第2話「第一魔族発見」
ドォォォォン!!!
再び、爆発音のような大きな音が響いた。
「また鳴ってる! そういえば、私ってこんなに速く走れたっけ? それに、全然息切れもしないし……」
結構な距離を走ったつもりなのに、まだまだ走れそうだった。
(不思議だけど、今はそんなことを気にしてる場合じゃないよね!)
「急がないと!」
マナはさらに速度を上げ、音のした方へと駆けていく。
「あっ!」
不意に人影が目に入り、マナは慌てて茂みに身を隠した。
(誰かいるよ!? 思わず隠れちゃったけど……そ~っと……)
マナは慎重に頭を出し、茂みの向こうにいる者たちの様子をうかがった。
そこにいたのは、鉈のような武器を持った男と、スカーフを巻いた男。そして、銀髪の少年だった。
三人は向かい合っている。
仲間同士……という雰囲気ではない。
(どうしたんだろう?)
マナは息を潜め、耳を傾けた。
「おいおい、鬼ごっこは終わりか? 魔族め」
スカーフの男が、少年に向かってそう言った。
(魔族!? あの子が?)
マナは思わず少年を見つめる。
「……僕を倒せもしないやつから逃げるなんて、無駄だと思ってね」
少年は強気な口調で言い返した。
しかし、その服は汚れ、身体にはケガもある。どう見ても、無傷というわけではなかった。
「なに言ってんだ? 殺さねぇよ! おまえはメタリックスライムだ。売れば貴族が高く買ってくれるだろうよ」
「ッ!」
少年の表情がわずかに険しくなる。
(え? メタリックスライム? スライムなの? 少年にしか見えないけど……)
マナは目の前の状況と、男の言葉がうまく結びつかず、困惑した。
けれど、すぐにハッとする。
(って、そんなことを考えてる場合じゃないよ! あの子、捕まっちゃう!)
少年はケガをしている。対して、相手は二人。
このままでは、少年が連れていかれてしまうかもしれない。
(助けないと!)
マナは茂みから飛び出した。
「ちょっと待ったーー!!」
突然の大声に、三人が一斉にこちらを振り向く。
「ああ? なんだ?」
「小娘?」
男たちは怪訝そうな顔をした。
銀髪の少年も、警戒するようにマナを見つめている。
「おい! そこの娘!!」
「はいぃ!!」
思いがけず勢いよく呼ばれ、マナは変な声を出してしまった。
(うぅ……びっくりしたぁ!)
「このスライムを横取りする気か?」
男の言葉に、マナは一瞬だけ口ごもった。
怖くないわけではない。相手は大人の男が二人もいるのだ。
それでも、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
マナは勇気を振り絞り、二人をまっすぐに見つめた。
「いえ! 救います! あなたたちから!」
そう言って、男たちを指差す。
「……ぷっ、ハハハハハハ!!」
男二人は顔を見合わせ、腹を抱えて笑い始めた。
「冗談きついぜ、娘! 魔族を救うだぁ? バカなこと言っちゃいけねぇ。魔族は奴隷なんだよ。それで飯を食うんだよ、わかる?」
男は、まるで当たり前のことを教えるような口調で言った。
マナには、その言葉の意味がわからないわけではなかった。
けれど、どうしてそれが当たり前なのかは、まったく理解できなかった。
「わかりません。でも、私は救わなきゃいけないから!」
マナは世界樹の杖を握りしめ、男に向けた。
「なんだ? やる気か?」
スカーフの男が一歩前に出る。
「おまえさん、魔法使いか? いいぜ? 撃ってみろよ?」
男は余裕たっぷりの様子で、マナを挑発した。
(スカーフの男、挑発してる……。私が魔法を撃てないと思ってるのかな?)
マナは杖を構えたまま、意識を集中させる。
魔法の撃ち方なんて、教わった覚えはない。
それなのに、不思議とわかる。
魔力が身体の中を流れている。その流れを感じ取り、集めればいい。
(魔法は……撃てる!)
マナは杖を握る手に力を込めた。
そして、集まっていく魔力を感じながら、呪文を唱える。
「ッ!! フレイムボール!!」
その瞬間――。
ボォォォォォッ!!
杖の先に、巨大な火の玉が生まれた。
燃え盛る炎が、周囲を赤く照らす。
「なんだ、このでかさ!?」
男の一人が驚愕の声を上げた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!?!?」
鉈を持った男は、手にしていた武器を落とし、悲鳴を上げて逃げ出した。
「お! おい! 待て!! 置いていくなーーー!!」
スカーフの男も慌てて後を追い、あっという間に二人の姿は見えなくなった。
その場に残ったのは、銀髪の少年と、巨大な炎を生み出したマナだけだった。
「……っ、あれ? もういない?」
マナは恐る恐る周囲を見回した。
男たちが逃げていったことを確認すると、ようやく肩の力が抜ける。
(思わず目をつむっちゃったけど……わ、なにこれ!? 私が出したの?)
目の前には、まだ巨大な火の玉が浮かんでいた。
自分が魔法を使えたことにも驚いたが、それ以上に、その大きさが予想外だった。
(えっ、これ……どうやって消すの!?)
「どどど、どうやって消すの!?」
マナは慌てて杖を持ち直した。
そんな彼女に、銀髪の少年が声をかける。
「……あの」
「え? なに?」
「消えてほしいと念じれば消えますよ? それか、魔力の流れを断てばいい」
少年は、さっきまで追われていたとは思えないほど落ち着いた様子で教えてくれた。
「わ、わかった!」
マナは火の玉を見つめ、必死に念じる。
(消えてーー!)
すると、火の玉はシュゥゥゥ……という音とともに、徐々に小さくなって消えていった。
「あ、消えた……」
マナはホッと胸をなで下ろす。
そして、すぐに少年のことを思い出した。
「あ! そうだ!」
慌てて少年に近づき、手を差し伸べる。
「君! 大丈夫?」
少年は差し出された手を見つめたあと、マナの顔を見た。
「……なぜ助けた? 小娘、人間だろ?」
その声には、警戒心がにじんでいた。
当然かもしれない。少年を捕まえようとしていたのは人間の男たちだ。そして、助けに入ったマナもまた、人間に見えるのだから。
「あ、え~っと……」
(世界樹から頼まれたって言っていいのかな?)
どう説明すればいいのだろう。
マナが言葉に詰まっていると、少年は不思議そうに首をかしげた。
「?」
「わ……」
「わ?」
「私、魔も、魔族が好きで!」
「はぁ」
思わず言い直したものの、少年の反応はどこか微妙だった。
(うぅ……なんか、うまく説明できない!)
マナは恥ずかしさをこらえ、勢いのまま言葉を続けた。
「それで、それでーー……魔王になりにきました!!」
思いきり大きな声で言ってしまった。
言った直後、マナは顔を赤くする。
(うわぁぁ……いきなり何を言ってるの、私!?)
けれど、少年は笑わなかった。
「……ふふ」
小さく笑みを浮かべた。
(笑った?)
「面白い小娘だね。魔王になりに来たって、本気なの?」
「うん! それが役目だから」
マナは照れくささを押し隠し、真剣な顔で答えた。
少年はしばらくマナを見つめていたが、不意に何かに気づいたように目を見開いた。
「……っ!? それ」
少年が指差したのは、マナの手に握られた杖だった。
「え? これ?」
「もしかして、世界樹の杖?」
「え? わかるの? あっ」
マナは驚き、思わず杖を見下ろした。
少年の表情が、先ほどまでとは明らかに違っていた。
「やっぱり。じゃあ、魔王になりに来たって、本当なの?」
「そ、そうだよ!」
少年は杖をじっと見つめ、ぽつりとつぶやいた。
「……古の救世主……」
「え?」
(救世主? あ、そういえば……)
マナは気になったことを尋ねた。
「なんで、世界樹の杖だってわかったの?」
「その杖、二つの幹が交差してるように見えるでしょ?」
マナは杖を確かめる。
たしかに、二つの幹が交差するような形をしていた。
「たしかに……」
「そうなる種類の木は、世界樹の枝しかない」
「でも、偽物かもって思わない?」
「普通の素材だったらね。でも、それは神聖なオーラを放ってる。それは説明がつかない。だからわかった」
「そうなんだ……」
マナは感心したようにうなずいた。
しかし、その直後だった。
少年が突然、マナの前にひざまずいたのだ。
「魔王様、小娘などと言ってしまい、申し訳ありません」
「え? えええ、なに? 急に。別にいいよ」
あまりにも突然のことで、マナは慌てて手を振った。
「なんとありがたいお言葉!」
(ええっ!? さっきまで普通に話してたのに!)
マナは困惑しながら少年を見下ろした。
世界樹の杖を見た途端、少年の態度は一変した。
(魔王って、そんなに偉大なのかな? 態度が急に変わった……)
どうやら、魔王という存在には、マナが思っている以上に大きな意味があるらしい。
「そういえば、名前は? 私はマナ!」
マナが尋ねると、少年は顔を上げた。
「魔王マナ様、僕はメタリックスライムのメルです」
「魔王も様もいらないよ。マナでいい」
「いえ、せめて様はつけさせていただきます」
「わ、わかった」
(いい子みたいだね)
マナはメルの様子を見て、少し安心した。
そして、ふと気になったことを尋ねる。
「あ、そうだ。ねぇ? あなた、スライムなんでしょ?」
「いえ、メタリックスライムです」
「あ、そうか。じゃなくて! この世界の魔も、魔族はみんな人型なの?」
メルは不思議そうな顔をした。
「はい。魔族、人族の中には魔物と呼ぶ人もいるけど、そうだね、すべて人型だよ」
「そうなんだ」
(プルプルじゃないんだ。ちょっと残念)
マナは心の中で、ひそかにそんなことを思った。
「あ! ねぇ!」
マナは改めてメルに向き直る。
「私ね、魔族を集めて帝国を潰すの。手伝ってくれる?」
そう言って、マナはメルに手を差し出した。
メルはその手を見つめる。
そして、迷うことなく、深く頭を下げた。
「は! 仰せのままに」
こうして、マナは最初の魔族と出会い、仲間にした。
魔族たちを集め、帝国に反旗を翻す。
その物語の、第一歩が始まった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




