第9話「機械の少女」
「排除……開始……」
メイド服の少女は刃を構えると、迷いなくマナたちへと突進した。
「来るよ~!」
ノゾムが風魔法を放つ。鋭い風が少女へと襲いかかるが、少女は刃を振るい、風を切り裂いた。
勢いを緩めることなく地面を蹴り、今度はノゾムへと跳び上がる。
「えっ、こっち!?」
「ノゾム!」
メルが地面を蹴った。炎をまとった拳を振りかぶり、少女へと叩きつけようとする。
しかし、少女は空中で体をひねり、紙一重で拳をかわした。
「排除対象……変更……」
「しまっ――!」
少女の刃がノゾムへと迫る。
「させない!」
マナは考えるよりも先に叫び、世界樹の杖を少女へと向けた。
「えいっ!」
杖の先から、巨大な炎の塊が放たれる。
「!?」
炎は少女のすぐ横を通り抜け、そのまま地面へと激突した。
ドゴォォォン!!
轟音とともに地面が爆ぜ、土煙が一気に舞い上がる。
「マナ様!?」
「えっ、今の、私がやったの!?」
マナ自身、目の前で起きた爆発に驚いていた。
助けようとして、とっさに杖を向けただけだった。まさか、これほど大きな炎を放つことになるとは思っていなかったのだ。
だが、驚いている暇はなかった。
「……攻撃を確認……」
土煙の向こうで、少女が空中の姿勢を整える。大きな攻撃を受けたわけではないためか、その動きに目立った乱れはなかった。
少女はゆっくりとマナへ向き直る。
「危険度……再計算……」
「うわわ、こっちを見たよ~!?」
ノゾムは慌てて距離を取った。
「マナ様、下がってください! こいつは危険です!」
メルがマナをかばうように前へ出る。
その声には、相手の強さに対する警戒がにじんでいた。少女は二人の攻撃を簡単にかわし、次々と狙いを変えてくる。油断すれば、いつ誰が狙われてもおかしくない。
「でも、私だって戦えるよ!」
マナは世界樹の杖を握り直した。
「二人だけに任せてなんていられない!」
まだ魔法をうまく扱えない。さっきの炎だって、狙った場所に当てられなかった。
それでも、仲間が戦っているのに自分だけ隠れているわけにはいかなかった。
「マナ様……!」
メルは一瞬、マナを見つめた。
やがて、その決意を受け止めるようにうなずき、再び少女へと向き直る。
「わかりました! でも、無茶はしないでください!」
「うん!」
少女は三人を見比べるように首を動かした。
「複数対象……確認……最優先排除対象……ニンゲン……」
「やっぱり、私が狙いなんだ……!」
少女の視線がマナに定まる。
次の瞬間、少女は地面を蹴った。刃を構え、一直線にマナへと突っ込んでくる。
「マナ様!!」
メルがすかさず炎をまとった拳を振るった。
しかし、少女はその攻撃を紙一重でかわす。
「遅い……」
「なっ!?」
少女はメルの横をすり抜け、そのままマナへと迫った。
速い。
マナが杖を構え直すよりも早く、少女との距離が縮まっていく。
「させないよ~!」
ノゾムが両手を広げた。
「風よ、吹き荒れろ~! ウィンドストーム!」
強烈な風が巻き起こり、少女の体を包み込む。
吹き荒れる風が少女の進路を乱し、その体を押し流そうとした。
「風魔法……解析……」
だが、少女はすぐさま刃を地面に突き立てた。
ギィン!
刃が地面を削り、火花が散る。少女はそれを支えにして、吹き飛ばされそうになる体を無理やり押しとどめた。
「そんなのあり~!?」
ノゾムが驚きの声を上げる。
魔法を受けても、少女は止まらない。風に逆らいながらも、マナへ向かおうとしていた。
「今です、マナ様!」
メルの声が響く。
「うん!」
マナは世界樹の杖を少女へと突き出した。
「これで、止まって!」
杖の先から炎が放たれる。
今度はノゾムの風が炎を後押しし、勢いを増した炎が少女へと襲いかかった。
ゴォォォッ!!
炎が少女の体を包み込む。
「損傷……確認……」
炎の中でも、少女は刃を振るおうとした。
しかし、その動きは先ほどまでとは違っていた。腕の動きが鈍り、踏み出そうとした足もわずかにふらつく。
「機能……低下……」
「効いてる!」
マナは思わず声を上げた。
攻撃が通じた。なら、今なら止められるかもしれない。
「これで、終わりです!」
メルは炎を拳に集中させ、少女へと駆け出した。
炎の中で動きの鈍った少女へ、渾身の一撃を叩き込む。
ガキィィン!!
硬い金属音が響いた。
メルの拳を受けた少女の体が後方へと吹き飛ばされ、地面を滑っていく。やがて数メートル離れた場所で、片膝をついた。
「……戦闘継続……」
少女はそう呟き、再び立ち上がろうとした。
だが、足が動かない。
「……?」
少女は不思議そうに自分の手を見つめた。
腕が小さく震えている。握っていた刃を支えきれず、その手から滑り落ちた。
カラン……。
「動作……異常……」
「システム……確認……」
少女の瞳に宿っていた赤い光が、少しずつ弱まっていく。
「敵性……対象……」
そこまで呟いたところで、少女の言葉が途切れた。
体から力が抜け、そのまま地面へと崩れ落ちる。
「…………」
静寂が訪れた。
先ほどまで響いていた戦闘の音は、もう聞こえない。
「……止まった?」
ノゾムが恐る恐る少女に近づいた。
「どうやら、動かなくなったようですね……」
メルもすぐには警戒を解かず、少女の様子をうかがっている。
マナは二人のそばまで歩み寄り、地面に倒れた少女を見つめた。
「この子……いったい、何者なんだろう……」
少女は何も答えない。
赤いメイド服をまとったその姿は、まるで人間の少女が眠っているかのようだった。先ほどまで自分たちを執拗に攻撃していた存在とは、とても思えない。
「動かなくなった?」
「機能停止したみたい~」
ノゾムは少女の様子を確かめるように小突いてみた。しかし、少女はぴくりとも動かなかった。
「機械系の魔族は人族を倒すように作られてる。マナ様を敵と認識してしまったみたいだね」
メルは少女を見下ろしながら言った。
「でも、どうするの? このまま?」
「機械とはいえ魔族です。マナ様が魔王になるお方だと教えればいいかと」
「どうやって?」
マナが首をかしげる。
メルもすぐには答えず、少女のそばにしゃがみ込んだ。何か手がかりがないかと、じっとその顔を見つめる。
「えっと……起こせばいいのかな?」
マナはそう言って、少女の肩に触れようとした。
そのときだった。
ピピッ。
少女の瞳に、一瞬だけ赤い光が灯った。
「えっ!?」
「マナ様、離れてください!」
メルが慌ててマナを引き寄せる。
再び攻撃してくるのかもしれない。三人が身構える中、少女はゆっくりと顔を上げた。
しかし、刃を拾おうとはしなかった。
「……魔王……?」
「えっ、今、魔王って言った?」
マナが首をかしげる。
少女の瞳が再び光を帯びた。
「……認証……確認……」
その光は、先ほどの鋭い赤色とは違っていた。
やがて赤い光が消え、少女の瞳に穏やかな光が灯る。
少女はゆっくりと姿勢を正すと、マナの前で片膝をついた。
「……失礼いたしました。魔王様」
「えええっ!? 私、まだ魔王になってないよ!?」
マナの叫びが、魔王城の門前に響き渡った。




