第13話「魔王城の仲間たち」その二
私とメルは、ガーネットの後ろをついて行き、魔王城にいる魔族に会うために案内してもらっている。
「ねぇ、この先は何があるの?」
私は疑問を口にしてみた。
「はい、いくつかの空き部屋と、その先の曲がり角の先に室内訓練場がございます」
室内訓練場……!
室内ってことは、室外にもあるのかな?
「外にもあるの?」
メルが私の代わりに問いかけてくれた。
「はい、ございます。外の訓練場は魔法の特訓に使います」
あ、そうなんだ。まぁ、室内で炎魔法を使うと、室内が燃えるもんね。
「よろしければ、室外もご案内しますが……」
「うん! お願い」
「承知しました。おや?」
ガーネットさんが立ち止まり、空き部屋を見つめる。
「誰かいるの?」
気になった私は、ガーネットの視線を追って部屋の中を覗き込んだ。
そこには、椅子に腰掛けた少女がいた。
まるで精巧な人形のような少女だった。窓から差し込む光が、その姿を優しく照らし、いっそう美しく見せている。
少女は窓の外をじっと見つめたまま、身じろぎ一つしなかった。
「ここに来ているとは、珍しい」
ガーネットが静かにつぶやく。
そんなに珍しいの?
そう思った。
「マナ様、あの魔族はドールガストです」
「ドールガスト?」
「はい、ゴーストが人形に入り込み、変異したアンデッド系の魔族です。数自体が珍しいので、あまり見かけません」
「そうなんだ……。なんだか、寂しそう?」
「はい。あの方の身体は先代魔王がお作りになり、魔族になってからは、とても可愛がられていました……。ですが、今は……先代魔王様が逝去し、どこかに行ってしまい、しばらく姿を見せなかったのですが……」
ガーネットはその少女の魔族を見つめながら、そう言った。
私もその魔族をもう一度見る。
どこか寂しさを感じるのは、そういうことなんだね。
「あの子とも仲良くしたいな」
私は無意識にそうつぶやいた。
なぜかはわからないが、それも役目だと感じた。
「あれ?」
「どうしました?」
今一瞬、こっちを見た?
いや、気のせいかな……。
「ううん、なんでもない。行こ」
「はい、マナ様」
「では、まいりましょう」
私は不思議な気持ちを抑えつつ、ガーネットについて行く。
やがて角を曲がり、引き続き廊下を進むと、大きな扉の前でガーネットさんが立ち止まった。
「ここは?」
メルが代わりに聞いてくれた。
「先程お話しした、室内訓練場でございます」
ガーネットがそう答え、大きな扉を両手で開く。
「お〜」
「結構広いですね」
室内訓練場は意外と広く、中は昔テレビで見た剣道場っぽい内装だった。他にも何人かの魔族が見える。
やっぱり、みんな人型だ。人型ではない魔族はほぼいないらしいけど、あのストーンゴーレムしか見たことがないな。
「お〜〜い! マナ様〜!」
聞いたことのある声が私を呼ぶ。
廊下の向こう側を見ると、ノゾムが飛びながら、こちらに手を振っていた。
やがて、ノゾムは着陸し、こちらに近づいてきた。
「ねぇねぇ! 聞いて〜! たくさん部屋があって! 面白かった!!」
ノゾムが興奮し、手をブンブン振りながら言ってきた。
「うん、わかった、落ち着いて」
とりあえず、ノゾムをなだめることにした。
やがて落ち着いたノゾムが、ゆっくりと話す。
「あはは、えっとね、いろいろ部屋があって、面白かったの〜」
「そうなんだ」
一緒に来ればよかったのに、そう思った。
「ねぇ! ここは何?」
「室内訓練場だって」
「入ってみよ〜!」
そう言ってノゾムが入ったので、私も入る。
「ん?」
魔族たちの視線が一斉にこちらを向いた。
「……えっと……」
魔族たちが消えた。
「え?」
「「魔王様ー!!」」
すると、一斉にひざまずき、そう叫んだ。
「え? え〜!?」
「さすが、魔王になるお方」
「メル……なんとかして」
「それはすべて忠誠心です。ないがしろにはできません」
たしかにそうだけど、でも、こうしてみると期待の視線が怖い。
「あの方が、魔王様!」
よく見ると、離れた場所で希望の眼差しを向けている魔族もちらほら……。
重いです、期待が。
「え、えっと……魔王になる、マナです! 頑張っていきましょう!」
私がそう言うと、一瞬静かになり、
「「おーー!!!」」
と歓声が響いた。
これは、すごい期待だ。大丈夫かな。
「問題ありません。マナ様」
「メル……」
「歯向かうものはすべて蹴散らせば良いのです」
頼りにならない……。
「でも〜、こんなに頼れそうな仲間がいるから〜、きっと人族にも勝てるよ〜!」
ノゾムが明るい声で言った。
「……そうだね」
私は訓練場を見渡した。
ここには、私を魔王として迎えてくれる魔族たちがいる。
みんな、それぞれの力を持っているんだろう。でも、仲間がたくさんいれば、それだけで勝てるわけじゃない。どれだけ強い人が集まっていても、まとまっていなければ力を発揮できない。
戦いは、ただ力をぶつけ合えばいいというものじゃない。誰に何を任せるのか。どう動けば仲間の力を生かせるのか。ちゃんと考えて、指示を出さなきゃいけないんだ。
私はぎゅっと拳を握りしめた。
みんなが私に期待してくれている。だったら、その期待に応えたい。
でも、私にできるのかな……。
不安はある。それでも、逃げるわけにはいかない。
私はこの世界の魔族を救うために、魔王になると決めたんだから。
「……よし!」
私は小さく息を吐き、顔を上げた。
みんなをまとめるのは、きっと簡単なことじゃない。それでも、少しずつ頑張っていこう。
私は、魔族たちから向けられる期待の重さを胸に刻みながら、改めて決意した。




