第7話「魔王城到着」
魔王城に向けて歩いている最中、私はふと、気になったことを思い出した。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
私は隣を歩くメルに目を向けた。
「なんでしょうか、マナ様」
「さっき、ノゾムを見て飛行獣系って言ってたよね? ほかにも、そういう系統があるの?」
「系統のことですか? ありますよ」
「魔族にはね~、系統っていうものがあって~、全部で15種類の種がいるんだよ~」
「へぇ! そうなんだ! もっと詳しく教えて!」
私は思わず身を乗り出した。
魔族には、私がまだ知らないことがたくさんある。これから魔族たちをまとめていくのなら、まずは彼らについて知ることが大切だ。
「もちろんです」
メルはうなずくと、魔族の系統について説明し始めた。
「魔族には、次の15種類の系統があります」
『スライム系』
『飛行獣系』
『獣系』
『無機物系』
『植物系』
『アンデッド系』
『デビル系』
『蟲系』
『機械系』
『エルフ系』
『ドワーフ系』
『精霊系』
『魔人系』
『水生系』
『ドラゴン系』
「この15種類の系統があるんだよ~!」
ノゾムが楽しそうに説明を付け加えた。
「メルはメタリックスライムだから~、スライム系! 私は飛行獣系だよ~!」
「なるほど……。じゃあ、魔族っていっても、いろんな種族がいるんだね!」
私は一つひとつの名前を頭の中で繰り返した。
これだけ多くの系統があるなんて、知らなかった。きっと、それぞれに違った特徴があるのだろう。
「はい。そして、魔人系は厳密には魔族ではありません」
「え?」
私は思わず聞き返した。
魔人系は魔族ではない?
同じ魔族の系統として挙げられていたのに、どういうことなのだろう。
「どうして?」
「それは、もともとこの世界には存在しなかった種だからです」
「もともと、いなかった種……?」
私は首をかしげた。
いなかった種が、どうして今は存在しているのだろう。
そんな疑問を抱いていると、ノゾムが口を開いた。
「魔人系はね~、昔の帝国が~、貧民区の子供たちをさらって~、非道な人体実験をした結果、生まれたんだよ~」
「……えっ?」
一瞬、言葉が出てこなかった。
貧民区の子供たちをさらい、人体実験をした。
その結果、生まれたのが魔人系だという。
「そんなの……ひどいよ!」
胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
自分の意思とは関係なく連れ去られ、実験のために苦しめられる。そんなことが許されていいはずがない。
「僕もそう思います。先代魔王様が帝国を退けた隙に、全員が逃げ出したらしいですが……。無理やり魔素を注入されたそうですから、その苦痛は想像を絶するものだったでしょう」
メルの表情も、いつになく真剣だった。
「魔素?」
聞き慣れない言葉に、私は尋ねた。
「魔力の~、粉みたいなもので~、純度が高いんだよ~」
「はい。ですが、ヒトにとっても魔族にとっても、毒でしかありません」
「そ、そんなものを……?」
私は思わず息をのんだ。
毒になるものを、子供たちの体に無理やり注入した。
想像するだけでも恐ろしい。
「そうなんだ……」
私はうつむき、唇をきゅっと結んだ。
(そんなひどいことをするなんて……絶対に許せないよ)
怒りが込み上げてくる。
けれど、今の私には、帝国がどこにあるのかさえ詳しくわからない。魔人系の人たちがどんな暮らしをしているのかも、どれほど苦しんできたのかも知らない。
知らないことばかりだ。
それでも、知らないままでいたくはなかった。
「えっと……それじゃあ、魔人系の人たちは今もいるの?」
私は顔を上げ、二人に尋ねた。
「いるよ~! でも、数は少ないんじゃないかな~?」
「魔素を注入された影響で、普通の魔族とは異なる体質になった者もいると聞いています」
メルが補足してくれた。
「そっか……」
私はもう一度、少しだけ視線を落とした。
魔人系の人たちが今も生きているのなら、いつか会うこともあるかもしれない。
もし会えたら、そのときは――。
「あっ、ごめんね。ちょっと考え事をしてた」
心配そうにこちらを見ているメルに気づき、私は慌てて顔を上げた。
そして、二人に笑いかける。
「よし! 魔人系の人たちも、いつか仲間にできたらいいな!」
「おお~! マナ様、やる気満々だね~!」
「はい。きっと、マナ様ならできます」
二人の言葉に、胸の奥が少し温かくなった。
「えへへ、ありがとう!」
まだ、魔族のことも、この世界のことも、知らないことばかりだ。
それでも、いつか魔人系の人たちとも出会い、仲間になれたらいい。
そんなことを考えながら、私たちは先へと進んでいった。
やがて、目の前の景色が少しずつ変わり始めた。
「わぁ……!」
思わず、感嘆の声が漏れた。
目の前に広がっていたのは、どこまでも続くかのような広大な草原だった。
遠くには山々がそびえ立ち、青い空には白い雲が浮かんでいる。草原のあちこちには木々が生え、その間を縫うように小さな川が流れていた。
見渡す限り、自然に満ちあふれている。
「ここ、本当に魔王城がある場所なの?」
あまりにも広々とした景色に、私は思わず辺りを見回した。
「そうだよ~! この空間はね~、外の世界とは別になっているんだ~!」
「別の世界みたいなものなの?」
「う~ん、ちょっと違うかな~? 外の世界とつながってはいるんだけど、独立した空間なんだよ~!」
「へぇ~! すごいね!」
私は目を輝かせた。
外の世界とはつながっているのに、独立した空間になっている。
そんな場所が本当に存在するなんて、驚きだった。
この広大な空間のどこかに、先代魔王の城があるのだ。
「それで、魔王城はどこにあるの?」
「向こうだよ~!」
ノゾムが遠くを指差した。
その先に目を向けると、草原の向こうに大きな建物が見えた。
「あれが……!」
「はい。あれこそが、先代魔王様の魔王城です」
メルが真剣な表情で答えた。
遠くに見える城は、高い石壁に囲まれ、いくつもの塔が空へと伸びていた。距離があるため細かなところまでは見えないけれど、それでも立派な城だということは十分に伝わってくる。
「あんなに大きいんだ……!」
私は思わず声を弾ませた。
これから、あの城に向かうのだ。
先代魔王が暮らし、魔族たちをまとめ上げた場所。
そう考えると、自然と胸が高鳴った。
「早く行こう!」
私は勢いよく駆け出そうとした。
「マナ様、待ってください!」
「え?」
メルの声に呼び止められ、私は慌てて足を止めた。
「この空間が安全だとは限りません。周囲を警戒しながら進みましょう」
「あっ、そっか。ごめんね!」
つい城に気を取られてしまった。
ここがどんな場所なのか、まだ十分にはわかっていない。何が潜んでいるのかもわからないのだから、注意する必要がある。
「ううん、マナ様らしいけどね~!」
ノゾムが楽しそうに笑った。
「むぅ……ノゾムまで!」
私は頬を膨らませたものの、二人の様子を見ているうちに、つられて笑ってしまった。
「それじゃあ、気をつけて進もう!」
「はい!」
「は~い!」
私たちは周囲を警戒しながら、草原を歩き始めた。
しばらく進んだところで、私はふと、もう一つ気になっていたことを思い出した。
「ねぇ、メル」
「はい、マナ様」
「先代魔王って、どんな人だったの?」
その質問に、メルは少し考えるような仕草をした。
「僕も詳しいことは知りません。ただ、魔族たちをまとめ上げ、人族との戦いに勝利した偉大な方だったと聞いています」
「そっか……」
先代魔王は、魔族たちをまとめ、人族との戦いに勝利した。
その功績は、私も聞いている。
でも、実際にはどんな人だったのだろう。
どんな思いで魔族たちを率い、どんな気持ちで戦っていたのだろう。
今となっては、詳しいことを知る人も少ないのかもしれない。
「でもね~、先代魔王様がいなくなってから、魔族はバラバラになっちゃったんだ~」
ノゾムが、少し寂しそうな声で言った。
その言葉に、私は二人の顔を見た。
先代魔王がいなくなったことで、魔族たちは再びまとまりを失ってしまった。
そして今も、人族から虐げられている。
「……だから、今度は私が魔王になって、みんなをまとめるんだね」
私は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
「そういうことです、マナ様」
メルが静かにうなずいた。
私は手に持っていた世界樹の杖を、ぎゅっと握りしめた。
(先代魔王が守った魔族たちを、今度は私が守るんだ)
先代魔王が成し遂げたことの大きさは、まだ私にはわからない。
魔族たちをまとめ上げることが、どれほど大変なのかも。
それに、私はこの世界についても、魔族についても、まだ知らないことばかりだ。
魔法だって、思うように扱えるわけではない。
それでも、諦めるつもりはなかった。
世界樹に選ばれたからには、魔族たちを救いたい。
そして、誰もが安心して暮らせる世界にしたい。
その気持ちは、変わらない。
「よ~し! 頑張るぞ~!」
私は気合いを入れるように声を上げた。
「お~!」
ノゾムも元気よく手を上げる。
メルも、そんな私たちを見て微笑んでいた。
そして、私たちは再び魔王城へ向かって歩き続けた。
やがて、目の前に大きな門が見えてきた。
城を囲む石壁は近くで見ると想像以上に高く、門もまた、見上げるほどの大きさだった。
「着いた~!」
私は足を止め、目の前の門を見上げた。
「ここが……先代魔王の魔王城!」
ついに、たどり着いた。
魔族たちをまとめ上げた先代魔王が暮らしていた城。
そして、これから私が魔王を目指すうえで、大切な場所になるはずの城。
胸の高鳴りを感じながら、私はその門を見つめていた。
――そのとき。
「不確定存在を確認……ニンゲン……敵と確認……排除します……」
怪しい影が、怪しく光った。
まるで、こちらを認識したかのように。
そして、その影はゆっくりと動き出した。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




