第5話「街を歩こう」
街に入った私は、メルと一緒に大通りを歩いていた。
「わぁ~! すごいね、メル!」
「そうですね。人も多いですし、かなり栄えている街のようです」
道の両側には、たくさんのお店が並んでいた。食べ物を売っているお店や、武器を並べているお店、見たこともない道具を売っているお店まである。
どこを見ても、初めて目にするものばかりだ。
「ねぇ、あれって何だろう?」
私は気になったお店を指差した。
「魔道具を売っているお店ですね。魔力を使って動かす道具などが売られています」
「へぇ~! そんなのがあるんだ!」
魔力を使って動く道具なんて、まさに異世界ならではって感じだ。
(異世界って、本当にすごいなぁ!)
私は目を輝かせながら、キョロキョロと辺りを見回した。あっちのお店も気になるし、こっちのお店も見てみたい。歩いているだけなのに、次から次へと興味を引かれるものが見つかる。
「マナ様、あまり離れないでくださいね」
「わかってるよ~!」
そう答えながらも、私はまた別のお店に目を向けていた。
(う~ん、見ているだけでも楽しいなぁ!)
こんな調子で街を歩いていると、時間がいくらあっても足りなさそうだ。
……とはいえ、今は観光を楽しむために来たわけじゃない。
しばらく歩いたところで、私はふと思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ!」
「どうしましたか?」
「これからどうしようかなって!」
「これから、ですか?」
「うん! ほかの魔族を探すのもいいし、もっとこの世界のことを知るのもいいし……」
私は腕を組んで考え込んだ。
魔族を救うためには、仲間が必要だ。でも、やみくもに探し回るだけでは、なかなか見つからないかもしれない。
せっかくメルと出会えたんだから、もっと効率よく仲間を集める方法があればいいんだけど……。
「う~ん……どうしよう?」
「マナ様、いい考えがあります」
「え? なに?」
メルが何かを思いついたように口を開いた、そのときだった。
「おい! ふざけるなよ!!」
突然、大きな怒鳴り声が響いた。
「ん?」
「なんだろう、今の声?」
「……あちらのようですね」
メルが声のした方向を指差した。
私もそちらへ目を向けると、少し離れた場所に人だかりができていた。どうやら、何か揉め事が起きているらしい。
「何かあったのかな?」
気になった私は、人だかりのほうへと歩き出した。
「マナ様、あまり近づきすぎないようにしてください」
「うん、わかってる!」
人だかりの後ろまで来ると、私は周囲の人たちの隙間から、そっと前の様子をうかがった。
すると――。
「だから、何度も言ってるだろ! ここを通るなって!」
「何でよ~! どこを飛んだって自由でしょ~?」
そこには、空中に浮かんでいる人物と、その下で怒鳴り散らしている太った人間の男がいた。
空中にいる人物の背中には、羽根が生えている。
ローブを着ているせいで、顔や体つきはよくわからない。男の子なのか、それとも女の子なのかも判断できなかった。
(いや、そんなことより……あの子、飛んでる!?)
私は思わず目を丸くした。
空を飛ぶ魔族と人族の男。二人は互いに譲る気がないようで、言い争いを続けている。
(……いや、羽根があるんだから、飛べてもおかしくないか)
自分で納得しつつも、やっぱり気になってしまう。
「ちょっと、どうなってるの……?」
私がじっと見つめていると、男がさらに声を荒らげた。
「魔族はここにいちゃいけねぇんだよ!! さっさと出てけ!!」
男は懐から包丁を取り出すと、空中の魔族に向かって振り回した。
「へへ~んだ! そんなの当たらないよ~!」
魔族は男を挑発するように、ひらひらと空中を飛び回る。
「ぐ、ぐぐ……!」
男は悔しそうに顔を歪めた。
「あの魔族、飛行獣系の魔族ですね」
メルが小さな声でつぶやいた。
(飛行獣系?)
聞き慣れない言葉に、私はメルを見上げた。
「ねぇ、飛行獣系って?」
メルが答えようとした、そのときだった。
「この! くらえぇ!!」
男が魔法を放った。
「嘘ぉ!?」
魔法が飛んでくるのを見て、魔族は慌てて身をかわそうとする。
さっきまで余裕そうに飛び回っていたのに、突然の攻撃には対応しきれなかったようだ。
(いけない!)
「メル!!」
「おまかせを!!」
次の瞬間、メルの姿が消えた。
そして、魔法が魔族に届く寸前――。
メルは魔族の足首をつかみ、そのまま一気に路地へと飛び込んだ。
「なっ!?」
男の魔法は空を切り、標的を失った。
「どこ行った? 出てこい!!」
男の怒鳴り声が響く。
私はほっと胸をなで下ろした。
(ふぅ……よかった。間に合ったんだ)
けれど、安心している場合じゃない。助けてくれたメルたちは、すでに路地の奥へと移動している。
(あ、私も追いかけないと!)
私は人だかりを離れ、二人が入っていった路地へと向かった。
路地を進んでいくと、二人の声が聞こえてきた。
私はそっと顔を出す。
「えへへ、助かったよ」
少女がメルを見て、にこにこと笑っていた。
「スライム、しかもメタリックスライムか~。珍しいね」
「今はそんなことを言っている場合ではない」
「あ、そうだったね~」
先ほどまで人族の男に襲われていたというのに、少女はずいぶんと気楽そうだった。
どうやら、無事だったらしい。
「それで? そこにいる子も出てきたら?」
(バレてる!?)
どうやら、私が隠れていることにも気づいていたようだ。
「あ、あはは……バレてた」
私は苦笑いしながら、路地の陰から姿を現した。
「マナ様」
「様?」
少女は不思議そうに首をかしげた。
「こんにちは、私はマナ。あなたは?」
「……私はノゾムです。えっと、人族? ですよね」
「うん、そうだよ」
私が答えると、メルも口を開いた。
「僕はメル。マナ様は魔王になるお方です」
「魔王に~? すご~い! ……あ」
ノゾムは感心したように声を上げたあと、ふと私の持っている杖に目を向けた。
「世界樹の杖」
「わかるの!?」
思わず声が大きくなる。
この杖を見ただけで、何かがわかるのだろうか?
「うん、魔族だもん」
ノゾムは当たり前のことのように答えた。
(魔族だから、わかるのかな?)
まだまだ知らないことばかりだ。
「あの、失礼かもしれないけど、男の子? 女の子?」
私が尋ねると、ノゾムは一瞬ポカンとしたあと、楽しそうに笑った。
「あはは~、よく間違えられるけど、女の子だよ♪ 元の格好が好きじゃないから、このローブを着てるの」
そう言って、ノゾムはローブのフードを外した。
そこには、幼さの残る、とても可愛らしい顔立ちの少女がいた。
(魔族って、みんなこんなに可愛いのかな?)
そんなことを考えていると、メルがノゾムを見て口を開いた。
「あの、もしかして、吸血姫?」
「吸血姫?」
聞き慣れない言葉に、私は首をかしげた。
「あ、うん、そうだよ」
ノゾムがうなずく。
「吸血姫って?」
「血を吸う魔族のことです。衣装が過激なのですが、それを嫌う吸血姫がいたとは」
「まぁね。仲間はみんなこの格好でいいみたいだけど~、私はね」
ノゾムは少し困ったように笑った。
どうやら、同じ魔族でも、服装の好みは違うらしい。
「そうなんだ」
私はうなずいた。
ノゾムも、ほかの魔族たちと同じように、自分の好きな格好で過ごしたいのだろう。
……そう考えていると、ふと、さっきの出来事が頭をよぎった。
ノゾムは空を飛んでいただけなのに、人族の男に怒鳴られ、魔法まで撃たれていた。
魔族というだけで、あんな扱いを受けるなんて。
(やっぱり、魔族を救わなくちゃ)
改めてそう思った私は、ノゾムに向き直った。
「そうだ!」
私は手を叩き、ノゾムに向かって手を伸ばした。
「ねぇ、あなたも一緒に来ない? 仲間を探してたの」
「あなた様の仲間に? いいの?」
ノゾムは驚いたように目を瞬かせた。
「うん!」
私は迷わずうなずいた。
「……私でいいなら」
少し戸惑いながらも、ノゾムは私の手を取った。
「これからよろしく♪」
「うん」
こうして、私たちに新しい仲間が加わった。
「飛行獣系の魔族ですか。偵察にはもってこいですね」
メルがノゾムを見ながら言った。
「ねぇ、さっきも思ったけど、飛行獣系って?」
私は改めて尋ねた。
「ああ、そうでしたね。魔族の種族の一種ですよ。飛行能力を持つ魔族の総称でもあります」
ノゾムが代わりに答えてくれた。
「そうなんだ! あと、メル、何か言いかけてなかった?」
私は、街を歩いていたときにメルが何かを提案しようとしていたことを思い出した。
「あ、そうでした。魔族を集める前に、いい提案があります」
メルはそう言って、私に向き直った。
「なに?」
「先代魔王の魔王城に向かわれてはいかがでしょうか」
「先代魔王の……」
私は考え込んだ。
たしかに、仲間を集めるにしても、拠点があったほうがいいかもしれない。
でも、先代魔王の魔王城って、いったいどんなところなんだろう?
私が考えていると、ノゾムが明るい声で賛成した。
「それなら私もさんせ~い! あそこはね、魔族の隠れ家的な空間なんだ~!」
「魔族の隠れ家的な空間……?」
「ああ。そこでなら、魔族を集めるのにも役立つかと」
メルもうなずいた。
魔族が安心して暮らせる場所があるのなら、仲間を集めるうえでも心強い。
「どうやって行くの?」
「入口があるんだよ~。そこから入るの~!」
ノゾムは楽しそうに説明した。
「そこ、わかる?」
私が尋ねると、メルは誇らしげな顔をした。
「もちろんでございます。すぐにでもご案内できます」
そう言い切るメルに、私は思わず笑みを浮かべた。
「私も案内できる!」
ノゾムも元気よく手を挙げた。
「うん! お願い!」
こうして、次の目的地は先代魔王の魔王城に決まった。
魔族を救うための仲間集めは、まだ始まったばかり。
けれど、メルに続いてノゾムも仲間になってくれた。
(これから、もっとたくさんの魔族と出会えるといいな!)
私は二人と一緒に、次の目的地へと思いを巡らせた。




