第2-21話 カオスバトル
オーナー「ヒントは終わりだ。花城如音、まずはお前からやらせてもらうぞ。」
オーナーからの話は終わった。神楽士郎に言い渡された任務を遂行する姿勢へと変わり、花城如音の目の奥を見つめる。
花城如音「…いいだろう。」
花城はそれに応じ、オーナーのもとへ近づき始める。2、3メートルほどの距離にまで近づいたときオーナーは指を鳴らし告げる。
オーナー「ワープ」
その瞬間、オーナーと花城如音は姿を消し、跡形もなくなった。
伍代翔地「ちっ、ダメだ。我殺さんと繋がらない。」
残されたカイリと伍代。伍代は時計をいじり始め我殺との連絡を図る。しかし、それは失敗に終わり諦めてカイリと中嶋の方へ目をやった。
伍代翔地「…仕方ない。」
カイリ「!?」
伍代がそうつぶやいた瞬間、彼は勢いよくカイリの方へ近づく。地を蹴り、一秒にも満たない時間で榎宮の目の前まで移動し、自身の拳を榎宮の顔面めがけて狙い定める。カイリはその拳をとめ、同時に伍代が動かそうとしているもう片方の手も制止させる。一瞬伍代の動きが止まったかと思えば、すぐにまた動きをみせる。制止されている両手をふりほどき、今度は左足をカイリの腹部めがけて蹴り倒そうとする。カイリはその左足を右手で受け止める。受け止めた際に二人の回りに衝撃波がうまれ風が発生する。そして伍代は目をつむり、攻撃をやめた。足はどかされそこから何も動きを見せなかった伍代に思わずカイリは尋ねた。
カイリ「何がしたいの?」
伍代翔地「どうやら多重人格は本当のようですね。」
カイリ「何で知ってんの?」
伍代翔地「前に触れたことがあるでしょ。それでお前が複数の人間を内包していることはわかった。」
入り乱った言葉遣いで榎宮愷の複数の人格を保有していることに気づいていたと明かす伍代からまた言葉が続けられる。
伍代翔地「今あなたを襲った理由はあなたが使えるかどうかの判断材料です。初めて戦ったときのお前だったらあのまま消すつもりだった。」
少しだけ悔しそうに、葛藤を交えた表情で不本意に頭を下げる。
伍代翔地「手伝え。今のこの状況は看過できない。お前の力が必要だ。 俺の私情はそのあとでいい。」
言葉に詰まりそうになりながらも頭を下げ協力を要請した。仲間を失格にした忌むべき相手に頭を下げ、懇願の言葉を自ら絞りだし吐き出した。
カイリ「…どうしてそこまでオーナーを止めようとしているの?」
憎き相手にまで協力を依頼するほどに伍代にとっては今のこの状況が深刻であることは理解した。だがなぜ深刻と捉えているのかが榎宮愷にはわからない。自身の身の危険を案じているだけならここまでのことはしない。オーナーという存在が気がかりなら自身のことは後回しにしてすぐに花城如音のもとへ向かうか、部下のもとへいって情報を引き出すのが合理的なはず。今の伍代のこの苦渋の選択ゆえの行動をしたわけを榎宮は理解できないでいるのだ。それを聞かれた伍代は椅子に座り、過去を語る。
伍代翔地「お前にも経験があるんじゃないか?仲間の存在を忘れることの辛さを。」
カイリ「……」
榎宮愷
表に出ている人格は言葉に詰まる沈黙、内に秘められている二つのうちひとつの人格は無言の肯定を述べていた。伍代は続ける。自身の過去を。
伍代翔地「第五次から参加してきて、同期は全員覚えられぬ人となった。六次のものは二人だけ。七次でさえ、10人もいない。そのなかには俺の仲間だった人も、友人も、恋人だっていたはずなんだよ。それをたった8日でそいつがいたすべての記録も記憶も失う。失わされる。そろそろ耐えられないんだ…仲間を失うのは…だから、俺は仲間に危機が迫っているならその危険因子を全力で排除する。お前と手を組むのはその人格が主導権を握っているときまでだ。」
カイリ「……」
パート(榎宮、こいつに伝える気か?)
痛みに悶えながら精神世界で榎宮愷へ話しかける。花城如音に教えられた幸奪戦争ができた理由、自分達がなぜこんなことをさせられているのかの訳を。伝えることが果たして正しいことなのか、パートはそう問いただした。
榎宮愷(この幸奪戦争に苦しんでいるのは伍代だけじゃない。木崎も佐藤も我殺も坂縞も
亜衣も。)
パート(幸奪戦争に勝利しても何も得られない。極楽のやつらが幸奪戦争を打ちきりにするしかない。だから極楽で起きているオーナーたちの暴動には協力すると?)
むやみに情報を与えれば、幸奪戦争のアンティワームのように間違った使い方で更なる悲劇を生むことになると。そう忠告するパートの意見は我ながら説得力があり、その意見に反論はなかった。だが、
榎宮愷(俺たちは何も知らないままこんなことをさせられてきた。だからせめて全てを知った状態で俺たちのこれからを決める。カイリ!)
精神世界で呼び掛ける。榎宮愷の神格が表にでれば伍代は自身のことを役立たずへ逆戻りしたと気づき協力関係は白紙に戻る。だからカイリの人格のままで説明させるしかない。未知の強さを持っている彼に。呼び掛け続けられているカイリは目をつむり、ため息をこぼす。
カイリ「手、貸して。」
伍代の右手を取り、それを自身の額へと当てる。伍代の脳に多くの情報が流れ込む。榎宮が与えようとしている情報、それだけではない。パートやカイリについての情報も抜き取られ始める。
パート(ちっ、くそが。お前のせいで俺が消える可能性が出てきたじゃねえか。)
榎宮愷(え、どうして?)
パート(俺とカイリはお前が忘れた記憶の象徴って言ったろ。アナリストに一度でも記憶を吸収されればその存在自体が揺らぎ始めることになる。俺が保有しているものは大分なくなってきた。)
榎宮愷(お前がいなくなると俺はどうなるの?)
パート(幸奪戦争に参加する前の冥界にいたお前の状態に戻る、といったところだろうな。)
榎宮愷(お前が消えれば才原祐一のことについて少しはわかるようになる?)
パート(…まぁな。)
そんな二人の会話を終えた頃に伍代に対する情報提供も終了した。幸奪戦争が生まれた理由、榎宮愷の過去の一部を見せられた伍代は表情を歪ませ、カイリに尋ねる。
伍代翔地「これを見させて、どんな意図があるんですか?」
カイリ「君の求めていた幸奪戦争が行われている理由がそれだよ。この戦争を終わらせるなら管理者か極楽に掛け合うしかない。」
伍代翔地「…多分それは難しいですね。」
カイリ「何で?」
伍代翔地「いずれ説明します。ですがその前にまずオーナーたちを止めなければ。」
二人は協力関係を結び終え、冥界の至るところに潜んでいるオーナーグループの動きを止めることに目標を定めた。
カイリ「ぼくたちはどこを止める?」
伍代翔地「今の私たちに極楽に行ける手段は恐らくありません。aかb、状況が芳しくない方に応援に行く。」
カイリ「いや、そんなのわかるわけ…」
伍代翔地「ここはどこだった?」
カイリ「あっ!!」
伍代の言葉にどうやって状況の優劣を判断するのかおおよその見当がついた。
伍代翔地「ここは監視者の監視ルーム。中嶋がまだ寝ている間に映像を見ましょう。まずはaの方から。」
カイリ「アナリストの種性で解析できないの?」
普通に観るより解析した方が早いのだは?とごもっともな疑問をぶつける。だが、
伍代翔地「参加者が急に減り始めたのはゲーム開始から14時間後のこと。今から二時間前だ。映像の解析はできないことはないが、二時間という長さだと数値や身体の負担が大きくなる。戦う前にそれは避けたい。解析はするが、それは敵の強さや種性核を測るときにだけ使う。」
カイリ「わかった。再生するところさ急に500人が失格になったの二時間前のとこから?」
伍代翔地「いえ、それよりもう一時間だけ前の時間から観ましょうか。」
監視モニターを動かし、映像を三時間前から再生させる。我殺狂助、桐生亜衣、荘重飯嶌、この三名に焦点を当てて。
~三時間前のaの会場にて~
桐生亜衣「それで、結局どこ向かえばいいの?」
参加者を1000人集める、または減らすという我殺の計画は理解したが、その参加者に遭遇できていないこの状況にどう打開するのかを尋ねる。
荘重飯嶌「確かに、参加者に会うことができなかったら何の意味もないですよね。」
荘重も共通の意見でどうするのかを聞かずにはいられなかった。
我殺狂助「…一度見てろ。」
そうして立ち上がり、我殺は一人で外へ出た。外へ出たや否や、何十歩か歩き道の真ん中で高らかに叫ぶ。
我殺狂助「よぉ、うずくまってるチキンども。そこにいれば安全だもんな。楽にクリアできるもんな。」
桐生亜衣「…なにしてんの?」
荘重飯嶌「わかんないです。」
我殺の一人喋りに扉をわずかに開けその隙間を覗かせながら聞いている二人には微塵も力できない行動だった。そんな二人をよそに我殺は続ける。
我殺狂助「俺は前々回から参加している我殺狂助だ。種性核は三つある。お前らごとき簡単に消せるんだよ。」
桐生亜衣「…なる、ほど?」
荘重飯嶌「?」
桐生はわずかに理解したのか我殺狂助が今しようしていることくらいは読み取れた。
我殺狂助「俺の他にも失格者は二人いる。修羅場を潜り抜けた精鋭が三人いれば何人消せるんだろうな?」
そして声量を最大にして天にも届くほどに苔を張り上げる。
我殺狂助「俺たちは4日以内に全ての参加者を抹消する!!」
その後、沈黙が流れた。我殺の叫びがやまびこのように縮小され、彼の言葉は桐生と荘重にしかきこえていなかったかのようにさえ感じられた。
荘重飯嶌「結局、あの人は何がしたかったんですか?」
それは荘重でなく、観戦しているものもだった。
カイリ「こいつ、何してんの?」
伍代翔地「いいから黙ってみてろ。【そろそろ来るはずだ。】」
カイリ「え?」
カイリが不理解の言葉を漏らした瞬間、モニターの映像は変化をもたらしていた。
我殺狂助の周りを十数人の参加者が囲んでいる。
我殺狂助「やっときたか。」
狙い通りであるかのように不敵に笑い、この十数人を見渡す。
桐生亜衣「荘重くん、私たちも。」
荘重飯嶌「え、どういうことですか?」
まだ理解できず、今の状況についていけないでいたが、桐生に無理やり連れ出され外へ出される。連れ出された外ではある一人のリーダー的存在が我殺に向かって話しかけていた。
設樂図芹中「我殺狂助さん。投降するなら抹消までは致しませんが、どうされますか?」
柔らかな物腰で子供をなだめるように話すその若い女性は左手に傷を刻んでおり、右手で杖を握っていた。
我殺狂助「ではこちらの答えはただひとつ。お前らが投降しようがしなかろうが徹底的に潰す。」
設樂図の言葉に挑発を浴びせ、彼女の眉がわずかに動いた。
設樂図芹中「理解しました。それでは、、【やれ!!】」
威圧感が生まれた彼女の言葉に十数人の部下全員が武召喚を行う。全員5つ以上の数値を消費して。
伍代翔地「ちっ、こいつかよ。」
映像越しの姿に伍代は舌打ちをし、嫌悪感を顕にしながら腕と足を組み始めた。
カイリ「誰?この人?」
まだ理解できないでいるカイリはせめてもの質問に伍代が腹をたてている人物について質問することにした。
伍代翔地「こいつの名前は設樂図芹中。この女は監視者で俺の仲間を脱落させた張本人だ。」
ゲーム開始から16時間
残り参加者4050人




