第2-19話 なりすまし
葛城康介「ちっ、あの一瞬で失格にさせられたか。」
オーナーが使ったあの一瞬の間。その一瞬で葛城の存在は呆気なく危ういものと墜ちてしまった。仕方なく事実を受け入れ目の前の光景に注目する。そこには二人の失格者と勝利者、そして見知らぬ二人の存在との戦闘が繰り広げられていた。葛城の右目に映し出されている視界は伍代翔地、そして槍を持った謎の男と互いに譲らず互角の戦いをしている。
米舞生異渚「しっかし、お前やるなー。ここまで俺についていけるのはオーナーくらいだぞ。」
伍代翔地「御託はいいです。何なんですかあなたたちは?」
米舞生異渚「え?だから元楽人いうてますやん。」
生意気で喧嘩売ったような口調にわずかに伍代の顔のしわが増えた。
伍代翔地「随分長いことここにいますが、あなたの名前は聞いたことかない。なぜ幸奪戦争に参加していないあなた方がその時計をつけているんですか?」
武召喚ができるのは幸奪戦争の関係者のみ。それ以外の一般人は武召喚を行う腕時計すら配布されない。それなのにこの二人は当たり前えかのように武召喚を行い、数値の消耗を気にする素振りなく戦っている。このカラクリについての質問に米舞生異はにやけながら答えた。
米舞生異渚「あーそれ、多分根本が間違ってるわ。俺たちは八次の幸奪戦争には参加していない。だが【それ以前は別だ。】」
伍代翔地「…は?」
米舞生異渚「せっかくだから見せてやるよ。
【コピー】。」
米舞生異がそう唱えた瞬間、彼の身体にある変化が生じた。全身がホログラムのように細分化されたかと思えばすぐに人の形へと再変形させられる。そして変形されたその姿をみて伍代は絶句した。
葛城康介「ちっ、ふざけた真似を。」
米舞生異の行動を見た葛城も彼が先ほど話した言葉の意味について理解し、舌打ちをする。米舞生異渚が何をしたか、それは言葉で表すならとても簡単なことだった。
米舞生異渚「【ほかの人間に変身できる】って武召喚ってやっぱおもしれぇよな。」
彼はただ伍代翔地の姿と化し、伍代翔地が発するのと全く同じ声で、伍代翔地という男の身体的特徴も全て模倣し、伍代翔地という存在を貶すがごとく自身の身体を傷つけていた。
米舞生異渚「アッハイッテェ~。お!お前の指以外と長いんだな。うんうん、、まっず。」
伍代翔地の姿になっているとはいえ、自身の小指を切断し食す姿に伍代も葛城も唖然とする。
伍代翔地「とりあえずあなたは以前の幸奪戦争で他の参加者になりすましていたことはわかりました。でも、それが時計を持っている理由にはならないですよね。」
米舞生異が誰かの姿に擬態できるのは武召喚の力によるもの。それは、他の参加者に擬態することで参加資格を得ることは不可能であることを意味する。この擬態に驚かされはしたが、聞きたいことに対する答えはそれではない。続けて問いを投げられた米舞生異は答えるべきか否か伍代翔地の姿で腕を組み考え出した。
米舞生異渚「うーん、教えてもいいけど多分有益な答えではないと思うぞ。」
伍代翔地「さっさと!吐いてください。」
くどさを感じたのか語頭を強くし答えを急かした。
米舞生異渚「オーナーからもらった。終わり。」
それと同時に米舞生異は再び攻撃におどりでた。米舞生異の槍が伍代の足を狙う。伍代もその狙いに気づき慌てて剣を構え槍をぶつけさせその動きを制止させる。
伍代翔地「ではそのオーナーはどちらに?」
米舞生異渚「さぁ?監視者のところじゃない?」
葛城康介「ファースト」
当然葛城が伍代翔地に加勢する。ひとつの武召喚数値は葛城の右手に割り当てられ、その拳を米舞生異の腹部に激突させる。伍代との相手に精一杯だった米舞生異に回避のしようはなくその一撃を受け、足と地面との摩擦を起こしながら強制的に後退らせる。
葛城康介「伍代、触るぞ。」
それだけ言い残し、葛城は伍代の額に自身の右手を当てた。数秒したのちにその触れた手は離される。
葛城康介「今教えた場所がやつの居場所だ。花城如音や榎宮愷でも勝てるかどうか怪しい。」
伍代翔地「…わかりました。」
オーナーの居場所、そこに榎宮愷と花城如音も居合わせていること、葛城康介はそのオーナーに瞬殺されたことをアナリストの種性を通して伝えられた伍代翔地はその場を離れ、二人の援護に向かった。それを許そうとせず、米舞生異は伍代のもとへ近づこうとするがスピードでは葛城の方が上手らしくその目論みは防がれる。
米舞生異渚「葛城、才原祐一目的探しの旅はもういいのか?」
葛城康介「生憎本人しか知らないみたいでな。探すのは一度あきらめた。」
米舞生異渚「へぇー、結局その男なんなの?俺会ったことある?」
葛城康介「知る必要はない。七次の際、俺に変装して参加していた罰を受けてもらうぞ。」
米舞生異渚「結構ウケたよ。自分の目的世界平和とか言うの。」
互いの挑発を終え、二人の殺意の距離は一気に縮まり、武器がぶつかり合う音が響いた。
監視者の監視ルームでのこと
一瞬にして葛城康介を失格にしたオーナーという男。彼の右目は見えていないらしく、老人とは思えないほどにテンションが高かった。そのあまりの異質さと行動の狂気に榎宮は無意識に怯み、言葉に詰まっていた。それを見た花城は榎宮の問いを代弁するような形で質問する。
花城如音「何しに来たんだ、お前?」
オーナー「女からお前が脱獄したって聞いてな。その始末を命令されちったわけよ。」
花城如音「女…」
その言葉に花城は嫌な推理をたててしまった。そしてその推理は見事に的中する。
花城如音「お前、桝田小春と通じているのか?」
オーナー「まぁな。俺の情報が全く掴まれていないのもあいつとその主のおかげだ。」
花城如音「ちっ、石井もかよ。」
幸奪戦争に深く関係している二人の楽人が神楽士郎のとはまた別の計画を企てている事実に舌打ちをする。
花城如音「お前らは何を考えている?」
オーナー「うーん、そうだなー。ヒントくらいは教えておくか。俺たちと石井は利害が一致してるから利用し合っているだけ。俺たちの目的はあくまで自由な戦い。じゃあ、始めようか。」
中嶋芽依「あまり荒らさないで下さいね。」
しばらく興味も示さず黙り込んでいた中嶋がそこだけ危惧し、釘を差す。
オーナー「はいはい、しゃあねえな。」
ぶっきらぼうに了承した瞬間、彼は風となった。
花城如音「くっ!!」
視覚で捉えるにはあまりに早いスピードで花城へ斬りかかったが、その剣を真剣白羽取りの形で止める。
オーナー「ふーん、そういう感じ?」
何かに気づいたらしく邪気をはらんだ笑みを深めて質問しだす。
オーナー「囚われの身だったから数値が少ないのか。」
花城如音「だったら何だ?」
オーナー「戦うことに対しての礼儀がなってないんじゃないか?小僧。」
怒りを顕にし、花城如音を蹴り飛ばす。その威力はかなりのものでオーナーの攻撃速度とほぼ同じ速さで飛ばされ壁と激突した瞬間に爆音を響かせた。吹き飛ばされても特に外傷はなく無事である様子をみたオーナーは口をニヤつかせ、ふと榎宮愷の方へ視線を向けた。
オーナー「そういえばお前、一度戦ったことあるな。」
榎宮愷「…え?」
オーナー「七次の時の地下鉄でのときだ。確か老人になりすましてお前をしばいた記憶がある。」
榎宮愷「…なりすました?」
オーナーの言葉には花城如音もましてやこれまで一切興味を示さなかった中嶋でさえオーナーの方に振り向き無言で説明を求めていた。
オーナー「俺の種性核がアナリストなのはいうまでもねぇよな。それともうひとつ俺はクリエーションの種性核を持ってるんだよ。」
辺りを見渡しながら何かを探している様子で説明を始め、中嶋芽依に視線を向けると彼女へ近づき始める。
オーナー「実演してやるよ。まず、好きな対象についてアナリストの種性を通して調べあげます。」
中嶋の額に手を当て始め数秒ほど解析する。解析し終え、手を離した。訳もわからずただ呆然とする三人をよそにオーナーは続ける。
オーナー「解析をするのはあくまでクリエーションの力をより引き出し、数値の消耗を抑えるためだ。そして、【ダイブ】。」
彼がそう唱えた瞬間、オーナーの姿はどこにもなかった。代わりに中嶋芽依の頭がガクンと下がり、机とぶつかる音が響く。それから数秒の沈黙が流れた後、中嶋芽依が立ち上がり出した。そしてその立ち上がる様子をみた2人は明らかな異質さを感じ、何が起きたか無意識に理解する。
榎宮愷「まさか、、」
中嶋芽依「はーいそうでーす。私がオーナー兼中嶋芽依でーす。」
中嶋芽依の姿と声でオーナーの口調で語るものがそこにはあった。
花城如音「一時的に解析した対象を乗っ取れるのか。」
中嶋芽依「そっ、俺の部下は部下自身が成り代わって本物の分身みたいになるが、俺の場合はこうやって対象の身体を自由にできる。」
榎宮愷「つまりお前に数秒触れられたら終わりってことか…」
解析の時間をオーナーに与えて身体を乗っ取られれば、オーナーにとってその対象の抹消を行うのは遥かに容易。この圧倒的に有利すぎるオーナーの勝利条件に榎宮は言葉に恐れを示した。
中嶋芽依「……お前、チェンジしろ。」
突如、榎宮を見つめ謎の命令を下した。
榎宮愷「は?」
謎の命令に理解などできるわけもなくただ困惑の一言を述べた瞬間、オーナーはいつの間にか榎宮の眼前にまで迫っており、オーナーの右こぶしが榎宮の腹部に炸裂した。
榎宮愷「ぐはぁっっ!!」
吹き飛ばされ、胃液が逆流する。花城如音のときより遥かに吹き飛んだ榎宮は天井へと身体を激突し、地へ堕ちたとき痛みに悶え出す。花城が加勢しようとした瞬間、オーナーが叫ぶように語りだした。
中嶋芽依「安心しろ。消しはしない。管理者はこいつの保護が目的なんだろ。こいつを消して下手に管理者を動かすのは得策じゃないからな。」
榎宮愷「くっ、うぅぅ、、」
パート(おい榎宮、変わるぞ。)
そう言い捨て榎宮の頭はガクンと下がる。その後人が変わったように、いや人が変わり立ち上がる。
パート「ご所望なのは俺のことか?」
花城如音「多重人格…?なぜわかった?」
中嶋芽依「この女の記憶を全てみたからな。こいつが七次の時に監視映像越しに見た榎宮愷の様子もわかるんだよ。その記憶から概算して推理した結果だ。」
パート「で、俺はお前と戦えばいいんだよな。」
中嶋芽依「もちろん、そのために呼んだんだ。早くしろ。」
パート「サードサモン」
三つの武召喚数値を消費し、剣の生成と強化に数値を割り当てる。パートの右手に剣が握られた瞬間、オーナーは光速の如く動き出した。
中嶋芽依「ファースト」
オーナーの右手にグローブ型の武器が投影される。そのグローブを拳の形に変形させたものとパートの剣が激突する。
パート「くっ!!」
その衝撃にパートもわずかに怯みをみせ、オーナーの勢いに押される。
中嶋芽依「うーーん」
何か不満そうにパートの剣に拳を当てていた中嶋芽依ことオーナーは険しい表情を浮かべていた。
中嶋芽依「別にお前も大したことねぇわ。」
その瞬間、榎宮の全身に五つの衝撃が加わった。花城如音が介入できる猶予もないほどの速度で。最初、榎宮には何が起きたか理解できず、ただ五つの衝撃を受けまたも盛大に吹き飛ばされた。吹き飛ばされ壁に激突した際にようやく一秒にも見たいな瞬間的な時間の中でオーナーは五つの打撃を自身に与えたのだと理解した。
パート「あ、がぁ、あ、、」
中嶋芽依「おおー、意識がまだあるのは評価してやろうか。」
パート「あ、くっ、」
オーナーが気絶目的で与えた打撃、パートは一時は意識を保てたがすぐに限界がやってきてしまい、パートの人格はすぐに眠りについた。
中嶋芽依「なーんだ、やっぱ大したことねぇか。」
そうしてオーナーの狙いは花城如音へと向かおうとしたそのときだった。
???「まって。」
中嶋芽依「!?」
ボコボコにしばき意識を失わせた相手がまたも人が変わったように言葉を発し、立ち上がる。
カイリ「さっきからボコボコといたいんだけど。」
中嶋芽依「ほぉー、お前の人格は期待していいんだよな?」
この人格に対する期待を膨らませ、視線と身体の向きを戻した。
中嶋芽依「楽しませろよ?」
ゲーム開始から15時間
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