薪は盛大に
「薪の追加をお願いします」
ライラの言葉を受け、使用人が駆けて行く。
使用人の手には、金貨が詰まった袋。
それだけあれば、3年分の薪が買える。
しかしライラは、その3年分をたった3カ月で使い切ってしまう。
「だって、暖かいほうが良いでしょう?」
怪訝な表情を浮かべるブラムに、ライラはさも当然のように言った。
それはそうだ。
極寒の北の大地において、自分のいる場所が暖かいことに越したことはない。
しかし、ブラムが怪訝な表情を浮かべたのは、そこではない。
「なんで、他の家で使う薪まで買ってんだ?」
「家じゃないです。お店です」
「んなこたあ、どっちだっていい。なんだって、そんな無駄遣いをするんだ」
「だって、自分が足を運ぶ場所も暖かいほうが良いでしょう?」
「お前……もしかして、庭に最近いくつも造り始めた、あの暖炉は……」
「散歩道に暖炉があったほうが良いと思って」
「……お貴族様でもそんな凄えこたあしねえぞ」
「褒めてくれてます?」
「呆れてんだよ」
ブラムがため息を吐く。
とはいえ、強く反対はしてこない。
大金を使うライラのおかげで、この街は潤っている。
魔女と呼ばれていても平穏に暮らせていられる、理由のひとつだ。
「……そういやあ、暖炉で思い出したがよ」
調子に乗って胸を張るライラを小突いたブラムが、片眉を上げた。
「変わった暖炉を作ろうとしてる奴がいるんだがよ」
「……変わった暖炉?」
「なんでも、陶器みてえな暖炉らしい」
ブラムの言葉に、ライラは首を傾げる。
この世界において、暖炉とは石組みのものだけだ。
石組みの暖炉の熱は、壁の中を通って屋根の上の煙突へと出て行く。
王城の暖炉などは地下にあり、床と壁を暖めるような構造となっているらしい。
しかしそれは、建築時から計算され尽くし、尚且つ大金を積まねばならない。
大金を積むだけなら、「お金に困らない力」でなんとかなるのだが。
北の大地で暮らすようになってから今まで、ライラはずっと、そう思っていた。
しかし建築時から計画し始めなければならないというのが、どうしてもいただけない。
魔女と呼ばれるライラの身に、一所での長い未来はどうしても思い描けない。
「……陶器の暖炉って、小さいの?」
小さいのなら、ここではないどこかでも使えるだろうか。
かすかな期待をいだいて、ライラはブラムに尋ねた。
しかし、ブラムがすぐさま首を横に振る。
「いや、人よりはデカいらしいぜ」
「大きいのですか……じゃあ、あまり意味無いですね」
「だがよ、普通の暖炉より薪を使わねえらしいぜ」
「……どういうこと?」
「お、喰い付いたな? なら、その暖炉を作ってる奴のとこに行ってみねえか?」
「……え、外、寒いですよ」
「るせえ! たまには外出してシャキっとしやがれ!」
ブラムの大きな手が、ライラの背を叩く。
その衝撃を受け、ライラはヨタヨタと玄関に向けて足を運んだ。
使用人たちが、玄関の扉を開く。
冷たい空気が、邸宅内に吹き込んだ。
あまりの寒さにライラは身震いし、振り返る。
しかし背後には、睨むようにライラを見据えるブラムが立っていた。
「……分かりましたよ、行きますよ」
「最初からそう言えばいいんだ。散歩以外でほとんど動かねえその枯れ枝を動かす用事を作ってやった俺に感謝しろよ」
容赦なくライラの背を打つ、ブラムの言葉。
ライラはため息を吐きつつ、玄関の扉をくぐるのだった。




