陶器の暖炉(カッヘルオーフェン)
「これが、暖炉ですか」
ライラは、試作品である陶器の暖炉に近付いた。
陶器の暖炉は、表面がタイルで覆われていた。
石造りの暖炉とは違い、壁に埋め込まれてはいない。
傍へ寄ると、火の傍だけでなく、表面のタイルからも熱を発しているのが分かった。
「今は、耐熱試験をしていましてね」
いつの間にかライラの傍へ来ていたベッダが言った。
ライラはベッダに目を向けず、表面のタイルに手を伸ばす。
その手を、ベッダは止めなかった。
触れても問題ない程度の熱、ということだ。
表面のタイルは、当然、熱かった。
火傷するほどではないが、ずっとは触れていられない。
「火の熱じゃなくて、このタイルの熱が、部屋を暖めているということでしょうか」
「そういうことです」
「隣のこの暖炉は、もう火が消えていますけど……まだ熱いですね」
「熱を溜めるようにしてあります。火が消えてもしばらくは暖かいわけです」
そう言ったベッダが、仕組みについて説明をはじめる。
なんでも、陶器の暖炉の中は曲がりくねった煙筒があるらしい。
そこを通る空気の熱を、暖炉が吸収し、熱を蓄えた暖炉が、ゆっくりと部屋を温める。
「……なんだか難しい話ですね?」
ライラは首を傾げる。
長々と説明してもらったが、半分も理解できなかった。
すると後ろにいたブラムが盛大にため息を吐く。
「お前は馬鹿だもんな」
「馬鹿って言わないで」
「いや、馬鹿でもなんでもいい。俺がお前に求めてんのは、そこじゃねえからな」
「馬鹿じゃないから。でも、もう、なにを言いたいかは分かります。馬鹿じゃないので」
「お、分かんのかよ」
ブラムが挑発的に笑う。
相変わらず、人を食ったような笑い方だ。殴りたい。
「暖炉をもっと作るために、お金を出せってことでしょう」
ライラは暖炉を突きながら言った。
ブラムがこういったことを頼んでくるのは、珍しいことではない。
これまでも、ライラが持つ「お金に困らない力」を有効活用する投資の話を持ってきていた。
そうすることで、ライラは街の有力者と繋がれる。
あの手この手で、この街で暮らしていける方法を、ブラムも考えてくれている。
「分かってんじゃねえか」
「どれくらい必要なのです?」
ライラが言うと、ベッダとリザリオが顔を見合わせた。
早速、金額の話になるとは思いもしなかったのだろう。
彼らはしばらく話をした後、指を二本立てた。
金貨200枚ということか。
「分かりました。では、金貨250枚で」
「そ、そんなに??」
「でも条件があります」
ライラの言葉に、ベッダが唇を結んだ。
その緊張を斬るように、ブラムがライラを睨む。
「なんだ、条件ってのは」
「今後の試験は、私の邸宅でお願いします」
「ちょっとでもヌクヌクしたいってか!?」
「もちろんそうです。庭の暖炉も全部これに変えてください」
「いや、そこまでしなくてもいいんじゃねえか」
「します。だって、この暖炉なら私の庭が見栄えよくなるでしょう?」
ライラは人差し指を立てて笑う。
たしかにと、ブラムが片眉を上げた。
ライラの邸宅の庭にある暖炉は、当然すべて石造りのものだ。
庭に作った散歩道に点々と設置してあるので、景観が良くない。
ベッダが作った陶器の暖炉であれば、庭の雰囲気に合わせて細かく意匠を凝らせるだろう。
「お安い御用です、ライラ様」
ベッダが深々と頭を垂れた。
資金難だったのは、間違いないらしい。
改めて工房内を見ると、陶器の暖炉以外は寂し気で、熱気の中に冷めた空気が混じっているようだった。
ベッダの後ろにいたリザリオも、ライラの顔を見てほっとしている。
「それではしばらくお願いしますね。必要な者は全部ブラムに言ってください」
「俺かよ」
「外は寒いから、あまり出たくないので」
「なにか文句が」
「っち、今日のところはなにも言わねえよ」
ブラムが面倒臭そうに天を仰ぐ。
その様子に、ベッダとリザリオが苦笑いした。




