第12話「魔王城の仲間たち」その一
玉座に座った私は、ふと、やらなければいけないことを思い出した。
「ねぇ、二人とも」
「どうしました?」
「なんでしょう?」
二人がこちらを見て、私が話すのを待っている。
私は口を開いた。
「私、魔王城にいる魔族たちに会いたい!」
そう、今までストーンゴーレムくらいにしか会っていない。
話に聞いたジェノサイダーや、図書室で見かけたアンデッドたちとも話してみたいし、ほかにも魔族がいるなら会ってみたい。
そう考えているうちに、話したい相手がどんどん増えてしまった。
「もちろんでございます。魔族の皆様を集めましょう」
ガーネットがそう言って行こうとしたので、私は引き止めた。
「待って! 私から会いに行ったらダメかな?」
「魔王様自ら……。わかりました。では、順にご案内いたします」
「ありがとう!」
そうと決まれば、さっそく行動だ!
私は玉座を降り、メルと一緒にガーネットについていった。
長い三階の廊下を進み、二階へと降りる。そこから、先ほどは通らなかった曲がり角の先へと進んでいった。
ふと、疑問が浮かんだ。
「ねぇ、私、まだ正式に魔王になったわけじゃないけど、みんなに魔王だってわかるかな?」
「問題ございません。ジェノサイダーたちに伝達した後、ほかの魔族の皆様にも伝えるよう、伝令を出しましたので」
おぉ、頼もしい!
あ、そういえば、ノゾムはどこに行ったんだろう?
一階で別れてから、まだ一度も見ていない。
まぁ、ここにいるのは魔族だし、大丈夫かな。
そんなことを考えながら歩いていると、やがて一つの扉が見えてきた。
ガーネットが立ち止まる。
「ここは何の部屋なんですか?」
メルが、扉の向こうにある広い部屋を指さしながら尋ねた。
ガーネットは口を開き、答えてくれる。
「こちらは、皆様が自由に過ごすための部屋でございます。ほとんどが空き部屋ですが、中で遊んだり、好きなことを楽しんだりしている方々もいらっしゃいます」
なるほど。
部活動というより、同好会みたいなものなのかな?
私は何となく納得した。
「じゃあ、ここにはいないね」
「はい」
「向こうの部屋からは魔族の気配がするね」
メルが隣の部屋を指さしながら言った。
「はい。あちらの部屋には、絵や本を描く方がよくいらっしゃいます」
絵や本……。
「覗いてみよ!」
私はそう言って、部屋の窓から中を覗いた。
すると、一人の金髪の少女が机に向かい、何かを描いていた。
「グレートドラゴン……」
メルが小声でつぶやいた。
えっ、ドラゴン!?
私は心の中で驚きの声を上げた。
危ない、ここで騒いだら気づかれちゃう!
そう思い、そっと少女の様子をうかがっていると――。
「……」
少女がこちらを見ていた。
「誰かいるの?」
少女がそう尋ねると、ガーネットが扉を開けて中に入っていった。
「こんにちは、グレートドラゴンのレーリィ様」
ガーネットはそう言って、スカートの裾をつまみ、丁寧に礼をした。
「あ、うん……。ほかにも誰かいるの?」
バレてた。
「ジェノサイダーたちから伝令は来ていましたか?」
「うん、来てたよ。あ! もしかして!」
私は姿を見せたほうがいいと思い、部屋の中に入った。
「こ、こんにちは! 魔王になる予定のマナです!」
そう言って自己紹介をした。
レーリィは驚いた顔をした後、すぐに姿勢を正した。
「あ、グレートドラゴンのレーリィです。ここでいつも本を描いていますので、何かあれば命令してください」
そう言って、レーリィはにっこりと笑った。
「うん!」
いい子そう!
「本を描いているって、どういうこと?」
私はレーリィの言葉が気になって尋ねた。
「えっとね、物語を考えて、それを本にしているの」
「物語! どんなお話なの?」
「魔族たちが冒険するお話とか、人間の知らない場所を旅するお話とか……いろいろだよ」
レーリィはそう言って、机の上に置いてあった本を手に取った。
「これも、私が描いた本なんだ」
「見てもいい?」
「うん、もちろん!」
私はレーリィから本を受け取り、表紙を眺めた。
そこには、翼を広げたドラゴンが描かれていた。
「わぁ、すごい! これ、レーリィが描いたの!?」
「うん! 絵を描くのも、お話を考えるのも大好きなんだ!」
レーリィは嬉しそうに笑った。
どうやら、本を作ることが本当に好きらしい。
「マナ様、レーリィ様は、この城でも有名な物語の書き手でございます」
「そうなの!?」
「そ、そんなに有名じゃないよ……」
ガーネットの言葉に、レーリィは少し恥ずかしそうに頬をかいた。
「でも、読んでくれる魔族がいると嬉しいんだ」
「そっか! 私も今度、読んでみたいな!」
「本当!? じゃあ、今度持っていくね!」
「うん、楽しみにしてる!」
私はレーリィに手を振り、部屋を後にした。
魔族たちにも、こうして好きなことを楽しんでいる子がいるんだ。
なんだか、こっちまで嬉しくなってくる。
「次はどこに行くの?」
私がガーネットに尋ねると、彼女は廊下の奥を指さした。
「次の部屋には、料理を研究している魔族の皆様が集まっております」
「料理!?」
思わず声が大きくなった。
「はい。皆様、新しい料理を考えたり、食材の調理方法を研究したりしているようです」
「行こう、行こう!」
私はメルの手を引き、料理を研究しているという部屋へ向かった。
どんな魔族がいるんだろう?
どんな料理を作っているんだろう?
そんなことを考えながら歩いていると、部屋の向こうから、何かが焦げたような匂いが漂ってきた。
「……なんか、焦げ臭くない?」
「そうですね……」
メルも不思議そうに鼻を動かしている。
「ガーネット、これって大丈夫なの?」
「……確認してまいります」
ガーネットはそう言うと、扉へと歩いていった。
そして、扉を開けた瞬間――。
「あ〜、ちょっと! 火が出てるんだけど!?」
「水持ってきて〜!」
「待て! その水は別の鍋に入れるものだ!」
中から、慌ただしい声が響いてきた。
「…………」
私は、そっとメルを見た。
「マナ様、料理とは大変なのですね」
「う、うん……」
魔王城って、思っていたよりも賑やかな場所なのかもしれない。
「皆様、落ち着いてください。火など、水魔法で消せばよいのです」
ガーネットは落ち着いた様子で、中にいる魔族たちを諭した。
すると、ギャルっぽい魔族の少女が水魔法を使い、火を消した。
すごい、あれが水魔法なんだ!
「ふぅ、消火できた〜」
「もぉ〜、だからちゃんと見てって言ったじゃん」
オレンジ色の髪の少女が頬を膨らませ、ギャルっぽい魔族の少女に言った。
「まぁ、消火できたのだから、よいではないか! ハッハッハッ!」
漆黒の鎧を着た魔族が豪快に笑う。
……いや、笑い事じゃないでしょ!
「ここは魔王様の城です。燃やされては困ります」
ガーネットは冷徹な声で言い放ち、瞳を赤く光らせた。
「あ、お怒り?」
「当たり前だよぉ!」
「反省してくださいね?」
後ろ姿だけどわかる。きっと、顔は笑っていても目は笑っていないやつだ。
私はそう感じた。
「あれ? その後ろにいる人は? あ! もしかして……」
ギャルっぽい少女が私に気づいた。
「はい。こちらが、魔王様になられるお方です」
「やっぱり! 世界樹の杖を持ってるもん!」
やっぱり、杖を見ればわかるんだ。
そう思い、手元の杖を見つめた。
交差した枝の杖。そういう形に成長する枝は世界樹だけだって、メルが言っていたっけ。
「ねぇ! ねぇ! 魔王様! 私、デビル系の魔族、ヘルファイタンのクルミだよ〜! 魔王様はなんて言うの?」
「わっ!?」
気づけば、ギャルっぽい魔族の少女。クルミが、目の前で目を輝かせていた。
「ちょっと、急に聞くのは失礼だよ。あ、私はスライム系の魔族、デュアルウィールドスライムのレイア! よろしく」
オレンジ色の髪の魔族、レイアが仲裁に入り、クルミをどかした。
そこに、鎧を着た魔族がやってきた。
「私は無機物系の魔族、ブラックアーマーのレイヴンと申します」
レイヴンは礼儀正しくお辞儀をし、私に自己紹介をした。
「私はマナ! これから魔王になる予定だよ。よろしくね!」
「お〜! マナ様! いい名前!」
「うん、よろしく、魔王様」
「これで我らも安泰になるというものですな」
三人は、それぞれ私に言葉をかけてくれた。
「なかなかに個性的だね」
メルが三人を見て、そう言った。
でも――。
「みんないい人だってわかる」
「うん」
メルも同意してくれた。
魔族って、みんな仲良しでいい人……魔族たちなんだね。
「ところで、皆さんはどんな料理を作っているの?」
私が尋ねると、クルミが元気よく手を挙げた。
「今日は新しい料理に挑戦してたんだよ〜!」
「それで、火が出たの?」
「えへへ……」
クルミは気まずそうに笑った。
「笑い事じゃないよ! もう少しで鍋がダメになるところだったんだから!」
レイアがそう言って注意する。
「それに、クルミちゃんが料理したいって言ったから、ここを貸してたのに」
「ハッハッハッ! 失敗は成功のもとですぞ!」
レイヴンは相変わらず豪快に笑っていた。
……この三人、本当に大丈夫かな?
私は少しだけ不安になった。
けれど、楽しそうに言い合っている三人を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
きっと、ここではこうして、みんなが好きなことを楽しみながら暮らしているのだろう。
私は改めて、魔王城を見渡した。
まだ会っていない魔族も、きっとたくさんいる。
これから、もっとたくさんの魔族たちと仲良くなりたい。
そして、いつか魔王城の外にいる魔族たちも、こんなふうに笑って暮らせる世界にしたい。
「マナ様?」
メルが不思議そうに私を見た。
「ううん、なんでもない!」
私は笑顔で答えた。
よし、次はどんな魔族に会えるんだろう?
クルミたちと別れ、私は期待に胸を膨らませながら、ガーネットたちと一緒に廊下を進んでいった。




