すぐに終わる
陶器の暖炉作りは、思いの外順調に進んでいった。
しかし予定よりも多くのお金がかかることとなった。
原因は、材料不足や人手不足。
それらを、ライラの手のひらから生まれる「お金」で、強引に解決したからだ。
「ま。おかげで活気のある家になったよね」
邸宅内を行き交う職人たちを横目に、ペノが笑った。
ライラは眉根を寄せ、小さく息を吐く。
「……かつて、家の中がこれほど騒がしくなったことがあったでしょうか」
「自分の家で試験する約束をして、さらに人を雇うんだもの。仕方ないよね?」
「職人さんたちがこんなに騒がしいとは思わなくて」
「それはまた、想像力が虫以下だったね」
再びペノが笑う。
ライラは口をへの字に曲げ、顔を伏せた。
ライラがうんざりするのは、仕方のないことだった。
魔女と呼ばれるようになってから、人との交流は控えてきたからだ。
人間嫌いになったわけではないが、これほど多くの人が邸宅を出入りすると気が休まらない。
「ま。すぐに終わるよ」
ペノが両耳を揺らしながら言った。
何の根拠もないと、ライラは目を細める。
とはいえ、悪いことばかりではない。
ライラの邸宅は暖かくなった。
石造りの暖炉に比べ、陶器の暖炉の熱は優しい。
心なしか、空気も良くなった気がする。
「庭も可愛くなったねえ」
ペノが言うと、ライラは誇らしげに頷いた。
陶器の暖炉の良いところは、凝った意匠にしやすいということだ。
色も自由に付けられるので、庭の草花と相性を合わせやすい。
とはいえ、熱を逃がさないように、多少の工夫は必要だった。
陶器の暖炉が放つ熱を受ける、壁や柱を増設する必要があったのだ。
とはいえ、その増設がライラの庭をさらに美しく飾った。
「これはまた、お貴族様やお金持ちが欲しくなりそうだねえ」
「でしょう」
「これで、投資した分が返ってくるといいけどね」
「どうでしょうね」
ペノの問いに、ライラは首を傾げる。
ライラが持つ「お金に困らない力」には、制限はない。
目的さえあれば、購入でも投資でも、必要な分だけお金を出すことができる。
ただし、そのお金で商売するとなれば、話は別だった。
ライラが生み出した金額以上の儲けを出さなければ、手元に戻ってきたお金は魔法の力で消えてしまうのだ。
「お金持ちにいっぱい売れば、なんとか……」
「えー、この北の大地に、そんなにたくさんのお金持ちがいるかな?」
「まあ……いないですよね」
「かと言って、お金持ちがいる地方に輸出するのもねえ」
「やっぱり、マズいかな」
この世界のお金持ちたちのほとんどは、東部に居を構えている。
そして都合の悪いことに、魔女としてのライラの名は主にこの世界の東部で広まっている。
ライラを恨んだ大貴族が、同地方に居を構えていたからだ。
もし、ライラが出資した陶器の暖炉を大々的に売り出せば、どうなるか。
ライラに魔女の烙印を押している東部の貴族たちは、黙っていられはしない。
「まあ、儲けなんて出なくていいのですけどね」
「そうかい? ボクとしては、儲けが出なくてガッカリして、ジタバタしているライラを見ていたいけどね?」
「そういう陰険なウサギちゃんが傍にいるから、私の才能が花開かないんじゃないですか?」
「あっはは! まるで欠片ほどでも才能の種を持っているような言い方だね」
ペノが両耳を揺らし、大声で笑った。
なんとも腹立たしいウサギだ。
しかし、否定はできない。
ライラに才能があるとすれば、強いてふたつ。
お金を生み出す魔法の力と、15歳の若さと美貌を永遠に保つ力だけだ。
それ以外は、長年努力したが、からっきしだった。
「はいはい、仰る通りですよ」
「あっはは! その表情も愉快だねえ!」
ペノの笑い声は止まらない。
ライラは頬を引き攣らせ、ペノの両耳に手を伸ばす。
直後。
ペノの長い耳が、跳ねるようにピンと立ち上がった。
その耳の向く先。
険しい表情をしたブラムが立っていた。
「ほら。言ったでしょ。すぐに終わるって」
ペノが不気味な声をこぼす。
その声音の意味。
ライラには、分かっていた。
こちらへ歩み寄ってくるブラムの表情が、その念押しだった。




