第2-25話 死に死は来ない
米舞生異渚「うぇ?まじか…」
米舞生異にも想定外だったその出来事。佐藤要を庇い、葛城自身が犠牲になる。佐藤にも米舞生異にもはたまた本人にもなぜその行動に出たのかいまいち理解できずにいた。
佐藤要「くっ!!うぅ!!」
理解できていないなかでも、佐藤は今葛城の犠牲によって生まれた米舞生異の隙を逃してはいけないと思い至り、米舞生異の顔面を力のすべてを使ってぶん殴る。殴られた米舞生異はその力の大きさに圧倒され数メートルほど体ごと飛ばされた。佐藤はそれを一瞬だけ確認したのち、葛城を軽く腕で抱え本人に問い正す。
佐藤要「何でだ…?どうして助けた!!」
葛城からの返答はなにもない。現実からでもアナリストの種性を通してさえ、槍の当たりどころが悪かったゆえか彼の意識はかなり薄れており、葛城からわずかに黒い粒子が発生していた。
佐藤要「ふざけんなよ…こんな、、こんなところで!!」
佐藤にとってこれほど理不尽で振り回されていることはないだろう。一時は仲間として共闘していたものは突如行方不明となる。現界からの友人の存在はほとんど思い出せないほどに記憶が薄れてしまった。自分は幸奪戦争に勝利したため極楽での生活を手にするが、極楽で充実した生活をおくることはできず、数か月後なぜか地獄へ戻される。そこでかつての行方不明だった仲間と会ったかと思えば、何も教えてくれず自身を庇って消え去ろうとしている。佐藤要が幸奪戦争に参加してから何一つ納得できる出来事が存在しない。
佐藤の心はほとんど壊れ始めていた。どんな人間もここまでの理不尽が重なれば心は崩壊する。その理不尽に抗うすべもなく、なにかをする気力を失った佐藤は呆然としていた。
米舞生異渚「終わりにしようか。」
槍を構え佐藤にもとどめを差そうとする米舞生異。その槍が動きだし佐藤の首を貫こうとするときだった。
佐藤要「…だ、、」
佐藤はボソッとなにかを呟き自身の首に近づいていた槍を左手でつかむ。その力は圧倒的でその左手から槍を引き抜こうにもなかなか抜くことができない。
佐藤要「まだ、、消えたら、ダメなんだ。」
その瞬間、米舞生異の槍は粉々に砕け散る。その圧倒的な怪力に米舞生異はたしかな恐れをみせ、約1秒動きが完全に止まる。その1秒の間に佐藤は右手の拳を米舞生異の腹部に激突させる。その衝撃によって米舞生異の身体は吹き飛ばされる。壁に激突し、痛みはないが佐藤という存在に疑問を覚え始めた。
米舞生異渚「もう手は出し尽くしたろ。これ以上戦ってもお前に何のメリットもないだろうが。」
佐藤は吹き飛ばされて遠くにいる米舞生異に一歩一歩近づきながら独り言のように答える。
佐藤要「ここで、逃げたら、木崎が、危なくなる。もしかしたら、伍代も。これ以上、失ったら、俺はもう耐えられない!」
力強く地を蹴ったかと思えば遠くに佐藤は一瞬にして米舞生異の目の前まで接近する。右手からまた拳が繰り出されようとし、米舞生異はあわててそれを首を少し動かすことで避ける。米舞生異の耳元には爆音が鳴り響き、壁の欠片が飛び散っているのが感じ取れた。
米舞生異渚「武召喚なしでこの威力かよ。」
佐藤はまた攻撃を続ける。米舞生異は自慢のスピードでそれをかわすがもといたその場所の床が人為的な地割れを起こしているのをみて佐藤に対する恐怖がさらに増す。
米舞生異渚「お前こそ、何者だよ?」
佐藤要「…お前を地下深くまで落とせれば少なくとも身動きできなくなる。衝撃が伝わるなら強い衝撃を与えて気絶くらいならできるはず。」
米舞生異渚「おい、嘘だろ…」
佐藤がとっさに思い付いた策は米舞生異にとっての有効策であり、その策を一人で実現できる技量を持っているとさっきの攻撃で佐藤は証明している。これにより米舞生異の恐怖と攻撃を交わすことに対する集中力は最大にまで達した。
米舞生異渚「フッ、、こいよ!!」
恐怖と楽しさ。その両方が混同した笑いを浮かべ、佐藤からの攻撃が始まる。佐藤からの攻撃は至って単純。右と左の拳を交互に打ち付けてくるもの。しかし、その一撃一撃は米舞生異にとっては致命打となり得る。スピードの差は歴然であり、避けることは容易である。しかし、一撃も受けてはいけないというその緊張感が米舞生異を恐怖させ、そして楽しませている。
米舞生異渚「お前!!名前は?」
完全に気分が最高潮に達し、叫ぶように自身を昂らせてくれている相手の名前を尋ねる。
佐藤要「…佐藤要だ。」
米舞生異渚「俺の名前は米舞生異渚だ!俺に一撃入れてみろ!そうすればお前らの記憶を抜き取ったオーナーの存在も神楽士郎の目的もわかってくるはずだ!!」
ここまで楽しませてくれたお礼といわんばかりの挑発と情報の開示に佐藤は少し驚きながらも攻撃のてを止めず、少しでもスピードの差を埋めようと攻撃速度を上げ始める。だがそれでも米舞生異のスピードには到底追い付かず、依然としてかわされ続ける。
米舞生異渚「そろそろ疲れてきたんじゃねえのか?それともまだまだいける?」
佐藤要「だま、れ」
佐藤と米舞生異の攻防に決着はつかず、地面が破壊された跡が増え続けるばかりだった。それから1分後、槍の生成持続時間を終え丸腰になった米舞生異が少し動き出す。
米舞生異渚「うん、もういいや。」
佐藤の攻撃をかわし続け米舞生異は徐々に佐藤から距離を離し始めた。慌てて追い付こうとするも当然彼との距離は遠ざかるばかり。
米舞生異渚「さすがに飽きた。また今度な。」
自由気ままにそう言い残し、米舞生異は自慢のスピードでどんどん離れていく。佐藤に追い付けるすべも体力もなく、膝を地につけ叫び出す。
佐藤要「ううぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼の叫びが辺りを包むなか米舞生異にその叫びは山びこ程度の音量までしか届かなかった。
米舞生異渚「おおー叫んでる叫んでる。」
佐藤を撒いた米舞生異は移動を歩行に変えてゆっくりとオーナーのもとへ戻ろうとしていた。
米舞生異渚「にしても結構ハラハラしたな。あの体験はなかなかできない。」
佐藤の最後の武召喚なしでのあの火力を称賛しながら楽しそうにスキップまで始める。
米舞生異渚「タッタラ、ラ~~今日の、おやつは~イチゴジャム~。タッタラ、ラ~」
軽快なステップで鼻歌さえ混じらせた米舞生異はスキップにまたさらにジャンプや一回転も付け加える。
米舞生異渚「タッタラ、ら~~~。ワタシ~は~ほんと~に自由なのだ~~~。」
高音も継ぎ足しカオス状態となったそれは突如として中断された。スキップをしようと右足を宙に上げそれをまた地に落とそうとした瞬間、身体がこけて全身が倒れたのである。地面に手をつき立ち上がろうにもなぜか立てない。どういうことかと思い足の方に目をやると米舞生異の右足がなぜか切断されていた。
米舞生異渚「…は?」
あり得ないその現象に言葉が出ず、とりあえず辺りを見渡し、自身の足を切った原因のものを探そうとする。すると一つ考えうるそれらしきものが存在していた。一人の金髪の男だった。
木崎印「刀ってやっぱ使いにくいわ。」
米舞生異渚「どういうことだ?なぜお前は俺を傷つけることができる?」
木崎印「さぁな、特に何もしていない。」
米舞生異渚「は?」
自身を傷つけられる理由を本人も知らないらしく、米舞生異が木崎の身体を見定める。米舞生異は木崎の身体をみて自身を傷つけられる理由を理解した。そんな米舞生異を気にせず木崎は米舞生異に近づき額に手を触れる。米舞生異は情報を抜き取られながら自嘲気味に語る。
米舞生異渚「ハッ、、なるほど。【お前も俺と同じか。】お前も報われねぇな。」
木崎印「俺の状態と今のお前の身体の状態が同じだと言いたいのか?」
米舞生異渚「もちろん。俺たちが他者からの攻撃に無傷でいられるのは【既に消えることが確定した状態】だからだ。」
米舞生異は自身の無敵のカラクリ、そして今の木崎の身体の状態を語る。それをきいた木崎は薄々わかっていたようだが、それでも少し深刻な表情へと変わった。
米舞生異渚「何シケタ面してんだよ。どのみち全員消えるんだ。残されたわずかな時間をどう楽しく生きるかに頭使え。」
米舞生異からの激励の言葉だったのだろうか。木崎はその言葉に確かな違和感を持ちながらも米舞生異から情報を抜き終え彼の首に刀を構えた。
木崎印「最後に言い残すことは?」
米舞生異は落ち着いた様子でただ一つだけ尋ねる。
米舞生異渚「お前、、名前は?」
木崎印「…木崎印。」
米舞生異渚「フッ、、印。佐藤がかわいそうだぜ。」
木崎からの答えに満足した米舞生異は自身の首に寸止めの状態にあった木崎の刀を自身の右手で無理やり突き刺させる。あまりの行動に木崎も驚くが、そのときにはもう米舞生異は黒い粒子と成り果て始めていた。やがて米舞生異の全身が黒い粒子となり、その粒子は宙を舞って完全に消えた。
脱落
佐藤要「おい、葛城。おい、おい!!」
取り残された佐藤は意識がない葛城を呼び起こそうとする。腕で抱え身体を揺らすも何も反応がない。それどころか葛城の身体に発生している粒子の量が増えていた。
佐藤要「なんで、、なんでなんだよ…」
葛城康介「さ、とう?」
涙さえ浮かべ始めていたなか葛城が目を冷ます。
佐藤要「葛城!」
思わず興奮し叫ぶと葛城は自身の右腕を上げ、それを佐藤の右腕にまで持ってきた。腕を上げる力はとても弱々しく今にもその腕は下がってしまいそうだった。
佐藤要「何をする気だ?」
佐藤は右腕、正確には右腕につけられている時計に注目していた。その瞬間、佐藤の数値が急激に増え始める。このときに佐藤は葛城の行動を理解する。
佐藤要「おい!!お前!!」
佐藤要(ダメだ!そんなの認めてはいけない。このまま何も聞けずに消させるなんて!!)
慌てて数値を送り返そうとするも葛城は自身の右腕をはねよける。そして最後に右手で佐藤の額に触れた。
佐藤要(……だめだ、まっ…)
脱落
佐藤の懇願は葛城の耳に届くこともなく葛城康介という存在は抹消されていく。彼が何をしたかったのか、何が目的だったのか、何をしていたのか、何を思っていたのか、なぜ監視者になっていたのか、それらのあらゆる疑問を佐藤に知らさせずに。
佐藤要「何で、俺だけ置いていくんだよ……俺が何したっていうんだよ…」
彼の地獄へ落とされた理由は今は存在していない友人の犯罪がバレないよう工作したから。その工作に誰かを殺めることや傷つけることはしていない。それでもそれは悪行とみなされ地獄へ堕ちたのだ。本人が今されている仕打ちを考えればもう納得はできないだろう。ダンゴムシのようにうずくまり泣くことも叫ぶこともやめた佐藤はただそこで呼吸だけをしていた。頭の中では葛城康介という名前を延々と連呼していた。
木崎印「何やってんだ?」
その声にうずくまっていた体勢から少しだけ顔を上げる。視界の先にはめまういが逃げた先から金髪の男、木崎がこちらへ近づいてきた。
佐藤要「木崎…?」
木崎印「何があったかは知らねぇがお前には立ってもらないと困る。立て。」
敵はめまういだけじゃない。記憶を抜き取った張本人はオーナーであり、彼から記憶を奪い返さなければ忘れている大事なことも思い出せない。それを頭で理解し、佐藤は重い身体を立ち上がらせた。無論、立ち直ってはいない。
佐藤要「わるい、いこうか。」
多少の平静を取り戻した佐藤は木崎とともに歩き出した。木崎の身体の状態を知らないまま。
木崎印(くっ、、まだだ。まだ、、消えたく、ない。)
佐藤の隣では平静を装い、身体が消滅に向かっているのを武召喚数値で無理やり延命している状況に佐藤は気づかない。気づこうともしない。それがたとえ時間の問題であったとしても。
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