第2-18話 二つの思想
花城如音「そうまでしてお前らは悪魔のことを隠したいのか?」
葛城の言葉を完全に理解していた花城は榎宮を置き去りにし、一歩踏み込んだ質問を浴びせる。
葛城康介「俺の意思ではない。ただ神楽士郎は悪魔を使って何かがしたいのだろうな。」
榎宮愷「悪魔って何?」
本来説明を受けているはずの情報だが、記憶を抜かれているため一人だけ話についていけないでいた。
葛城康介「仕方ない。この際悪魔に関することは与えておこう。」
そういって葛城は榎宮の額に触れ、アナリストの種性を通して悪魔に関する情報を一部与えた。
花城如音「お前や伍代は一度管理者に会っているはずなんだ。そのものたちから悪魔の説明を受け、お前らは悪魔を殲滅するという目的に賛同した。」
そして、神楽士郎は悪魔を使った計画の邪魔物である自分達を排除するために刺客を送ったと。その仮説が正しい可能性は大いにあり、榎宮も少し納得したような表情をみせた。
榎宮愷「今俺は葛城から、悪魔は第七次のときに生まれたもとは七次の参加者であることと、そしてその二匹の悪魔が脱走したこと、悪魔を使ったある計画に極楽の偉い人が同意したことは与えられた。これらを加味して上でもまだ疑問はある。」
一度榎宮愷目線で、整理してみよう。まず、神楽士郎がある目的のために七次の参加者をもとに悪魔という存在を生み出した。その目的には極楽の上層部の人間も同意している。だが、花城如音のように一部の管理者はそれに反対し、俺たちに協力を仰いだ。この一連の流れにおいて一つ気になることがどうしてもある。
榎宮愷「悪魔を使った計画ってなんだ?」
神楽士郎が抱いているある目的と悪魔を使った計画は別物のはず。前者は神楽士郎本人にしかわからないだろうが後者は違う。計画の全貌を知っていたからこそ反対派が生まれているのだから。
葛城康介「それは花城如音の方が詳しく話せるだろ。そしてその計画はいわば、【幸奪戦争】が生まれた本懐でもある。」
榎宮愷「…どういうこと?」
言葉の訳がわからず、花城如音に説明を求める視線を向けた。向けた視線の先にある花城の表情は珍しく困った様子を浮かべている。
花城如音「榎宮、これは俺が元管理者であるから言えることだ。今の極楽にお前らの居場所はない。」
榎宮愷「…え?」
耳を疑った。自身と桐生が極楽へ行き幸せな生活を送ることを目標としていた榎宮にとってそれは耳を塞ぎたくもなる言葉だからだ。
花城如音「悪魔を使った計画はこの幸奪戦争が生まれた理由とも関係する。だから最初にその原初から話す。」
決意は緩く、しかし覚悟は取り繕いながらも決めて花城の言葉に耳を貸す。そして花城は話す。
幸奪戦争が生まれた本当の理由を…
誰かが考えた。ヒーローもののビデオを視聴し、愚痴のように唱えていた。【なぜ正義のヒーローが戦う必要があるのか?】悪者が出てくるのはしょうがない。誰しもなろうと思えばいつでも悪者になれる。しかし、その反対は違う。強大な力を持つ敵に恐怖を失くし勇敢に立ち向かう。悪者は無限に湧いてくるため休みはない。給料も恐らくない。得られるのは民衆の応援の声程度。善人に与える仕打ちではない。清く正しく全うな正義感を持ったものが敵に立ち向かう力を与えられたからといってその後の人生を半ば強制的に決められてしまう。精神的な攻撃を受けることも死ぬ可能性もある。明らかにおかしい。
悪者を倒すのになぜヒーローの手を煩わせるのだ?悪者を倒すのは同じ悪者でいい。
ヒーローは恵まれた優雅な生活を送るべきだ。その思想に大勢が賛同し共感した。
そしてまたあるものが考えた。
自身は清く正しく生きてきた真人間。何も奪おうとせず、誰の危険も侵さず、傷つけない。しかし、そんな人間であるがゆえに奪われること、傷つけられることは多々あるのだ。盗人からは金品を盗られ、殺人犯に友人や恋人を殺され取り残されたものに多大な悲しみを与えられる。要は損をするのは真人間ばかりなのである。ならばその報復があってもいいだろ。悲しみを与えられたのならば、こちらも与え返して何が悪い。この思想も一つ目の思想と同じく多くの共感者がいた。
どちらも楽人が考えたものであり、【極楽の住人はどんな願いも叶えられる。】この思想が実現されるシステムを作り出した。
悪を倒すのは悪でいいという考えのもと悪人に力を与え餌をぶら下げてその餌を喰う権利を与えられた力で掴み取らせる。敗者には存在する価値すらない。それに存在がいなくなればそのものによって与えられた悲しみや苦しみも和らぐ。人間は嫌な記憶など脳に存在してほしくないから。
このシステムに楽人は絶賛した。善人の手を煩わせることなく、善人の苦い記憶を失わせ、善人を楽しませる。まさに因果応報。
現界で奪われた幸せを今度は冥界という場においてこちらが奪う。だからこそそう名付けられたのだ。【幸奪戦争】と。
榎宮愷「……」
ここまで絶句させられたのはいつぶりだろうか。突如として幸奪戦争の起源と存在が失くなるまで戦わせられる理由、ルール説明が全くなかった理由を語られ、驚きはしても、理解と納得ができてしまったのだから。
楽人がそう思うのはもっともだろう。幸奪戦争が始まる際、何のルール説明もなく戦う力だけ与えられて勝利条件とは全く関係ないのに殺し合いを勝手に繰り広げていたら滑稽もいいとこだろう。要するに自分達はただの楽人の娯楽の一部でしかなかったのだ。花城如音はまだ言葉を紡ぐ。これが全てではないとそう言い表している。
花城如音「榎宮、さっきの極楽での居場所がないという話だが。」
榎宮愷「あー、勝利者にも何かあるの?」
花城如音「この七次に出てきた二人の勝利者の以前に、一人だけ二次のときに勝ち残ったものがいるんだ。それが坂縞雷火。」
榎宮愷「坂縞って、、」
聞き覚えのある名字に反応を示す。榎宮の予想は当たっていた。
花城如音「あぁ、第二次の勝利者の坂縞雷火は坂縞樹の母親だ。」
榎宮愷「!?」
この先に続く言葉に耳を傾けたくなかった。この先の言葉をある程度の察せられたから。苦悶の表情を浮かべるが、花城はその表情を見つめ尚続ける。ここで話を止めるわけにはいかないと、彼と覚悟を決めて。
花城如音「楽人は獄人のことを心の底から憎み、恨んでいる。だから仮に勝利して極楽にいったからといってそこでまともな生活ができるとは限らない。」
【勝利すれば極楽に行ける】このことに嘘はない。だが楽人のような生活ができるとはいっていない。この屁理屈によって坂縞雷火は苦しめられている。
花城如音「勝利者には必ず一人の管理者が監視として生活を共にする。そして武召喚数値は強制的に一にさせられる。抵抗できないようにするためにな。」
榎宮愷「なんだよ、それ…」
花城如音「楽人の営業する娯楽施設は事実上入場することは可能になっているが、楽人には入店拒否の権利がある。住居選択の際にもホームレスになることはないが地獄と同じような質の家だろうな。」
榎宮愷「ふざけんなよ!!」
我慢がきかなくなり叫び出した。今まで自分が夢見ていたもの、数ヶ月の間、それだけを目標に存在していた。その夢をたった数分の言葉でことごとく破壊された。当然受け入れがたいだろう。
榎宮愷「都合が良すぎるだろ。俺たちが現界で人々を苦しめてきたのは事実かもしれない。だが、それを因果応報・悪に対する制裁と聞こえのいい大義名分を掲げて俺たちと同じことをしているだけじゃないか。」
葛城康介「そうだな。だが先に過ちを犯したのは俺たちだ。今極楽で生活ができているものは人に対して憎悪を感じることはあってもそれを行動に移さず、心のなかに押し留めたものたちだ。お前はそのものにまだ鬱憤を晴らさせずに我慢しろと?」
榎宮愷「何でお前楽人側の意見なんだよ。地獄の中に拠点を置いているってことはお前らも獄人だろ。お前らもこの幸奪戦争の被害者だろうが。」
中嶋芽依にも視線を向け叫ぶように訴える。少人数でのデスゲームの運営、これを強いられている監視者も被害者のはずだ。なぜ楽人をかばうのか榎宮には理解できなかった。
葛城康介「俺は償いたいからこの仕事を選んだ。地獄に堕ち、自身の過ちを知ってもなお傲慢にまだ幸せを求めるお前たちとは違う。」
榎宮愷「幸せを求めて何が悪い!!俺たちも楽人もやっていることに変わりはない。ただ行動する時期が違っただけだろ!!」
どちらの意見も間違ってはいなかった。ただし正解もなかった。口論が白熱しているのは自身の幸せを諦められるかどうかの違いでしかなく、花城如音はその光景をみて自身と伊敷季を重ねていた。
花城如音(伊敷季、俺は誰を救えばいいんだ…?)
そんな疑問を噛み殺し、二人の話を遮るように口を開く。
花城如音「そこまでにしておけ。とにかく、幸奪戦争が生まれた理由は獄人の抹消、そして悪魔はその抹消を促進するために新たに作られた存在。だが、新たに作られるものの危険性や【悪用のリスク】を危惧し、俺と伊敷季という仲間はそれの阻止に向かった。」
榎宮愷「俺たちの抹消にそのオーナーとやらは関係しているの?」
葛城康介「さぁな、神楽から少し聞いた程度だ。あったこともない。」
???「ご名答~。まさしく関係しているよ。」
榎宮・葛城・花城「!?」
三人の視線が一斉に突如として現れたメガネをかけた謎の男へ集まる。彼は陽気にそして三人をメガネをずらしながら見つめている。
オーナー「うーーーーーーーーーーん。」
伸ばし棒を何個も付け加えながら三人を比較するように見つめ、1分程したのち、ずらしたメガネを戻した。そして一言。
オーナー「見る目なし。」
その瞬間、数十メートルは離れていた葛城の背後にオーナーがたっていた。
葛城康介「は?」
その瞬間の事象にギリギリ反応し、振り返る。それと同時に彼の首は切断された。
葛城康介 失格
オーナー「こいつは私の視界に入る価値すらない。それにしても【よく庇ったな。】」
オーナーが賞賛した相手、それは花城如音にほかならなかった。オーナーが移動したあの瞬間、葛城の前に榎宮と花城如音がたっている状態だった。オーナーはあの一瞬の間に武召喚を行い、一番近くにいた榎宮を攻撃し、そのあと葛城にも攻撃するという離れ業を披露した。葛城には致命傷、榎宮にはかすり傷ですんでいるのはオーナーに狙われなかった花城如音がオーナーの攻撃速度に反応し榎宮愷をオーナーの攻撃から防いだからだ。
花城如音「お前がオーナーか。」
今の一連の行動をみて確信する。現れたイレギュラー。その異質さに。
オーナー「せいかーい。いやーここに来るの随分遅くなっちまった。急に【五百人も獲物が増えるんだからさ。】」
五百人という謎の数字に一時不理解を得る。ただ何かを察したのか榎宮は慌てて時計を確認した。そして【考えてみれば確かに異質だったことにようやく気がつく。】
榎宮愷「お前、失格者はどうした?」
その質問にオーナーは笑った。
オーナー「ぷっ、アッハッハッハッハッハッハッハッ!!お前やっと気づいたのかよ!【失格者に遭遇しなかったことに。】」
大爆笑しながら続ける男は目尻に笑いの涙を浮かべ楽しそうに続けた。
オーナー「そうだよ。この八次に出た失格者のほぼ全てを抹消した。そしてお前らの記憶を抜き取ったのも俺。愚者にも説明する俺、寛大~!!」
白昼堂々記憶を抜き取った自白を行ったものは右手に巨剣を握り、邪悪な笑みを浮かべていた。
ゲーム開始から15時間
残り参加者4210人




