ってくれている。


 その日の出来事がただの悲劇ではなく、同時に奇跡と云われるのには訳があった。


 一つは、あれだけの騒ぎにも関わらず、人間は誰一人として負傷していなかった事。

もう一つは、大聖堂の跡地の、ちょうどルカが倒れていた辺りから、一本の木が生えてきた事だ。。


 その木は異常なまでの生長速度ですくすくと育ち、あっというまにディアナの身長を通り越して、その年の春には美しい、桃色の花を咲かせた。


 事の成り行きを知った人々は、その木の事をヴァンパイアと女神の和解の象徴と呼んでいる。



 木陰に腰掛けたディアナは、ゆったりとゆりかごに揺られているような心地よさを感じていた。

その手には、桃色の花びらがいっぱいに入った籠がある。



「――ねえ、ルカ……」


 青い空の下、背中を預けた幹に守られるようにしながら、ディアナは大好きなその名前を呟いた。




最後までお読み頂き、ありがとうございました。


2015.11.23 紫月

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