工房
雪道を馬車で駆けて行く。
魔女と呼ばれるライラの馬車を遮るものは、いない。
皆一様に、畏怖を瞳に宿し、こちらを見ている。
疎まれていないだけ、良しとするべきだが。
「俺は慣れたがよ。小心者のお前は、まだ慣れねえらしいな」
「変なものを見るような目をされたら、誰だって嫌でしょう?」
「もっと図太く生きりゃあいいと思うがな」
「私、ブラムみたいに単純じゃないんです」
「るせえ……っと、お、着いたみたいだぜ」
ブラムが馬車の窓から外を指差す。
そこには、大きな工房があった。
とはいえ、活気があるようではない。
工房周辺に積もった雪は除けられておらず、いくつかの足跡だけが寂しく残っている。
「……本当に、ここ?」
「らしいな。ふたりでやってるらしいぜ」
「こんな大きな工房なのに??」
「そんな細けえこたあ知らねえよ。景気が悪いんだろ」
ブラムが首を横に振る。
ライラは怪訝な表情のまま、馬車を下りた。
訪ねた工房内は、外と同様に、寂れた空気を漂わせていた。
違いがあるとすれば、外気よりやや暖かいことくらいか。
「お邪魔します」と声をかけても、返事はない。
いよいよ不景気で潰れてしまったのではないかと、ライラはブラムを見る。
「いや、奥に誰かいるな」
ブラムの指が向く先。
人の気配が、たしかに揺れ動いた。
足を進めると、徐々に室温が高くなっていく。
やがて、上着をすべて脱ぎたくなるほどの熱気が、ライラたちを包んだ。
「あ、暑い……なにこれ」
「さあな。作ってる暖炉を片っ端から試してるんじゃねえか?」
辿り着いた奥の部屋で、ブラムが汗を拭いながら言う。
その声に、工房にいたひとりの男が気付いた。
ブラムの顔を見るや、ぱっと表情を明るくさせる。
「やあ、魔女さまのとこの旦那じゃないか」
工房の男が手を振りながら言う。
ブラムが眉根を寄せ、工房の男の額を小突いた。
どうやらふたりは、知り合い以上の関係らしい。
「紛らわしい言い方するんじゃねえ、ベッダ」
「はは、まあ、いいじゃないか。こんな可愛らしい魔女さまなんだ。悪い気はしないだろ?」
「こいつあ、外見だけだ。中身はバ――」
「――余計なこと言ったら、抉りますよ」
ライラはブラムのわき腹を抓り、捻った。
もだえ苦しむブラムが悲鳴をあげる。
その様子を見て、ベッダと呼ばれた工房の男が愉快そうに笑った。
工房には、ベッダの他にもうひとり、リザリオという小太りの男がいた。
ブラムが言うには、陶器の暖炉はリザリオが考案したのだという。
その試作品が、工房内に溢れかえっていた。
そのうちの五つに火が入っていて、工房内を熱していた。




