第8話「殺戮機械」
「ここが……先代魔王の魔王城!」
マナたちは、ついに先代魔王の魔王城へとたどり着いた。
目の前には、重々しい門がそびえ立っている。
「やっと着いたね~」
ノゾムがほっとしたように声を上げる。
「でも、どうやって入るの?」
マナは門を見上げた。
門は固く閉ざされており、簡単には開きそうにない。開け方もわからず、三人は門の前で立ち止まった。
「中のほうに、開ける装置がないかな~?」
「ノゾム、お願い」
「は~い!」
ノゾムは返事をすると、ふわりと空へ舞い上がり、門の上側へと向かった。
「ん~、これかな?」
門の上側を調べていたノゾムは、小さな魔法陣を見つけた。
「とりあえず、触ってみよう!」
ノゾムが魔法陣に手を伸ばし、そっと触れる。
すると、低い音が響き、閉ざされていた門がゆっくりと開き始めた。
「おお~! 開いた!」
「ノゾム、ありがとう!」
「えへへ、どういたしまして!」
無事に門が開き、マナたちは顔を見合わせた。
これで、ようやく城の中へ入れる。
三人は開いた門をくぐろうと、一歩を踏み出した。
――その瞬間。
城の中から、黒い影がものすごい勢いで飛び出してきた。
「えっ?」
突然の出来事に、マナは思わず空を見上げた。
黒い影は、まっすぐこちらへ迫ってくる。あまりにも速く、避ける間もない。
「危ない!!」
メルが叫び、咄嗟に前へ飛び出した。
手の甲に炎の魔法を集中させ、迫りくる影を迎え撃つ。
次の瞬間、メルと黒い影が激突した。
「ッ!」
衝撃音が響き、周囲に土煙が舞い上がる。
やがて、双方の体が弾かれるように離れた。
「……」
黒い影は何事もなかったかのように立ち止まっている。
「え? え? え? なに?」
突然の襲撃に、マナは状況を理解できず、目の前の光景を見つめた。
土煙の向こうから、無機質な声が響く。
「ニンゲンを……確認……排除します……」
土煙が少しずつ晴れていく。
そこに立っていたのは、赤いメイド服を着た少女だった。
少女は表情を変えることなく、マナへと視線を向けている。
「狙いはマナ様~!?」
ノゾムが驚きの声を上げた。
「なんで~!?」
「わからない……でも、あれは機械系!」
メルは少女を警戒しながら答えた。
「人族と戦うために、先代魔王が異世界の技術を取り入れて作り上げた殺戮機械だ!」
「排除……いたします……」
少女は淡々と告げると、手にした刃を構えた。
そして、迷うことなくマナへ向かって駆け出す。
「させない!」
メルはすぐさま少女の前に立ちはだかった。
手の甲に炎の魔法を集中させ、迫りくる刃を迎え撃つ。
「排除対象を確認……」
少女は標的をメルへと切り替え、刃を振り下ろした。
「ぐっ!」
メルは咄嗟に腕を上げ、炎をまとった手の甲で刃を受け止めた。
ガキンッ!
金属同士がぶつかり合う音が、城門の前に響き渡る。
刃を受け止めたメルの腕に、ずしりとした重みがかかった。
「なんて力……!」
押し切られないよう、メルは歯を食いしばって踏ん張る。
やがて、少女の刃をどうにか押し返すと、その隙を突いて拳を叩き込もうとした。
しかし――。
少女は素早く後ろへ飛び退き、メルの拳を紙一重でかわした。
「回避……完了……」
「逃がさない!」
メルはすぐさま地面を蹴った。
炎をまとった拳を突き出し、少女との距離を一気に詰める。
少女は刃を構え、正面から受け止めようとした。
その瞬間、メルの拳にまとわりついていた炎が弾けた。
炎の勢いに押され、少女の体がわずかに揺らぐ。
「今!」
メルは好機と見て、さらに追撃しようとした。
だが、少女もただ攻撃を受けているわけではなかった。
「させないよ~!」
頭上から、ノゾムの声が響く。
ノゾムは空中から風魔法を放った。風が渦を巻き、少女の体を横から襲う。
「……風魔法を確認……」
少女は素早く刃を振るった。
風が切り裂かれ、勢いを失っていく。
「ええっ!? 効いてないの~!?」
「いや、そんなことはない!」
メルは少女の動きを見逃さなかった。
風を切り裂いた直後、少女の動きがほんの一瞬だけ鈍っていたのだ。
そのわずかな隙を逃さず、メルは再び拳に炎を集中させる。
「これでもくらえ!」
炎をまとった拳が、少女へと迫る。
しかし、少女は身をひねって攻撃をかわした。
さらに、すれ違いざまに刃を振るい、メルの腕を弾く。
「くっ!」
体勢を崩したメルへ、少女が反撃を仕掛けようとする。
「危ない!」
ノゾムが風を操り、メルの体を後方へと押し出した。
直後、少女の刃がメルのいた場所を空しく切り裂く。
「助かった、ノゾム!」
「どういたしまして~! でも、これ、ちょっと大変かも~!」
ノゾムは笑顔を浮かべながらも、少女から目を離さなかった。
相手は、こちらの攻撃を簡単には通してくれない。
それどころか、こちらの動きを見極めるように、冷静に攻撃をかわし、隙ができればすぐさま反撃してくる。
ノゾムは空中を飛び回りながら、何度も風魔法を放った。
少女はそのたびに刃で風を切り払い、隙を見つけては二人へと襲いかかる。
メルも炎をまとった拳で応戦するが、少女の動きは速い。攻撃を当てようとしてもかわされ、反対に鋭い刃で追い詰められてしまう。
二人は互いに助け合いながら戦っていたが、なかなか決定打を与えられずにいた。
「二人とも、大丈夫!?」
少し離れた場所から、マナが声を上げる。
メルとノゾムは、マナを守りながら戦っていた。
それでも、相手の攻撃を完全に防ぐことはできない。二人が攻撃を受ければ、マナにも危険が及ぶかもしれない。
自分も助けに入りたい。
そう思う一方で、マナの胸には不安が広がっていた。
自分は、まだ魔法をうまく扱えない。
さっきのように強力な魔法を放てたとしても、狙いを外してしまえば意味がない。下手に飛び込めば、二人の邪魔をしてしまう可能性だってある。
「でも……!」
マナはぎゅっと拳を握りしめた。
目の前では、メルとノゾムが必死に戦っている。
二人は自分を守るために戦ってくれているのだ。
それなのに、自分だけが何もせずに見ているなんて――。
「私だって、二人を助けたい!」
マナが声を上げた、そのときだった。
少女が突然、メルとノゾムから距離を取った。
二人もすぐに追撃せず、警戒しながら少女の様子をうかがう。
少女は手にした刃を構え直した。
「戦闘データ……収集完了……」
「戦闘データ?」
メルが眉をひそめる。
少女は淡々とした声で、さらに告げた。
「次段階へ移行……」
「まだ何かあるの!?」
メルは再び拳に炎を集中させた。
ノゾムも空中で身構え、いつでも風魔法を放てるようにする。
二人とも、まだ戦うつもりだった。
けれど、相手が次に何をしてくるのかはわからない。
マナは二人の背中を見つめた。
自分に何ができるのかはわからない。魔法だって、まだ思いどおりに扱えない。
それでも、ここで何もしないままではいられなかった。
マナは一歩、前へ踏み出した。
「私も……戦う!」
「マナ様!?」
「マナちゃん、危ないよ~!」
二人の声が響く。
それでも、マナは引き下がらなかった。
怖くないわけではない。
自分の力が通用するかどうかもわからない。
それでも――二人だけに戦わせるわけにはいかなかった。
「このまま二人だけに戦わせるなんて、できないよ!」
マナは少女をまっすぐ見つめた。
少女の刃が、不気味な光を放つ。
「排除……開始……」
三人と殺戮機械の戦いは、まだ終わりそうになかった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




