第11話「魔王への一歩」
「二階も、同じく綺麗ですね」
メルがそう答えるのも無理はない。1階と同じく、床や壁はきちんと整えられ、おしゃれな装飾まである。
まるで現代の高級ホテルか、遊園地のお城みたい。実際、お城だけど……。
そこで私はふと、ある場所が目に留まった。
「ねぇ、あの部屋だけ、他と違う」
私はその場所を指さす。メルとガーネットもそちらを見る。
その扉は他の扉と違い、豪華な装飾が施されていた。
(ドクロマークあるけど……)
「あそこは、図書室です」
ドクロマークがあるのに!?
思わず目が丸くなった。
「驚かれるのも無理はありません。言葉で説明するより、見てもらったほうが良いかもしれません」
ガーネットは扉を開け、中を見せてくれた。そこには、
「……」
思わず私は固まってしまった。理由は……。
「ァ……ァァァ……」
「ォォォォ……」
(お化けがいっぱいいるよ〜〜〜!!)
思わず、心のなかでそう叫んだ。
「アンデッド系ばかりだね」
メルは落ち着いている。さすが魔族だ。
「はい。ここは昔からアンデッドたちが管理している図書室です。アンデッドたちはここを守る代わりに、知識を得ています」
私は改めて図書室の中を見る。
たしかによく見ると、本を読んでいる死体や骨、霊体っぽい魔族がたくさんいる。
私は純粋な疑問を抱いた。
「他の魔族も読みに来るの?」
「はい、もちろんです。他の魔族の皆様も読みにいらっしゃいます」
そうなんだ。まぁ、図書室だしね。
「では、次の場所を案内しましょう」
ガーネットは静かに扉を閉めて、前を歩く。私たちは慌ててついていく。
「皆様、本に夢中でしたが、新たな魔王様なら、きっと喜ばれます」
ガーネットが少し笑った気がした。
「そうしたら、昇天してしまうかもね」
メルが冗談っぽく言っていた。
いや、洒落にならん。
私は心の中でツッコミを入れた。
すると、ガーネットが「ここからここまで」とジェスチャーをし、
「この辺りの部屋はすべて休憩室です」
そう言い放った。
「え!? 全部!?」
思わず声に出てしまった。
目で見えるだけでも11部屋……。すごい……。
「すごい数だね」
「はい、遠方からの魔族の来客もありましたので」
ガーネットはいつもの落ち着いた口調で答えた。
「もしかして、寂しいの?」
私が尋ねると、ガーネットはぴたりと動きを止めた。
「いえ、私は機械です。寂しさなどありません。ただ……あの日々はとても心地よかった、それだけです」
そう答えたガーネットは、窓の外へと視線を向けた。
その横顔はいつもと変わらない。けれど、先ほどまでのはきはきとした声とは違い、その声にはどこか寂しさがにじんでいた。
きっと、先代魔王がいた頃は、ここにもたくさんの魔族が集まっていたんだろう。
今は静かなこの城も、かつては賑やかだったのかもしれない。
ガーネットは、そんな日々を懐かしんでいるのだろうか。
……ううん。きっと、そうなんだ。
私はガーネットの横顔を見つめ、自然と言葉を口にしていた。
「大丈夫! 私が、私たちが、きっと幸せにするから!」
言ってから、少しだけ驚いた。
でも、後悔はしていない。
私は本気でそう思っているから。
魔族のみんなが安心して暮らせる世界を作りたい。ガーネットが懐かしむような、みんなが集まって笑い合える日々を、もう一度取り戻したい。
それが、私の目指す魔王の姿だから。
ガーネットは目を丸くした。
何かを言おうとするように口を開きかけたものの、すぐには言葉が出てこない。
やがて、彼女は静かに胸へ手を当てた。
「ありがたき御言葉。ですが、今は不要です。皆が集まってから、お願い申し上げます」
その声は、いつもの丁寧な口調だった。
けれど、私には、先ほどよりも少しだけ柔らかく聞こえた。
ガーネットの目には、涙が浮かんでいるようにも見えた。
「うん!」
私は、力強く頷いた。
今はまだ、私の周りにいる魔族は少ない。
それでも、これから仲間を増やしていけばいい。
いつか、この城にたくさんの魔族が集まる日が来るように。
そして、ガーネットが懐かしむあの日々を、もう一度取り戻せるように。
気を取り直して、私たちは2階を進む。
なんだか、ガーネットの足取りが軽やかだ。
「ここが、魔導実験室です」
ガーネットが指さした扉は他の扉とは違い、頑丈そうにできていた。
「なんか、カチコチじゃない?」
「はい。昔はよく爆発を起こしていたので、頑丈に作られました」
そうなんだ。まぁ、研究には失敗がつきものって言うよね。
「中を見れますが、見ますか?」
「うん、見ておこうかな」
ガーネットが重そうな扉を開け、中を見せてくれた。
「わぁ」
思わず声が出た。
試行錯誤をたくさんしてきたんだろうな……。
私は魔導実験室の中を見て、そう思った。
焦げた跡、割れたガラスポット、フラスコっぽい瓶、何かが書かれた紙。色々と散乱していたが、それだけでよくわかった。
「うん、ありがと。次、行こっか」
「はい」
しばらく廊下を進むと、階段と曲がり角が見えた。
「どっちに行こうか」
メルは両方の道を見ながらそう言った。
たしかに、これは悩みどころかも?
「あちらの道には、魔族の皆様がそれぞれやりたいことをするための部屋がございます。行きますか?」
それぞれがやりたいことをするための部屋?
……部活、みたいなものかな?
「ううん、いいよ。私が急に出向いて、邪魔しちゃ悪いし」
「魔王様が来て、邪魔に思う者がいれば、僕がぶっ飛ばすから安心して?」
「え……」
笑顔でそう言ってくるところが怖いです!
そう、心の中で叫ぶ。
「では、階段を上がりましょう」
そう言って、ガーネットが階段を上がりかける。
「ねぇ、待って!」
私はそれを引き止めた。
「なんでしょう?」
「3階には何があるの?」
肝心なところを聞いていなかった。
「廊下と、魔王様の玉座の部屋です」
「っ!」
先代魔王の玉座……。
RPGモノでよく見るやつだ!
どんなだろう。ちょっと楽しみ!
「マナ様?」
「あ、いや、なんでもない! 行こ!」
慌ててごまかす。
さすがに異世界の言葉はわからないだろうし。
「はい、わかりました」
ガーネットは気にせずに進んだ。
3階に到着した。
そこで感じたこと。
「先代魔王の玉座の方から……なんだか、すっごいオーラを感じるんですけど」
押し飛ばされそうなほどの、オーラのような重い何かが私を刺激していた。
「はい。おそらく、先代魔王様が消え、居場所を失った先代魔王様の魔力がマナ様に入っているのでしょう」
ガーネットが心配そうに駆け寄ってくれる。
「マナ様、大丈夫かい?」
メルも駆け寄る。
「うん……大丈夫……立てないほどじゃない……」
私は足を踏ん張って進む。
重い、重い……重い……。
でも、進まなきゃ!
私は世界樹の杖を強く握り、重たい足を一歩一歩進める。
進むにつれて、だんだん重くなる。
「マナ様、よろしければここで休憩されても……」
ガーネットが私の身体を支えてくれる。
「大丈夫、このくらい、魔王になる試練とでも思えば……楽勝、だよ!」
重い魔力がオーラとなり、私を襲う。
でも、これから魔王になるんだ。このくらいで諦めたら、魔王なんてなれない!!
そう思いながら、魔王城の玉座の間の扉の前に来た。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「マナ様……」
「マナ様」
ここまで来ると、重いものも少し楽になった。
「少し、楽になったかも……」
私は息を整え、前を向いた。
「私が、開けていいかな?」
私はその大きな扉に手を置き、二人に尋ねる。
「もちろんです、マナ様」
「マナ様、お願い申し上げます」
「うん」
私は深呼吸をし、力を込めて扉を開けた。
その扉は大きさに反して軽かったが、その威厳には重みがあった。
「マナ様、前を」
メルにそう言われて、前を向く。
そこには、黄色い縁取りに赤色のクッションがついた大きな玉座があった。
玉座の間とでも言おうか。他の通路や部屋よりも一段と美しく、装飾もバッチリだ。
「すごい、綺麗……」
私は思わず声を出す。ここまで美しい部屋は見たことがなかったからだ。
「これからは、ここがあなた様の玉座になります」
ガーネットはそう言って、私を先導する。
「うん」
私はそれについて行き、玉座へと向かった。
「どうぞ、お座りください」
ガーネットが玉座のホコリを軽く落とし、そう言って手を玉座に向けた。
私は恐る恐る、その玉座に座った。
少し大きい。でも、柔らかくて、座り心地はバッチリな椅子だった。
なんだか、周りの景色が高く見える。玉座のせいだろうか?
それでも、とてもいい眺めでもあった。
「ここから、始まるんだ。あの帝国をみんなで……」
「マナ様、そのセリフは、大量の軍の前で言ってください。そうすれば、士気も高まります」
「うん、そうだね。今はみんなで頑張ろ〜!」
「はい!」
「仰せのままに」




