第14話「訓練場」
私は、室内訓練場に集まった魔族たちを見渡した。
みんな、私に期待してくれている。その期待に応えたい。でも、いきなり魔王らしいことをしようとしても、何をすればいいのかわからない。
「……とりあえず、みんな立ってもらってもいいかな?」
私がそう言うと、魔族たちは一斉に立ち上がった。
私は改めてみんなを見た。
弓、槍、剣、刀、あれは……モーニングスターだっけ?
いろいろな武器を携えている。
魔王らしいこと……。改めて考えると、魔王ってなんだろう。上司?
だったら……。
「みんな、訓練お疲れ様。休憩も仕事だから、疲れたら休んでね」
私がそう言うと、辺りがシーンと静まり返った。
あれ? 何か変なことを言ったかな?
そう思ったのもつかの間、魔族たちは急に号泣しだした。
「おおー!! 先代魔王様と同じく、お優しい!!」
「これぞ魔王様!!」
「期待してるぜ! 魔王様の指揮なら、俺たちを任せられるな!」
それぞれの声が聞こえてくる。
すっごい泣かれた。でも、嬉しい感じがする。
いい上司になれるかな?
なるのは魔王だけど、似たようなもんだよね。
私は勝手に一人で納得した。
「マナ様、他に寄りたい場所はないでしょうか? 魔王城内部はほとんどご紹介しました。残りは厨房などの小さな部屋しかありませんので」
「そうだね。ちょっと、屋外訓練場も見てみたいかも」
私がそう答えると、ガーネットは「わかりました」と言って、案内してくれた。
長い廊下を進み、1階に降りてから、魔王城に入ってきた扉を通って外に出た。
「こっちなの?」
「はい」
「あのときは、こっちには気を回してなかったね〜」
ノゾムが周囲を見渡しながら飛ぶ。メルは私の後ろをついてきている。
ふと、疑問が浮かんだ。
「ねぇ、メル」
「はい、なんでしょう?」
「どうして、スライムってプルプルしてないの?」
「と、いいますと?」
「ぷにぷに柔らかいイメージがあって……」
私がそう言うと、メルが口を開いた。
「昔は、すべての魔族が人の形をしていたわけではないようです」
「そうなの?」
「うん! 私たち魔族は、昔は魔物って呼ばれてたんだ〜。今でも一部の人はそう呼ぶみたいだけど〜。世界樹が魔物たちを魔族として、人型になるように再構築してくれたらしいよ〜」
ノゾムも説明してくれた。
つまり、世界樹が魔物たちを作り直し、魔族として生まれ変わらせたということらしい。
だから、魔族は人型をしているんだね。
少し複雑だけど、なんとなくわかった気がする。それに、人型のほうが親しみを感じやすいし、友情も育みやすそうだ。
私は、魔族が人型になったことを嬉しく思った。
「着きました」
あ、そんな話をしていたら、もう屋外訓練場に着いたようだ。
屋外訓練場は、白い線が引かれていたり、的が立てられていたりするだけの簡素な作りだった。
「ここでは、皆さん、魔法の訓練をしております」
「今はいないんだね」
「はい。皆さんが訓練なさるのは、お昼が終わってからですので、朝は室内訓練場か空き部屋で何かをされておりますね」
そうなんだ。時間を使い分けてるんだね。
「あ、そうだ。魔法の使い方、教えてくれない? 魔法自体は出せるけど、まだうまく扱えなくて……」
「……わかりました」
ガーネットが一瞬驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻し、そう言った。
私とガーネットは、訓練場の的がある場所に移動した。
「魔法の撃ち出し方はわかりますか?」
「はい。少し集中して、自分に流れている魔力を一点に集める?」
「はい、その通りです。ですが、それだけではうまく制御できません」
ガーネットはそう言うと、私の前に立った。
「まずは、魔力を集める感覚を確かめましょう。マナ様、目を閉じてください」
「うん」
私は言われた通り、目を閉じた。
「ご自身の中にある魔力を感じてください。魔力は常に流れております。その流れを意識するのです」
魔力の流れ……。
私は自分の中に意識を向けてみた。
すると、不思議な感覚があった。身体の奥から、何かが流れているような気がする。
「……これかな?」
「はい。感じ取れたようですね」
「おお……!」
自分でもびっくりした。
魔法を使うときは、なんとなく魔力を集めていたけれど、こんなふうに意識したことはなかった。
「では、その流れを乱さないように、一点へ集めてみてください」
私はゆっくりと魔力を集めようとした。
しかし……。
「わわっ!?」
集めた魔力が、一気に膨れ上がった。
慌てて目を開けると、私の周囲に小さな火の玉がいくつも浮かんでいた。
「……あれ?」
「マナ様、魔力が漏れております」
「えっ!? これ、漏れてるの!?」
「はい。集めようとするあまり、余分な魔力まで引き寄せてしまったのでしょう」
ガーネットは落ち着いた様子で説明してくれた。
なるほど……。
魔力を集めればいいってわけじゃないんだね。
「どうすればいいの?」
「まずは、必要な分だけを集めることです。魔法を使う際には、威力だけでなく、消費する魔力や制御のしやすさも考えなければなりません。消費魔力が多すぎると、魔法が大きくなります」
メルと会ったとき、巨大なフレイムボールになったのは、魔力を使いすぎたからなんだ。
「だから、必要な分だけ……」
私はもう一度、目を閉じた。
今度は、魔力を無理に引き寄せようとせず、流れの中から少しずつ集めていく。
すると、さっきよりも小さな火の玉が生まれた。
「できた!」
「はい。先ほどよりも安定しております」
やった!
ほんの少しだけど、上手になった気がする!
私は嬉しくなって、つい火の玉を大きくしようとした。
すると……。
ボンッ!
「わっ!?」
火の玉が急に膨らみ、空中で弾けた。
「……」
「……」
私とガーネットは、しばらく黙って火の玉が消えた場所を見つめていた。
「マナ様」
「はい……」
「焦らず、ゆっくりと練習いたしましょう」
「……はい」
やっぱり、すぐにはうまくいかないみたい。
私は肩を落とした。
「マナ様〜! 頑張って〜!」
ノゾムが少し離れたところから応援してくれた。
「うん! ありがとう!」
よし、気を取り直して頑張ろう!
そう気合を入れた。




