第16話「それぞれの戦い方」
私は杖を構え、再び的に向き直った。
「よし、もう一回!」
魔力を集め、小さな火の玉を作る。今度は大きくなりすぎないように、ゆっくりと魔力を集めていく。
「フレイムボール!」
火の玉が飛んでいき、的に当たった。
「やった!」
今度は、さっきよりも真ん中に近い場所に当たった。
「おめでとうございます、マナ様」
「うん! ありがとう、ガーネット!」
私は嬉しくなり、何度も的に向かって魔法を撃った。
最初はなかなか狙った場所に当たらなかったけれど、繰り返し練習するうちに、少しずつ命中するようになってきた。
もちろん、まだ外れることもあるし、魔力を集めすぎて火の玉が大きくなりかけることもある。
それでも、少しずつ上達しているのがわかると楽しかった。
「マナ様、少し休憩なさってはいかがでしょうか?」
ガーネットが心配そうに声をかけてくれた。
「ううん、もう少しだけ!」
「……かしこまりました。ですが、無理はなさらないでください」
「はーい!」
私は再び杖を構えた。
次は、もっと的の真ん中を狙ってみよう。
そう思って魔力を集め始めた、そのときだった。
「お! やってるね♪」
突然、後ろから声がした。
少しびっくりして振り返ると、料理の部屋で会ったクルミとレイアがいた。
「やほ〜♪ おつかれ♪」
「お疲れ様だね」
「ありがと。二人はどうしたの? 特訓?」
私はふと、二人をよく見た。
二人とも武装していた。初めて会ったときは、こんな格好をしていなかったけど……。
「ん〜、実戦も兼ねた特訓、かな♪」
クルミはそう言った。レイアは二本の剣を持っているようで、クルミは武器こそ見えないものの、手に何かを装備している。
殴る系かな?
魔法の訓練をしに来たようには見えない。どういうことなのかな?
そんなことを考えていると、私の疑問を察したのか、ガーネットが説明してくれた。
「お二人は、あちらの訓練場で本気の戦いをするのでしょう」
「本気の戦い?」
「はい。ここ、屋外訓練場は、魔法の訓練だけではなく、刃を潰していない武器を使った本気の戦いをする場所でもあります。室内訓練場では、床や壁がボコボコになってしまいますので」
あ〜、なるほど。外なら、壁とかを修理しなくて済むから……。
「魔王城って、意外とケチなんだね」
私は小声でつぶやいた。
「?」
ガーネットには聞こえていなかったようだ。
「そうだ♪ 私とレイアちゃんの実戦! 見ていきなよ♪」
「え?」
実戦……。
「良いんじゃないかな」
「メル?」
「もしかしたら、人族と戦うための戦いの知識が得られるかもよ」
たしかに、メルの言う通りだ。
魔族を虐げる世界を救う。だから、人族と戦う可能性も必ず出てくるはず。
だったら……。
「うん、見てく!」
「よ〜し! じゃ♪ 早速やろ?」
「うん! 久しぶりに本気出すよ! クルミちゃん」
二人はそう言い、的のある場所から離れたところにある白枠の中に入って、位置についた。
デュアルウィールドスライムのレイアは双剣使い! 使いこなすのはすごく大変そうだけど……。
続いて、私はヘルファイタンのクルミを見る。
武闘家って感じ、かな。
「デュアルウィールドスライムはね〜、二刀流のスライム系の魔族なんだよ〜」
ノゾムが口を開いた。
「すっごい剣さばきでね〜、連続攻撃のスピードが自慢の魔族だよ〜」
そうなんだ。連続攻撃が得意なんだね。
「そして、ヘルファイタンは武闘家一族のデビル系の魔族です。角が見えますか? あれがデビル系の証です」
たしかに、髪留めのように頭に張り付いているけど、黒い角がある。
「ヘルファイタンという魔族は、スピードを生かした接近戦が得意です」
接近戦……。
二人は向かい合い、構えを取った。
レイアは両手に持った剣を構え、クルミは軽く膝を曲げ、いつでも飛び出せるような姿勢を取っている。
「それじゃあ、始めよっか♪」
「うん! いつでもいいよ!」
二人がそう言った瞬間、ガーネットが声を上げた。
「それでは、私が開始の合図をしましょう。では、始め!」
その声と同時に、クルミが地面を蹴った。
「いっくよ〜!」
速い!
クルミは一瞬でレイアとの距離を詰め、右拳を振り抜いた。
しかし、レイアは身体をひねってそれをかわす。
「甘いよ、クルミちゃん!」
レイアは右手の剣を振り、続けて左手の剣で斬りかかった。
「わわっ!」
クルミは後ろへ跳び、二本の剣を避ける。
けれど、レイアは攻撃を止めなかった。
右、左、右、左。
まるで踊るように、二本の剣が次々と繰り出される。
「すごい……!」
思わず声が漏れた。
二本の剣を別々に動かしているのに、動きに無駄がない。それに、攻撃が途切れない。
クルミはそれを避け続けているけれど、反撃する隙がなかなか見つからないようだった。
「ほらほら、どうしたの〜?」
「も〜! レイアちゃん、ちょっと速すぎ!」
クルミはそう言いながら、身体をひねってレイアの剣を避けた。
その瞬間、レイアの剣が空を切る。
「今だよ!」
クルミは一気に踏み込み、レイアの懐へ飛び込んだ。
「えっ!?」
レイアが驚いた声を上げる。
クルミはそのまま拳を突き出した。
けれど、レイアもすぐに反応した。二本の剣を交差させ、クルミの拳を受け止める。
ガキンッ!
金属がぶつかるような音が響いた。
「おおっ!?」
私は思わず身を乗り出した。
拳と剣がぶつかっているのに、クルミの手は傷ついていない。
「あれ? クルミちゃんの手、何か装備してるね〜」
ノゾムがそう言い、私も改めてクルミの手を見た。
拳を覆うように、黒い装備がついている。
「ヘルファイタンは、拳や脚を守る武具を装備して戦う者が多いのです。クルミ様も、その一人ですね」
ガーネットが説明してくれた。
なるほど……!
だから、剣を相手にしても拳で戦えるんだ!
「えへへ、捕まえた!」
クルミは笑いながら、レイアの剣を押し返した。
そして、すぐに身体を低くして、レイアの足元へ蹴りを放つ。
「ちょっ!?」
レイアは慌てて跳び上がった。
その瞬間、クルミも地面を蹴った。
「もらった〜!」
空中で身動きの取りにくいレイアに向かって、クルミが拳を振り抜く。
しかし――。
「まだまだ!」
レイアは空中で身体をひねり、右手の剣をクルミへ向けた。
クルミは慌てて拳を引き、攻撃をかわす。
二人はそのまま距離を取り、それぞれ着地した。
「はぁ〜! やっぱりクルミちゃん、速いね!」
「レイアちゃんこそ! 二本の剣をあんなに動かせるなんて、すごいよ!」
二人は楽しそうに笑い合った。
……えっと、これ、本当に実戦なんだよね?
なんだか楽しそうだけど、二人とも本気で戦っているように見える。
「二人とも、まだまだこれからですよ」
ガーネットが静かに言った。
え?
私は二人に目を向けた。
すると、レイアが両手の剣を構え直した。
「じゃあ、今度はこっちから行くね!」
レイアは地面を蹴り、再びクルミへと突進した。
今度は先ほどよりも速い。
右の剣を振り下ろし、クルミが避けたところへ左の剣を横に振る。さらに、身体を回転させながら右の剣を振り抜いた。
「わわっ! ちょっと待って〜!」
クルミは身をかがめ、横へ跳び、後ろへ下がりながら攻撃を避ける。
けれど、レイアの剣は追いかけるように迫ってくる。
「これならどう!?」
レイアは両手の剣を交互に振り、連続攻撃を仕掛けた。
まるで剣の嵐だ。
「す、すごい……!」
私は思わず息をのんだ。
これだけの攻撃を続けられるなんて、どれだけ練習したんだろう。
でも、クルミも負けてはいなかった。
「よ〜し! 私も本気出しちゃうよ!」
クルミは大きく後ろへ跳び、レイアとの距離を取った。
そして、両手を握りしめる。
「いっくよ〜!」
次の瞬間、クルミの姿がぶれた。
「えっ!?」
気づいたときには、クルミはレイアの目の前にいた。
「はやっ!?」
レイアが驚いた声を上げる。
クルミは右拳を繰り出した。
レイアは左の剣で受け止めようとする。
けれど、クルミは拳を引くと同時に身体を回転させ、反対側から蹴りを放った。
「きゃっ!」
レイアは後ろへ飛び退き、なんとか攻撃を避けた。
しかし、クルミは追撃をやめない。
一歩、二歩、三歩。
素早い踏み込みとともに、拳と蹴りが次々と繰り出される。
レイアは二本の剣を使って防御しながら、少しずつ後退していった。
「クルミちゃん、今日はずいぶん積極的だね!」
「だって〜! マナ様が見てるんだもん!」
えっ!? 私のせい!?
「かっこいいところ、見せなきゃね〜!」
クルミは笑いながら、さらに踏み込んだ。
「も〜! それなら、私だって!」
レイアは両手の剣を大きく構えた。
そして、クルミの拳をかわすと同時に、二本の剣を交差させて振り抜いた。
クルミはその場で身体をひねり、剣を避ける。
二人の攻撃が何度も交差し、訓練場に鋭い音が響いた。
やがて、二人は同時に後ろへ跳び、距離を取った。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……!」
二人とも息を切らしている。それでも、表情は楽しそうだった。
「やっぱり、クルミちゃんと戦うのは楽しいね!」
「私も〜! レイアちゃん、強いもん!」
二人は笑いながら、再び構えを取った。
私はその姿をじっと見つめた。
レイアは二本の剣を使った連続攻撃が得意で、クルミは速さを生かした接近戦が得意。
同じように速く動いていても、戦い方は全然違うんだ。
魔族には、それぞれ得意なことがある。その力をどう生かすかが大切なんだね。
「……私も、もっと勉強しなきゃ」
小さくつぶやくと、隣にいたメルがうなずいた。
「そうですね。マナ様が魔族の皆様の力を理解すれば、きっと役に立つはずです」
「うん!」
私は二人の戦いを、最後まで見届けることにした。
いつか人族と戦うことになったとき、みんなの力を生かせるように。
そのためにも、今はたくさんのことを学んでいこう。
私はそう心に決め、再び二人へと目を向けた。
私も、あんな戦いを……。
そんなことを思っていると、いつの間にか戦いが終わっていた。
「あれ? いつの間に?」
「マナ様、考え事〜?」
ノゾムが私の顔を真上から覗き込んできた。
「うん、ちょっとね。あ! 結果! どうなったの!?」
私はそう言って、二人が戦っていた場所を見た。
金属片が散らばり、クルミが倒れていて、レイアは折れた剣を見つめていた。
「え!?」
私は思わず驚きの声を上げた。
「問題ありません。ただ疲れて、クルミ様が寝ているだけです」
え? 疲れて?
「二人の持ってた武具が壊れて、決着は引き分けだよ」
あ〜、なるほど。
でも、武具が壊れるまで戦えるって、すごい。もし本当の戦場だったら、命を落とすことだってあるのに……。
「二人もすごいな〜。私も頑張らないと」
私は「よし!」と気合を入れ、ガーネットに近づいた。
「もっと、魔法の訓練をお願いします!」
私は頭を下げた。
「……頭を上げてください。そんなことを言われなくても、私がマナ様のお力になり、訓練のお手伝いをいたします」
ガーネットはスカートをたくし上げ、そう言った。
頼もしい仲間を持ったな、と私は思った。




