第2-22話 無邪気
カイリ「脱落させたって、じゃあ脱落者決定戦は監視者と戦うの?」
伍代翔地「違う。あいつはもともとただの参加者だった。だが俺に手を貸してくれていた監視者の男の裏切りを暴露し、多くの参加者を抹消させた功績で監視者になったんだ。」
カイリ「その女が今、八次の参加者に紛れ込んでいる…」
カイリがこの女に注目しているなか、伍代は映像を先送りする。
カイリ「え、ちょちょ、何してんの?」
重要な場面であるはずなのにカットを始めた伍代を止めようとする。だが、伍代は先送りをやめることはなく、その作業を続けながらこの行動の意図を説明した。
伍代翔地「どうせこの戦いは我殺さん側の勝ちですよ。人数差に拮抗される時間はあるでしょうが、それも時間の問題。」
カイリ「何でそんなこと言えるの?というか大前提、我殺の行動の訳を説明してもらってないんだけど。」
二つの疑問をぶつけられ伍代は後者の方の疑問を先に答えることにした。
伍代翔地「まず、我殺さんがした行動はいわば宣戦布告。言い換えれば脅しです。」
カイリ「脅し?」
伍代翔地「あなたに質問です。我殺さんたちが参加者に全然会わなかったのはなぜだと思いますか?」
カイリ「え?そりゃ、たまたま我殺が通る道付近にに便利なものがなかったから?」
伍代翔地「便利なものというのは?」
カイリ「え?うーーーん、、」
適当な回答に具体性を突き詰められ、言葉が浮かばない。それを見かねて伍代はヒントを出す。
伍代翔地「あそこには神楽士郎が潜んでいるんですよね。そして彼には何らかの計画があり、その計画に参加者を利用しようとしている。」
その伍代のヒントにカイリは答えを導きだした。
カイリ「あっ、一ヶ所に固めている…?」
伍代翔地「えぇ恐らく。4000人以上ものが収容できる場所はないにせよ、複数に分けて身を潜むことくらいはしているはずです。そして恐らく彼らは地下にいます。」
カイリ「地下?」
伍代翔地「地下鉄のプラットホーム、路線辺りを陣地にしているんじゃないでしょうか?地上を散策しているこの三人が全く出会わないのは地下にいるからと考えるのが妥当です。まぁ、灯りや寝具、ストレスを和らげる娯楽物の補充に地上へ駆り出される人間くらいはいたでしょうが。」
カイリ「なら何でこいつらは急に出てきた?しかも地下にいるってことは地上にいる我殺の言葉は聞こえないだろ。」
伍代翔地「敵のトップが神楽士郎であると考えると結構単純ですよ。」
中嶋芽依「そうですね。思ってたよりシンプルでたちの悪いカラクリです。」
伍代・カイリ「!?」
いつの間にか起き上がっていた中嶋に気づいておらず、慌てて彼女に警戒心を向ける。伍代は作業を一度中止し、戦闘の姿勢さえ向けた。
中嶋芽依「安心してください。やる気はありませんよ。」
両手をあげ、立ち上がり、2・3歩下がり始め二人に干渉しないという意思を示した。そんは彼女と伍代に向けてカイリは問う。
カイリ「そのカラクリって何なの?」
我殺の挑発、脅しの言葉に神楽グループの人間がその【挑発に乗れた理由】、いわばなぜ聞こえたのかがカイリにはまだ不明であり、問わずにはいられなかった。その質問に中嶋が答える。
中嶋芽依「前回の幸奪戦争、あなたが最後に戦った相手は我殺狂助だった。彼と戦った理由は契約を交わしたから。愛人の仇をとるために我殺さんはあなたとの現界での関係性を教えるた代わりに共闘を持ちかけた。そして見事仇を討ったのちに、我殺さんは報酬であるあなたとの現界での関係性を教えた。戦いながら、ね。」
カイリ「急になに?それに、何でそれを知っているの?」
唐突な話題、それに自身と我殺狂助しか知らないはずの事実をなぜ中嶋が知っているのか。この二つの疑問の後者の疑問に考えたときカイリは自然と答えが浮かび上がった。
カイリ「いや、まって。まさか、、」
中嶋芽依「そう、監視者は参加者の会話も聞くことができるんです。皆さんにつけられているこの時計を利用してね。」
中嶋が持つ右腕につけられた腕時計を指し、そう説明する。しかし、そうなると新たな疑問が浮かび上がる。
カイリ「じゃあ何で今、ここはなにも聞こえないの?」
榎宮愷がここで目を覚ましてから一度も監視モニターから音声は聞こえなかった。ここでbの参加者の盗聴ができるなら今も聞こえているはず。この疑問には伍代が答えた。
伍代翔地「私の仲間から聞いた話ですけど、この監視の全ての権限は神楽士郎が持っているんですよね?」
中嶋芽依「えぇ、神楽さんが監視者のすべてを管理しています。ここで参加者の声が聞こえないのは神楽さんがそうしたからとしか考えられません。」
嬉々としてその情報を語られ、カイリもなんとなく理解はした。我殺の挑発の言葉が聞こえた理由は参加者の時計に盗聴器のようなものがついており、そこの盗聴先が今回は監視者の監視ルームではなく、神楽士郎のもとへ変わっていた。だから神楽士郎は我殺の抹消を命令させ、地下にいたものが地上へと姿を現すこととなった。
カイリ「我殺のしたこととそれによって引き起こされた状況についてはわかった。でも、もしそれが本当ならさ、、今のほとんどの参加者は神楽士郎に支配されているってことだよね?」
我殺が地下にいるものたちの挑発をするまであの三人は参加者にほとんど出会わなかった。それはほとんどの参加者が地下に潜んでいたことを意味する。その地下のグループの長が神楽士郎であると考えるとほとんどの参加者は神楽士郎の支配下にあるということになる。このカイリの質問を伍代は肯定し、映像のスキップ作業を再開した。
伍代翔地「えぇ。我殺さんもこの異常事態には神楽士郎が絡んでいると考え、こんな挑発をしたんです。少しでも神楽士郎の手駒を減らすために。」
カイリ「でも、問題はそこだけじゃない。そうだろ?」
カイリの言葉に伍代は少しうなずく。そう、問題はそれだけではない。神楽士郎とはまた別の、彼らが。
伍代翔地「というわけで、ここら辺からまた再生しましょうか。」
再生ボタンが押され、映像が映し出される。
我殺狂助たちと設樂図芹中の戦闘が始まってから一時間ほど経ったあとのことだった。
桐生亜衣「びっくりするくらい弱かったね。」
荘重飯嶌「何で僕、あんなビビってたんでしょう。」
総勢16の敵をたった3人で特にたいした怪我も負わせられず、無事に勝利した三人は設樂図芹中だけ生け捕りにし、情報を吐かせようとしていた。
設樂図芹中「くっそが!!使えないゴミどもめ!!」
おしとやかなイメージは秒で崩れ、髪を乱れさせながら叫び散らかしている。彼女は木で縄にくくられている状態で彼女以外の15人は3人に失格にさせられた。彼女の前に我殺がしゃがみこみ尋問を始める。
我殺狂助「伍代からお前のことは聞いている。同じ監視者で神楽士郎と関係があるんだろ。やつの居場所を教えろ。」
設樂図芹中「残念ながら存じ上げません。私は下っ端の存在ですので。」
言葉遣いは戻り、あくまでおしとやかに情報の開示の不可を告げた。
荘重飯嶌「あ?いいから吐け…」
我殺狂助「よせ。多分、本気で知らない。」
実力行使に出ようと近づく荘重を右手で制止させ彼女の言葉が本当であると予想する。
我殺狂助「俺が神楽士郎だったら敵に重要な情報を掴んでいる味方をわざわざ向かわせない。」
荘重飯嶌「まぁ、言われてみれば確かに…」
桐生亜衣(じゃあ何で聞いたんだ?)
我殺狂助「ダメもとできいてみたが、やっぱり無理だよな。仕方ない。」
ため息をつき、気だるそうに話題を変える。
我殺狂助「神楽士郎と最後に連絡を取り合ったのはいつだ?」
設樂図芹中「その前に一つ聞いてもいいですか?質問に答えてくれたら私もお答えします。」
我殺狂助「…言ってみろ。」
渋々、設樂図の交渉を受け入れ彼女に質問の機会を与える。
設樂図芹中「【何で彼女と行動を共にしているんですか?】」
彼女の視線は桐生へと向けられる。我殺の目はわずかに冷気を帯び、目を細めてあえて尋ねる。「どういう意味だ?」と。
設樂図芹中「先輩たちから聞きましたよ。あなたは榎宮愷という人物に人生を狂わされたって。七次の際に偶然参加者として巡りあったときには仲間のために復讐心を隠しつつも最後は失格に追い込むことはできた。そして今の八次、あなたの目の前には榎宮愷の恋人がいらっしゃる。なぜ消さないのです?」
荘重飯嶌「どういう、ことですか?」
七次での関係性を聞かされていない荘重は置き去りのまま困惑するしかなく、桐生も何か言い返すことはできない。
設樂図芹中「交換条件です。彼女を残している理由を語るなら、先ほどの質問のみを。彼女を消すなら私がしっている全ての情報をお話ししm…」
残酷な取引を持ちかけようとした途端、設樂図の腹部に大きな衝撃が加わる。それは我殺狂助の拳だった。
設樂図芹中「あ、がぁっ、、」
我殺狂助「残している理由はこいつは俺の因縁と全く関係ないからだ。俺が消したいのは榎宮愷だけ。復讐の際に邪魔をすれば容赦はしないが、それは今じゃない。満足か?」
設樂図芹中「フフフ、、いいでしょう。最後に連絡を取り合ったのはこの八次の幸奪戦争が始まる直前。神楽さんから一つ忠告を言い渡されました。」
我殺の返答に満足を得たのか、彼女は我殺の出した質問に答え始め詳細を語る。
設樂図芹中「【不可抹のものに気をつけろと。】」
カイリ「不可抹?」
伍代翔地「来るぞ。」
その次の瞬間、この尋問の場に一人の男が姿を現した。現れたのは小学3年生ほどの少年で麦わら帽子を被ったタンクトップの姿で左脇にサッカーボールを携えている。この少年の姿に設樂図を含めた4名の視線が一気に集まる。
我殺狂助「…少年、こんなところにどうしているんだ?」
警戒心を隠し向けながらも優しく尋ねる。彼は無邪気に答えた。
柳原敬太「遊ぼ!!お兄さんたち!!」
我殺狂助「悪いがお兄さんたち、今忙しくてな。遊んでやれるほど暇じゃないんだ。」
柳原敬太「うーーん、じゃあ【面白い遊び】ならしてくれる?」
我殺狂助「…は?」
柳原敬太「ちょっとまってねーー。」
その少年はマイペースにポケットをあさりだし、何かを探していた。この4人はそれをただ見ていることしかできなかった。そうしてなにやらスマホを取り出した少年は4人にある映像を見せる。その映像は我殺と桐生の息をのむものだった。
桐生亜衣「うそ、でしょ?」
少年が映し出した映像はある地下鉄のホーム。そのホームにはいくつかの柱があり、そのうちの4つの柱に一人ずつ参加者が拘束されている。その4人のうち一人は七次の参加者だった。
我殺狂助「坂縞…?」
桐生亜衣「くっ、ファースト!」
桐生の右手に槍が投影される。すぐさま少年に近づきその槍を少年に突き刺そうとする。躊躇い故か急所ではなく足に向けて。少年は左脇に抱えていたサッカーボールを地につけ、右足をサッカーボールの上に置く。そして彼は右足でサッカーボールを蹴りあげた。蹴りあげた先に桐生の持つ槍の先端が待ち構えている。槍とサッカーボールが衝突する際、槍はサッカーボールを突き刺すことなくボールの威力に負け粉々に粉砕された。
桐生亜衣「…え?」
あまりに受け入れがたいその事実に桐生の動きは数瞬止まる。その隙を少年は見逃さない。少年が桐生のもとへ近づき桐生の足に触れようとした。
我殺狂助「ファースト!」
我殺の右手に巨剣が投影される。その巨剣を少年の手に突き刺し、少年の手が桐生の足に触れるのを阻止させる。
荘重飯嶌「先輩!!」
荘重は桐生のもとまで駆け寄り、桐生の両脇に自身の腕を通し、無理やり桐生を後退させながら呼び掛ける。
桐生亜衣「はっ!!ご、ごめん。」
慌てて正気を取り戻し、今の状況を無理やり理解する。そして右手に剣が突き刺さった少年は笑いながら語る。
柳原敬太「すごいよ、お兄ちゃん。僕の手を傷つけた人初めてだよ。」
我殺狂助「何者だお前?」
もう優しさで尋ねるのはやめにし、悪人を見る目で冷たく聞き出す。
柳原敬太「お兄ちゃん、ルールを説明するね。」
我殺の質問には微塵も答えず、少年はマイペースに楽しそうに続ける。
柳原敬太「制限時間は一時間。それまでに僕を倒してこのスマホの映像の居場所を突き止めたらお兄ちゃんの勝ち。負けたら、、【地下鉄にいるお兄ちゃんたちと一緒に消えてもらう。】」
伍代翔地「…最悪だ。」
映像を見ながら伍代が絶望する。
カイリ「…どのことを言ってる?」
最悪なところの心当たりが多すぎてどのことを指しているのか尋ねてみる。伍代は頭を抱えながら語った。
伍代翔地「【この少年が恐らく不可抹のもの。そしてオーナーの部下は最低でもこの少年含めて二人いる。】」
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