第18話「魔王としての第一歩」
魔王城の廊下を歩きながら、私は手首に巻かれた包帯を見つめていた。
ホウカちゃんがくれた、不思議な包帯。魔力を通しやすく、ホウカちゃん自身の魔力で形を変えることもできるらしい。
(みんな、それぞれすごい力を持っているんだなぁ……)
クルミちゃんとレイアちゃんの戦いを見て、ホウカちゃんやリーンちゃんとも出会った。魔王城には、まだまだ私の知らない仲間たちがいる。
みんなのことを知れば知るほど、私はもっと頑張らないといけないと思う。
だって、私は魔王になるんだから。
「マナ様、何かお考えですか?」
隣を歩いていたガーネットが、私の顔をのぞき込んできた。
「うん。みんなのことを、もっと知りたいなって思って。それに、魔王城の外にいる魔族たちのことも気になるんだ」
「城の外にいる魔族たち、ですか?」
「うん。メルやノゾムちゃんが話してくれたよね。人間に奴隷として扱われている魔族がたくさんいるって」
私は二人の話を思い出した。街で見た光景も、決して忘れてはいない。
魔族だからという理由だけで、自由を奪われてしまう。
そんなの、絶対におかしい。
「ガーネット。今、外にいる魔族たちはどうしているの?」
「……場所によって状況は異なります。人間の街で暮らしている者もいれば、森や山などに身を隠している者もおります。しかし、帝国の支配下では、魔族が奴隷として扱われることも珍しくありません」
「やっぱり、そうなんだ……」
「はい。先代の魔王様が亡くなられてから、魔族たちをまとめる存在はいなくなりました。その結果、各地に散らばった魔族たちは、人間たちからの迫害に対抗することが難しくなったのです」
ガーネットは静かに説明してくれた。
先代の魔王様がいた頃は、魔族たちが集まり、笑い合える場所があった。でも、その人がいなくなってからは、みんながバラバラになってしまった。
「……私、そんな世界を変えたい」
気づけば、私はそう口にしていた。
「マナ様……」
「魔族だからって、自由に暮らせないなんておかしいよ。みんなだって、好きなことをしたいし、楽しく暮らしたいはずだもん」
魔王城のみんなを見ていれば、それはよくわかる。
絵を描くのが好きなレーリィちゃん。料理を作っていたクルミちゃんたち。訓練場にいたみんな。そして、私に魔法の包帯をくれたホウカちゃん。治療室にいたリーンちゃんだって、みんな、それぞれ好きなことがあって、得意なことがある。
それなのに、城の外にいる魔族たちは、そんな当たり前のことさえ許されないかもしれない。
「だから、私は魔王になる。みんなが安心して暮らせる世界を作りたい!」
私は拳を握りしめた。
まだ魔法だって上手に使えないし、戦い方もわからないことだらけだ。それでも、何もしないままでは変わらない。
「マナ様のお言葉、確かに承りました」
ガーネットは私の前で、静かに頭を下げた。
「私たちも、マナ様のお力になりましょう。先代の魔王様が守ろうとされた魔族たちを、今度はマナ様とともに守りたいと考えております」
「ありがとう、ガーネット!」
私は笑顔でお礼を言った。
一人では難しいことでも、みんなと一緒なら、きっとできることが増えるはずだ。
「それで、マナ様。魔族たちを救うために行動するのであれば、まずは情報を集める必要がございます」
「情報?」
「はい。帝国がどこで魔族を捕らえているのか、どのような場所で奴隷として扱っているのか。それらを知らずに動けば、助けられるはずの魔族たちまで危険にさらしてしまうかもしれません」
「あっ……そっか」
私は思わずうなずいた。
助けたいという気持ちだけで動いても、うまくいくとは限らない。相手がどこにいて、どんな状況なのかを知らなければ、助けることも難しい。
「じゃあ、まずは情報を集めよう!」
「かしこまりました。城に残されている記録や、外部から得られた情報を確認いたします」
「私も手伝うよ!」
「ありがとうございます、マナ様。ですが、資料の確認には時間がかかる可能性がございます。どうか焦らず、お待ちください」
「うっ……わかった」
ガーネットにそう言われ、私は少しだけ肩を落とした。
早く魔族たちを助けたい。でも、急いで失敗してしまったら意味がない。
ここは我慢だ。
「それと、ガーネット。私、もっと魔法の練習をしたいんだけど……」
「もちろんです。ただし、休憩を忘れずにお願いいたします」
「は、はい……!」
また釘を刺されてしまった。
でも、仕方ないよね。みんなを守るためには、魔法を上手に使えるようにならないといけないんだから。
私は手首の包帯をそっと撫でた。
ホウカちゃんがくれた、大切なもの。これも、私が強くなるための助けになる。
「よし! 焦らず、一つずつ頑張ろう!」
「その意気でございます、マナ様」
ガーネットが優しく微笑んだ。
私は改めて、魔王城の中を見回した。
ここには、私を支えてくれる仲間たちがいる。そして、城の外には助けを待っている魔族たちがいる。
私にできることは、まだ少ないかもしれない。それでも、少しずつ前へ進んでいこう。
いつか、魔族のみんなが自由に暮らせる世界を作るために。
そのための第一歩を、今ここから踏み出すんだ。
「待っててね。みんなが笑って暮らせる世界に、きっとしてみせるから!」
私はそう心に誓い、ガーネットとともに歩き出した。




